雅工房 作品集

長編小説を中心に、中短編小説・コラムなどを発表しています。

香炉峯の雪

2017-04-02 08:35:18 | 麗しの枕草子物語
          麗しの枕草子物語 

               香炉峯の雪

定子中宮さまという御方は、申し上げるのも畏れ多いことでございますが、見目麗しく威厳にあふれていることはいうまでもございませんが、その教養の豊かさはそれはそれは大変なものでございます。
高貴な御血筋の御方でございますから、生まれた時から私たちとは全く違うのでしょうが、それにしてもどうしてこれほどの教養を身につけることが出来るのでしょうか。
このお話も、そのようなすばらしさが抑えきれずにあふれ出て来たようなものに思われます。

雪がとても高くまで積りましたので、いつもより早く御格子をお下げして、角火鉢に火を熾して、話などしながら私たち女房が多勢伺候しておりますと、中宮さまは私に視線を向けられまして、
「少納言よ、香炉峯の雪、いかならむ」
と、仰せになられました。
白楽天の詩は、私などでもよく知っているものですから、中宮さまの御問い掛けに、その下を申し上げたとて何の面白みもございません。私はとっさに女官に声をかけて御格子を上げさせて、御簾を高く揚げますと、中宮さまは、にっこりと微笑まれました。
「ああ、この御方の御心に応えられた」と、中宮さまの笑顔がほんとうに嬉しゅうございました。


(第二百八十段・雪の・・、より)
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