Sightsong

自縄自縛日記

万年筆のペンクリニック(6)

2014-05-28 07:37:34 | もろもろ

新宿西口の「キングダムノート」は楽しい万年筆店で、売り物の半分が中古品。覗くと、大概は数人の先客がいて、ガラスケースの中を凝視している(中古カメラ店と同じ光景)。

先日、イタリア・スティピュラエトルリアという万年筆をここで入手した。ロングセラーだが、ペン先が14Kの現行品と違い18K。何でも、ペン先とクリップに刻んである模様は、イタリアのアカントという葉であり、また、ペン軸のふくらみはトスカーナの大地だということである。

謂れはともかく、欲しかったこともあって、使っていて気持ちがいい。ただ、書き出しが渋かったので、ここで開かれたペンクリニックを予約し、仲谷ドクターに診ていただいた。「ねじれを取り、角を落とした」結果、また快適になってしまった。

当日の様子がツイッターにアップされていた

●参照
万年筆のペンクリニック
万年筆のペンクリニック(2)
万年筆のペンクリニック(3)
万年筆のペンクリニック(4)
万年筆のペンクリニック(5)
本八幡のぷんぷく堂と昭和の万年筆
沖縄の渡口万年筆店
鉄ペン
行定勲『クローズド・ノート』


千葉スペシャル

2014-05-10 23:09:17 | もろもろ

ほんらい革靴は毎日履きかえる方が良いし、マメにクリームでケアする方が当然良い。誰でも知っている。

しかし、わたしは面倒臭がりであり、帰って脱いだら翌日同じものを履いて出かけることが多い。ケアもあまりしない。そもそも、靴をあまり持っていない。

そんなわけで、大事な靴を綺麗に長く使うため、評判の「千葉スペシャル」を試した。有楽町の東京交通会館前で営業しており、1回千円。土曜日にも関わらず、オシャレな若者やオシャレなおじさんが順番を待っていた。上品なる女性もいた。

さて、自分の番。ビニール袋を靴下の上にかぶせ、また靴を履く。引き出しの中にはクリームが何種類もあり、その中から2種類を使って、磨いていただく。磨く前の靴は、くすんでいて、靴先はぶつけて傷が付いていて、皺が変色していた。それが、あっという間に鏡のようにピカピカになった。何時間経ってもピカピカのままだ。これは嬉しい。

高いかもしれないが、長く大事に使うことを考えれば、高くない。

磨く前(左)と磨いた後(右)


赤塚不二夫『マンガ狂殺人事件』

2014-04-20 21:58:42 | もろもろ

この間、サンリオSF文庫を物色しようと入った古本屋で、隣に、赤塚不二夫『マンガ狂殺人事件』(作品社、1984年)というものがあった。つい、衝動的につかんでしまった。

トキワ荘やら、スタジオ・ゼロやらで、殺人事件が起きるが、犠牲者の松本零士や横山光輝は実は仮死状態。そのすべてに、つげ義春が関与しており、犠牲者の横には「ねじ式」だの「ゲンセンカン主人」だのといったメモが落ちている・・・といった、まったく内輪ネタばかりの実にバカバカしい話。(面白かったけれども。)

この中で、つげ義春の肩からはライカが下がっている、とあるが、ここにはリアリティがない。つげ義春の収集したカメラは日本製の渋いものばかりの筈で、実際に、「芸術新潮」誌のつげ義春特集(2014年1月号)に掲載された写真の中にも、ライカはなかった(たぶん)。つげ義春の妻・藤原マキの画文集『私の絵日記』に、つげ義春がカメラをいじくっている絵があったが、別に細密に描かれたものでもなく、どんなカメラかの手掛かりはなかった。

ところで、作家でない有名人に「○○狂殺人事件」を書かせる「RADICAL GOSSIP MYSTERY」シリーズがあったようで、巻末にはヘンなものがいくつか紹介してある。タモリ『タレント狂殺人事件』、山本晋也『ポルノ狂殺人事件』、ビートたけし『ギャグ狂殺人事件』、荒木経惟『写真狂殺人事件』、おすぎとピーコ『映画狂殺人事件』、立川談志『落語狂殺人事件』・・・。ああ、あほらし。


デジタル耳せん

2014-03-27 00:07:38 | もろもろ

キングジムが発売したばかりの「デジタル耳せん」を入手した。量販店で5,000円未満だった。ちっちゃくて、単四電池1本で動く。

型番が「MM1000」とあって、一瞬考えたのちに、笑ってしまった。

これは、環境騒音と逆位相の音を出すことで騒音を打ち消す道具である。それでいて、人の声やアナウンスは聴きとれるのだという。

わたしには、「ゴーッ」という運転音はさほど気にならないのだが、オッサンの発するノイズが嫌でしかたないことが多い(オッサンに限らないけど)。「んご~」と鼻をすすったり、「ちっちっちっ」と歯から音を出したり、妙にハァハァ言っていたりすると、そのたびに集中力がそがれてしまうのだ。

早速、地下鉄や飛行機で試してみた。効果やいかに。

○宣伝はウソではなく、かなり静かになる。
○若干、鼓膜を圧迫するような気圧を感じる。
○人の声は小さくはなるがちゃんと聞こえる。ただし、これをつけたまま会話をすると、自分の声量がどの程度なのかよくわからない。
○オッサンのノイズが気にならなくなった。もちろん、でかい音でのくしゃみなどは聞こえる。ただ、音が小さくなるため、仰天はしない。
○飛行機では、なぜかトイレを流す音が消されずに聞こえてくる。

結論、推薦。読書が前よりも快適になった。


万年筆のペンクリニック(5)

2014-03-15 22:16:52 | もろもろ

大阪の心斎橋に「Ir Sunrise」という万年筆店がある。調べたところ、ちょうどサンライズ貿易のペンドクター・宍倉潔子さんがペンクリニックを行う日だというので、いそいそと訪ねた。宍倉さんは万年筆の雑誌などにもよく登場する方で、わたしも以前に他の万年筆を調整していただいたことがある。

手持ちの万年筆は2本。

ヴィスコンティの「ミッドナイト・ヴォイジャー」は、2002年・ローマでのNATO-ロシア理事会において署名に使われたものだそうで(もちろん、現物ではない)、大袈裟にいえば、冷戦の終わりを目撃した万年筆か。ペン先は18K、細字で、ちょっと書き出しが渋かった。どうも、ちょっとずれが生じていたらしかった。

パイロットの「カスタムヘリテイジ92」は、インクがたっぷり入る吸入式。透明軸ということもあって、鮮やかなターコイズを入れている。14Kの太字にも関わらず、これも結構インクの出が渋かった。

やっぱり快適に仕事をするための道具であるから、インクは潤沢に出てもらわないと困るのだ。両方とも、見事な手つきで、治具や紙やすりを使って調整していただいた。よかった。

●参照
万年筆のペンクリニック
万年筆のペンクリニック(2)
万年筆のペンクリニック(3)
万年筆のペンクリニック(4)
行定勲『クローズド・ノート』(万年筆映画)
鉄ペン
沖縄の渡口万年筆店
佐藤紙店の釧路オリジナルインク「夜霧」
本八幡のぷんぷく堂と昭和の万年筆


万年筆のペンクリニック(4)

2014-03-09 09:53:40 | もろもろ

先週の木曜日に、日本橋丸善の「世界の万年筆展」に行ってみたところ、開始2日目だったというのに、割引の「万年筆袋」がもう売り切れていた。もっとも、冷やかしのつもりでもあったから、余計な悩みを抱えなくてもすむというものだ。

折角なので、パイロットのペンドクターの方に、昭和時代のプラチナ万年筆のペン先を調整いただいた。先日本八幡の「ぷんぷく堂」で購入したものだが、細字とはいえほとんど極細に近く、もっとインクフローを良くしたかったのである。

かなり、書き心地が良くなった。ついでにプラチナのコンバーターも入手した。何のインクを入れようか・・・・・・丸善製の「日本橋リバーブルー」か、釧路の佐藤紙店で買った「夜霧」か、それともペリカンのターコイズか。(下らぬことで悩むんじゃない)

 

●参照
本八幡のぷんぷく堂と昭和の万年筆
万年筆のペンクリニック
万年筆のペンクリニック(2)
万年筆のペンクリニック(3)
行定勲『クローズド・ノート』(万年筆映画)
鉄ペン
沖縄の渡口万年筆店
佐藤紙店の釧路オリジナルインク「夜霧」


パルサーもどき

2013-10-08 23:31:29 | もろもろ

米国のハミルトンは、70年代に、「Pulsar」というLEDデジタル腕時計を出していた。このブランド自体は、どうやら、1979年にセイコーが取得したようで、輸出用の変わったデザインの腕時計を「Pulsar」名で出し続けている。その中にはデジタルもある。

一方、ブランドを手放した当のハミルトンも、最近、「Pulsomatic」という名前で、現代版「Pulsar」を復刻した。

面白くて調べていると、「Pulsar」もどきの製品を作っている英国の小さなセラーを発見した。まさにこれは、70年代に夢見たであろう近未来のイメージである。しかも値段は、本家ハミルトンの10分の1以下。

夜道を歩いていて、たまに気が向いてボタンを押すと、真っ赤な数字が表示される。これだけ明るければ、交通安全対策になるかもしれない。

パルサーもどきと、ヤンゴンで買ったラピスラズリと、よくわからない透明な石

●参照
アレルギーとフォルティスの手巻き時計


万年筆のペンクリニック(3)

2013-03-05 00:40:26 | もろもろ

日本橋丸善の「世界の万年筆展」。中屋万年筆のブースで、プラチナの「#3776 センチュリー ブルゴーニュ」のペン先調整をお願いした。中屋万年筆は、プラチナ萬年筆の職人さんたちが立ちあげたところなので、このような形が可能なのである。

さて、同じペンをこうして診てもらうのは4回目くらいではなかろうか。どうも書き出しが渋いことも、いつも同じ。

調整してくださった方の話によれば、最近の万年筆は、筆圧が強い人向けに少しシフトしている。そのために書き出しを強くタッチするため、インクの出具合も問題ないのだという。自分は楽にさらさらと筆記したいから万年筆を使うのであり、それは困る。

ついでに、インクフローを多めにしてもらった。日本の中字は海外の細字程度なのではないか。翌日、手帳にちょっと書いてみると実に実に気持ちが良い。こうでなくては。

●参照
万年筆のペンクリニック
万年筆のペンクリニック(2)
行定勲『クローズド・ノート』(万年筆映画)
鉄ペン


万年筆のペンクリニック(2)

2013-01-27 09:34:57 | もろもろ

出かけたついでに、銀座三越で開かれている「ギンザステーショナリーフェスタ」を覗いてみた。

ここぞとばかりに、各社の万年筆を試し書き。なかでも、仙台の「大橋堂」の手作り万年筆には目を奪われた。ほとんどすべてがエボナイトの漆塗り。いやあ渋い。何か達成したときに、自分へのご褒美にしようなどと妄想した。

プラチナのブースでは、職人さんが調整テーブルの前に座っていたので、手持ちの「#3776 センチュリー ブルゴーニュ」のペン先を診てもらった(プラチナだけでなく、ペンクリニックだけのブースもある)。どうも書き出しがいまひとつだったのだが、やはり、インク滓が奥の方に詰まっていたらしい。治具を使って綺麗に清掃していただいて大満足。

●参照
万年筆のペンクリニック
行定勲『クローズド・ノート』(万年筆映画)
鉄ペン


鉄ペン

2012-12-13 00:29:47 | もろもろ

ペン先がスティールの万年筆は、金のものに比べれば、まるで柔らかくはなくてサリサリの書き味である。うまくいけば、油性やゲルインクのボールペンよりも快適に、しかも精細な字を書くことができる。しかし、当たりはずれがあるようだ。

ファーバーカステル(ドイツ)の「ルーム」。つくりが細やかで、キャップが尻に気持ちよくはまる。書き味もなかなか。

ラミー(ドイツ)の定番「サファリ」。大きなクリップや面落としした軸など、モダンデザインそのものだ。

すぐにかすれたりしてあと少しでゴミ箱行きだったが、ペンクリニックで診てもらったところ、かなり改善された。

無印良品の千円のアルミ製万年筆。「シンプル・イズ・ザ・ベスト」とはこのことか。つるつる書けて悪くない。ただ、やはりつくりは今ひとつで、キャップを尻にすっきりはめることができない。どうやらOHTOのOEMらしい。ペン先はドイツ・シュミット製。

『サライ』2012年5月号の付録。気がついたときには雑誌が書店から姿を消していて、ネットオークションにて数百円で入手した。ペン先に「HERO」の文字があり、中国の英雄製だとわかる。いまは、ラバンのインク「ビルマの琥珀」を入れ、手帳に仮の用事を書き入れるときなどに使っている。

これもつくりが粗雑で、すぐに軸のネジがゆるむ。また、突然インクが漏れ、大変な思いをした。

『Goods Press』2013年1月号の付録。味もそっけもないが、見た目以上の出来。中国製。

これは吃驚、『MonoMax』2013年1月号の付録は、COACHの万年筆。クリップが根元から動くなど、よくできている。

もう鉄ペンは要らないかな?

●参照
万年筆のペンクリニック
行定勲『クローズド・ノート』(万年筆映画)


着陸前が苦手

2012-11-16 07:41:38 | もろもろ

飛行機に乗るのは好きなのだが、着陸前に降下を始める頃の気圧変化が苦手である。何故か、離陸後は何ともない。国内線は割と平気で国際線が要注意なのは、飛行機の高度の違いだろうか。

鼻を指でつまんで息を吹きこむと、両耳の気圧差が解放される。この耳抜きも、体調によってできたりできなかったりする。一度油断して耳が痛くなると、もうあとは無理矢理欠伸をしたり唾を呑みこんだりとひたすら努力を続けるが、なかなかうまくいかない。

昔、はじめて他国に行ったときのこと。ネパールからタイに戻る機内で、突然、飛行機の轟音が聞こえなくなった。何か変事かと吃驚して周りを見たが、きょろきょろしているのは自分だけだった。治す方法も知らず、乗り換えのバンコクでは人の話をほとんど聴きとることができなかった。(しばらくして何気なく欠伸をしたらべきべきべきという音がして開通した。)

今では降下時には先手を打つようにしているので、大ごとには至らないが、それでも悩みである。耳抜き以外にいい方法はないものか。


リヤドが近い


万年筆のペンクリニック

2012-09-15 22:27:58 | もろもろ

土曜の朝だというのに新宿の丸善まで出かけた。ペンクリニックを開いており、気になる万年筆を診てもらおうと思ったのだ。

持参したのは、使いはじめたばかりのデルタ・ドルチェビータ・スリムと、カジュアルなラミー・サファリである。前者のニブは14KのM。後者のニブはステンレスのM。書きはじめや書いている途中にインクが途切れ、ちょっと苛々することがあった。

仕事でも何でもペンを使うことが多い。そこに何しろ快楽を持ち込むための万年筆であるから、これでは折角気分が乗っても削がれてしまう。もっとも、同じ万年筆を延々と使い続け、ペン先がうまく摩耗してくれば、書き味は良くなるのだろう。しかし、最初から良いに越したことはない。

ペンドクターは、セントラル貿易の宍倉潔子さん。到着してさっそくお願いすると、にこにこしながら、ペン先を素手で拡げたり、何種類もの紙やすりや樹脂板のようなものでこすったり。その結果、見違えるようにインクフローがなめらかになった。さすがの技術である。

喫茶店でノートを開いて書いてみると、やっぱり全然違う。いや嬉しい。良い気分で、今年二回目のインドネシアに持っていこう。


アレルギーとフォルティスの手巻き時計

2012-09-14 00:52:45 | もろもろ

東京駅近くの定食屋で昼食をとったところ、急に、腕時計を付けている左手首が真っ赤にかぶれてしまった。これはきっと、化学調味料が金属アレルギーを引き起こしたに違いない、と、さしたる根拠もなく結論付けた。

そんなわけで、しばらく腕時計をかえてみた。フォルティスの1960年頃の手巻き時計である。現行のフォルティスの腕時計は10万円とか20万円とかするが、これは桁がふたつくらい違う(もちろん、高いほうではない)。

手巻きであるから、朝、竜頭を10回か20回かぐりぐりと巻く。秒針が、ちょっと焦った感じでまわり続ける。それでも、1日が終わるころには、5分くらいは遅れている。もうどこかがやられているのだろう。しかし、それが妙に人間くさい。・・・というような話をすると、大概の人は呆れたように笑う。


「kobo Touch」を入手した

2012-08-16 01:08:43 | もろもろ

悪評ばかりが聞こえてくる「kobo Touch」を、入手してしまった。JALのマイレージをWAONにして使ったので出費はない(という錯覚)。

楽天社長の強気のコメントは愛嬌として、最初のセットアップも改善されたためか特に問題なく終わった。早速、いろいろと仕入れて通勤時に読んでいる。使い勝手は快適とは言い難いが決して悪くもない。一度充電すれば、普通に読んで1ヶ月くらい持つと言う。よしよし、来週ベトナムに持っていこう。

これで7000円台。単に本を読もうとするならコストパフォーマンスが良いというべきではないか。

確かに、日本語の本の品揃えはまだまったくダメであるし(今後、EPUB規格の電子書籍がどれだけ出てくるのだろう)、ウェブ上の検索機能など最悪に近い。

しかし、非常に多くの青空文庫の作品群を無料で楽に読むことができるのは素晴らしいことだ。スマホやパソコンではちょっと読む気にならなかったのだ。これだけで元を取ったような気分になる。

また、英語の書籍はそれなりに多く、辞書機能を活用すれば(日本語での辞書機能ははっきり言って使いにくい)、読書が進む。そんなわけで、ポール・オースターの未読作品『Man in the Dark』を仕入れてしまった。

・・・とか言って、アマゾンがKindle日本版を出したら、そちらも欲しくなったりして。


青空文庫の夏目漱石『余と万年筆』 ペリカンを酷評している


ポール・オースター『Man in the Dark』 辞書機能がグッド


モノが好きな大人の与太話3冊

2012-08-11 21:38:30 | もろもろ

何かと気が重くて、今週はどうにも面倒な本を読み進める気になれない。そんなわけで、あれがいい、これがダメだと与太話を繰り広げている本を読み散らかす。

■ 藤本義一『モノの値打ち 男の値打ち』(ちくま文庫、原著1994年)

わたしにとって、藤本義一といえば、夜中こっそりと見ていた『11PM』の白髪男であり、文章を読むのははじめてだ。

革ジャンとか、ローライコードとか、モンブランの万年筆とか、行き当たりばったりの旅とか、鍋料理とか、いくつも持った鞄や時計とか、場末の飲み屋とか。ああ言えばこう言う感じ、さっき読んだことと矛盾したことだらけ。正反対のことを書いても印象はさほど変わらないに違いない。まあ、この人はこれで良かったのだ。

 

■ 串田孫一『文房具56話』(ちくま文庫、原著1996年)

当然というべきか、たたずまいとか物腰とかいったものが、上の本より格段に上品になる。文房具ひとつひとつについて、思い出話や、高尚でもなんでもない使い方なんかを、短く、また潔くまとめている。

消ゴムは多くの場合消ゴムらしく使われず、鉛筆による痘痕のような穴だらけである、とか。

街を歩くと広告付きの吸取紙を渡された時代があり(いまのティッシュペーパーのようなものか)、万年筆のインクがよくなるとすたれてしまった、とか。

昔は銀紙に鉛が含まれており、たくさん集めて溶かし、屋根瓦に流し込んで文鎮を作った、とか。

鉛筆削り器を使わず、小刀で鉛筆を削っている間に、なかなかいいことを思いつく、とか。

いずれも新しい製品というよりは、人が使うモノへの愛着に溢れており、いいエッセイだ。わたしにも、丸善の文房具売り場や伊東屋に立ち寄ると、ペンやノートを手にとっては使い勝手を想像したり、万年筆を試し書きさせてもらったりと、足が棒になるまでうろうろしていたりする習性があるので、こういった偏愛ぶりには共感するところ大なのだ。

 

■ 伊丹十三『女たちよ!』(新潮文庫、原著1968年)

欧米の製品や、食べ物や、ファッションなんかを、見事なほど気障に紹介し続けている。いまとなっては、たとえば、パスタの茹で具合がアルデンテでなければならないなど当たり前の話であり、西洋かぶれのおじさんのようで読んでいて少し気恥ずかしい。

しかし、これは1968年に書かれた本である。文化の先っぽに身を置いて、日本のナポリタンなどに苛立ちながら、とにかく本物を求め続けたわけであり、当時の読者はこれに圧倒されながら読んだに違いない。植草甚一がニューヨークに行かずしてまるで裏庭であるかのように書いていた、のとは違うのかな。

何にしても、身体を張って気障であろうとすることは大事だな、などと思った次第。