マネジャーの休日余暇(ブログ版)

奈良の伝統行事や民俗、風習を採訪し紹介してます。
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大塩のブトノクチ焼き

2013年04月27日 07時53分03秒 | 山添村へ
平成25年の1月14日はブトノクチ。

ブトクスベとも呼ぶ大塩のK家の風習は夜ご飯を食べ終わったあとにしている。

ブトクスベは綿の肌着を藁で巻いて火を点ける。

夏の仕事をしているときに腰に挿して仕事をしていた。

日常の生活だったようだ。

ブトノクチはとんどの前日だ。

モチを千切って囲炉裏にくべる。

「ハチノハリ ムカデノクチ ハミノクチ サシタリカブレタリ ミナヤケヨ」と云いながらモチ片を焼く。

元々は小正月の15日に行っていたがハッピーマンデーとなった現在は成人の日に合わせている。

ブトノクチは家族が揃ってから行われる。



両親とともにモチを千切っては囲炉裏にくすべる子供たち。

何をしてるか判らないままに同じようにくすべる孫たち。

台詞の意味が判ってくるにはまだ早い。

ブヨとも呼ぶブトは蚊より小さい1mmぐらいの大きさ。

ブトに噛まれたら痒くなる。

朝方から昼頃まで出没する有害虫。

アブもそれよりもっと大きくて刺されると痛い。

ハミはマムシのことだ。

この夜のブトノクチ焼きはヒトデも登場して「みな焼けよ」だ。

以前は囲炉裏でなく火鉢でしていたと云うK家の風習。

正月三日間はモチを焼いても「モチ焦げた」とは云わない。

「花が咲いた」と親から教わったと話す。

ブトノクチ焼きについては一週間前に聞いた天理市苣原でのこと。

そこでは供えていたケイチンのモチをとんどで焼いた。

もう一つのモチは家に持ち帰って焼いた。

これを「ブトの口焼き」と呼んでいた。

「ブトは刺しよるんで焼いたるんじゃ」と云う風習は害虫除けのまじないだ。

宇陀市榛原の額井ではとんどに投げ込む「ブトノクチ」を拝見したことがある。

「ブトノクチ ハミノクチ」と言いながらモチをとんどに投げる。

無病息災を祈るまじないとされる「ブトノクチ」である。

「ブト」は「ブヨ」で刺す悪い虫。

「ハミ」はマムシの別名で咬む動物。

農作業をする際の天敵。

刺されないよう、咬まれないようにするまじないである。

山添村のある大字の男性は今でもしていると聞いたことがある。

こうしたとんどとブトノクチの関係は多くの地域で行われているようだ。

平坦盆地部の天理市の楢町においても行われていた「ブトノクチヤキ」。

『楢町史』によれば小正月のトンドの日である。

「ブトの口もやこう ノミの口もシラメの口もやこう」と云ったその日は炊いたアズキガユを神仏に供えたそうだ。

「ブトノクチ焼き」の際に聞いた「ナルカナランカ」の風習。

「ナルカナランカ ナラヘンカッタラ キッテシマウ」と云えば「ナリマス ナリマス」と相方が答える。

その風習は1月15日だった。

三又になっているカキの木にナタをあてて木肌の皮を剥く。

傷を付けるような感じだった。

姉さんがナタで伐って「ナルカナランカ」をすれば弟のKさんが「ナリマス」を勤めた。

5歳くらいの頃だったという光景は60年も前のことだ。

「ナルカナランカ」のカキの木にはゼンザイのモチをくっつけた。

木肌に虫が入る行為だと話す。

「ナルカナランカ」は楢町にもあった。

トンドの火で炊いたアズキガユ。

柿の木にナタで傷をつけて、その木を「ナルカナランカ」と云いながら叩いた。

木責めの作法にアズキガユを挟むこともあったようだ。

(H25. 1.13 EOS40D撮影)