『 情熱的な叫びが聞こえてくるような、面目躍如たる作品 』
そして、小倉百人一首には、この言葉(いまひとたびの)が使われている札がもう一枚あるのです。
『 あらざらむ この世のほかの 思い出に いまひとたびの 逢うこともがな 』
こちらの方は、和泉式部の作です。
( 中略 )
平安時代を代表するというより、むしろ、わが国を代表すると言っても過言ではない恋愛歌人の、重い病にあってもなお失われぬ情熱的な叫びが聞こえてくるような、面目躍如たる作品だと思うのです。
そして、この作品における「いまひとたびの」の持つ凄さは、後世の人に、この言葉は安易に使えないと思わせるほどの圧力を与える、迫力に満ちたものだと思うのです。
これほどすばらしい言葉なのに、この作品以降にこの言葉を詠み込んだ和歌は、現在に伝えられている著名な歌集を見る限り極めて少ないのです。
これは私の勝手な推量ですが、おそらく当時には、この言葉を詠み込んだ和歌が数多く作られたのでしょうが、和泉式部のこの和歌と比較されてしまい、後世に残れなかったのだと思っているのです。
( 「言葉のティールーム」第一話 より )
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