子どもたちを連れて、松屋銀座で『ゴーゴーミッフィー展』を観る。というのは方便で、実は自分が行きたいのだった。ミッフィー生誕55年だからゴーゴー。
2004年に、『ディック・ブルーナ展』(横浜そごう美術館)(>> リンク)を観るまで、迂闊にも、ミッフィーは自分にとっては子ども向けのキャラクターに過ぎなかった。あのシンプルな絵は、実は何枚もの候補から選びだされたものであり、ちょっとした眼、口の位置によってまるで印象が異なったものとなる。そして、線は均一の太さではなく、ブルーナが筆で少しずつ描いたものだ。ブルーナは、これを「魂のビート」と呼んでいる。かなりのラディカルさを秘めた作品群なのだ。
今回は、最近の絵本作品を含め、多くの下書きや未発表作品が展示されている。たとえば『うさこちゃんのだんす』(福音館から出ているシリーズは「うさこちゃん」名)では、後ろから見たミッフィーが上げた右手の角度が微妙に異なるものが、何点もある。着色こそされていないものの、1枚1枚で「魂のビート」が鳴っている。吃驚である。
肌の色が異なるメラニーやボリスを登場させているのは、「違う人がいるのは当たり前のこと」だと子どもたちに伝えたいブルーナの思いがあるためだと知られている。今回は、『うさこちゃんとたれみみくん』(2006年)の原画も展示されている。片方の耳が前に折れ曲がっている「たれみみくん」は、障害のある子どもである。読みきかせのときにも、そのような思いをうまく伝えることが大事なのだろうか。
売店で、娘に欲しいと言われて、ミッフィーの顔をした灰色の兎のぬいぐるみを買ってしまった。見たことがないが何という名前だろう。さっそく一緒に寝ているみたいだ。
『美術手帖』(2010年4月)は、今回の展示にあわせて、ディック・ブルーナ特集を組んでいる。面白いのは、同じオランダの美術運動デ・ステイルとの共通点を指摘している点だ。確かに、『うさこちゃんびじゅつかんへいく』では、ミッフィーはモンドリアンの作品を観賞しているし、実際に、「ブルーナ・カラー」は、デ・ステイルの色と並べても何の違和感もない。
『デ・ステイル1917-1932』(セゾン美術館、1997年)の図録と並べてみる
ヘリット・トーマス・リートフェルトの椅子はデ・ステイルの生み出した作品として有名だが、これも、複数製作され、各々の椅子の形や色やマテリアルはすべて異なっていたという。なんとなく、ブルーナ作品が生み出されるプロセスと共通するものを感じてしまう。『美術手帖』によれば、2000年に、オランダでブルーナとリートフェルトの2人展が開催されたことがあったようだ。
リートフェルト「レッド/ブルー・チェア」の諸ヴァージョン(『デ・ステイル1917-1932』による)
展示を観たあと、ホコ天でパンを食べ、昔住んでいた千駄木に足をのばした。友人が「一箱古本市」に出品しているところを覗き、ついでに隣で(!)武田泰淳の古本を1冊買って帰った。