文化逍遥。

良質な文化の紹介。

2017年イギリス映画『北斎』

2018年05月18日 | 映画
 5/16(水)、千葉劇場にて。原題は『British Museum presents : Hosusai』。監督は、パトリシア・ウィートレイ。





 これは、大英博物館で開催された展覧会「Hokusai: Beyond the Great Wave」を通して専門家の解説や、日本の伝統的な信仰及び風習などを分かりやすく解説したドキュメンタリー映画。基本的には英語だが、出演している日本人の話は当然日本語になっている。
 葛飾北斎のことは、自分ではある程度の知識を持っているつもりだったが、知らないことも多かった、と感じた。それを海外の専門家からの話で知るとは恥じ入るばかりだ。特に、晩年の肉筆画のすばらしさや、日本では「赤富士」と言われている版画の初刷りが実はピンクに近い色で、夕焼けに染まる富士山ではなく朝日に浮かび上がる富士であり裾野に広がる樹海の朝の息吹までをも表現されている、という見解には目から鱗が落ちるように感じた。そして、それが蕎麦二杯分の値で江戸の当時は売られていたことなども初めて知った。古典落語の「時そば」などで、蕎麦に竹輪などのささやかな具の入ったものが一六文としている。なので、今の貨幣価値なら、葛飾北斎の版画一枚1000円しなかったことになる。当時は、襖の穴があいた所などに貼って、いわば補修材として利用されることも多かったとも聞いている。したがって、良い状態で現存するものは極めて少ない、ということになる。しかも、版画の場合、摺りを重ねると版木を換えることもあったらしく、色も変化していったらしい。芸術作品としての認識が薄く、制作者もそこまでは、気にしなかったのだろう。
 人は、金銭的価値でものの大切さを判断しやすく、悲しい事だが、足元にある宝を見失いがちだ。いずれにしろ、観ておいて良かった映画だった。

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