文化逍遥。

良質な文化の紹介。

フランク・C・テイラー著、ヤンソン由美子訳、『人生を三度生きた女』1993.筑摩書房刊

2016年03月25日 | 本と雑誌
 新居に移ってからは置き場所がないので本は極力買わないようにしているが、どうしても手元に置いておきたくなるようなものは買わざるを得ない。というわけで、行きつけの古本店「ムーンライト・ブックストア」で見つけて買い求めたのが今回紹介する本だ。



副題に『“魂のブルース”アルバータ・ハンターの生涯』とある。日本で訳本が出たのは1993年だが、原書は『[ALBERTA HUNTER -A Celebration in Blues]by Frank C.Taylor with Gerald Cook』として1987年にニューヨークで出版されているので、すでに30年近くが経っていることになる。アルバータ・ハンターは、1895年メンフィス生まれで主にシカゴやニューヨークのショービジネスで活躍した人。「クラッシック・ブルース」と言われているが、わたしはそちらの方には疎くて、あまり聞きこんでいないし、音源も少ない。アルバータ・ハンターの録音も、我が家には5曲あるのみ。


DOCUMENTレーベルから出ているCD[Classic Blues,Jazz & Vaudeville Singers]。左端の横を向いている人がハンター。このなかには、1曲だけ1923年ニューヨークでの録音「Down South Blues」が入っている。

「ショービジネス」と言われるくらいで、歌だけでなく、踊りやボードビルの要素をふんだんに盛り込んだステージをこなして、客に楽しんでもらうエンターテナーを勤めることで糧を得ていた人なのだろう。他にクラシック・ブルースでは、日本で名の知られているところではベッシー・スミスくらいだろか。いずれもレコードは残してはいるものの、やはり録音だけではその本当の実力というか実際のパフォーマンスを窺い知るのは困難だ。というわけで、「クラッシック・ブルース」歌手達については、あまり知るところではなかったが、今回この本を読んで戦前から戦後に至るアメリカ都市部における黒人女性歌手の実態を多少なりとも知ることが出来たような気がする。

 なにより、驚いたのはハンター個人の激烈とも言える生涯だ。12歳から歌い始め、母の死以降は年齢を誤魔化して60歳で看護婦になり、82歳でカムバックして89歳で亡くなる少し前まで歌い続けている。すごい人がいたもんだ。本の中では、誇張や美化しているところもあるかもしれないが、それにしても「自分もがんばらなくちゃ」、という気になる。

 著者は、ジャーナリスト。ジェラルド・クックという協力者はハンターの晩年7年間ピアノ伴奏を務めた音楽家。本自体は、歌手やクラブなどの固有名詞が多く、音楽に興味が薄い人には読み進めることが辛いかもしれないが、戦前から戦後に生きた黒人女性の伝記としても読むに値する本と思われる。

下のLPは、1961年8月に録音されたもので、写真中央でなぜかトロンボーンを持っているのがハンター。


収録されているのは、「You Gotta Reap Just What You sow(自分でまいた種は自分で刈りな)」他3曲。数少ない看護婦時代の録音だ。

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