メリーランド州ボルチモアのニック・ネームは、チャーム・シティと言うそうな。大リーグのオリオールズやフットボールのコルツが本拠地としている。
この都市のことを“ボルチモアは失敗者の多い街だ。ボルチモアをめぐる大きな不運だけでもいろいろと思い当たる。69年のオリオールズ、84年のコルツ。96年のアメリカン・リーグの優勝決定シリーズでは、大きなグローブをはめた12歳の少年のために優勝を逸するという事件もあった。
それでも、ボルチモアは驚くべき街だ。敗れてもうなだれたりすることはない。ボルチモアは負けても不思議に希望を失わずに歩みつづける”
と著者の言う街を舞台にプロバスケットボール・チームを誘致しようとしていた実業家が、自宅ガレージの車の中で、遺体で発見される。
この実業家について公私とも問題が多いとしていた記事があった。新聞社ではその記事の公表を控えていたが、何者かがコンピューター操作によって新聞記事となって世間が知ることになる。
主人公のテス・モナハンは、コンピューター犯罪の調査を引き受ける一方伯父のスパイクが何者かに殴られ意識不明の状態になるという事態に見舞われる。犯罪調査を追うかたわら伯父の事件がテスを巻き込んで危機が迫る。
やたらに多い比喩とややのんびりとしたテンポで、スリルとサスペンスに欠ける嫌いがある。わたしとの相性はよくないみたいだ。
一つ気になることがある。“手首を効かせてシェーカーを振り、いかにもバーテンらしい手つきでマティーニを注ぐ”とある。
サントリーのホームページで、マティーニの作り方を見ると、ステア(材料と氷をミキシング・グラスに入れ、バー・スプーンでかき混ぜる)することになっている。まあ、混ざればシェイクしても問題はないだろうが。
あるいは、ボルチモア特有のやり方か。ちなみに自宅でマティーニを作ったが、強い酒で飲めないし美味しくなかった。
これらのカクテルは夜、洒落たバーで美女を伴って飲むのが最良なのだろう。仮にそういうことがあったら奇跡としか言いようがない。
エピローグで、テスのミュージシャンの年下の恋人クロウが歌うバラード「IT NEVER ENTERED MY MIND(by Lorenz Hart. Richard Rodgers)」は、フランク・シナトラ、マイルス・デイヴィス、ジョージ・シアリング、ジュリー・ロンドン、ジューン・クリスティ、ナンシー・ウィルソンなどが歌い演奏している。いい曲だ。
また、本書は、アメリカ探偵作家クラブ賞及びアメリカ私立探偵作家クラブペイパーバック賞を受賞している。
著者は、ノースウェスタン大学でジャーナリズムを専攻し、卒業後は二つの新聞社で記者として働く。1994年以降は《ボルチモア・サン》紙で特集記事の担当記者として活躍している。