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この映画の監督は、ダニエル・トンプソン。名前から見て男だと思っていたが、なんと女性監督だった。映像が柔らかく絵画的なショットも多い。セザンヌを意識しているのかも。
1839年生まれで一つ上のセザンヌとゾラの友情の顛末。中学生のころ、イタリア系のゾラがいじめられているのを助けたのがセザンヌだった。以来友達として付き合うことになる。
裕福な家庭のセザンヌと普通の家庭のゾラ。性格も自由奔放で喧嘩っ早いセザンヌに対して思慮深いゾラ。対照的な二人だから友情が続いたのかもしれない。
ゾラ(ギョーム・カネ)が「居酒屋」という作品で世に出たが、セザンヌ(ギョーム・ガリエンヌ)はまだ呻吟している最中だった。すごいセリフが出てくる。執筆中のゾラの部屋にやって来たセザンヌ。
思うように書けないゾラを見て「今でも書きながら、自慰しているのか?」やや冷やかしの言葉。ゾラは返事をしなかったが、実際のところ人物を登場させれば愛の場面も書くことになる。試しに愛欲場面を持てる知識を駆使して書いてみれば、このセリフが実感として分かる筈。
苦しみながらのゾラの「制作」という作品が二人の間に溝が出来る。内容は「画家クロード・ランティエは、理想の女性像を描こうとして苦闘するが、やがて絶望のあまり自殺する。妻のクリスティーヌは心を病む」というのが大まかなストーリー。
これに異議を唱えてセザンヌとゾラは喧嘩になった。ランティエをセザンヌをモデルに書いていて、自殺をするのがセザンヌには我慢ならない。悪口雑言の応酬の末、「君には心がない。だから偉大な芸術家になれない。失せろ」とゾラは言い放つ。
これ以来二人の交流は途絶えた。しかし、お互いの心の中では、尊敬と親愛の情が熾き火のように燃えていた。ゾラが亡くなったことを知って、密かに涙を流したセザンヌだった。
今から約170年前に生きたゾラとセザンヌ。今の私たちには書物と絵画でしか接することが出来ない。こういう伝記映画の効用として、170年の時間を一気に縮めてくれるという気もする。もう一度、世界文学全集のエミール・ゾラの「ナナ」を読むとか、美術館でセザンヌが描いた南プロバンスの「サント・ヴィクトワール山」を観る気にもなろうというもの。
映画がリアルさの再現と考えれば、セザンヌの飾らない言葉が身近に感じるのだから面白い。ゾラの家にはお手伝いのジャンヌ(フレイア・メイヴァー)という娘がいる。ゾラはセザンヌに告白する。「太陽だ。彼女から放たれた喜びが激しく僕をかき乱す」
「やったのか?」とセザンヌ。
ゾラ「いや」
セザンヌ「やれよ。後悔せずに、その歳で恋か」
ゾラ「滑稽だよな」
結局、ゾラはジャンヌと結婚している。ジャンヌ役のクレイア・メイヴァーには、一言もセリフがなかった。魅力的に思えたのでちょっと残念な気がする。
エミール・ゾラは、1902年9月一酸化炭素中毒でこの世を去っている。62歳だった。ポール・セザンヌは、1906年10月67歳で没した。2016年制作 劇場公開2017年9月
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監督
ダニエル・トンプソン1942年1月モナコ生まれ。
キ
ャスト
ギョーム・カネ1973年4月フランス生まれ。
ギョーム・ガリエンヌ1972年2月フランス、パリ生まれ。
アリス・ポル出自未詳
クレイア・メイヴァー1993年8月イギリス、スコットランド、グラスゴー生まれ。