イラクのディヤラ州、土壁から出て応戦していたブリーム軍曹(ヴィン・ディーゼル)を襲った敵二人。その様子を見ていた、はじめて戦闘に参加した19歳のビリー・リン特技兵(ジョー・アルウィン)はとっさに飛び出して敵二人を倒し、車の陰から撃ってくる敵を拳銃で倒す。それでも別の敵からの銃弾が舞う。味方が撃った強力な武器で、敵一人はピンクのしぶきとなって消える。
ブリーム軍曹を土管に避難させ止血。その時、敵が襲ってきた。ナイフでの格闘は、敵の心臓を貫き大量の血が広がる。しかし、残念なことに再びブリーム軍曹の声を聞くことがない。
この一件は大きく報道されビリーは銀星章を受勲、所属するブラボー隊ともども一時帰国して全国ツアーに参加、2004年の感謝祭にテキサス州ダラスで行われるフットボールの木曜日の試合でハーフタイム・ショーに参加がツアーの最終日となる。
参加するための移動や時間待ちや記者会見の様子とともに、ビリーが時折過去の記憶をたどる場面の挿入で、ビリーの家族や入隊の動機が明かされ、戦争そのものを理解していない人々との乖離を浮き彫りにする。
そもそも兵士たちには、いかなる出自があるのだろうか。決して裕福な家庭の生まれではない。ビリーの両親と姉キャスリン(クリスティン・スチュワート)は、交通事故にあい父は重症で車いすの生活、姉も重傷で何度かの手術。収入の道を断たれた一家が救いの道を求めたのがビリー入隊だった。軍隊では保険が完備しているのも救いになった。
多くの兵士は、アルバイトだけでは生活がやっとということで志願するのも多い。最前線はこういう兵士によって支えられている。一方、高学歴に恵まれウォール街あたりで高収入を得、ワインや美女にうつつを抜かす輩には戦争なんて知ったこっちゃない。俺は税金を払っているんだからとうそぶく。
高学歴者の今ある立場も努力の結果だとしても、国を守るという点では不公平感はぬぐえない。この映画を観ているとそれがひしひしと伝わってくる。英雄の誕生はプロパガンダには格好の獲物と言える。
映画出演の話を映画製作者(クリス・タッカー)が出演料一人10万ドルとうそぶいていたが、5500ドルにまで下がったことを受けビリーがオーグルビー(スティーヴ・マーティン)に言う。
「あなたは間違っている。我々の戦いは物語や理想ではなく我々の人生だ。あなたはなにも分からず別のものにしようとしている。ケチらず金を出しても契約は断る。戦地の敵の方があなたよりましだ」
姉キャスリンは、戦地に戻らなくても回避する道があるとビリーを説得する。キャスリンの意を受けた精神科医までも電話をかけてくる。迷った挙句やはり戦地に戻る決意をする。
ハーフタイム・ショーのスタジアムまでやって来たキャスリン。多くの人が言う「誇りに思う」を一言も言わなかったキャスリンは、「I Love You」と言ってビリーを抱きしめる。
ダイム軍曹(ギャレット・ヘドランド)以下兵士が黒塗りのリムジンで待っていた。乗り込んだビリーに「I Love You」と口々に投げかけてくる。
戦死したブリーム軍曹も最前線で応戦直前に「I Love Youビリー」と一人ひとり名前を呼んで声をかけていた。星条旗と国歌に敬礼をしながら涙を浮かべたビリー。ブラボー隊は唯一のよりどころであり、愛する仲間がいるところだ。たとえチヤガールのフェイゾン(マッケンジー・レイ)との恋があるにしても。
ビリー役のジョー・アルウィンは、新進気鋭の若手で好感度は高い。それにダイム軍曹を演じたギャレット・ヘドランドにも注目したい。この映画の劇場未公開が腑に落ちない。2016年制作 劇場未公開
監督
アン・リー1954年10月台湾生まれ。2005年「ブロークバック・マウンテン」、2012年「ライフ・オブ・バイ/トラと漂流した227日」でアカデミー賞監督賞を受賞。
キャスト
ジョー・アルウィン1991年2月イギリス、ロンドン生まれ。
クリステン・スチュワート1990年4月ロサンジェルス生まれ。
クリス・タッカー1972年8月ジョージア州アトランタ生まれ。
ギャレット・ヘドランド1984年9月ミネソタ州生まれ。
ヴィン・ディーゼル1967年7月ニューヨーク州ニューヨーク生まれ。
スティーヴ・マーティン1945年8月テキサス生まれ。
マッケンジー・レイ1990年8月テキサス州ダラス生まれ。