麗しの枕草子物語
野分の翌日
野分の翌日って、なかなかいいものですよねぇ。
一晩中、暴風雨に恐れおののきながら過ごすのですが、一夜明けて、嵐がおさまってくれさえすれば、翌朝の様子などは、いつもの朝とは違い、見どころがいっぱいあります。
植込みなどはさんざんに痛めつけられていて、垣根なども吹き千切られたり倒れてしまっているものもあります。
大きな木までが倒れてしまっていることもありますし、どの木も枝などが吹き折られていて、それが萩や女郎花の上に覆いかぶさっているのも、とても想像も出来ないような景色なのです。
それでいて、格子の枠組の中には、その小さな一枠ごとに、木の葉がわざわざ丹念に手で詰め込んだかのように吹きこまれているのは、あの暴れ者の野分の仕業だなんて、とても思われません。
濃い紅の打衣に、黄朽葉色の小袿などを着た、それは美しい女房が、昨夜は風の音に眠れなかったのでしょう、いつもより朝寝をして目覚めてすぐに母屋から少し出でて、まだ残っている風に髪を乱されながら、荒れた庭に驚いて、
「むべ山風を・・・」
などと呟いている様子は、それはそれはすばらしい光景というものですよ。
(第百八十八段・野分のまたの日こそ、より)