
作家のスチュワート・ホーグのもとに、作家志望の人物から批評やアドヴァイスに加え出版への助力も依頼する手紙とともに、第一章の作品が寄せられる。その文章表現にはきらめく才能とすごい告白小説の萌芽があった。
“女は小柄――せいぜい五フィート四インチ(約162センチ)ってところ――で痩せている。体重百ポンド(約45キロ)もなさそうだ。
いかしたブルーの瞳、マジにいかした長いブロンドがきらめいている。歯もいい。前歯の下二本がいくらか出ている歯並びには、昔からそそられた。理由は分からないが、とにかく異様にすきなんだ。
歳は二十八くらいに見えた。レザーのジャケットを着て、小さなバックパックを背負い、バギージーンズに、いい女の定番になった重くてごっついバイクブーツをはいている。
あれはどうも理解できない。ほっそりとした足首と足は、女が自分を生かせるもっともセクシーな部分なのに。女はまさしくタフで落ち着いて見えた。ニューヨークでいい女がどこか人前に立っているときの姿そのままだ”そのいかす女は公園で死体となって発見される。
作品は第二章、第三章と続くがいずれの章にも女が殺される場面があり、実際にその通りの状況で死体が発見される。それを旧知のニューヨーク市警警部補ローメイン・ヴェリーに見せホーグは厭でも事件に巻き込まれていく。
ホーグは、愛犬ルルとニューヨークの町を歩きタクシーや地下鉄に乗りボストン近郊までジャガーを飛ばす。時にはおんぼろランドローバーに潜んで張り込んだりする。
元妻の女優のメリリーとはよりが戻り、場所を選ばないメリリーの性的欲望を満たしてやるやさしい男ホーグが最後に意外な真犯人と対峙する。ユーモアと余情に包まれて、眠くなる暇もなく読了してしまった。ニューヨーク市街図があればもっと楽しめたかもしれない。
著者は、1952年ロサンゼルス生まれ。カリフォルニア大学サンタバーバラ校を卒業。元売れっ子作家のゴーストライター“ホーギー”と愛犬ルルを主人公にした『フィッツジェラルドをめざした男』でMWA賞を受賞。ドラマ作家としても、数度エミー賞に輝いている。