文化逍遥。

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大津秀一著『死学』

2016年03月20日 | 本と雑誌
 まもなく母の三回忌をむかえることもあり、終末期医療に関する本を図書館から借りてきて何冊か読んだ。
 標題本の著者の大津秀一氏はホスピスに勤務する医師で、多くの「死」に接してきた緩和医療の専門家。他に同じ著者では、『感動を与えて逝った12人の物語』、『すべて、患者さんが教えてくれた終末期医療のこと』、などを読んだ。

 約二年前に自宅で母を看取ったが、今も「あれで良かったのだろうか」と思うことがある。副作用が顕著になってきた抗生剤による治療を止め、延命措置をせずにそのまま看取ることにしたが、それで良かったのか、あるいは1分1秒でも長く生きるため人工栄養や人工呼吸器を装着しての延命をはかるべきではなかったのか。実際、意志の疎通が不可能になった患者の家族の中には、ひたすら延命を望む人もいる、と本の中では語られている。医師の立場としては、たとえ患者の苦しみが続くだけで無意味だと思っても、家族が望む措置を講ずる他は無いらしい。これは、正解の無い問題とも言える。厚生労働省などで明確なガイドラインを示してくれればそれに沿った医療が施されるのだろうが、現実的には患者・家族の意向は様々でそれを無視することは困難だろう。なので家族任せ、時には医者任せになっている。仮に、死に臨んで救急車を呼べば、どんな年寄りであろうと必ず救命措置を講ずることになる。したがって、延命措置を望まない場合は、救急車を呼ばないよう周囲の人に頼んでおく必要もある。

 人は必ず死ぬ。今は元気な人でも、明日か、ずっと先か、いつかは誰にもわからないが100%死ぬ。いつ、その時が来ても良いように、忌避せず身近な人と互いの終末期の医療について話し合い、場合によっては文書にして残しておく必要があるだろう。本の中に「延命治療拒否願」というサンプルがあったので、それを貼り付けておく。「拒否願」となっているが、実際には「延命治療確認書」とでも言うべき文書だ。



わたしは、残された者が判断に苦しまぬように、すでにコピーして必要なところに丸をし署名捺印しておいた。


2016/06/08追記―その後、他の書籍により、2012年6月に厚労省の研究事業に対する応募という形で日本老年学会が作成したガイドラインがあることがわかった。『高齢者ケアの意志決定プロセスに関するガイドライン―人工的水分・栄養補給の導入を中心として』というもので、それによると「・・・全体として延命がQOL保持と両立しない場合には、医学的介入は延命ではなくQOLを優先する。」とある。つまり、やたらと延命策を講ずるよりも自立したより良い生活を重視すべき、ということだろう。このガイドラインは、元より法的拘束力は無く医療の現場でも周知されているか疑問だが、終末期医療・ケアに関わる人達は、患者や家族に説明する時にこのようなガイドラインがあること、その内容を説明するようにして貰いたいものである。

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