『Jazz in Denmark』(Marshmallow Export)を観る。何年か前に出回った時に入手しそびれていたDVDである。ディスクユニオンで中古盤を見つけた。
ここには、1960年代にアマチュアによって撮られた3本のモノクロフィルムが収められている。3本合計しても30分強に過ぎない。
『Stopforbud』(1962年)は、デンマークの街や公園や港やごみ捨て場を放心したように徘徊するバド・パウエルを捉えている。タイトルは「バドを止めろ」とデンマーク語の「一時停止」を引っかけたもののようだ。既に全盛期を過ぎてしまったバドだが、「I'll Keep Loving You」をバックにした映像では、何とも表現しがたい凄みを静かに体現しているように見えるのは贔屓目か。このときまだ40歳にもなっていないはずだ。
短いフィルムの後半では、演奏風景にデクスター・ゴードンがコメントの声をかぶせている。バドがフランスに滞在していたときのエピソードをもとに作られた映画『ラウンド・ミッドナイト』(ベルトラン・タヴェルニエ)において主演したのが他ならぬデックスだっただけに、奇妙な縁を感じてしまうのは仕方ないところだ。デックスは、「40年頃にクーティ・ウィリアムスのビッグバンドで弾いていたときから、バド・パウエルを見ていたよ。それから、ディジー・ガレスピー、チャーリー・パーカー、セロニアス・モンクらと一緒にビバップをやって・・・イノヴェーターだったよ。マイクに向かって、ジョージ・シアリングは1週間に3000ドルもらえるのに、私は黒人だから最低額なんだ、と呟いていたんだよ。」と思い出を語る。切ないな。
甘い映像ながら、素早く動く右手と和音をかぶせる左手を捉えている。晩年のバドも発酵した魅力があって好きだ。
『Future One』(1963年)は、ニューヨーク・コンテンポラリー・ファイヴ(NYC5)のライヴ映像である。こんな面子の演奏を横目にキスしているカップルがいたりして(勿体ないな)、狭いクラブのリラックスした雰囲気がよく出ている。何といっても、ジョン・チカイ(アルトサックス)、ドン・チェリー(コルネット)、そしてアーチー・シェップ(テナーサックス)の若い頃の姿が嬉しい。アンブシュアで動く面の皮のアップなど、アプローチもユニークなのだ。
これを観ると、やはりシェップは唯一者だなと思い知らされてしまう。無数の周波数の山が剣山のように併存し、それはブルースであり、感情ともろにシンクロするのである。本当に素晴らしい。もう一度近くで目の当たりにしたい。1999年に来日した際には2回足を運び、最前列で聴いていると、唾が近くにぼたぼた落ちてきた。
『Portrait of a Bushman』(1965年)は、ダラー・ブランド(のちのアブドゥーラ・イブラヒム)が起きて、奇妙に長いパイプを吸い、タクシーに乗り、ピアノトリオで演奏する姿をユニークに編集している。大ヒット盤『アフリカン・ピアノ』だけで彼を語ってはいけないと思うが、やはり奇妙なメロディーと和音の繰り返しという個性はあの盤に出ている。最近来日したが、結局、駆けつけられなかった。後悔先に立たず、だ。
●参照
○アーチー・シェップの映像『I am Jazz ... It's My Life』
○イマジン・ザ・サウンド
○ヨーロッパ・ジャズの矜持『Play Your Own Thing』
○エバ・ヤーン『Rising Tones Cross』
○ドン・チェリーの『Live at the Cafe Monmartre 1966』とESPサンプラー