文化逍遥。

良質な文化の紹介。

内田百閒著『百鬼園 戦前・戦中日記(下)』2019年慶応義塾大学出版会刊

2019年07月19日 | 本と雑誌
 自宅近くの千葉市立図書館から最近借りて読んだ本の中から一冊。内田百閒の昭和15年7月から19年10月まで、50代前半の日記になる。ただし、昭和17年分は欠丁で写本で一部を補っている。日記と云っても備忘録に近く、手帖にその日の出来事を羅列したようなものを元にしている。この続き、19年11月以降は『東京焼尽』に続く。

 内田百閒(本名は栄造、1889~1971)はドイツ語の教師だったが、夏目漱石の門下でもあった。特に旅行記などの随筆の名手でもあり、優れた幻想的小説なども残していて、わたしも若い頃愛読していた。鈴木清順監督の1980年作、映画『ツィゴイネルワイゼン』は、内田百閒の小説『サラサーテの盤』などを元にしている。さらに、内田百閒をモデルにしたといわれる黒沢明監督の1993年の映画『まあだだよ』などでも知られている。



 『まあだだよ』などでは、戦前から戦後にかけての百閒の日常と彼の教師時代の教え子との交流をユーモアたっぷりに描いている。が、実際に百閒の残した日記には、不整脈や喘息といった体の不調、質入れや原稿料の前借などの金銭的な困窮が記されている。いわば、生身の人間の苦悩が見え隠れし、その苦しみの中から優れた「作品」が生み出されていったことが良くわかる。百閒ファンにはお奨めの一冊。

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする