1977年の作品ではあるが、コンドミニアムあるいはマンションといってもいいが、その建築にまつわるいい加減さはわが国でも耐震強度不足で大騒ぎになった。まさにフロリダで起こる手抜き工事の顛末が強大なハリケーンの襲来で如実に示される。
ゴールデンサンズ・コンドミニアムは、八階建てで47戸の住居がある。その建物はわずか四エーカー(4,897坪)の狭い土地に建ち、真ん中でブーメラン型に折れ曲がっている。入居者はフロリダの温暖な気候を求めてリタイア組の夫婦が殆どだった。
入居者の中に元技師のガスリー・ガーバーがいた。ガーバーは建物を細かく検分するという習性のようなものを持っていて、このコンドミニアムの点検も怠らなかった。たった47戸といっても人数にすると百人近くの人間が住んでいることになる。人間が百人集まるといろんな性格の人間の集団になる。
頑固者、自分勝手な者、規則を守らない者、大金持ちもいれば共益費の値上がりに文句を言う者、夫婦喧嘩の絶えない者、飲んだくれや暇があれば女の尻を追い掛け回す男、男を欲しがる女などなどだ。
そんなちまちました欲望や妬み、憎悪、後悔、虚言などの醜い人間の性を無視するように、フロリダの空は青く陽光に輝いて吹く風は穏やかで心地よい。
しかし、自然はいつまでも穏やかな顔を見せてはくれない。赤道付近でハリケーンの卵がかえりつつあった。ピヨピヨと囀るひよこのままか、あるいは眼光鋭い猛禽に成長するのか今のところ分からない。
建物を分析していたガーバーは問題点を見つけかつての優秀な部下サム・ハリソンに応援を求めた。ハリケーンは徐々に勢力を拡大していて、超大型になる予兆を見せ始めた。ガーバーとハリソンは、建物の危険度とハリケーンへの対応について書いた印刷物を住民に配布した。その結果、避難組と居座り組に分かれた。
ハリケーンはカリブ海からメキシコ湾に突入して来た。地形を変えるくらいの風と高波に加え巨大な高潮に襲われてコンドミニアムは倒壊し、多くの人命が失われた。コンドミニアムでの人間模様と巨大ハリケーンの接近を、緊迫感を持って描写して読む者を飽きさせない。
それにお金について“持っている額がある限度を超えると何の意味も持たなくなる。人は一度に一台の車にしか乗れず、一度に一回の食事しか出来ず、一度に一つのベッドでしか眠れない”そう、わたしのような持たざる者にはなんとも嬉しいお言葉だ。いくらお金があっても寿命を倍には出来ない。
面白いことに災害の後、地方都市の復旧費の予算獲得を皮肉ってある。初め死者を少なめに発表していたが、費用獲得のためがらりと態度を変えるというものだ。 最近の日本での地震災害や台風災害の地方自治体の対応にもよく似たものがありそうだ。30年前と何にも変わっていない。読んでいてこの題材なら映画化もおかしくないと思っていると、1980年にTV映画化してあった。
ジョン・D・マクドナルド
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