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哀切に満ちたギャングの晩年「逃亡のガルヴェストン」ニック・ピゾラット

2015-03-10 17:57:44 | 読書

              
 2011年のアメリカ探偵作家クラブ賞優秀新人賞にノミネートされただけあって、ニヤリとさせられ最後はほろりとさせられる。

 お話というのは、ギャングの一員のロイ・ケイデイという男がボスの裏切りを切り抜け、テキサス州ガルヴェストンへの逃避行というもの。この逃避行にロッキーという少女とその妹ティファニーを連れて行く羽目になる。それが40過ぎまで独り者で肺がんを患っていると思い込むロイがロッキーたちと別れようとするがなぜか踏ん切りがつかない。

 その辺を安っぽいモーテルに泊まりながら、麻薬中毒の若者、曰くありげな家族、二人の老婦人それにモーテルのオーナーなどを絡ませ、小気味のいい文体とユーモアのある比ゆで読ませる。

 特に二人の老婦人が四歳のティファニーを可愛がるのが微笑ましいし、ロイもつられて老婦人二人とロッキー、ティファニーを連れて近くの海へ海水浴へ出かけるのも幸せな家族の真似事のようで映画の1シーンのようだ。

 そんな幸せな時間は夢のようで、突然ボスがロイの居所を嗅ぎつけて手下を寄こす。ロイとロッキーがつかまりある場所へと運ばれる。助け出してくれたのが元恋人で同じ組織の女だった。逃げる途中別の部屋で首にネクタイを絡ませて死んでいるロッキーを見つけたがなす術がない。

 満身創痍の脱出で病院での最初の供述を翻したことで13年の刑に処せられる。仮釈放になった52歳のロイは、ナイツ・アームズというモーテルに住んでいる。ここの雑用係だ。

 ハリケーンが襲来する日、ドアを開けるとすごい美人が立っていた。たっぷりとした髪は明るいブラウンで、下はジーンズ、上はぴったりとしたタン色のジャケットを羽織っている。

 そう、ロイは彼女が来る前から分かっていた。あの可愛いいティファニーだ。今は成人してグラフィックデザイナーだった。ロッキーに似てすべてが美しい。ティファニーは、記憶にない断片を知りたがった。ロイはすべて真実を話した。

 「診療所で肺のレントゲンを撮った。まるで雪が舞っているようだった」この出だしで私を虜にした。「ティファニーがいとまを告げ車に乗り込む前に足を止め振り返る。おれはドアを閉めて中に入る。やがて走り去る車の音が耳に届く」もう彼女とは一生会えないかもしれない、今生の別れに胸が締め付けられるような哀切に襲われた。

 著者のニック・ピゾラットは、これ以外に長編の翻訳はなさそうだ。本人はテレビの脚本に精を出しているようで、ドラマの「The Killing~闇に眠る美少女」や「True Detective~二人の刑事」がある。
            
 ガルヴェストンといえばグレン・キャンベルの「GALVESTON」という曲があった。その曲をどうぞ! この本の中でもバーでジュークボックスからグレン・キャンベルの歌声が流れる場面がある。