フィールドノート

連続した日々の一つ一つに明確な輪郭を与えるために

6月2日(日) 曇り (句会篇)

2019-06-06 13:05:55 | Weblog

 いよいよ「出張いろは句会in芦屋」である。

普段の句会は句会の4日ほど前に投句の締め切り(主宰の紀本さんにメールで送る)なのだが、今回はそれはなく、さきほどまでの吟行をふまえて、これから(30分ほどの時間を設けて)各自が3句を作る。3枚の短冊が配られ、短冊一枚に一句を書いて、紀本さんに渡し、それを紀本さんが一枚の用紙に清書するのである(無記名かつ順番はランダムに)。

もっとも紀本さんは別として吟行に不慣れなわれわれであるから、3句全部を吟行中に作った作品でそろえなくてもよく、あらかじめ考えてきた句を書いてもよい。

月白さんがキッチンに立ってお茶をいれてくださった。芦屋マダムのティータイムという感じですね(笑)。

30分では完成せず、時間を延長した。 

ようやく全員の句が出そろった。投句のみ参加の旭川の蚕豆さんを加えて6人×3句の18句である。(今回の兼題は「東西南北どれかの字を入れること」 

選考作業(1人3句)は買ってきたケーキをいただきながら。 

 私は次の3句を選んだ。

 天(5点) 革命も亡命もなくわが五月

 地(3点) 言い訳はせず葉桜の風を見る

 地(1点) 燕疾(はや)し西班牙瓦(スペインがわら)の軒かすめ

私のみるところ、18句のうち、吟行中に作った句とあらかじめ作ってきた句は半々である。前者には即興の勢いと臨場感があり、後者には推敲された完成度の高さがある。意図したわけではないが、結果的に、私の選んだ3句は全部があらかじめ作った句だと思う。つまり完成度を重視したわけだ。吟行中に作った句は、「ああ、あの場面を詠んだのだな」とそのときの映像が浮かんでくる。その意味でアドバンテージをもっている。ただし、もし吟行に参加していない人がその句を鑑賞して具体的な映像を想起できるかというとなかなか難しいだろうと思う。吟行の共通体験に頼らなくてもそれ単独で味わい深い句、それが完成度の高い句といえるのではないだろうか。ということを考えながら、選を行ったしだいである。

 全員の選が終わり、集計結果が出た。

10点 さかみちをころがりそう紫陽花ぴんく 花

 今回の特選句は花さんの作品。渺さんと月白さんがそろって天を付けた。これまで定型的な句が多かった花さんだけに下の句の「紫陽花ぴんく」には意表を突かれた。山頭火がお好きということだからもともと自由律に対するあこがれはあったのだろうが、「楷書がちゃんと書けないうちに草書に手を出しちゃだめ」みたいな抑制が働いていたのかもしれない。それが今回の吟行で解除されたのかもしれない。

5点 北窓を開けて呼び込む風のリレー 蚕豆

 遠隔参加の蚕豆さんの作品。紀本さんが天を付けた。紀本さんはてっきりこの作品は「ヨドコウ迎賓館」の室内(窓が多かった)で詠まれたものだと思っていて、「してやられました」と言った。蚕豆さんらしくないさわやかな句である(笑)。そういえば北海道は少し前に真夏日を記録したのですね。

5点 雨樋に金魚が二匹芦屋人 紀本

 渺さんが天を付けた。「ヨドコウ迎賓館」の玄関先に雨樋からの水を受ける小さな石の池(それ自体が雨樋の一部らしい)があって、そこに金魚が泳いでいた。「芦屋人」は金魚のことなのだろうか、そういう風雅な意匠を凝らした家の住人のことなのだろうか。 

5点 革命も亡命もなく我が五月 渺

 私が天を付けた。東京での単身赴任を終えて芦屋に戻ってきた渺さんが坦々とした日常を詠んだ作品。「革命」は、「五月」にちなんで、1968年のパリで学生たちが起こした「5月革命」からの連想で、「亡命」は「革命」からの連鎖反応(韻も踏んでいる)だろう。

4点 何見むと人に問われしあめんぼう たかじ

 私の句。芦屋川の橋の上での体験から作った作品。花さんから地、紀本さんから人をいただいた。問われているのは「私」なのだが、省略されているので、あたかも「あめんぼう」が問われているかのようにもみえる。

3点 言い訳はせず葉桜の風を見る 月白

 私が地を付けた。何の言い訳なのかはわからない(書かれていない)が、風にそよぐ葉桜を見上げる女性の顔、その口元が一文字に引き締まっている映像が鮮やかに浮かんでくる。

3点 真夏日や菓子職人の去りし町 たかじ

 私の句。月白さんから地をいただいた。この句には草稿があり、「花水木菓子職人の去った町」というのだが、それを作ったときから時間が経過して、菓子屋の建物が取り壊された跡が真夏日の下で白く乾燥している情景を、「去った」という完了を「去りし」と過去に変えて詠んだ。

3点 さて羽蟻死出に毅然とハネムーン 蚕豆

 虫愛ずる殿方(笑)蚕豆さんの作品。紀本さんが地を付けた。働き蟻は、女王蟻と交尾するときに羽蟻となるのだが、その後死ぬのですと蚕豆さんからの説明があった。「ハネムーン」は「羽」とかけたのかしら。

3点 西へ西へ六月の花嫁(きみ)に会いにゆく たかじ

 私の句。渺さんから地をいただいた。東京から神戸に向かう新幹線のぞみの車中で詠んだ作品。「東西南北の(どれかの)文字を入れる」という兼題句でもある。

1点 燕疾し西班牙瓦の軒かすめ 渺

 渺さんの句。私が人を付けた。「西班牙瓦」(スペインがわら)で兼題に応えましたか。なるほどね。文字だけの間に合わせではなく、音の響き、色彩も綺麗で、作品と調和しています。

1点 バラ園の蜂の羽音やふいの雨 月白

 渺さんが人を付けた。渺さんと月白さんはよくお互いの句(お互いの句と知らないで)を選ぶので「夫婦間のインサイダー取引」と揶揄される。それを避けようとするのだが、どうしてもお互い惹かれあってしまう(笑)。「バラ園」「蜂」「雨」が月白さんが好みの素材であることはわかりそうなものなのだが(笑)。

1点 梅雨空の表面張力水澄まし 渺

 月白さんが人を付けた(笑)。「梅雨」と「水澄まし」が季重なりであるというマイナス査定をものともせずである(笑)。月白さん、これはいかんと思ったのか、作者が明らかになった途端、自分で選んだ作品に「これだと梅雨空に表面張力が働いているみたいじゃない」とケチをつけ始めた(笑)。

1点 持っているだけで幸せ水澄まし 紀本

 花さんが人を付けた。芦屋川の橋の上から見た水澄まし(あめんぼう)は印象的だったようで、3人が詠んだが、この句が一番難解である。「持っているだけで幸せ」って、水澄ましを手の平にのせているのか? 水澄ましを飼うということか? どちらも違う(無理)だろう。水澄ましを「見ているだけで幸せ」ということかしら、水澄ましのことを心の中で「考えているだけ幸せ」ということかしら。

楽しい時間は疾く過ぎる。4時半近くに句会はお開きとなる。 次回の句会は9月16日(月)に早稲田で行うことに決まった。祝日(敬老の日)だけど「カフェゴト―」やってるかな。兼題は・・・何でしたっけ?

私はJR芦屋駅のコインロッカーに預けた荷物を引き出して、そのまま新大阪へ。 

5時33分発のぞみ136号に乗車。 

東に進むにつれて空は雨模様になっていく。 

品川まであと1時間というあたりで、新大阪駅で買ったお弁当を取り出す。 

ビーフカツサンドである。 

 

新横浜を通過する頃はすっかり夜になっていた。

8時ちょっと前に品川駅に到着。 

駅構内のエスカレーターが左側並びに戻った。 

8時半、帰宅。

小腹が空いていたので、カップうどんのを食べる。 

一泊二日の小旅行であったが、密度が濃かった気がする。

*おかげでブログの更新が遅滞しております。

1時、就寝。