東京琉球館で太田昌国さんのトーク(2021/9/24)。先月99歳で亡くなった画家の富山妙子さんについて話すということであり、のがすわけにはいかない。
山本浩貴『現代美術史 欧米、日本、トランスナショナル』はアートの新たな視点を与えてくれる良書だったが、たしかにその中にも富山さんがポストインペリアルな事象(炭鉱や韓国政治など)に取り組んできたことへの言及があった。太田昌国さんはこの連続講座の第1回(10年前)で富山さんと討論し、その際、富山さんは「海」について語ったという。分け隔てる、争いの場としての「海」ではなく、交通路としての「海」。富山さんがピアノの高橋悠治さんと組んでリリースしたDVD作品『蛭子と傀儡子 旅芸人の記録』もまた、日本の植民地主義のみならず、海の交易を守る神・媽祖や、島嶼国インドネシアの人形影芝居ワヤンなども視野に入れた作品だった。
太田さんは、富山さんについて語る際の背景として、過去の植民地主義のとらえなおしという動きと、それに対する日本の反応の鈍さについて指摘した。たとえばオランダの国立美術館は奴隷制をテーマにした企画展を開いたばかりであり、自国の暗部に向けられる視線の強さは、確かに、『表現の不自由展』を巡るものとは大きく異なっている。オランダ政府は植民地時代の略奪文化財を返還する方針さえも発表している。
とはいえ、表現と政治との対立や共存について俎上に載せれば事足れりという話ではない。そんなことは入口に過ぎない。
富山さんが強く反発していたものは「利用主義」だったという。政治社会運動をやっている人の芸術への接し方はときに浅薄であり、それは富山さんにとって耐えられないものだっただろうと太田さんは話す。富山さんは「簡単に利用されるようでは芸術ではありませんよ」とも語っていた。
●太田昌国
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