なんとこの映画、劇場未公開だ。どうして? と思いたくなるほど心に沁みる作品。要するに不倫映画は受けないということかな。それはちょっと早計だな、と私は思う。
今は亡きアントン・イェルチンが売れない小説家ブライアンを、人妻のアリエルをフランス女優の魅力的なベレニス・マルローが軽妙に演じる。いわゆる不倫の行く末のお話ながら、ヤング・ラブストーリーのような爽やかさと、二人が一緒に年輪を重ねられない切なさもただよう。
二人の出会いと言うのが面白い。ニューヨークのセントラル・パークに面したホテルの前の歩道でタバコを吸うアリエルに気づき会話を始めたのがきっかけになった。なんで自分の部屋で吸わないのだろうと訝ったが、そんなことはどうでもいいと気づいた。
とにかく年上で子供二人を持つ人妻のアリエルと年下のブライアンも5時から7時までのデートを繰り返す。フランスでは「5時から7時」を不倫の代名詞に使うというのがこの映画で分かった。
アリエルの夫ヴァレリーというのが浮気性で妻に貞淑を求めないという男。したがってお互いに大っぴらに不倫ができるというわけ。こうなったら不倫と言えるのかどうかと考え込んでしまう。というわけでアリエルもブライアンとの関係も夫に話す。
ブライアンは、ヴァレリーがイースト77丁目173番地の自宅への招待を受ける。そのパーティで紹介されたのは、アメリカの指揮者でアラン・タケシ・ギルバートで、父親はニューヨーク・フィルハーモニックの白人の元ヴァイオリン奏者マイケル・ギルバート、母親は同楽団の日本人ヴァイオリン奏者建部洋子との間に生まれた。
次いで、米公民権運動の草分けと言われ、全米黒人地位向上協会の会長ジュリアン・ボンド。ボンドは2015年8月15日に75歳の生涯を閉じている。さらにニューヨークのフランス料理界の巨匠ダニエル・ブリュー。この三人は、本人自らの出演だった。
ヴァレリーとアリエルの夫婦にはどんなに不倫をしても、家庭を壊すことはしないという不文律があったようだ。完全に燃え上がったブライアンの心は、ひたすらアリエルを求め結婚を申し込む。一旦は、婚約指輪を受け取ったアリエルだったが、ドアマンにブライアン宛の手紙を託してホテルの部屋を引き払う。
それを受け取ったブライアンは、掃除機が唸りを上げる部屋を空しく眺めながら手紙を読む。長々とした手紙ではあるが、要するに「あなたに情熱のすべてを捧げたが現実は厳しく私を忘れて!」として婚約指輪が入れてあった。その空き封筒にリングを入れてドアマンに「アリエルが来たら渡して」彼はそこを去った。
小春日和のニューヨーク、マンハッタン区アッパー・イーストサイド、ブライアンとアリエルが最初に訪れたフランク・ロイド・ライト設計のソロモン・R・グッゲンハイム美術館前の歩道でぱったり出会ったアリエルの家族とブライアンの家族。他愛ない挨拶の中に、えも言われない感情の揺れが、アリエルとブライアンの表情に表れる。ここは二人ともうまく演技したと思うよ。
アリエルは、手袋から右手を出してリングを嵌めているのをブライアンに見せる。「あなたとの想い出は生涯忘れない」というサインだった。心地よい音楽に乗せて、やがて二組の家族は別れを告げる。ブライアンの家族はグッゲンハイム美術館に向かう。アリエルは、書店のウィンドウで見たブライアン・ブルーム著「マーメイド」で描いた二人の関係を思い出して笑みがこぼれる。
音楽もセリフもよかったし、爽やかな不倫映画といえる。フランス語の歌曲も挿入してあって洒落たフランス風が味わえる。その中の「Le Ciel Dans Une Chambre」をTerra Naomiが歌う。
監督
ヴィクター・レヴィン1961年生まれ。もともと脚本家でこの映画が初監督。
キャスト
アントン・イェルチン1989年3月ソ連、レニングラード生まれ。2016年6月交通事故でロサンゼルスで亡くなる。
ペレニス・マルロー1979年5月フランス、パリ生まれ。
オリヴィア・サールビー1986年10月ニューヨーク州ニューヨーク生まれ。
フランク・ランジェラ1938年1月ニュージャージー州生まれ。
グレン・クローズ1947年3月コネチカット州グリニッチ生まれ。
ランベール・ウィルソン1958年8月フランス生まれ。
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