“ロレンゾ・ブラウンは目を開けた。ひびが入ったしっくいの天井を見つめ、意識をはっきりさせた”このあと愛犬のジャスミンと散歩するわけだが、オープニングとエンディングの冒頭に同じ文章をもってきて、中味のバイオレンス味(あじ)を薄めむしろ余情を漂わせている。
ロレンゾ・ブラウンは、ギャングの一味として麻薬の売買を生業としていたが、八年の刑を終え更生のため動物虐待監視官の職についている。
そのロレンゾと定期的に面接する仮釈放監察官レイチェル・ロペス。ロレンゾのギャング時代の友人ナイジェル。対立するギャング、ディーコン・テイラーやそれぞれの部下たちが、ワシントンDCで繰り広げる小競り合いを点景に、ロレンゾの凄みを一瞬見せたり、レイチェルの昼はまじめな監察官が、夜はアル中で男を漁る女という落差のある人物造形で読者に驚きを与えたり車や拳銃の細部の描写を添えて、ワシントンDCの低所得階層の鬱屈した生活が活写されている。
ロレンゾの凄みのあるところは、“スキルズ(動物虐待者の男)の首に左の前腕をくさびのように食い込ませた。ロレンゾは鍵(車の鍵)の尖端をスキルズの右目に近づけた。陽光を受けて金属が光った。
「刑務所でお前みたいないけ好かねえやつが俺に突っかかってきたとき」ロレンゾは低い声で言った。「やすりでそいつの目を突き刺してやった。ちょうどこの鍵くらいの小さなやすりでな」”
読み手としてはこれで溜飲が下がるというわけだ。ジョージ・P・ペレケーノスの作品は、いつ読んでも裏切られることはない。
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