原題は、イタリア語のFAI BEI SOGNI(美しい夢がある)なのだが、「よい夢を」に訳されている。いずれにせよ「甘き人生」のイメージとは乖離しているように思える。「甘き人生」は、男と女の激しい恋の末、どちらかが傷をつくという悲劇を連想したが、まったくもって裏切られた。
母に対する美しい夢を持ち続け、恋によって新しい人生の夢に目覚めるというお話だった。恋という万能薬に人生の希望と夢を与えられたか、多くの人の実体験が物語るところだろう。例えば70歳を過ぎても25歳の年齢差がある女性と恋愛関係になったら、人生が一変することは容易に想像できる。それほど恋の妙薬の効き目は絶大だ。
マッシモ(ヴァレリオ・マスタンドレア)にとって、人生の節目の恋までは長い道のりを歩んだ。マッシモ9歳のころ母(バルバラ・ロンキ)が死んだ。夜中マッシモの額に「よい夢を見なさい」と言ってキスをした。明け方大声で目が覚める。父は無言で外へ出る。それからは親せきの夫婦がマッシモの世話をする。
やがて母の死が伝えられ、一緒に踊ったりテレビを観たりした母の美しい顔を二度と見ることはない。成長して新聞記者となったマッシモはサラエボで取材中、銃撃で殺され庭で血の海に横たわる若い母親、その小さな息子は部屋でゲームに熱中している。報道カメラマンは、椅子に座る子供を死んだ母親と重ねる位置に置き撮影する。その様子をデジカメで撮るマッシモ。
カメラがすべて真実を伝えることはなく見る人に媚を売っていると言いたげでもあり、マッシモの母の死の真実が隠されているという暗喩と見ることもできる。
サラエボから帰国したマッシモに体の異変が起きる。胸苦しく息も出来ないで死の恐怖が襲いかかる。病院へ電話して担当医の「鏡を見て深呼吸を繰り返しなさい」の指示で平静になる。診察のために病院を訪れる。担当医はエリーザ(ベレニス・ベジョ)という精神科医だった。この二人は恋に落ちるが、その描写はたった4場面にすぎない。
比重はマッシモの母を思う時間に置かれている。40歳近くまで独身を続けたマッシモは、美しい母に恋をしていたのではないかと思ってしまう。母の死の真実を叔母から聞いたあと、エリーザが「もう行かせてあげなさい」と囁く。これは印象的だった。なお、この映画は実話を元にしている。2016年制作 劇場公開2017年7月
監督
マルコ・ベロッキオ1939年11月イタリア、ピアチェンツア生まれ。
キャスト
ヴァレリオ・マスタンドレア1972年2月イタリア・ローマ生まれ。
ベレニス・ベジョ1976年7月アルゼンチン、ブエノスアイレス生まれ。
バルバラ・ロンキ出自未詳。
エマニュエル・ドゥヴォス1964年5月フランス生まれ。
ニコロ・カブラス出自未詳