
千葉県木更津市にあるこのお寺もユニークな存在だろう。用明天皇の代(585年~587年)に徳義が小像の観音菩薩を感得して寺を建立したという。この観音像は、奈良時代の僧行基が刻んだ観音像に納められているという。
この寺に行くには、館山道木更津北インターから僅かで到着する。わたしには時間がたっぷりあるので、国道410号線から県道23号線をのんびり走って行った。この日はかなり冷え込んでいたので、山門前の駐車場に着いた午前10過ぎも冷たい空気が感じられた。
この時季、頻繁にトイレのお世話になる。何はともあれトイレに駆け込んだ。もちろんキレイなトイレだ。放尿中は前を見るしかすることがない。大体どこでも注意書きが下がっている。
「トイレはキレイに使いましょう」
「吸殻を便器に投げ捨てないでください」
「一歩前進確実に便器の中へ!」などだ。ところがここでは「いつもきれいに使っていただいてありがとうございます」という木札がかかっていた。
なるほど逆の注意書きか。ちょっとニヤリとさせられ、境内をぶらついていると本堂脇に「観音浄土めぐり」という看板に眼を留めた。入場料300円とある。立派な観音様の像もあるのだろうと思って、椅子に座ってうつらうつらとしているように見える高齢の人に声をかけた。

本 堂
「写真を撮ってもいいんですか?」と聞くと「大げさにしなければ良いですよ」という返事。入場料を手渡しながら「フラッシュを焚かなければいいんだ」と言うと「フラッシュを焚かないと撮れないよ」と言う。内心フラッシュを焚くのは大げさだがなと思いながら、ご老体はそれなりに注意を与えたので職務を果たしたことになる。そういう形式だけの話と受け止めた。
中に入ると埃にまみれたおびただしい像の林立で眼の集中力を試されているようだ。

観音浄土めぐりの内部
終わりに近づいて俄然眼の集中力が増した。なんとご立派な高倉金精大明神として男根が鎮座していた。それに生命の根源善男善女童子として屹立した男根とセックスを表現した数々を陳列してあった。これらをフラッシュで撮影した。

見事な高倉金精大明神

生命の根源 善男善女童子 この中に秘仏が納められている
「優しく撫でたりこすることを、特別に許可します」の表示の
反対側には、「十八歳未満の方の拝観は法律により
お断りさせていただきます」とある。いやはや!



女 陰
さて、くだんのご老体に「男根を陳列してあるけど、子授かりを願う人からの奉納もあるのですか?」と聞いてみた。曰く「観音様を祀ってあるんでね。自分で彫ったものや買ってきて奉納しますよ」という返事。
ちなみにインターネットで男根の完成品を探したが、ヤフーのオークションに見るだけで通信販売などは見つけられなかった。やはり奉納するには、自身の一物を参考に木で彫ったものにするのが観音様に対する礼儀のように思える。
ご老体の言葉には、観音様は女性器の隠語であり男根がさまよってくるのは当たり前といわんばかりだった。これで確実になったのは、神社や寺にはこの類のものの奉納が必ずあるということだ。住職が公開するかしないかの判断だけだろう。
考えてみれば男根を公開したところでどれも同じ形状で代わり映えしない。女陰は貝のアワビや赤貝を連想する程度で彫刻的な魅力に欠ける。本物の貝と同じで、手にとって見てはじめてその味わいが確かめられる。男は男根を見て、俺もあんなに立派なら女房も満足させられるがと羨望と落ち込んだ気分で帰宅するのが落ちだろう。ともあれ、あれは巨大すぎる。
こんな性に関するものばかりではない。札所で一番大きな手水舎(ちょうずしゃ)もある。


参拝者もちらほらと見かけた。それに高蔵寺のほんの近くに、かずさアカデミアパークという木更津市、君津市、富津市、袖ヶ浦市の市街地を母都市として千葉県が推進するバイオテクノロジーを中心とした先端技術産業に特化した研究開発拠点整備が進められている。
ホテルオークラがすでに営業を始めており、県道33号線がパークの中心を貫いている。高蔵寺付近のひなびた田園風景から、一転して芝生やきれいに刈り込まれた生垣は、大都市近辺の整備された公園を連想する。周囲とは隔絶された雰囲気の場所だ。この雰囲気の中を走っていると、男根奉納なんて雲散霧消していた。