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リーガル・サスペンス スコット・トゥローの「死刑判決」

2005-05-05 16:14:10 | 読書
 最後は涙で文字がかすむほどだった。引き込まれるような展開、個性的な人物造形、ユーモアと余情が横溢していて、ことのほか興奮を覚えた。

 大手法律事務所のパートナー、アーサー・レイヴン。33日後に死刑が決まっているロミー・ギャンドルフの10年に及ぶ訴訟の結果、この死刑囚の命を救える確かな論拠は一切残っていないことを裏付けるため、連邦控訴裁判所から押し付けられた案件を担当する。背が低く白髪も見えハンサムとは言いがたいアーサーは、調査を進めるうち死刑囚の無罪を信じるようになる。

 元判事ジュリアン・サリバン。収賄の罪で連邦女子刑務所に収監されていた。判事だった数年の間、死刑判決を下したのは二度だけ。そのうちの一件はアーサーが担当する案件だった。背が高くすらりとした美人で、ファッションも完璧なジュリア。アーサーが夢中になる。

 主席検事補ミュリエル・ウィン、小柄で黒髪、隙間のある歯、ずんぐりした鼻、排水溝さえもすり抜けられそうなほど細い身体。しかし、検事局でも冷徹なほど明晰な頭脳で名を馳せている。

 ラリー・スタークゼク刑事。ミュリエルと不倫の関係にある。女に目がなく尻を追いかけまわし、大人同士の関係といえば、相手は街からかき集める死体だけという有様。

 この四人が弁護側と検察側に分かれて、縦横に駆け引きを展開する。スコット・トゥローの文体は、ニヤニヤ笑いを誘うかと思えば、急流下りをしていて、突然穏やかな流れに漂うような情感が現れる。十分堪能した一冊だった。

 原題は、「Reversible Errors」by Scott Turow
 破棄事由となる誤り:再審理している上訴裁判所が、一審判決を無効にせざるを得ないほど重大な法的誤謬。第一審裁判所はその判決を破棄するか、審理をやり直すか、さもなければ判決を修正するよう指示される。