ジョー・モフェット『More of It and Closer』(Tubapede Records、-2018年)を聴く。(本日2018/10/31発売ということだから、程なくしてbandcampでも見つけられるはずである。)
Joe Moffett (tp)
ヴォイスアーティストの山崎阿弥さんがご紹介くださった作品であり、だからこそなのか、かなり変わっている。
それは旋律よりも音色に対する常ならぬ追求姿勢であり、『Ad Faunum』(Not Two、2010年)でも違和感として残っていたものだった。同盤はソロではなくカルテット(しかもベースふたり)であり、違和感とは、アンサンブルや各人の即興の絡みよりも、モフェットの音がもたらすものなのだと、あらためて気付かされる。実はここに萌芽があった。
その面白さは、「Earth Tongue」グループ名での『Ohio』(Neither/Nor Records、2015年)において、もっと前面に出た形となっている。ここではチューバのダン・ペック、パーカッションのカルロ・コスタと組んでいて、かれらも同じように音色への追及と執着をみせる。その結果、各人の音色の提示がサウンド全体の響きを作り上げており、また混ざりあってもいるのだが決して融合することはなく、たとえばモフェットの生々しさも、楽器の存在を意識せざるを得ないペックの共鳴も、耳の触手を伸ばすことによってアクセスできるものとなっている。
トランペットの完全ソロということでいえば、25分ほどのパフォーマンスの記録『Majick』(2017年)と比較できる。これを音色の試行作品として1枚の絵画になぞらえるとすれば、今回の『More of It and Closer』は6枚の絵画の展覧会のようなものだ。ロングトーンで連続的に、つまり旋律ではなくポルタメントで、うねうねとした流れと、どこかその先にあるもののイメージを強く喚起させられる。音の発生源を楽器から身体側に引き寄せる曲面もある。それは共鳴そのものよりも、息遣いであったり、唇の震えであったりして、それらが楽器で増幅させられているのは確かなのだが、しかしサウンドの注視は生々しい身体となっている。そういったひとつながりの音が、何度も何度も飽くことなく提示され、直前の過去との違いを際立たせる。差異と反復、固執、試行、結果の当てはめを期待しない提示、まるで生きることそのものだ、そして6度の人生。
最近来日したピーター・エヴァンスのトランペット・ソロは、身体機能と楽器演奏の拡張をみごとに体現し驚かせてくれたわけだが、モフェットの追求する方向はエヴァンスとはまったく異なっている。どちらかといえば、徳永将豪さんのサックスソロを想起させられる。仮に来日することがあれば、モフェット・徳永デュオを観てみたい。
Joe Moffett『Ad faunum』
Joe Moffett (tp)
Noah Kaplan (ts)
Giacomo Merega (b)
Jacob William (b)
Luther Gray (ds)
Joe Moffett (tp, cassette player)
Dan Peck (tuba, cassette player)
Carlo Costa (perc)
Joe Moffett (tp, amp, objects)