「宮崎正弘の国際情勢解題」
令和弐年(2020)1月5旦(日曜日)
通巻6331号
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グローリー・ベトナムが沈みゆくリスク。国有企業がネック
米中戦争のあおりで一番得をした筈のベトナム経済、座礁の懼れ
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米軍を撤退させ、とうとうベトナム戦争でベトコン側が勝利したのは四十年以上も昔の話だ。或る軍事評論家は「これで大東亜戦争は終わった」と言った。
あのとき、空軍パイロットとして参戦し、撃墜されて捕虜となったジョン・マケインは、その後、釈放され米国に帰還し、連邦議会の上院議員(アリゾナ州選出)となって、ベトナムを訪問し、米越関係を飛躍させる原動力となった。
同じくベトナム戦争に参戦したジョン・ケリーは、ヒラリーの後釜として国務長官となり、ベトナムとの友好、経済関係を深める。悲劇は喜劇となった。
革命後、ベトナム共産党は華僑を弾圧し、そのためボート・ピーポルとして百万以上の華僑が海外へ逃げた。海の藻屑と消えた華僑もいれば、チョロン地区(サイゴンのチャイナタウン)で虐殺され華僑も夥しい数にのぼる(ベトナム現代史は、この時期の出来事が白紙である)。その報復がトウ小平が主導した中越戦争だった。
消えたはずの華僑が静かにベトナムに戻ってきた。それも新華僑の大群、つまり中国企業が大挙してベトナムの工業団地に進出し、生産、輸出基地とし始めたのが十年前。途中、反中暴動が起きて一時期撤退したが、いつのまにか舞い戻って、ベトナムを輸出中継基地として、あるいは対米輸出の中国製品のラベル張り替え拠点として、良いように利用されていた。
1972年冬、ベトナム戦争末期だが、筆者は従軍記者然としてサイゴン(いまのホーチミン)に取材に入り、河岸のマジェスティック・ホテルに滞在した。まわりは人力車、靴磨きの少年、傷痍軍人。アメリカ兵相手の怪しげなバア、掏摸や為替詐欺が横行していた。カフェには新聞記者が屯していた。
2015年頃だった。筆者は同じホテルに泊まったが、五つ星ホテルに変身しており、屋上にプール、バアがあって日曜日には驚くべし、ベトナム庶民の家族連れで溢れかえっていた。
2019年のベトナムGDPの伸びは7%、2020年は6・6%から6・8%が見込まれている。またベトナムはASEANの議長国としてホスト役をつとめるばかりか、国連安保理事会の非常任理事国のメンバーとなって、国際政治にも発言権をもつ。そのうえ、EUとはFTAが発効する最初の年にもあたる。
▲明るいベトナムのシナリオがなぜ暗くなったのか?
明るい未来予測が多くのシンクタンクが飛び出した。
ベトナムのひとりあたりのGDPは、2035年に22000ドルになるという。2019年に120億ドルだったベトナムのデジタル産業は、2035年には430億ドルに成長すると、薔薇色の近未来シナリオが提示されて、ほくほく顔の筈である。
暗転が始まった。坂道を転がり出したら早い。
第一の原因はベトナム国有企業(SOE)の多くの民営化が大失敗となりつつあることである。
発電、送電、通信など国有企業民営化に際して、共産党幹部でもある企業経営陣は、財産を過小評価し、差額をポケットに入れ、さらにはIPO(株式新規公開)によって、濡れ手に粟の現金を手にする。全体主義国家に共通の汚職である。
ところがベトナム企業のIPOはうまく行かず資金調達が挫折した。
それは中国企業がNY市場に上場し空前の金を集めた真似をして巨額をなそうとしたのだが、アリババはブームにのってアメリカ人投資家が群がったのであり、ベトナムの国有企業の同様な夢を描いたが、ベトナム国有企業のカネをぶち込もうという世界の投資家はいなかった。
第二は発展途上国にありがちな中産階級の罠による景気の挫折現象が露呈している。
たとえばインドでオートバイや車の割賦販売の結果、不渡り個人破産がインド経済を停滞させているように、あるいは中国でマンション購入の中産階級が、資産値下がり、所得激減のあおりで返済の不可が高くなりすぎたため、事実上個人破産しているように、同じ現象がベトナムで起こった。
第三が対米輸出のトリックだ。
中国の対米輸出企業が、原産地をベトナムとすれば、対中報復関税を逃れられるとばかり、ハノイなどでラベルの張り替えが行われている実態を米国は掴んだ。
米国議会が「香港民主人権法」を成立させ、トランプが署名したように、香港の貿易、金融上の特権を剥奪する法律である。
ベトナムからの輸入物資にも、トランプ政権は高関税適用の方針である。
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◎ ベトナムに作用するマイナスの要因。
❶ 今年は世界的な株価崩壊の時代です。つまり、開発途上国から
資金が逃げます。
❷ 共産党独裁の経済は、資本主義にかなう事はありません。
体制の限界です。自由と民主主義の体制が経済的
発展には最も適しています。
❸ 中共に比して、国の規模が小さすぎます。また他の東南アジアの
国々との競争があります。
❹ やがてお金はG7・特にUSAに流れ込み、USAは資本主義最後の
空前の・最後の繁栄・バブルに突入します。
◎ 上記が重なり、当分大陸の繁栄は限界が見られます。