文化逍遥。

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劉暁波著『独り大海原に向かって』2018年書肆侃侃房刊

2018年05月11日 | 本と雑誌
 図書館から借りて読んだ本を一冊。訳・編集は、劉燕子氏と田島安江氏。なお、田島安江氏は、書肆侃侃房(福岡)の代表取締役でもある。



 2010年に獄中でノーベル平和賞を受賞し、2017年7月13日に瀋陽の病院で多臓器不全のために亡くなった文学者劉暁波。1955年12月28日吉林省長春の生まれというから、わたしよりほぼ1年年長ということになる。この本は、1990年頃からの詩編や、獄中からの夫人への手紙、そして哲学的な思考を詩的に表現した散文詩などが収められている。訳者の劉燕子氏が「むすびにかえて」の中で「詩は厳密にいえば翻訳不可能である。」(P263)と述べられている。それはもっともなことで、たとえば、李白や杜甫の詩を現代日本語に訳したものなど想像できない。しかし、それでもここに収められた詩文からは胸に沁みる想いが伝わってくる。若い頃の理想に忠実に生き抜いたひとりの詩人が確かにいたことを伝えてくれている。本文P186以下を少し引用しておきたい。

 「・・ぼくは殉難を覚悟しあふれ出る熱気で深淵に沈んだ魂を救おうとするのだが、その魂は相変わらず混沌として、不潔で卑俗だ。・・」

 同時代人として、魂の奥に刻み込んでおきたい人の一人、といえる。

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