縁起でもない話ですが、山で遭難した人は山小屋のすぐ手前で亡くなることが多いそうです。せっかく山小屋のすぐ手前まできて何で?と思うかもしれませんが、実は山小屋が見えたからこそ、そこで力尽きたというのが答です。
人間の体を動かしているのは脳の働きです。山小屋の手前で亡くなった人は、山小屋にたどり着くことを「目標」に必死に体を動かしていたため、山小屋を見た瞬間に脳はそれをGoalだと認識して、そこで体を動かす命令を出さなくなるからです。何を言いたいのかと言うと、「目標」の大切さは誰もが分かっていると思いますが、一つの「目標を達成したら、それで終わりではなく、それまでの「目標」はリセットして、次の「目標」に向かうことが大切だということです。
さきほどの遭難の話で言えば、山小屋にたどり着いたら、「まず火を焚いて体を暖める」とか、「何とか人に連絡する方法を考える」とか、次の目標を考えておくことが大切だということです。よくオリンピックなど大きな大会が終わったあとに、「燃え尽き症候群」などに見舞われるアスリートがいますが、これもオリンピックに出ることやそこでメダルを取ることが「目標」になっていて、その「次の目標」を用意していなかったから起こることです。「現状に満足したら成長はない」という言葉は、このように常に次の目標に向かっていく大切さを説いているのです。
シーズン前に目標を聞かれて、「一試合一試合全力を尽くすだけです」と答えるプロ野球選手がいますが、これもある数字を出してしまうと、それを達成して満足してしまうことを恐れて、一試合一試合目標をリセットして、常に新しい目標に向かおうとしているからです。また、野茂に始まり、イチロー・松井秀喜・松坂と日本を代表するプレーヤーが成功の確信がなくても、次々にメジャーに挑戦するのも、こうした理由からです。つまり、日本で誰もが認める成績を残し、多額の年俸を手にして、何が不満なのかかと人は思いますが、不満がないこと=満足してしていること、は成長がないと思うから、新たな目標を求めて、より高いレベルを目指していくのです。王選手など昔の名選手も自由にメジャーに行けたら、きっとそうしていたと思います。
ドラゴンズ諸君も、試合に出たい、ヒットを打ちたいとか、みんな目標があると思いますが、それを達成して満足するのではなく、次はどうしたいかを常に考えて、少しでも上のレベルを目指してください。六年生も公式戦は終わってしまって、あとは「おまけ」と考えていたら、大きな間違いです。中学で野球を続ける部員も、別な運動をする部員も、ここで何をするかでこのあとはまったく違ってきます。あとは「おまけ」だからと遊び半分でやるのではなく、むしろ次の高いステージのために今まで以上に真剣にやってほしいと思います。今は最上級の六年生ですが、もう少ししたら、最下級生になるということを忘れずにね!