Sightsong

自縄自縛日記

『最澄と天台宗のすべて』展@東京国立博物館

2021-10-31 23:01:21 | 思想・文学

東京国立博物館で「最澄と天台宗のすべて」展を観てきた。

仏教も仏教美術も好きなのだが門外漢だからすぐに忘れ、そのたびに勉強する。頼りにするのは末木文美士『日本仏教史』。もう四半世紀前に読んで、良書だと思ったのでフィルムルックスを貼ってまだ大事にしている。

それによれば、エリート最澄はせっかく入唐しながら「自らの知識が時代に遅れつつあること」に焦りをおぼえ、帰国後の日本で求められた「密教的な呪法の力」に対して最澄のそれは「付け焼き刃」であったから、年下のライバル空海に教えを乞うた。だから両者の交流とは言ってもその多くは最澄の側からの密教経典の借用だった。今回の展示ではそのあたりの屈折した関係がさらりと触れてあるのみで、密教についても並列的に展示するにとどめている印象。もちろんことさらにドラマチックな対立を見せなくても良いのだろうけれど、きっとそのほうがおもしろい。だから、「最澄は「最も澄む」と書くが、彼は澄みきった深い淵のような孤独と誇りに生きてきた僧であるかにみえる。それに対して空海というのは空と海である。それは果てしなく巨大な空であり海である。その巨大なもののなかには、いささかいかがわしいもの、汚いものもないわけではないが、それらのいかがわしいもの、汚いものも、空のような海のような、はてしない巨大な世界のなかではいつの間にか浄化されてしまうのである。」(『芸術新潮』1995年7月)などという梅原猛の文章に煽られるわけである(いや、自分が)。じっさい、空海が下賜された東寺の「何でもあり」の仏像群を見たとき圧倒されて脳内快楽物質が分泌された記憶があるし、納得できなくもない。(おかざき真里の漫画『阿・吽』はそのようなものらしい。大人買いしなければ。)

それはともかく今回の展示物は刺激的。いくつもの「法華経」は引いてしまうほどゴージャスで、金箔を散らしたり、金泥で書いたりしている。貴族に華美さが好まれたこともあるのだろうけれど、やはり、宗教は語りなおされるたびになにかが付加されて強力になっていくのかなと思えた。

●参照
末木文美士『日本仏教の可能性』
国宝・阿修羅展
東寺、胡散臭さ爆発
仏になりたがる理由
三枝充悳『インド仏教思想史』
楠元香代子『スリランカ巨大仏の不思議』
杭州の西湖と雷峰塔、浄慈寺
山西省・天寧寺
山西省のツインタワーと崇善寺、柳の綿
北京のチベット仏教寺院、雍和宮
天童寺とその横の森林
阿育王寺(アショーカ王寺)


齋藤徹生誕祭@横濱エアジン

2021-10-28 07:57:43 | アヴァンギャルド・ジャズ

齋藤徹さんが亡くなってもうすぐ2年半。横濱エアジンで生誕祭が開かれた(2021/10/27)。

Kazuo Imai 今井和雄 (g)
Masao Tajima 田嶋真佐雄 (b)
Kazuhiro Tanabe 田辺和弘 (b)
Soleiyu Eye ゆい。(p, vo)
Taiko Matsumoto 松本泰子 (vo)
Yu Kimura 木村由 (dance)
Noriko. S (vo)

テツさんの評伝本もなんとか年内には出します(たぶん)。

Fuji X-E2、Carl Zeiss Jena Flektogon 35mmF2.4 (M42)、Rollei Sonnar 85mmF2.8 (M42)

●齋藤徹
徹さんとすごす会 -齋藤徹のメメント・モリ-(2019年)
『Sluggish Waltz スロッギーのワルツ』(JazzTokyo)(2019年)
ジャン・サスポータス+矢萩竜太郎+熊坂路得子@いずるば(齋藤徹さんの不在の在)(2019年)
松本泰子+庄﨑隆志+齋藤徹@横濱エアジン(『Sluggish Waltz - スロッギーのワルツ』DVD発売記念ライヴ)(2019年)
齋藤徹+久田舜一郎@いずるば(2019年)
齋藤徹+沢井一恵@いずるば(JazzTokyo)(2019年)
近藤真左典『ぼくのからだはこういうこと』、矢荻竜太郎+齋藤徹@いずるば(2019年)
2018年ベスト(JazzTokyo)
長沢哲+齋藤徹@ながさき雪の浦手造りハム(2018年)
藤山裕子+レジー・ニコルソン+齋藤徹@横濱エアジン(JazzTokyo)(2018年)
齋藤徹+長沢哲+木村由@アトリエ第Q藝術(2018年)
ロジャー・ターナー+喜多直毅+齋藤徹@横濱エアジン(2018年)
かみむら泰一+齋藤徹@喫茶茶会記(2018年)
永武幹子+齋藤徹@本八幡cooljojo(JazzTokyo)(2018年)
かみむら泰一+齋藤徹@本八幡cooljojo(2018年)
DDKトリオ+齋藤徹@下北沢Apollo(2018年)
川島誠+齋藤徹@バーバー富士(JazzTokyo)(2018年)
齋藤徹+喜多直毅@板橋大山教会(2018年)
齋藤徹+喜多直毅+外山明@cooljojo(2018年)
かみむら泰一+齋藤徹@本八幡cooljojo(2018年)
齋藤徹+喜多直毅+皆藤千香子@アトリエ第Q藝術(2018年)
2017年ベスト(JazzTokyo)
即興パフォーマンス in いずるば 『今 ここ わたし 2017 ドイツ×日本』(2017年)
『小林裕児と森』ライヴペインティング@日本橋三越(2017年)
ロジャー・ターナー+喜多直毅+齋藤徹@横濱エアジン(JazzTokyo)(2017年)
長沢哲+齋藤徹@東北沢OTOOTO(2017年)
翠川敬基+齋藤徹+喜多直毅@in F(2017年)
齋藤徹ワークショップ特別ゲスト編 vol.1 ミシェル・ドネダ+レ・クアン・ニン+佐草夏美@いずるば(2017年)
齋藤徹+喜多直毅@巣鴨レソノサウンド(2017年)
齋藤徹@バーバー富士(2017年)
齋藤徹+今井和雄@稲毛Candy(2017年)
齋藤徹 plays JAZZ@横濱エアジン(JazzTokyo)(2017年)
齋藤徹ワークショップ「寄港」第ゼロ回@いずるば(2017年)
りら@七針(2017年)
広瀬淳二+今井和雄+齋藤徹+ジャック・ディミエール@Ftarri(2016年)
齋藤徹『TRAVESSIA』(2016年)
齋藤徹の世界・還暦記念コントラバスリサイタル@永福町ソノリウム(2016年)
かみむら泰一+齋藤徹@キッド・アイラック・アート・ホール(2016年)
齋藤徹+かみむら泰一、+喜多直毅、+矢萩竜太郎(JazzTokyo)(2015-16年)
齋藤徹・バッハ無伴奏チェロ組曲@横濱エアジン(2016年)
うたをさがして@ギャラリー悠玄(2015年) 
齋藤徹+類家心平@sound cafe dzumi(2015年)
齋藤徹+喜多直毅+黒田京子@横濱エアジン(2015年)
映像『ユーラシアンエコーズII』(2013年)
ユーラシアンエコーズ第2章(2013年)
バール・フィリップス+Bass Ensemble GEN311『Live at Space Who』(2012年)
ミシェル・ドネダ+レ・クアン・ニン+齋藤徹@ポレポレ坐(2011年)
齋藤徹による「bass ensemble "弦" gamma/ut」(2011年)
『うたをさがして live at Pole Pole za』(2011年)
齋藤徹『Contrabass Solo at ORT』(2010年)
齋藤徹+今井和雄『ORBIT ZERO』(2009年)
齋藤徹、2009年5月、東中野(2009年)
ミシェル・ドネダと齋藤徹、ペンタックス43mm(2007年)
齋藤徹+今井和雄+ミシェル・ドネダ『Orbit 1』(2006年)
ローレン・ニュートン+齋藤徹+沢井一恵『Full Moon Over Tokyo』(2005年)
明田川荘之+齋藤徹『LIFE TIME』(2005年)
ミシェル・ドネダ+レ・クアン・ニン+齋藤徹+今井和雄+沢井一恵『Une Chance Pour L'Ombre』(2003年)
往来トリオの2作品、『往来』と『雲は行く』(1999、2000年)
齋藤徹+ミシェル・ドネダ+チョン・チュルギ+坪井紀子+ザイ・クーニン『ペイガン・ヒム』(1999年)
齋藤徹+ミシェル・ドネダ『交感』(1999年)
齋藤徹+沢井一恵『八重山游行』(1996年)
久高島で記録された嘉手苅林昌『沖縄の魂の行方』、池澤夏樹『眠る女』、齋藤徹『パナリ』(1996年)
ミシェル・ドネダ+アラン・ジュール+齋藤徹『M'UOAZ』(1995年)
ユーラシアン・エコーズ、金石出(1993、1994年)
ジョゼフ・ジャーマン 


石川武志『MINAMATA ユージン・スミスへのオマージュ』@リコーイメージングスクエア新宿

2021-10-24 10:22:45 | 九州

友人と、リコーイメージングスクエア新宿で石川武志写真展『MINAMATA ユージン・スミスへのオマージュ』。

石川さんはユージン・スミスとアイリーン夫人が水俣に移り住んだ際に同行し、小さな部屋で1年間寝食を共にした。新婚のふたりの隣で川の字になって毎日寝ていたんだよと笑って話してくれた。確かに映画『MINAMATA』に登場した通りの小さな家の部屋や急造暗室が記録されている。

若かったこともあり、写真技法はスミスから教わったのだという。Tri-Xを使い、ISO400ではなく320とみなして薄いネガを作る。原版がハイコントラストになってグラデーションが飛ぶことを嫌ったようだ。それをプリントすると薄暗い感じになるため、ハイポで銀を除去しコントラストを付ける。

いや良い写真群である。ミノルタSR-T101やオリンパスペンを使うスミスをとらえ、たまにぶれているのも親密さの証拠。覆い焼きも良い。映画のジョニー・デップも愛嬌があったけれど、本物はもっと剽軽でもあったんだな。

会場に置いてあったインド・バラナシの写真集もすばらしく、頁を順にめくりながらしばらく話をした。

●参照
水俣とユージン・スミス
森元斎『国道3号線 抵抗の民衆史』
『上野英信展 闇の声をきざむ』
『けーし風』読者の集い(31) 「生きる技法」としての文化/想像力
政野淳子『四大公害病』
原田正純『豊かさと棄民たち―水俣学事始め』
石牟礼道子『苦海浄土 わが水俣病』
『花を奉る 石牟礼道子の世界』
土本典昭『水俣―患者さんとその世界―』
土本典昭さんが亡くなった
工藤敏樹『祈りの画譜 もう一つの日本』(水俣の画家・秀島由己男)
鎌田慧『ルポ 戦後日本 50年の現場』
佐藤仁『「持たざる国」の資源論』(行政の不作為)
桑原史成写真展『不知火海』
桑原史成写真展『不知火海』(2)


大友良英+川島誠『DUO』(Jazz Right Now)

2021-10-22 23:30:50 | アヴァンギャルド・ジャズ

大友良英+川島誠『DUO』(Homosacer Records、2021年)のレビューを「Jazz Right Now」に寄稿した。

Review: DUO by Otomo Yoshihide and Kawashima Makoto

Yoshihide Otomo 大友良英 (g)
Makoto Kawashima 川島誠 (as)

●大友良英
大友良英+川島誠@山猫軒(2021年)
リューダス・モツクーナス+大友良英+梅津和時@白楽Bitches Brew(JazzTokyo)(2018年)
大友良英+マッツ・グスタフソン@GOK Sound(2018年)
阿部芙蓉美『EP』(2014年)
ペーター・ブロッツマンの映像『Concert for Fukushima / Wels 2011』(2011年)
ジョン・ブッチャー+大友良英、2010年2月、マドリッド(2010年)
井上剛『その街のこども 劇場版』(2010年)
『その街のこども』(2010年)
大友良英+尾関幹人+マッツ・グスタフソン 『ENSEMBLES 09 休符だらけの音楽装置展 「with records」』(2009年)
サインホ・ナムチラックの映像(2008年)
大友良英の映像『Multiple Otomo』(2007年)
『鬼太郎が見た玉砕』(2007年)
原みどりとワンダー5『恋☆さざなみ慕情』(2006年)
テレビドラマ版『クライマーズ・ハイ』(2003年)

●川島誠
大友良英+川島誠@山猫軒(2021年)
川島誠+クリスティアン・メオス・スヴェンセン@東北沢OTOOTO(2019年)
ピーター・コロヴォス+川島誠+内田静男+山㟁直人+橋本孝之@千駄木Bar Isshee(2019年)
『今・ここ・私。ドイツ×日本 2019/即興パフォーマンス in いずるば』(2019年)
川島誠インタビュー(JazzTokyo)(2019年)
徹さんとすごす会 -齋藤徹のメメント・モリ-(2019年)
マーティン・エスカランテ、川島誠、UH@千駄木Bar Isshee(2019年)
川島誠@白楽Bitches Brew(2019年)
タリバム!featuring 川島誠&KみかるMICO『Live in Japan / Cell Phone Bootleg』(2019年)
フローリアン・ヴァルター+直江実樹+橋本孝之+川島誠@東北沢OTOOTO(2018年)
照内央晴+川島誠@山猫軒(2018年)
川島誠+齋藤徹@バーバー富士(JazzTokyo)(2018年)
2017年ベスト(JazzTokyo)
川島誠@川越駅陸橋(2017年)
むらさきの色に心はあらねども深くぞ人を思ひそめつる(Albedo Gravitas、Kみかる みこ÷川島誠)@大久保ひかりのうま(2017年)
#167 【日米先鋭音楽家対談】クリス・ピッツィオコス×美川俊治×橋本孝之×川島誠(2017年)
川島誠『Dialogue』(JazzTokyo)(2017年)
Psychedelic Speed Freaks/生悦住英夫氏追悼ライヴ@スーパーデラックス(2017年)
川島誠『you also here』(2016-18年)
川島誠+西沢直人『浜千鳥』(-2016年)
川島誠『HOMOSACER』(-2015年) 


北井一夫『COLOR いつか見た風景』

2021-10-20 08:44:22 | 写真

もっとも敬愛する写真家・北井一夫さんの作品はほとんど白黒。

だが中にはカラー作品もあり、1970年代はカラーのほうが白黒より50パーセントほど原稿料が高く、若い写真家たちにとって憧れだったらしい。カラーの北井写真もすばらしい。これまでのカラー写真集としては『英雄伝説アントニオ猪木』や『西班牙の夜』、あと何かあったかな。

そんなわけで、先日いきなり出た『COLOR いつか見た風景』(PCT、2021年)は一も二もなく入手した。前半は日本各地のスナップ、後半は72年のフランス。それにしても視れば視るほど沁みてくる。微妙に傾いでいて(当時使っていたキヤノンの25ミリファインダーがいい加減だったためだというが、北井さんはそれも個性にした)、あざといところがまったくない。「フランスで何を撮るのかを編集者の天野道映さんに聞くと、いつも通り風景の真ん中に子供がぽつんと立っている写真でいいんだ、ということだった」と書いていて笑える。

そういえば『西班牙の夜』のとき、北井さんに「ISO64で飲み屋で手持ちなんて凄いですね」と言うと「プロですから」と笑って返されたのだった。

●北井一夫
『シカゴループ』(2019年)
『1968年 激動の時代の芸術』@千葉市立美術館(2018年)
『写真家の記憶の抽斗』(2017年)
『写真家の記憶の抽斗』
『COLOR いつか見た風景』
『いつか見た風景』
北井一夫×HMT『過激派 AGITATORS』(2015年)
『道』(2014年)
『Walking with Leica 3』(2012年)
『Walking with Leica 2』(2010年)
『Walking with Leica』(2009年)
『北京―1990年代―』(1990年代)
『80年代フナバシストーリー』(1989年/2006年)
『フナバシストーリー』(1989年)
『英雄伝説アントニオ猪木』(1982年)
『新世界物語』(1981年)
『ドイツ表現派1920年代の旅』(1979年)
『境川の人々』(1978年)
『西班牙の夜』(1978年)
『ロザムンデ』(1978年)
『遍路宿』(1976年)
『1973 中国』(1973年)
『流れ雲旅』(1971年)
『津軽 下北』(1970-73年)
『湯治場』(1970年代)
『村へ』(1970年代)
『過激派』(1965-68年)
『神戸港湾労働者』(1965年)
粟生田弓『写真をアートにした男 石原悦郎とツァイト・フォト・サロン』(2016年)
大津幸四郎・代島治彦『三里塚に生きる』(2014年)(北井一夫出演)


中尾勘二@なってるハウス

2021-10-19 22:51:05 | アヴァンギャルド・ジャズ

なってるハウス(2021/10/19)。

Kanji Nakao 中尾勘二 (ds, tp, tb, as, cl, b)

天才・中尾勘二の多重録音ソロ。

ファーストセットではドラムス、ベース、ピアノ、トランペット、トロンボーン、アルトと重ねていった。演奏しない時間もあり、その間は観客には中尾さんのヘッドホンからかすかに漏れるその前の音だけが届く。完成して披露したサウンドはなかなかカッコ良く、<草刈>と名付けられた。なんでも近所でいい感じに伸びた草が刈られてしまい、その大量虐殺が残念極まりないという気分だということで。

セカンドセットではさらに独り言が増えていちいち可笑しく、皆が痙攣する。コンポステラやストラーダでもこういうのがあったよなあと思い出させるマーチふうであり、ドラムスのあとは金管と木管。完成して再生してみると脱力爆笑ものであり、はじめに小声でなにやら囁きつつ叩いていたのはコレだったのか、と。後ろ向き爆発感ゆえ<中止>と名付けられた。

それにしても演奏者以外には最後までパーツしか聴くことができず、呆然として目撃していたものがこのようにまとまるなんて快感以外のなにものでもないのだった。

6年前に新宿ゴールデン街の裏窓で観た多重録音は、狭いだけに手仕事系。今回は楽器を遠慮なく使えるがやはり手仕事系。

Fuji X-E2、Rollei Sonnar 85mmF2.8 (M42)

●中尾勘二
8.7ヴィオロン(2020年)
ストラーダ@吉祥寺MANDA-LA2(2019年)
グンジョーガクレヨン、INCAPACITANTS、.es@スーパーデラックス(2016年)
中尾勘二@裏窓(2015年)
向島ゆり子+関島岳郎+中尾勘二『星空音楽會 Musica En Compostela』(2010年)
ふいご(2008年)
星の栖家『plays COMPOSTELA』(2005年)
川下直広『漂浪者の肖像』(2005年)
船戸博史『Low Fish』(2004年)
嘉手苅林次『My Sweet Home Koza』(1997年)
大島保克+オルケスタ・ボレ『今どぅ別り』 移民、棄民、基地(1997年)
渡辺勝『とどかずの町で』(1995、97年)


水俣とユージン・スミス

2021-10-16 11:31:37 | 環境・自然

アンドルー・レヴィタス『MINAMATA―ミナマタ―』をようやく観てきた。

映像が美しく、ドラマもまとまっていて良いエンタテインメント。チッソ社長役の國村隼は唇が薄いだけあって薄情なキャラに向いているし、もちろんスミス役のジョニー・デップはみごと。

・・・なのだけれど。やっぱりもやもやすることを備忘録として。

●初対面のスミスとアイリーン美緒子とがジャズクラブに行く場面で、「生音」として、アート・ブレイキー&ジャズ・メッセンジャーズの「Moanin'」が流れる(同名のアルバムに収録されたヴァージョン)。映画の設定は1971年、アルバムは1958年。スミスもジャズ好きでロフトに住んでいたのだし、あまりにも雑。

●いかにも坂本龍一の音楽が流れてお涙頂戴、これには白ける。お仕事なの?たとえば秋吉敏子=ルー・タバキン・ビッグ・バンドが水俣に捧げた『Insights』でも使ったほうが1万倍良かったのでは。

●スミスが水俣で偶然出会った患者に気まぐれでカメラを贈ったため使うカメラが無くなり、水俣の住民たちがカメラを持ち寄るという設定。実際には新幹線で愛用のライカを盗難されたスミスに対し、付き合いのあったミノルタ宣伝部の社員が独断でSR-T101のボディ2台とレンズ3本を渡したのだった。だが、映画ではもともとミノルタを使っていたように描かれている(SR-1を使ってはいたはずだが無くしたものはライカ)。住民たちのカメラの中にSR系のミノルタが複数あるのも不自然で、当時の大衆機ならばたとえばペンタックスSP系やコンパクト機のほうが多かったのでは。それどころかステレオカメラさえもチラッと見えた(TDCステレオヴィヴィッドのように見えたがそんなものを田舎の住民が持っているわけがない)。

●スミスは沖縄戦の取材以来ひさしぶりの日本だという設定のようだが、実際には、1960年から日立製作所の仕事をもらい、いち企業のPRを超える作品として完成させた。これがスミスのキャリア形成にも金銭的にも大いに貢献した。映画はそのあとの1971年から。

●ミノルタとの付き合いや日立との仕事のことが映画で消されているのはなぜか。「ココロザシのある写真家やジャーナリズム vs. 巨大企業」という構図を映画で作りたかったからではないか。そしてエンドロールでは福島原発事故を含め「いまも続く構図」がアピールされる(その通りの側面はあるのだけれど)。スミスについては、富士フイルムのCMの契約をしておきながら「カラーフィルムは使ったことがない」と企業との付き合いに無頓着な雰囲気を強調している。そうでなければ映画でキャラが立たなかったのか。

●水俣病の実態や原因の追究は、原田正純、宇井純、石牟礼道子、土本典昭、川本輝夫、桑原史成を含め多くのひとたちによってなされている。それが映画ではどこにどう考慮されているのやら。もちろんドキュメンタリーではないから問題とまでは言えない。(とはいえ、僕も高校の図書館で宇井純『公害原論』を手に取ったことが社会や環境問題への関心のきっかけでもあったし、やっぱり気になる。)

●参照
森元斎『国道3号線 抵抗の民衆史』
『上野英信展 闇の声をきざむ』
『けーし風』読者の集い(31) 「生きる技法」としての文化/想像力
政野淳子『四大公害病』
原田正純『豊かさと棄民たち―水俣学事始め』
石牟礼道子『苦海浄土 わが水俣病』
『花を奉る 石牟礼道子の世界』
土本典昭『水俣―患者さんとその世界―』
土本典昭さんが亡くなった
工藤敏樹『祈りの画譜 もう一つの日本』(水俣の画家・秀島由己男)
鎌田慧『ルポ 戦後日本 50年の現場』
佐藤仁『「持たざる国」の資源論』(行政の不作為)
桑原史成写真展『不知火海』
桑原史成写真展『不知火海』(2)

阿部久二夫「カメラを盗まれた写真家ユージン・スミスのSR-T101」(『季刊クラシックカメラ』No.14、2002年)


アーシュラ・K・ル・グィン『世界の合言葉は森』

2021-10-10 20:10:02 | 思想・文学

Ursula K. Le Guin - The Word For World Is Forest / アーシュラ・K・ル・グィン『世界の合言葉は森』  

サックス奏者のマタナ・ロバーツがこのSF小説に触発されたとインタビューで語っていて、そこに彼女が見出した大事な点は、環境倫理、レイシズムや植民地主義のアナロジイといったものだった。実際、マタナは自作で黒人の子どもがKKKから逃れる場所として森を想定していた。

思い出して読んでみたら、たしかに素晴らしいイメージ喚起力がある。森の人、人為による破壊と収奪、現実の対義語ではない夢。 「森の音楽」ではなく「森が象徴するような音楽」を聴いてみたい。

The Quietusでのインタビュー
https://thequietus.com/articles/27153-matana-roberts-interview-2

JazzTokyoでのインタビュー(マタナが来日したときに約束してくれて、後日インタビューできた)
https://jazztokyo.org/interviews/post-42119/

●アーシュラ・K・ル・グィン
アーシュラ・K・ル・グィン『マラフレナ』


ジョニー・トー(23) 『ホワイト・バレット』

2021-10-10 12:28:35 | 香港
ジョニー・トー - ホワイト・バレット / 杜琪峯 - 三人行 / Johnnie To - Three(2016年)
 
香港のジョニー・トーは90年代からゼロ年代にプログラム・ピクチャーかというくらい1年に何本もの映画を撮っていた人で、なにしろ好きなので国際線の飛行機に乗るたびにチェックして新作を観ていた。いちばんのお気に入りはいまも『エグザイル/絆』。
ふと最近どうなんだろうと調べてみたら、2015年のコメディ『香港、華麗なるオフィス・ライフ』のあとに『ホワイト・バレット』と『我的拳王男友』を撮っていた。矢も楯もたまらず『ホワイト・バレット』のDVD(英語字幕版)を買って観たけれどやっぱりジョニー・トー健在。これでもかと奇妙な工夫や奇妙や奇怪な人物が詰め込んであって、腕をびしりと伸ばして鉄面皮で銃を撃ちまくる悪人たちは顔芸ならぬ全身芸。主演のルイス・クーも良いけれど、尻にナイフを刺されたままどんくさく必死に戦うラム・シューも変わっていない。
そんなわけで、ついでに『エレクション』三部作も買ったので(3本目は他の監督)、再見が楽しみなのだ。
 
 
●ジョニー・トー
『城市特警』(1998年)
『ザ・ミッション 非情の掟』(1999年)
『暗戦/デッドエンド』(1999年)
『フルタイム・キラー』(2001年)
『デッドエンド/暗戦リターンズ』(2001年)
『PTU』(2003年)
『ターンレフト・ターンライト』(2003年)
『スー・チー in ミスター・パーフェクト』(2003年)※制作
『ブレイキング・ニュース』(2004年)
『柔道龍虎房』(2004年)
『エレクション』(2005年)
『エレクション 死の報復』(2006年)
『エグザイル/絆』(2006年)
『僕は君のために蝶になる』(2007年)
『MAD探偵』(2007年)※共同監督
『スリ』(2008年)
『アクシデント』(2009年)※制作
『冷たい雨に撃て、約束の銃弾を』(2009年)
『奪命金』(2011年)
『高海抜の恋』(2012年)
『ドラッグ・ウォー 毒戦』(2013年)
『名探偵ゴッド・アイ』(2013年)
『単身男女2』(2014年)
『香港、華麗なるオフィス・ライフ』(2015年)

陳穎達『你聽過Beige嗎 Do You Know Beige』(JazzTokyo)

2021-10-06 08:08:53 | アヴァンギャルド・ジャズ

陳穎達『你聽過Beige嗎 Do You Know Beige』(-2021年)のレビューをJazzTokyo誌に寄稿した。

>> #2128 『陳穎達(チェン・インダー)/ 你聽過Beige嗎 Do You Know Beige』

陳穎達 Ying-Da Chen (g, composition)
池田欣彌 Kinya Ikeda (b)
林偉中 Wei-Chung Lin (ds)

●陳穎達
陳穎達『離峰時刻 Off Peak Hours』(JazzTokyo)(2019年)
陳穎達カルテットの録音@台北(2019年)


『狂い咲く、フーコー』

2021-10-05 07:56:50 | 思想・文学

ミシェル・フーコーに関するシンポジウムの記録が『狂い咲く、フーコー』(京都大学人文科学研究所人文研アカデミー、読書人新書、2021年)としてまとめられている。

フーコーの権力論のミソは、もともと不可視だったグレーゾーンに潜在的なものや可能性が設定され、それが監視や支配の根幹的な原理として強化されていったという歴史の読み解きにある。この発言録でああなるほどなと思えたのは、その生政治のありようが新自由主義につながっているのだという指摘。「コスト=ベネフィット分析」だって、相手をほんらいの姿から市場や統治の対象に落とし込むための手法なわけである。たしかにデイヴィッド・ハーヴェイの新自由主義論にはその観点が入っていない(ずいぶん勉強になったけれど)。この行く先が「自己統治」であるという指摘にはぞっとさせられるものがある。

それから、「語る」ということについて。語る主体や語る内容の一貫性というものがじつはなにか大事なことを阻害しているのであって、そうではなく、分裂に身を置き、分裂を生き抜くことの可能性という観点。パレーシア論はなにも「真実とは」と言っているわけではない。いままで意識していなかったけれどおもしろい。

●ミシェル・フーコー
ミシェル・フーコー『性の歴史Ⅱ 快楽の活用』(1984年)
ミシェル・フーコー『性の歴史Ⅰ 知への意志』(1979年)
ミシェル・フーコー『監獄の誕生』(1975年)
ミシェル・フーコー『ピエール・リヴィエール』(1973年)
ミシェル・フーコー『言説の領界』(1971年)
ミシェル・フーコー『マネの絵画』(1971年講演)
ミシェル・フーコー『わたしは花火師です』(1970年代)
ミシェル・フーコー『知の考古学』(1969年)
ミシェル・フーコー『狂気の歴史』(1961年)
ミシェル・フーコー『コレクション4 権力・監禁』
慎改康之『ミシェル・フーコー』
重田園江『ミシェル・フーコー』
桜井哲夫『フーコー 知と権力』
ジル・ドゥルーズ『フーコー』
ルネ・アリオ『私、ピエール・リヴィエールは母と妹と弟を殺害した』
二コラ・フィリベール『かつて、ノルマンディーで』
ハミッド・ダバシ『ポスト・オリエンタリズム』
フランソワ・キュセ『How the World Swung to the Right』


石渡岬+野口UFO義徳+加藤雅史@名古屋なんや

2021-10-02 15:49:08 | アヴァンギャルド・ジャズ

名古屋のなんや(2021/10/1)。場所も演者もお初。

Misaki Ishiwata 石渡岬 (tp)
Yoshinori "UFO" Noguchi 野口UFO義徳 (djembe)
Guest:
Masashi Kato 加藤雅史 (b)

ファーストセットはデュオ3通り+トリオ、セカンドセットはトリオ。加藤さんのコントラバスが触媒として奏功したようで、ピチカートとジャンベの打音、アルコとトランペットのポルタメントとの相互関係がとても刺激的だった。石渡さんのトランペットは力の振幅も情の振幅も大きく、晴れ晴れもしたし沁みもした。それにしても良い場所。

Fuji X-E2、Carl Zeiss Jena Flektogon 35mmF2.4