Sightsong

自縄自縛日記

Usufruct『Windfall』

2019-07-31 08:05:47 | アヴァンギャルド・ジャズ

Usufruct『Windfall』(VauxFlores Industrial、2017年)を聴く。

Polly Moller Springhorn (vo, b-fl, fl)
Tim Walters (vo, computer)

今年のはじめに、サックスのレント・ロムスがキュレーションをしているライヴをサンフランシスコで観たのだけれど、このデュオユニットも印象的だった。あらためてCDで聴くとその印象がなおさら強くなってくる。

ポーリー・モーラー・スプリングホーンのフルートもヴォイスも、「向こう側」との境界にあるがゆえの音のように感じられる。そのために脳のあちこちが手で触られたような不思議な感覚を持つ。これをティム・ウォルターズのPCが増幅し、方向づけているようである。すなわち世界と世界の間にある音楽。

●Usufruct
Luggage Store Creative Music Series@サンフランシスコ Luggage Store Gallery(2019年)


メイシー・グレイ『Ruby』

2019-07-30 22:53:49 | ポップス

メイシー・グレイ『Ruby』(Mack Avenue Records、2018年)を聴く。

Macy Gray (vo)
Gary Clark Junior (g)
Johan Carlsson, Thomas Lumpkins, Meghan Trainor, Tommy Brown, Scott Bruzenak, Britten Newbill (synth)
Billy Wesson, John Jackson Junior (p)
Mattias Bylund, Leah Zeager (strings)
Mattias Johansson (vln)
David Bukovinszky (cello)
Christopher Johnson (tb)
Printz Board, Jan-Anders Bjerge, Stuart Cole (tp)
Tim "Izo" Orindgreff (sax, fl)
Wojtek Coral (sax)
Tomas Jonsson (ts)
Peter Noos Johansson, Chris Johnson (tb)
Thomas Lumpkins, Austin Brown (xylophone)
Michael Engstrom, Alex Kyne, Caleb Speir (b)
Austin Brown, Gabriel Santana, Trevor Lawrence Junior, Tamir Barzilay (ds)

前作『Stripped』ほどジャズやブルースに接近しているわけではなく、ほどよくジャズ要素が混じっている。逆に言えばジャズとして聴くなら物足りないのだが、メイシー・グレイの可愛いハスキー声も良いし、肩の力も抜けているし、悪くない。

しかし次作にはもっとサプライズや野心が欲しい。

●メイシー・グレイ
メイシー・グレイ『Stripped』(2016年)
メイシー・グレイ『The Way』(2014年)
デイヴィッド・マレイ・ビッグ・バンド featuring メイシー・グレイ@ブルーノート東京(2013年)
デイヴィッド・マレイ『Be My Monster Love』(2012年)
スティーヴィー・ワンダーとメイシー・グレイの『Talking Book』(1972年、2012年)


大墻敦『春画と日本人』

2019-07-30 21:31:58 | アート・映画

大墻敦『春画と日本人』(2018年)。音楽を担当してピアノを弾いている矢部優子さんから招待券を頂戴して、試写会に行ってきた。(ありがとうございます。)

テーマは、2015年の「春画展」開催を巡ってのあれこれ。

本来は、2013-14年に大英博物館で「春画―日本美術の性のたのしみ」が開催されたのを受けて、日本でも巡回展を開こうとする動きがあった。しかしそれは簡単ではなかった。春画に対するタブーは、享保の改革以来300年にわたり存続している、根の深いものであった。

なるほど、いまは何でも手に入るような錯覚を持ってしまうけれど、確かにちょっと前までは猥褻物に対する取り締まりはとても厳しかった。1991年の『浮世絵秘蔵名品集』はそれまで隠されてきた春画(葛飾北斎、喜多川歌麿、鳥居清長、歌川国貞)を立派な図版で出すという画期的なもので、1冊20万円・合計80万円と高価にも関わらず、3千部が完売した。だがこの実現に関わった人たちは逮捕されるのではないかとヒヤヒヤだったのだという。「あの程度」の『愛のコリーダ』本裁判だって70年代であり、決して大昔のことではない。

映画で紹介される春画の数々は、引いてしまうほど生々しく、つい笑ってしまう仕掛けが施されてもいて、しかも美しいものでもある。現代の彫り師と刷り師が同様の春画を作ってみたが、それにより如何に技巧が優れていたかわかるほどのものだという。白眉は北斎の「蛸と海女」。どうしてもアンジェイ・ズラウスキー『ポゼッション』(1981年)におけるイザベル・アジャーニを思い出してしまうのだが、調べてみると、実際にズラウスキーはこの春画に影響を受けていたようだ。(早い。)

そしてタブーであったとは言っても、それは表だけのことだった。日露戦争以降、兵士が春画を戦場に持っていく習慣があった。画面に映し出されるそれは兵士と看護婦の交わり。なるほどこの妄想は現在までつながっている。

映画に登場する方が、昔は「嬥歌」(かがい)という性の相手を自由に選ぶことができる集まりがあって、日本はほんらい性に対して自由であったと発言している。もっともそれは沖縄の「毛遊び」だってそうだし、ヴェトナム最北端のサパにも最近まで同様の集まりがあった(都会人が興味本位で集まるから廃止されたと酒井俊さんに言ったところ驚いていた)。つまり自由さは古来の日本に限った話ではない。この精神的な解放が春画を通じて共感されるならば、それこそアートというべきだ。

音楽も注意して聴いていたこともあって面白かった。ピアノの矢部優子さんとヴァイオリンの池田陽子さんの音が、ちょっとユーモラスで、ちょっと時代にとらわれない感じで、それがまた春画のありようと重なるようだった。

●サウンドトラック録音風景(面白い)

recording1080 from Atsushi OGAKI on Vimeo.


マリリン・クリスペル+タニヤ・カルマノヴィッチ+リチャード・タイテルバウム『Dream Libretto』

2019-07-30 20:52:32 | アヴァンギャルド・ジャズ

マリリン・クリスペル+タニヤ・カルマノヴィッチ+リチャード・タイテルバウム『Dream Libretto』(Leo Records、2018年)を聴く。

Marilyn Crispell (p)
Tanya Kalmanovitch (vln)
Richard Teitelbaum (electronics)

トリオによる前半の抑制された音も悪くはないが、ピアノとヴァイオリンのデュオによる後半のほうが、よりプロセスや遊戯が直接的に表出してきて好きである。

マリリン・クリスペルのピアノは清冽でいて半分は沼で腐っているようで、それがまた良い。その半腐乱の美しい音が弦の擦りの立ち上がりと消失の中に現れる。この出し引きの加減はヴァイオリンとの共演ならではだろうか。以前にミシェル・マカースキーのヴァイオリンを含めたトリオでのクリスペルの演奏は、まるで余裕で微笑む魔女のものだった。

●マリリン・クリスペル
ハーヴェイ・ソルゲン+ジョー・フォンダ+マリリン・クリスペル『Dreamstruck』(2018年)
マリリン・クリスペル+ルーカス・リゲティ+ミシェル・マカースキー@The Stone(2015年)
「ニューヨーク、冬の終わりのライヴ日記」(2015年)
ガイ+クリスペル+リットン『Deep Memory』(2015年)
プール+クリスペル+ピーコック『In Motion』(2014年)
ゲイリー・ピーコック+マリリン・クリスペル『Azure』(2011年)
クリスペル+ドレッサー+ヘミングウェイ『Play Braxton』(2010年)
ルイス・モホロ+マリリン・クリスペル『Sibanye (We Are One)』(2007年)
マリリン・クリスペル『Storyteller』(2003年)
マリリン・クリスペル+バリー・ガイ+ジェリー・ヘミングウェイ『Cascades』(1993年)
ペーター・ブロッツマン
エバ・ヤーン『Rising Tones Cross』(1985年)
マリリン・クリスペル『A Concert in Berlin』(1983年)
映像『Woodstock Jazz Festival '81』(1981年)

●リチャード・タイテルバウム
アンドリュー・シリル『The Declaration of Musical Independence』(2014年)


マーク・ジュリアナ『Beat Music! Beat Music! Beat Music!』

2019-07-30 07:23:32 | アヴァンギャルド・ジャズ

マーク・ジュリアナ『Beat Music! Beat Music! Beat Music!』(Motéma、-2019年)を聴く。

Mark Guiliana (ds, electronics, spoken word)
Chris Morrissey (b) (tracks: 2, 4, 6, 7)
Jonathan Maron (b) (tracks: 1, 5)
Stu Brooks (b) (tracks: 3, 7, 9)
Tim Lefebvre (b) (tracks: 8)
Jason Lindner (synth) (tracks: 1, 3, 9)
BIGYUKI (synth) (tracks: 2, 7, 8)
Jeff Babko (synth) (tracks: 2, 6)
Steve Wall (electronics) (3)
Troy Zeigler (electronics)
Nate Werth (perc)
Cole Whittle (spoken word) (tracks: 1, 6, 8)
Gretchen Parlato (spoken word) (tracks: 8)
Jeff Taylor (spoken word) (tracks: 3, 5)
Marley Guiliana (spoken word) (tracks: 8)

シンセサウンドが全体を覆っている。最初は凡作かと思って聴いていたのだが、なんだこれと言わず音の向こう側のふるまいを想像すると愉しい。それは人力で、新しくも古くもあって、人懐っこい感じ。

それはマーク・ジュリアナも同じで、汗をかいての凄いテク。だがその労を想像させない、ではなく、それを演る方も聴く方も認め合っている。何が言いたいかというと、これもコミュニティ音楽だとして聴くと気持ちの収まりが良いということである。

●マーク・ジュリアナ
ダニー・マッキャスリン『Blow』(-2018年)
ダニー・マッキャスリン『Beyond Now』(2016年)
マーク・ジュリアナ@Cotton Club(2016年)
デイヴィッド・ボウイ『★』(2015年)
ダニー・マッキャスリン@55 Bar(2015年)
マーク・ジュリアナ『Family First』(2015年) 
ダニー・マッキャスリン『Fast Future』(2014年)
グレッチェン・パーラトの映像『Poland 2013』(2013年)
ダニー・マッキャスリン『Casting for Gravity』(2012年)


宅Shoomy朱美+北田学+鈴木ちほ+喜多直毅+西嶋徹@なってるハウス

2019-07-29 23:03:03 | アヴァンギャルド・ジャズ

入谷のなってるハウス(2019/7/28)。

Akemi Shoomy Taku 宅Shoomy朱美 (p, vocal, voice) 
Manabu Kitada 北田学 (cl, bcl) 
Chiho Suzuki 鈴木ちほ (bandoneon)
Naoki Kita 喜多直毅 (vln)
Toru Nishijima 西嶋徹 (b)

シューミーさんが以前からの鈴木ちほ、5月の北田学に続き、ふたたび、喜多直毅、西嶋徹というコワモテの面々を呼び込んだ。怖ろしい予感、行かないわけにはいかない。全員揃うと特撮のオールスター勢揃いみたいだ。

喜多さんが弦を大きく震わせると、ちほさんが蛇腹を震わせ、シューミーさんが内部の弦を震わせた。そのように、いきなり相手との間合いをはかることなく始まった。音価は震えの短さから次第に長い紐になってゆき、また、伸び縮みする弾力を備えてゆき、それらがグルーヴとして成長してきた。そうなると、コントラバスの歩み、速度を得たヴォイス、バスクラのノリ、バンドネオンのテンポ創出、ヴァイオリンの狂いそうな循環、それぞれ異質なものが共存してとても面白い。

鈴木+西嶋+喜多。うたうようなちほさん、ヴァイブレーションを持ち込み続ける喜多さん、それは不穏に展開した。

シューミー+北田。学さんが持ち替えたクラはバスクラに比べて貫通力が強く、その世界の流れにのってピアノとヴォイスもまた流れた。

セカンドセット、シューミー+喜多+西嶋にて「El Ultimo Cafe」、続いてちほさんも入りピアソラの「Obivion」。ここにきて深く哀しいシューミーさんの声が沁みる。バンドネオンのソロがとても良い。コントラバスとヴァイオリンが軋んだ。

シューミー+北田+西嶋にて「Good Morning, Heartache」。シューミーさんのピアノとヴォイスの響きは本当に独特のもので呆然とする。ここにエアを含んだ学さんのクラが自在に入り、西嶋さんのコントラバスがコントラバスらしく、その音の容積の大きさをみせた。

そして再び全員で「So in Love」。しばらくはヴァイオリンが哀しみの震えを発し、続いてシューミーさんと西嶋さんとがデュオの音を創り上げた。あるタイミングで同時にヴァイオリンとクラが加わり、さらに音=感情を厚くするようにバンドネオン。ここで喜多さんの弾いた旋律はエモーショナルな昭和歌謡的であり、山口百恵の「秋桜」を想起させるものだった(と、後で言うと否定された)。ちほさんのソロは、休止して次の旋律を繰り出すときに勇気のようなものを感じさせた。クラのソロも見事。

最後はインプロに戻った。童女のごときスキャット、緩やかに色を変えるヴァイオリン。コントラバスの強いアタック、バンドネオンの起こす風。蛇行してともかくも進むクラ、走るコントラバス。ヴァイオリンはクリップで弦を挟むことで軋み、それに呼応してかクラもまた軋む。そしてピアノが中にするりと入ってくる。

全員の音が自律的でありながら、全員の重なった声もまた聴こえる、不思議な感慨を覚えるセッション。次はどうなるだろう。

Fuji X-E2、XF60mmF2.4

●宅Shoomy朱美
宅Shoomy朱美+北田学+鈴木ちほ@なってるハウス(JazzTokyo)(2019年)
夢Duo@本八幡cooljojo(2019年)
宅Shoomy朱美+辰巳小五郎@阿佐ヶ谷Yellow Vision(2019年)
夢Duo『蝉時雨 Chorus of cicadas』(2017-18年)
原田依幸+宅Shoomy朱美@なってるハウス(2018年)
impro cats・acoustic@なってるハウス
(2018年)

●北田学
audace@渋谷Bar Subterraneans(2019年)
宅Shoomy朱美+北田学+鈴木ちほ@なってるハウス(JazzTokyo)(2019年)
ヨアヒム・バーデンホルスト+シセル・ヴェラ・ペテルセン+北田学@渋谷Bar subterraneans(2019年)
晩夏のマタンゴクインテット@渋谷公園通りクラシックス(2017年)
北田学+鈴木ちほ@なってるハウス(2017年)

●鈴木ちほ
宅Shoomy朱美+北田学+鈴木ちほ@なってるハウス(JazzTokyo)(2019年)
アレクサンダー・ホルム、クリス・シールズ、クラウス・ハクスホルムとのセッション@Permian(2019年)
鈴木ちほ+池田陽子(solo solo duo)@高円寺グッドマン(2019年)
種まき種まかせ 第3回ー冬の手ー@OTOOTO(2019年)
種まき種まかせ 第2回ー秋の手-@Ftarri(2018年)
impro cats・acoustic@なってるハウス(2018年)
鈴木ちほ+荻野やすよし(solo solo duo)@高円寺グッドマン(2018年)
鳥の未来のための螺旋の試み@ひかりのうま(2017年)
毒食@阿佐ヶ谷Yellow Vision(2017年)
晩夏のマタンゴクインテット@渋谷公園通りクラシックス(2017年)
北田学+鈴木ちほ@なってるハウス(2017年)
りら@七針(2017年)
齋藤徹+類家心平@sound cafe dzumi(2015年) 

●喜多直毅
喜多直毅+元井美智子+フローリアン・ヴァルター@松本弦楽器(2019年)
徹さんとすごす会 -齋藤徹のメメント・モリ-(2019年)
喜多直毅+翠川敬基+角正之@アトリエ第Q藝術(2019年)
熊谷博子『作兵衛さんと日本を掘る』(2018年)
喜多直毅クアルテット「文豪」@公園通りクラシックス(2018年)
ロジャー・ターナー+喜多直毅+齋藤徹@横濱エアジン(2018年)
ファドも計画@in F(2018年)
齋藤徹+喜多直毅@板橋大山教会(2018年)
齋藤徹+喜多直毅+外山明@cooljojo(2018年)
齋藤徹+喜多直毅+皆藤千香子@アトリエ第Q藝術(2018年)
ロジャー・ターナー+喜多直毅+齋藤徹@横濱エアジン(JazzTokyo)(2017年)
翠川敬基+齋藤徹+喜多直毅@in F(2017年)
喜多直毅+マクイーン時田深山@松本弦楽器(2017年)
黒田京子+喜多直毅@中野Sweet Rain(2017年)
齋藤徹+喜多直毅@巣鴨レソノサウンド(2017年)
喜多直毅クアルテット@求道会館(2017年)
ハインツ・ガイザー+ゲリーノ・マッツォーラ+喜多直毅@渋谷公園通りクラシックス(2017年)
喜多直毅クアルテット@幡ヶ谷アスピアホール(JazzTokyo)(2017年)
喜多直毅・西嶋徹デュオ@代々木・松本弦楽器(2017年)
喜多直毅+田中信正『Contigo en La Distancia』(2016年)
喜多直毅 Violin Monologue @代々木・松本弦楽器(2016年)
喜多直毅+黒田京子@雑司が谷エル・チョクロ(2016年)
齋藤徹+かみむら泰一、+喜多直毅、+矢萩竜太郎(JazzTokyo)(2015-16年)
うたをさがして@ギャラリー悠玄(2015年)http://www.jazztokyo.com/best_cd_2015a/best_live_2015_local_06.html(「JazzTokyo」での2015年ベスト)
齋藤徹+喜多直毅+黒田京子@横濱エアジン(2015年)
喜多直毅+黒田京子『愛の讃歌』(2014年)
映像『ユーラシアンエコーズII』(2013年)
ユーラシアンエコーズ第2章(2013年)
寺田町の映像『風が吹いてて光があって』(2011-12年)
『うたをさがして live at Pole Pole za』(2011年) 

●西嶋徹
喜多直毅・西嶋徹デュオ@代々木・松本弦楽器(2017年)


クリス・ポッター『International Jazz Festival Bern 2017』

2019-07-26 07:19:37 | アヴァンギャルド・ジャズ

クリス・ポッター『International Jazz Festival Bern 2017』(Jazz Time、2017年)を聴く。

Chris Potter (ts, ss)
David Virelles (p)
Joe Martin (b)
Nasheet Waits (ds, perc)

『The Dreamer is the Dream』のレコ発ライヴの記録、2枚組。ただしドラムスはマーカス・ギルモアではなくナシート・ウェイツ。

クリス・ポッターのサックスはいつもながらスムーズで巧すぎるくらい巧いのだが、自分が吹いているつもりで聴いてみるとやっぱり表現力があまりにも多彩で素晴らしい。微妙にピッチを変えたり、微妙なヴィブラートを入れたり、速度や音量を連続的に自在に変えたり、確かに聴き惚れる。マイケル・ブレッカー拒否目線をいつまでも続けるのは勿体ない。ライヴのためかサウンドに隙間があって、「Body and Soul」なんて悪くない(完璧だから損しているのだ)。

サイドメンも良いのだが特にピアノのダヴィ・ヴィレージェス。ちょっと弾いても音が煌びやかに飛び出してくる。

●クリス・ポッター
クリス・ポッター『Circuits』(2017年)
デイヴィッド・ビニーと仲間たち@Nublu(2017年)
クリス・ポッター『The Dreamer is the Dream』(2016年)
『Aziza』(2015年)
クリス・ポッター『Imaginary Cities』(2013年)
ポール・モチアンのトリオ(1979、2009年)
ポール・モチアン『Flight of the Blue Jay』(1996年)


フローリアン・ヴァルター+照内央晴@なってるハウス

2019-07-24 01:11:05 | アヴァンギャルド・ジャズ

入谷のなってるハウス(2019/7/23)。

Florian Walter (as)
Hisaharu Teruuchi 照内央晴 (p)

フローリアン・ヴァルターが2017年に初来日したとき以来の再演である(昨年はある事情で共演がなかった)。 

最初はフローリアンのソロからはじまり、バルブのような効果を使いさまざまな音を開陳する。しばらくして照内さんがピアノに座り、静かに音を選んで積み重ねはじめた。ここで驚いたのは、フローリアンがまるでバップにも思えるフレージングに突入したことだ。かつてジョン・ゾーンがMASADAとして霞が関ビルで演奏したとき、やはりアイデンティティとは異なるであろうバップ的な渾身のソロを吹き、消耗して座り込んでしまったことがあった。フローリアンにとってのジャズは異なるだろうし、常日頃から退屈だと口にしているのではあるけれど、このような使い方もしてみせるのだった。(なおあとで訊くと、やっぱりツッコミがあると思ったと笑いながら、ルディ・マハールのアプローチも参考にしているのだと話した。)

この、いきなりの圧の強いブロウに対して、照内さんも特定の領域でクラスターのようにぶ厚めの音塊で呼応した。やがて和音の響きを聴かせるように移ってゆき、フローリアンはマウスピースを浅くも銜え、ゆらぎ、たっぷりのエアでの世界を創る。ピアノが止まってもアルトがその音世界にはみ出ていった。

休憩時間は古いダンス音楽的なものが流れ、その影響か、セカンドセットになってフローリアンは躁的な繰り返しをはじめた。ピアノが即応し、オルゴールを思わせるような音を散らす。ピアノが音を選び、アルトが風を作る、それによる緊張感がしばらく場を支配した。

フローリアンはパントマイムを思わせるようなばらけた音を出す。それは音と音とが旋律や文脈で有機的につながっておらず、そのためにどのようにピアノが絡むかと観ていたのだが、照内さんは、暗闇の中で模索するように音をひとつひとつ出し、それによって道を作り、さらには太くしていった。アルトはつんのめりそうに加速する。また、マウスピースを外し、エンジンのような音も出す。

ピアノは静かになり、日本的にも思える雰囲気を出しながら、クリップをつなげたものを弦の上に静かに置いて演奏を閉じた。だがプリペアドの良さを感じたのはこちらだけではなかった。照内さんが誘い、再び短い演奏に入った。プリペアドの響きが音を手元に引き寄せるものだとして、アルトもまたそのように吹いた。

照内さんは今回デュオにこだわったわけだが、それゆえの変化と互いの応答がじっくりと感じられる演奏だったということができる。

Fuji X-E2、7Artisans 12mmF2.8、XF60mmF2.4

●フローリアン・ヴァルター
喜多直毅+元井美智子+フローリアン・ヴァルター@松本弦楽器(2019年)
『ボンの劇場の夜―ダンスカンパニー・ボー・コンプレックスとゲスト』@ボンSchauspiel(フローリアン・ヴァルター)(2019年)
Ten meeting vol.2@阿佐ヶ谷天(フローリアン・ヴァルター)(2018年)
フローリアン・ヴァルター+直江実樹+橋本孝之+川島誠@東北沢OTOOTO(2018年)
フローリアン・ヴァルター+照内央晴+方波見智子+加藤綾子+田中奈美@なってるハウス(2017年)
フローリアン・ヴァルター『Bruit / Botanik』(2016年)
アキム・ツェペツァウアー+フローリアン・ヴァルター『Hell // Bruit』(2015年)

●照内央晴
豊住芳三郎+庄子勝治+照内央晴@山猫軒(2019年)
豊住芳三郎+老丹+照内央晴@アケタの店(2019年)
豊住芳三郎+謝明諺@Candy(2019年)
沼田順+照内央晴+吉田隆一@なってるハウス(2019年)
吉久昌樹+照内央晴@阿佐ヶ谷ヴィオロン(2019年)
照内央晴、荻野やすよし、吉久昌樹、小沢あき@なってるハウス(2019年)
照内央晴+方波見智子@なってるハウス(2019年)
クレイグ・ペデルセン+エリザベス・ミラー+吉本裕美子+照内央晴@高円寺グッドマン(2018年)
照内央晴+川島誠@山猫軒(2018年)
沼田順+照内央晴+吉田隆一@なってるハウス(2018年)
『終わりなき歌 石内矢巳 花詩集III』@阿佐ヶ谷ヴィオロン(2018年)
Cool Meeting vol.1@cooljojo(2018年)
Wavebender、照内央晴+松本ちはや@なってるハウス(2018年)
フローリアン・ヴァルター+照内央晴+方波見智子+加藤綾子+田中奈美@なってるハウス(2017年)
ネッド・マックガウエン即興セッション@神保町試聴室(2017年)
照内央晴・松本ちはや《哀しみさえも星となりて》 CD発売記念コンサートツアー Final(JazzTokyo)(2017年)
照内央晴+松本ちはや、VOBトリオ@なってるハウス(2017年)
照内央晴・松本ちはや『哀しみさえも星となりて』@船橋きららホール(2017年)
照内央晴・松本ちはや『哀しみさえも星となりて』(JazzTokyo)(2016年)
照内央晴「九月に~即興演奏とダンスの夜 茶会記篇」@喫茶茶会記(JazzTokyo)(2016年)
田村夏樹+3人のピアニスト@なってるハウス(2016年)


デイヴ・バレル+吉沢元治『Dreams』

2019-07-22 00:39:15 | アヴァンギャルド・ジャズ

デイヴ・バレル+吉沢元治『Dreams』(Trio Records、1973年)を聴く。

Dave Burrell (p. perc)
Motoharu Yoshizawa 吉沢元治 (b)

いきなりためらいなく両者ともに走りはじめて驚く。クリスタルを散らしまくるようでいて、セシル・テイラーほどには尖っておらずやや柔和にオブラートを1枚はさんだようなデイヴ・バレル。

それはまた良いのだけれど、ここでは吉沢さんのベースが実に印象的。地に足を付けて、自分の作業であることを確信しているかのように弓を弾き、指で弦を弾いている。ナマで観る機会もたくさんあったはずなのに行かなかった怠惰を悔やむ。(その一回はデレク・ベイリーとのデュオだったけれど、ベイリーの来日中止でソロになり、つい観に行くのをやめてしまった。) 

2曲目(もとのB面)で抒情に進むふたりもまた素晴らしい。

●デイヴ・バレル
スティーヴ・スウェル『Soul Travelers』(2016年)
デイヴ・バレル『Conception』(2013年)
ウィリアム・パーカー『Essence of Ellington / Live in Milano』(2012年)
サニー・マレイ『Perles Noires Vol. I & II』(2002、04年)
マリオン・ブラウン+デイヴ・バレル『Live at the Black Musicians' Conference, 1981』(1981年)
ザ・360ディグリー・ミュージック・エクスペリエンス『In: Sanity』(1976年)

●吉沢元治
エヴァン・パーカー+吉沢元治『Two Chaps』(1996年)
吉沢元治ベース・ソロ『Outfit: Bass Solo 2 1/2』、『From the Faraway Nearby』(1975、91年)
高木元輝の最後の歌(1969年)
友惠しづね+陸根丙『眠りへの風景』(?)

 

 


クリス・ポッター『Circuits』

2019-07-21 23:42:40 | アヴァンギャルド・ジャズ

クリス・ポッター『Circuits』(Edition Records、2017年)を聴く。

Chris Potter (ts, ss, cl, fl, sampler, g, key, perc)
Eric Harland (ds)
James Francies (key)
Linley Marthe (b) 

曲によってドラムスが入ったり抜けたりする、トリオまたはカルテットの編成。

ヒロ・ホンシュクさんが書いているように、クリス・ポッターのテクは完璧かつ余裕があってひたすら圧倒される。確かにホンシュクさんのコラムにおいてポッターがマイケル・ブレッカーからの系譜上にあるということは納得できる。だから人間技とは思えなくてつまらないという意見も多く、それもわかるところではある。しかしいちどナマで観たポッターのプレイは、それが研鑽による人間のプレイだというだけで批判などできようもないものだった。昔はブレッカーが得意でなかったけれど、かれだって同じである。

エリック・ハーランドのドラムスはスタイリッシュでびしびし決めている。またジェームス・フランシーズがなんだかわからないが複雑なことをやっていることだけはわかる(笑)。なるほど、シニカルに視ていないでちゃんと向き合ったほうがよさそう。

●クリス・ポッター
デイヴィッド・ビニーと仲間たち@Nublu(2017年)
クリス・ポッター『The Dreamer is the Dream』(2016年)
『Aziza』(2015年)
クリス・ポッター『Imaginary Cities』(2013年)
ポール・モチアンのトリオ(1979、2009年)
ポール・モチアン『Flight of the Blue Jay』(1996年)


藤原智子『ルイズその旅立ち』

2019-07-21 21:49:56 | 政治

過日、藤原智子『ルイズその旅立ち』(1997年)を再見することができた。公開当時に岩波ホールで観て以来、22年ぶりくらいである。

伊藤ルイは、1923年の関東大震災直後に軍部に殺された大杉栄と伊藤野枝の娘である。その前の名前はルイズだったが、事件後に他の姉妹と同様に改名された。事件のとき甥の橘宗一少年も虐殺された。父親・橘惣三郎は、宗一の墓石に、「大正十二年(一九二三)九月十六日ノ夜大杉栄、野枝ト共ニ犬共ニ虐殺サル」と書いた。

映画ができる前の年に、伊藤ルイは亡くなった。はじめて映画を観たとき、ルイさんの幼馴染が昔の家を訪れて泣き出すセンチメンタルな場面に心を動かされていたわけだけれど、今回再見して、別のふたつの面があらためて強く印象に残った。自分も社会も変わったからかな。

ひとつは人びとの強さ。墓石が政府や警察に見つかるとただごとでは済まない。しかし、近所の人はそれをわかったうえで黙って隠しとおした。ルイさんの幼馴染や姉妹は大人から冷たい扱いを受けたわけだが、子どもであろうとなんであろうと、彼女たちは毅然とした個人であった。これがいまの社会でどれほど成り立つだろうか。

もうひとつ。強いといえばルイさん自身がそうだった。そのルイさんでさえも、しがらみを捨てて自分の信じる社会運動をはじめたのは50歳くらいのころだったという。そして亡くなるまで独立独歩で進み続けた。この遅さと強さにとても勇気づけられてしまう。

●参照
伊藤ルイ『海の歌う日』
亀戸事件と伊勢元酒場
加藤直樹『九月、東京の路上で』
藤田富士男・大和田茂『評伝 平澤計七』
南喜一『ガマの闘争』
田原洋『関東大震災と中国人』
植民地文化学会・フォーラム「内なる植民地(再び)」
山之口貘のドキュメンタリー(沖縄人の被害)
平井玄『彗星的思考』(南貴一)
道岸勝一『ある日』(朝鮮人虐殺の慰霊の写真)
『弁護士 布施辰治』(関東大震災朝鮮人虐殺に弁護士として抵抗)
野村進『コリアン世界の旅』(阪神大震災のときに関東大震災朝鮮人虐殺の恐怖が蘇った)


豊住芳三郎+庄子勝治+照内央晴@山猫軒

2019-07-21 19:22:02 | アヴァンギャルド・ジャズ

埼玉県越生市の山猫軒(2019/7/20)。

Sabu Toyozumi 豊住芳三郎 (ds, 二胡)
Masaharu Showji 庄子勝治 (as, soprillo)
Hisaharu Teruuchi 照内央晴 (p)

午後2時前に越生駅に待ち合わせ、豊住さん、庄子さん、照内さん、それから映像の宮部さん、写真のTomさんと一緒に山猫軒にタクシーで向かう(運転者さんに山猫軒というだけで良いようだ)。森の中をうねうね走って着いた。小雨ではあるけれど、二度目の山猫軒はとても気持ちが良い。中も外も最高に良い。猫ちゃんずは人をまったく恐れずに膝に乗っかってきたりする。

早めに来たのは、豊住さんにインタビューを行うことが目的である。照内さんのはからいであり、確かに聴いておきたいこと満載(午前中にぎりぎりまで予習や準備をしていて遅れそうになった)。いや、ちょっと前に棚上げになった音源のライナーを書いていて、もともと知りたいことがたくさんあったのだ。ジャズの歴史を体現したような人ゆえ数時間で終わるわけもないのだが、それでもいろいろな興味深いお話を聴くことができた。近いうちにまとめるつもりである。

この日シンバルが無いということで、それでもいいかなという感じだったのだが(豊住さんならでは?)、結局、玉響海月さんが持ってきた。ノイズ方面であるから最初から割れている。特製のグラスシャンデリアの蝋燭に火が点けられ、18時すぎから演奏がはじまった。

ファーストセットはデュオを3組。

豊住+庄子。豊住さんはマレットで丸く音を創りはじめ、庄子さんもまた丸く攻める。力強く入り弱めて抜けるようなアルトであり、ふたりのシームレスな感覚にいきなり興奮させられる。

庄子+照内。幽玄に揺れ動くアルトに対しピアノはゆっくり一音ずつ選び、そして和音を重ねるようになるとアルトのヴィブラートが大きくなり音領域がマージナルなほうへと動いてゆく。ピアノが複合的に厚みを出すとアルトが速度を与え、そうするとピアノの速度が増す。静寂が訪れ、ピアノがふたたび音を選んで収束に向かった。

照内+豊住。最初から二胡を弾く豊住さんの音が京劇を思わせる。照内さんはその音を時間のなかに位置付けるように弾いてゆくのだが、やがて、豊住さんが二胡の弦でシンバルも叩き、それも含めた軋みと、ピアノの旋律とが対照的となってきた。金属を削ぎきるようなサウンドに移ったドラムス、さらに複層的になってきたピアノ。ふたりが収束に向かうと、外で虫が鳴いていることに気付かされた。

セカンドセットはトリオ。庄子さんはソプリロというソプラニーノよりも小さいサックスを吹き、その小ささゆえの尖りにより、サウンドに幹を刺し込んでいくような按配に聴こえる。照内さんは擾乱を創り、その中から鍵盤の結晶を見出している。豊住さんはバスドラも連打し、大きな波を絶えず創り出しては放ち続ける。これらによる三者の大きなうねり。

やがて豊住さんはシンバルでの音空間創りにシフトした。豊住さんは決して同じことを続けることはない(このことを抜きにして豊住さんの個性を評価できないだろうと思う)。そして今度はブラシで解体を説く。ピアノとアルトはフラグメンツを提供していたのだが、庄子さんは次第に音自体に力を込めてゆき、照内さんもまた拳や体全体を使っての激情へと移り変わってゆく。豊住さんがスティック2本で一気に叩く音は、フリーフォールのような迫力に満ちている(ふとMegさんを思い出した)。

終わりそうな即興を照内さんは静かに拒否し、抑制した音を連ねてゆく。庄子さんと豊住さんは擦れる音空間を創ってみせる(缶でアルトを擦っている!)。ここから各々の浮上劇。ピアノは響きの中から特定の音で浮かびあがり、ドラムスはシンバルの金属音やくしゃくしゃにした紙の音で浮かび上がり、またアルトは歪んだ音で浮かび上がる。そしてふたたび短いサウンドがあって、このセットが終わった。

10時前まで、南さんのうまいピザをいただきながらおしゃべり。山猫軒の愉しい8時間が終わったがまだ居座りたかった(帰りの電車でも照内さんやパフォーマンスアートの広瀬さんと話し続けた)。また行かなければならない。

Fuji X-E2、7Artisans 12mmF2.8、XF60mmF2.4

●豊住芳三郎
豊住芳三郎+老丹+照内央晴@アケタの店(2019年)
豊住芳三郎+謝明諺@Candy(2019年)
ジョン・ラッセル+豊住芳三郎@稲毛Candy(2018年)
謝明諺『上善若水 As Good As Water』(JazzTokyo)(2017年)
ブロッツ&サブ@新宿ピットイン(2015年)
豊住芳三郎+ジョン・ラッセル『無為自然』(2013年)
豊住芳三郎『Sublimation』(2004年)
ポール・ラザフォード+豊住芳三郎『The Conscience』(1999年)
アーサー・ドイル+水谷孝+豊住芳三郎『Live in Japan 1997』(1997年)
加古隆+高木元輝+豊住芳三郎『滄海』(1976年)
加古隆+高木元輝+豊住芳三郎『新海』、高木元輝+加古隆『パリ日本館コンサート』(1976年、74年)
豊住芳三郎+高木元輝 『もし海が壊れたら』、『藻』(1971年、75年)
富樫雅彦『風の遺した物語』(1975年)

●照内央晴
豊住芳三郎+老丹+照内央晴@アケタの店(2019年)
豊住芳三郎+謝明諺@Candy(2019年)
沼田順+照内央晴+吉田隆一@なってるハウス(2019年)
吉久昌樹+照内央晴@阿佐ヶ谷ヴィオロン(2019年)
照内央晴、荻野やすよし、吉久昌樹、小沢あき@なってるハウス(2019年)
照内央晴+方波見智子@なってるハウス(2019年)
クレイグ・ペデルセン+エリザベス・ミラー+吉本裕美子+照内央晴@高円寺グッドマン(2018年)
照内央晴+川島誠@山猫軒(2018年)
沼田順+照内央晴+吉田隆一@なってるハウス(2018年)
『終わりなき歌 石内矢巳 花詩集III』@阿佐ヶ谷ヴィオロン(2018年)
Cool Meeting vol.1@cooljojo(2018年)
Wavebender、照内央晴+松本ちはや@なってるハウス(2018年)
フローリアン・ヴァルター+照内央晴+方波見智子+加藤綾子+田中奈美@なってるハウス(2017年)
ネッド・マックガウエン即興セッション@神保町試聴室(2017年)
照内央晴・松本ちはや《哀しみさえも星となりて》 CD発売記念コンサートツアー Final(JazzTokyo)(2017年)
照内央晴+松本ちはや、VOBトリオ@なってるハウス(2017年)
照内央晴・松本ちはや『哀しみさえも星となりて』@船橋きららホール(2017年)
照内央晴・松本ちはや『哀しみさえも星となりて』(JazzTokyo)(2016年)
照内央晴「九月に~即興演奏とダンスの夜 茶会記篇」@喫茶茶会記(JazzTokyo)(2016年)
田村夏樹+3人のピアニスト@なってるハウス(2016年)


喜多直毅+元井美智子+フローリアン・ヴァルター@松本弦楽器

2019-07-20 08:19:25 | アヴァンギャルド・ジャズ

代々木の松本弦楽器(2019/7/19)。

Naoki Kita 喜多直毅 (vln)
Michiko Motoi 元井美智子 (箏)
Florian Walter (as)

あらためて、弦というものが持つ音色の幅広さに感じ入る。

元井さんの箏は静かにも囂々とも流れる。しかしそれは音楽を流れる媒体に見立てればの話であって、ときに弦を擦るさまによって、媒体の姿ではなく速度そのものが表現されるように聴こえる。反対側の弦には紙が挟んであって、そちら側の弦を弾くと、音は、その速度の失速そのものとなる。ゆったりと表現を変えてゆく元井さん。

一方、喜多さんは弦を擦る音の変貌に聴く者の耳を閉じ込める。蛇行し、加速する。指ではじくことで破裂もする。それらの複数の流れが複雑に絡まり合い、あらゆるものを見せられるような感覚を覚える。音が外に出されたあとにまかせるのではなく、第一義にはヴァイオリンという場で閉じている。しかしその音の群れがその都度感情に変貌するために、結果として、外に晒されている。

今回驚いたのはフローリアン・ヴァルターの表現力だ。箏のサウンドの世界とヴァイオリンのサウンドの世界とに挟まれて、明らかに、それらに化け、ダイナミックに次へ次へと進む。循環呼吸によるロングトーンは見事であり、静かに力が漲っている舞踏家のように感じられた。(そのとき、なんども右手で、ふさがった左手近くのキーを操作していたのだが、あれはどういうわけだろう?)

各々が何かに、あるいは隣の者に変化(へんげ)して応答する、相互作用の即興だった。

Fuji X-E2、7Artisans 12mmF2.8、XF60mmF2.4

●喜多直毅
徹さんとすごす会 -齋藤徹のメメント・モリ-(2019年)
喜多直毅+翠川敬基+角正之@アトリエ第Q藝術(2019年)
熊谷博子『作兵衛さんと日本を掘る』(2018年)
喜多直毅クアルテット「文豪」@公園通りクラシックス(2018年)
ロジャー・ターナー+喜多直毅+齋藤徹@横濱エアジン(2018年)
ファドも計画@in F(2018年)
齋藤徹+喜多直毅@板橋大山教会(2018年)
齋藤徹+喜多直毅+外山明@cooljojo(2018年)
齋藤徹+喜多直毅+皆藤千香子@アトリエ第Q藝術(2018年)
ロジャー・ターナー+喜多直毅+齋藤徹@横濱エアジン(JazzTokyo)(2017年)
翠川敬基+齋藤徹+喜多直毅@in F(2017年)
喜多直毅+マクイーン時田深山@松本弦楽器(2017年)
黒田京子+喜多直毅@中野Sweet Rain(2017年)
齋藤徹+喜多直毅@巣鴨レソノサウンド(2017年)
喜多直毅クアルテット@求道会館(2017年)
ハインツ・ガイザー+ゲリーノ・マッツォーラ+喜多直毅@渋谷公園通りクラシックス(2017年)
喜多直毅クアルテット@幡ヶ谷アスピアホール(JazzTokyo)(2017年)
喜多直毅・西嶋徹デュオ@代々木・松本弦楽器(2017年)
喜多直毅+田中信正『Contigo en La Distancia』(2016年)
喜多直毅 Violin Monologue @代々木・松本弦楽器(2016年)
喜多直毅+黒田京子@雑司が谷エル・チョクロ(2016年)
齋藤徹+かみむら泰一、+喜多直毅、+矢萩竜太郎(JazzTokyo)(2015-16年)
うたをさがして@ギャラリー悠玄(2015年)http://www.jazztokyo.com/best_cd_2015a/best_live_2015_local_06.html(「JazzTokyo」での2015年ベスト)
齋藤徹+喜多直毅+黒田京子@横濱エアジン(2015年)
喜多直毅+黒田京子『愛の讃歌』(2014年)
映像『ユーラシアンエコーズII』(2013年)
ユーラシアンエコーズ第2章(2013年)
寺田町の映像『風が吹いてて光があって』(2011-12年)
『うたをさがして live at Pole Pole za』(2011年)

●フローリアン・ヴァルター
『ボンの劇場の夜―ダンスカンパニー・ボー・コンプレックスとゲスト』@ボンSchauspiel(フローリアン・ヴァルター)(2019年)
Ten meeting vol.2@阿佐ヶ谷天(フローリアン・ヴァルター)(2018年)
フローリアン・ヴァルター+直江実樹+橋本孝之+川島誠@東北沢OTOOTO(2018年)
フローリアン・ヴァルター+照内央晴+方波見智子+加藤綾子+田中奈美@なってるハウス(2017年)
フローリアン・ヴァルター『Bruit / Botanik』(2016年)
アキム・ツェペツァウアー+フローリアン・ヴァルター『Hell // Bruit』(2015年)


クリス・ヴィーゼンダンガー+かみむら泰一+落合康介+則武諒@中野Sweet Rain

2019-07-19 07:55:01 | アヴァンギャルド・ジャズ

中野のSweet Rain(2019/7/18)。

Chris Wiesendanger (p)
Taichi Kamimura かみむら泰一 (ts, ss)
Kosuke Ochiai 落合康介 (b)
Ryo Noritake 則武諒 (ds)

最初はクリスさんのオリジナル「Nowhere Nowwhere」。イントロから、リズムを自身に引きこんでいるピアノに少し驚かされる。それから、軽く歌いながら弾くことにより、一貫して耳をくすぐってくる気持ちのよいユニゾン感。なるほど、徹さんが「ジャンル、クリス・ヴィーゼンダンガー」と呼んだというオリジナル世界なのか。

続いて、先日亡くなった浜村昌子さんの曲「First Day in Brazil」。かみむらさんのソプラノには存在感があり、徹さんと共演したときのような「吹かないサックス」とはまた違う。クリスさんと落合さんとの音合わせが愉しい。

この日は浜村さん縁の曲を多く取り上げた。かみむらさんによる「For Masako」では、最初はテナーとベースとで不思議なサウンドを作っていたが、やがてピアノが入るとぞくりとさせられる。マレットで雲のような音を作る則武さんのドラムスが良い。

「Action for Masako」ではテナーの撥音、そのまま続く「Action and Talk」ではテナー、ベース、ピアノのユニゾンが気持ち良く、ここにドラムスがルースに合わせている。そしてスタンダードの「Skylark」も浜村さんによるアレンジ。ピアノのイントロからエアたっぷりのテナーが入り、やがてドラムスとベースとがまったく同時に入るとぱかりと空が開けたように感じた。テナーが抜けても、クリスさんは他に合わせるでもなく不思議に共存して、自分の時間を進めた。面白い。

セカンドセット。この日は映像作家の中根秀夫さんが観にきていた。中根さんの映像にかみむらさんが音楽を付け、武田多恵子さんが詩を読む作品を上映しているとのこと。そんなわけで、「ありがとう多恵子さん」という曲。続いて、オーネット・コールマンの「Harlem Manhattan」では、はじめにピアノとドラムス、そしてカルテットとなった。かみむらさんはテナーに持ち替えたのだが、曲のせいか、デューイ・レッドマンを彷彿とさせる瞬間が多々訪れる。途中での全員でのテンポアップが愉しい。

浜村さんの「夏」は、テナーのロングトーンもあり、奇妙に夏の暑さやぽっかりと空いた時間を思わせる曲。最後の曲「Hard Times Come Again No More」では、ソプラノのソロのあと、ゆっくりと響かせる落合さんのピチカートが印象的でまたユーモラス。クリスさんはたぶん「Blue Monk」も引用した。

クリス・ヴィーゼンダンガーさんは齋藤徹さんとの共演歴があり気になっていた。そのときは齋藤徹・かみむら泰一・大塚惇平・松本ちはやという面々であり、クリスさんに訊いたところ、それに遡って数回共演したのだという。11年前には京都でローレン・ニュートンを含めたトリオとのこと。実にユニークで素晴らしく、もっと前にかれの音楽を聴いていてもよかったと思う。もう翌日にはスイスに帰国してしまい、次の来日は来年。前の日にかみむらさんと山猫軒で行ったという録音を聴くのが楽しみである。

Fuji X-E2、7Artisans 12mmF2.8、XF60mmF2.4

●クリス・ヴィーゼンダンガー
クリス・ヴィーゼンダンガー+クリスチャン・ヴェーバー+ディーター・ウルリッヒ『We Concentrate.』(2004年)

●かみむら泰一
徹さんとすごす会 -齋藤徹のメメント・モリ-(2019年)
かみむら泰一+齋藤徹@喫茶茶会記(2018年)
かみむら泰一+齋藤徹@本八幡cooljojo(2018年)
かみむら泰一+齋藤徹@本八幡cooljojo(2018年)
かみむら泰一session@喫茶茶会記(2017年)
齋藤徹 plays JAZZ@横濱エアジン(JazzTokyo)(2017年)
かみむら泰一+齋藤徹@キッド・アイラック・アート・ホール(2016年)
齋藤徹+かみむら泰一、+喜多直毅、+矢萩竜太郎(JazzTokyo)(2015-16年)
かみむら泰一『A Girl From Mexico』(2004年)

●落合康介
レイモンド・マクモーリン@本八幡cooljojo(2019年)
永武幹子トリオ@本八幡cooljojo(2017年)
立花秀輝トリオ@東中野セロニアス(2017年)
永武幹子@本八幡cooljojo(2017年) 

●則武諒
福冨博カルテット@新宿ピットイン(2015年)


サニー・マレイ+ボブ・ディッキー+ロバート・アンドレアノ『Homework』

2019-07-18 00:06:50 | アヴァンギャルド・ジャズ

サニー・マレイ+ボブ・ディッキー+ロバート・アンドレアノ『Homework』(NoBusiness Records、1994年)を聴く。

Sunny Murray (ds)
Bob Dickie (b, bcl)
Robert Andreano (g, b)

正直言って、ベースもギターも知らないしプレイは冴えない。あまり聴くべきものはない。

しかし、さすがにサニー・マレイのドラミングはここでも独自で面白い。シンバルを多用してグラデーションを描いてゆくだけでなく、大きな太いパルスが複数走っていて、それらが重なり合って、どのようなノリかよくわからないのにエネルギーが高められている。

●サニー・マレイ
プリマ・マテリア『Peace on Earth』、ルイ・ベロジナス『Tiresias』
(1994、2008年)
By Any Means『Live at Crescendo』、チャールズ・ゲイル『Kingdom Come』(1994、2007年)
サニー・マレイ『Perles Noires Vol. I & II』(2002、04年)
アシフ・ツアハー+ペーター・コヴァルト+サニー・マレイ『Live at the Fundacio Juan Miro』(2002年)
セシル・テイラー『Corona』(1996年)
サニー・マレイのレコード(1966、69、77年)
セシル・テイラー『Live at the Cafe Montmartre』(1962年)