「宮崎正弘の国際情勢解題」
令和弐年(2020)1月4旦(土曜日)弐
通巻6330号
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やはり大波乱の幕開け。2020は東京五輪に米大統領選挙
イランとの戦争に踏み切るのか、トランプの正念場
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イラン革命防衛隊のソレイマニ司令官殺害を命じたトランプ大統領に対して、すぐさまイランは「厳しい報復」を宣言した。空襲攻撃は1月2日、イランは直ちにソレイマニ司令官の「殉教」を認めた。
テヘランの他、イラン各地で追悼集会が開かれ、星条旗が燃やされて復習を誓う声があがった。
全世界でアメリカ大使館ならびに外交施設そのほかは厳戒態勢に入り、同時に米国は中東のクエートへ陸軍空挺団三千名の増派を決定した。
エスパー米国防長官は「予防的対応もありうる」と警戒を強める指示を出した。
ワシントンの連邦議会では民主党が「戦争の危険性が高まった」とトランプを非難し、共和党は「テロリズムの脅威を取り除いた。海外にいるアメリカ人の生命を守った」と反駁し、メディアにも賛否両論が溢れる。
トランプ大統領は「戦争予防のためであり、スレイマニ司令官は過去二十年間に千名をこえる市民を拷問し殺害してきた世界ナンバーワンのテロリストだ。彼を殺害する行動を米国はもっと早い時期に取るべきだった」と述べた。
議会では、シューマー上院院内総務は「議会に諮らないで攻撃したことはルール違反だ」と批判すれば、共和党側は「オバマは中東に合計で2800発のミサイルをお見舞いしているが、はたして議会の承認を得てからの決定だったのか」と噛みついた。
民主党はおおむね攻撃に否定的であるのも選挙を睨んでの政治宣伝である。
市場は敏感である。原油市況は高騰、ドル相場は円高にぶれた。戦争が近いとなるとドルが買われるのに、常識とは逆の現象である。
米国の緊張に比べて、しめたと内心思っているのは中国とロシア、そしてトルコかも知れない。
トルコ議会は正式にリビアへの派兵を決定し、リビア原油の権益確保に乗り出す。ロシアは、原油価格低迷のために経済が不振に陥っていたが、イランとの戦争状態が長引けば、原油市況が回復すると読む。となれば、経済再生も夢ではなくなる。緊張を以て事態の推移に注目しているのは北朝鮮の金正恩だろう。
中国は貿易戦争で、じつは大きな妥協をなした。
トランプが発動した高関税撤廃へ向けて大きく姿勢を変え、ついにメンツを捨てて妥協の道を選んだのだ。
しかし中国国内では「下関条約のごとき不平等条約」と習近平批判の投書がネットであとを絶たず、窮地に立たされていた。米国vsイラン対立という外患の発生により、国民の関心をほかへ転進させることが出来る。
▲イランが関与した国際テロの黒幕
さてソレイマニ司令官のことである。
ソレイマニは1998年頃からコッズ部隊の司令官の座に就き、ハメネイ師の側近としても活動した。コッズ部隊は、諜報や外国に於ける破壊活動に従事し、シリア、レバノン、オマーン、アフガニスタンなどにシーア派のシンパ組織を設立し育成し、活動資金ならびに武器を供与してきたため、アラブの首長国、王国なども脅威と見なして、殺害を試みてきた。
イラン革命防衛隊の精鋭部隊「コッズ」は、バグダッドの米大使館襲撃をやらかした。が、ペルシア湾での米艦襲撃など、それ以前のテロにも関与していた。
そもそもソレイマニ司令官は母国のイランではなく、イラクに「出張」していたのだ。イラクを解放したはずの米国は、その結果がスンニ派のバース党の行政機構を壊滅させたという失策に目を瞑り、気がつけばイラクはイランのシーア派の影響を受けたシーア派政権となっていたことに愕然とした。
バグダッド政府は米国に面従腹背、なにを考えているのか分からないほど鵺的である。
空爆はバグダッド空港からでたソレイマニの乗った車列を標的とし米軍のヘリコプターからの襲撃だった。同時にヒズボラのモハンディス副司令官を含めて六名の幹部が殺害され、イランの軍事組織のトップが不在となった。
ハメネイ師はただちに深刻な報復攻撃をなすと豪語したが、司令官不在の軍事組織が機能するのか、どうか。しかし、ガアニ副司令官がすぐさま司令官に昇格し、その指導力と威厳をみせつけるためにも、テロをやらかすことだけは確かだろう。
▲ネタニヤフ(イスラエル首相)は急遽、帰国した
一方、イスラエルは外遊中だったネタニヤフ首相が日程を取りやめて急遽エルサレムに帰国し、警戒態勢のレベルをあげた。
はたして米国はイランとの戦争に踏み切るのだろうか。
トランプは戦争を望まず、またイランは口では威勢の良いことを並べているが、米国と戦争をする気はない。
だとすれば、米国は対イラン経済制裁をさらに強化することになる。
イランからの原油輸入禁止は日本にも適用されており、日本船籍のタンカーが襲撃を受けたり、米国ドローンがミサイル攻撃を受けた。
現在発動されているイラン制裁は、ボーイング110機の契約停止(同時にエアバス100機もEUは同調制裁中だ)の合計395億ドル。ついで自動車の輸出禁止。
イランからの輸入禁止品目にはペルシャ絨毯(2018年は4億9500万ドル)、キャビア(137万ドル)、ピスタチオ(832万ドル)など。ほかに追加しても、どうでもよい商品しかないのが実情ではあるのだが。。。。。。。