日比谷のシャンテで、ヴィム・ヴェンダース『世界の涯ての鼓動』(2018年)を観る。
深海とテロ地域という壮大な舞台設定であり、大袈裟な邦題とともにこれをどう自分の中で処理すればよいのかためらう。
しかし、ラストに至り多少は納得する。これは科学や特定の政治についての映画でも、それをドラマのために利用した映画でもなかった。『ランド・オブ・プレンティ』を撮ったヴェンダースがプロパガンダの片方にやすやすと加担するわけはない。むしろそれらを無化する挟間にこそ、ヴェンダースは入り込みたかったのではなかったか。そしてその狭間では「愛」が待っているという、強靭なロマンチストぶりである。
不自然なほどにこちらを正視する顔に、いまもヴェンダースの中に生きる小津安二郎を見出すことは容易である。あらためてスクリーンの顔に視られていると、『都会のアリス』でのアリスの母、『パリ、テキサス』での鏡の向こうの妻、『ベルリン・天使の詩』でのサーカスの舞姫、『アメリカ、家族のいる風景』での骨壺を抱えた女、実に多くの女性たちがこちらをまじまじと凝視していたことに気付くのだった。
●ヴィム・ヴェンダース
ヴィム・ヴェンダース『パレルモ・シューティング』
ヴィム・ヴェンダース『ランド・オブ・プレンティ』、『アメリカ、家族のいる風景』
ヴィム・ヴェンダース『ミリオンダラー・ホテル』
ヴィム・ヴェンダース『ベルリン・天使の詩』