雅工房 作品集

長編小説を中心に、中短編小説・コラムなどを発表しています。

余白が語るもの ・ 小さな小さな物語 ( 1844 )

2025-01-16 08:00:03 | 小さな小さな物語 第三十一部

毎年のことながら、一月は格別時間の流れが速いような気がします。もっとも、十二月も同じような思いをしたような気もしますので、単なる気のせいなのでしょうが、早くも月半ばとなりました。
昨日十五日は、小正月ということで小豆がゆを頂き、正月飾りらしいものはすべて片付けました。ただ、鏡餅は、十一日が鏡開きということで、一足先に頂戴してしまいましたが。
この、いわゆる正月飾りと言われるような物をいつ片付けるかについては、地域差がかなりあります。私は関西育ちなので、十五日を正月行事の最後のような感覚を持っていますが、最近では、多くの地域が七日でもって正月飾りを外すというのが主流のようです。十五日というのは、関西と四国辺りで、それ以外の地域は七日というのが多いようです。
いずれにしても、おっとり型の地域でも、今年のお正月とはお別れということになります。

最近は、成人の日が年ごとに異なりますが、以前は、十五日が成人の日でしたから、正月終いとも重なって、大きな区切りの日のように感じていました。残念ながらそれが無くなり、成人の定義も、十八歳だ、二十歳だとなんとなく落ち着きがないように思っていましたが、今年の各地の行事を見ていますと、どうやら、『二十歳の集い』ということで定着しそうなのが、とても良かったと思いました。
成人の日に拘るわけではありませんが、小豆がゆを頂きながら成人の日に関するニュースを見るのは、正月気分を吹っ切って、遅ればせながら新しい年に向き合うことが出来るような気がしたものです。この一年を、漠然と描いているそれなりの計画をどのように具体化させるか、などと考えてみたりします。
成人式を迎えたような方にとっては、人生というカンバスをどのように彩っていくかという出発点かもしれません。

ずっと以前ですが、絵描きさんのご夫婦と知り合いになったことがあります。絵画とはまったく関係ありませんが、仕事がらみでのお付き合いですが、とても素敵なご夫妻でした。
お二人とも絵を描いておられましたが、生活の基盤は絵画教室でした。小中学生を対象とした教室で、主に奥様が仕切られている感じでした。ご主人は、絵描きさんとして一本立ちを考えておられ、すでに、デパートの包装紙のデザインなども手がけていましたし、仲間と共に個展も開かれていました。しかし、生活の糧は絵画教室による物で、並みのサラリーマンより高収入でした。
そのご夫妻が、ある時、それらの基盤をすべて手放して、スペインに渡ることになりました。長い間温めていた計画だという話でした。
奥様は、生徒を意識してか、とても優しい感じの水彩画が主体でしたが、ご主人の方は、カンバスからはみ出るかと思うような、迫力のある色彩が特徴でした。それでも、まだまだ不足で、スペインでならもう一段成長出来ると思っているのだと話してくれました。
そして、「○○さん(奥さんのことをそう呼んでいた)の絵は、一見優しく見えるけれど、時には、『はっとする』ような一面を見せるのですよ。彼女の絵には、とてもかなわないなと思うことがあるんですよ。おそらく、その原因は、余白部分が彼女の絵に凄みを生み出していると思うのだが、なかなか真似ることが出来なくてねぇ・・」とも話してくれました。

成人の日を迎えた人が、人生というカンバスを描き始めるのだと想像した場合、只今現在は、その絵筆にどんな色の絵の具がつけられているとしても、ほんの一筆タッチしたに過ぎません。
これからどのように彩っていくのか、あらゆる色を懸命に塗りたくっていくのか、得意の色を中心に塗り重ねていくのか、さまざまな人生を描いていくのでしょう。そう考えたとき、ふと、あの絵描きご夫妻のことを思い出し、もしかすると人生というカンバスにも、余白が必要なのかもしれないと思うのです。
さて、わが身となりますと、人生のカンバスは少々重荷ですので、せめてこの一年の画用紙を広げて、たとえ余白ばかりとなろうとも、温かい色合いの絵の具を一筆でも多く塗っていきたいと考えています。


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