8時、起床。子雀に餌をやってから、籠に入れてベランダに出す。親鳥が来るのを待つ間に、焼肉、トースト、冷麦茶の朝食。籠の担当(室内から紐を引っ張ると籠のり口の開閉が遠隔操作できるようになっている)は妻に任せて、私は道路に出て、カラスと猫の警戒にあたる。ベランダに一番近い電信柱から1つ隣の電信柱に雀の家族がいて、子雀たちの飛行を番の親鳥が見守っている。うちの子雀をあの家族の一員に迎えてもらえないだろうかと考えていると、妻が籠の入口を開けた。近くの電線に親鳥(かもしれない)雀が止ったからだ。昨日は籠の入口を開けても外に出ようとしなかった子雀だが、今日は出た。そして羽ばたいた。私が家へ戻ると、妻はベランダから道ひとつ隔てた隣家の木を指差して、「ほら、あそこ」と言った。すぐにはわからなかったが、よく見ると、確かに風に揺れる細い木の枝にしがみつくようにして止っている子雀の姿があった。あそこなら猫の心配はない。妻は、「これでようやくリリースできたわね」といってその場を離れた。私は子雀の様子をカーテン越しに眺めていた。子雀がそこからどこかへ飛んでいって、私の視界から消えるまでは見ていようと思った。しかし子雀はそこに留まったままである。親鳥が接触する気配もない。餌を与えてから2時間ほどが経過しているので、そろそろ腹が減ってくる頃である。私はベランダに出てみた。すると子雀は私に気づいたようで、木の枝を離れて、パタパタと羽ばたいて(水泳でいえばまだバタ足レベルの羽ばたきだ)、私のところへ飛んできた。手のひらを差し出すと、ヘリコプターのようにそこに着地した。なんだかホッとしたような顔をしている。それは私も同じだったろう。本当は、私は心を鬼にして、子雀を払いのけなくてはいけなかったのかもしれない。ちょうど映画『ALWAYS 三丁目の夕日』の茶川がお金持ちの実父の元から戻ってきた淳之介を「おまえがいると迷惑なんだ」と言って突き放すように・・・(けれど茶川は結局、淳之介を連れて家に戻ったのであるが)。私はとりあえず子雀にスポイトで水を与え、「どうする?」と手のひらの上の子雀に聞いてみた。「今日はこのくらいにしておく」と子雀が言うので、「そうか、わかった」と答えて、籠の中に子雀を戻し、書斎(雀荘)で餌を与えた。腹が減っていたらしくよく食べた。食事のあとは、初めての外出で疲れたのだろう、よく眠った。はたして昨日よりも一歩前進と考えてよいのだろうか。