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読書「春日局(かすが の つぼね」早乙女貢

2012-11-13 18:12:39 | 読書

                 
 明智光秀は生きていた。織田信長を本能寺で討ち、驚異的なスピードで戻ってきた秀吉に捕らえられ打ち首の上さらし首にされた筈だが。その光秀は、天海と名乗る僧正だった。

 その天海と徳川家康とを再会させたのが、春日局ことお福だった。お福の父は、明智光秀の重臣斉藤利三で母は光秀の妹である。そのお福の多難の前半生と乳母になってから好機を掴み大奥で絶大な権力を掴むまでを、早乙女貢らしい筆致で描かれる。

 早乙女貢らしいというのは、人間の根源をベースにした創作を感じる。つまり、食欲、性欲、出世欲が渾然一体になっている。特に性欲は、「淀君」もかなり濃厚な描写であったが、この作品もやや抑え気味ながら具体的だ。

 三代将軍・徳川家光(幼名竹千代)の乳母として、竹千代を育てる過程において身をもって性教育もした。幼少の頃は、竹千代の小さな男根をいじり、十代はじめにはそれを口に含んだり、竹千代が男色一辺倒になったとき自らの体を与えて女体への興味を沸き立たそうとしたりした。はっきりしないが、家康とも関係したらしいとも言われる。

 そう考えると、いつの世も女は自分の体を武器にして巧妙に世の中を渡っていく。この本にも面白い表現がある。「美女ほど般若面になる。般若面の基本は細面ての美女である。これに比べて、おかめ面は、福々しくて、人の善さ、母性があらわれている。気の強さ、逞しさは、お福も劣らないが、何せ、生まれつきのお多福面だから、その悪い面が隠されている」

 お福の悪い面というのは、驚くなかれ夫正成の妊娠して腹の大きくなった妾を炭火を盛った火熨斗(ひのし、今で言うアイロン)を腹に押し当て焼き殺すことまでやってのけている。

 竹千代は、二代将軍・秀忠の次男で浅井三姉妹の末っ子江が母である。早乙女貢は、淀君も愚鈍な悪女に描き、この江もヒステリー女と断定している。どうやら浅井三姉妹は、名家を鼻にかけた傲慢ないやらしい女どもと思っているらしい。
 それに性描写が著者の好みなのか、クンニの場面が多い。いつの時代も性への関心は強いが、娯楽もあまりないこの時代なら、なおさらセックスに没頭するのもうなずける。そして、運命的な終焉を迎える。春日局が病床に伏した同じ頃天海僧正も病に犯された。天海108歳、春日局65歳。