Sightsong

自縄自縛日記

『ボンの劇場の夜―ダンスカンパニー・ボー・コンプレックスとゲスト』@ボンSchauspiel(フローリアン・ヴァルター)

2019-05-30 15:23:06 | アート・映画

サックスのフローリアン・ヴァルターがダンスと共演するというので、ボンのSchauspielに足を運んだ(2019/5/29)。

"Zwischenspiel"
Choreografie: Bärbel Stenzenberger
Tanz: Giovannina Sequeira, Vincent Wodrich

"Quotenfrau"
Choreografie & Tanz: Elisabeth Kindler-Abali

"Silente"
Choreografie: Lucia Piquero
Tanz: Melanie López López

"bo komplex"
Ein Tanz mit dem Saxophonisten und Komponisten Florian Walter

"ANDY - SUPERSTAR!"
Choreografie: Jutta Ebnother / Orkan Dann

"Paint It Black"
Musik: The Rolling Stones
Tanz: Fem Rosa Has, Gisela de Paz Solvas, Vasco Ventura, Tommaso Bucciero

"Knockin’ on Heaven’s Door"
Musik: Bob Dylan
Tanz: Vasco Ventura, Tommaso Bucciero Choreografie: Jutta Ebnother

開演前にフローリアンとあれこれ話していると、かれはそのまま余裕で客席に座り、サックスを練習し始めた。そのうち観客も入ってくるからと言われて何のことかと思っていると、確かに、フローリアンのアルトが鳴る中で人びとが客席に着いている。やがてステージ上でダンスが始まり、静かな踊りの中でのアルトの響きがマッチした。音発生器が単独で成立するのも、間違いなく、フローリアンの卓越した技術があってこそだ。フローリアンは吹きながらステージに登る。

男女の奇妙な社交をカリカチュア化したような動き、それは幕が半分閉じられてもその合間で続く。虚実あい混じった雰囲気が面白い。

虚実といえば、ものすごい勢いで服を脱ぎ続けるダンスも、またがんじがらめの制約の中で身体のバランスを取るようなダンスも、また都市生活の中で崩壊する男のダンスも、その狭間にあって苦しみ生きる者の表現のようにみえた。

飽きずに解釈を愉しめるオムニバス的なエンタテインメント。

終わってから一杯やって、ダンサーのひとりと、フローリアンと、かれにユニークな楽器を持ってきた友人と、一緒に電車に乗って帰った。齋藤徹さんのこと、ピーター・エヴァンスやアクセル・ドゥナーのトランペット技術、奇怪な形のトランペットにクラのマウスピースを付けた楽器、7月の日本でのギグ、他の楽器とアルトとの相性、クリス・ピッツィオコスとのデュオ録音(もうすぐ出るそうだ)、ジャズドラマーの弟のことなど、もろもろ話しているうちに駅に着いた。

Fuji X-E2、XF60mmF2.4

●フローリアン・ヴァルター
Ten meeting vol.2@阿佐ヶ谷天(フローリアン・ヴァルター)(2018年)
フローリアン・ヴァルター+直江実樹+橋本孝之+川島誠@東北沢OTOOTO(2018年)
フローリアン・ヴァルター+照内央晴+方波見智子+加藤綾子+田中奈美@なってるハウス(2017年)
フローリアン・ヴァルター『Bruit / Botanik』(2016年)
アキム・ツェペツァウアー+フローリアン・ヴァルター『Hell // Bruit』(2015年)


タリバム!@ケルンのGloria前とStadtgarten前

2019-05-29 14:11:52 | アヴァンギャルド・ジャズ

ちょうどタリバム!のふたりもドイツに滞在してライヴをやっている。ケルンでの演奏に駆けつけることができた(2019/5/28)。

Talibam!
Matt Mottel (keytar)
Kevin Shea (ds)

ケルンに住むエミさんに苺パフェをご馳走になって、そろそろかなと歩いていくと、確かに赤い「メールス・バン」がとまっている。車上には来月のメールス・ジャズ祭のバナー、そしてマット・モッテルとケヴィン・シェイが準備中。近くのGloriaというハコではカマシ・ワシントンが演奏するということで長蛇の列。しかしメールス・バンにも次第に人が集まってきた。さすがゲリラ。

かれらはおもむろに演奏をはじめた。マットのキーターはドローンでもサイケデリックでもダークでもハッピーでもあり、観る者を陶然とさせる。頭から妙なものを被っているが、これはdegenderingなんだと言っていた。一方のケヴィンもひたすら叩く。叩くことに集中することが叩くことへの最大のリスペクトだと言わんばかりだ。これは通行人も足を止めるだろう。

しばらくして誰かからのクレームがあったようで、よし場所を変えようということになった。3日前にタリバム!がライヴを行ったばかりのStadtgartenである(わたしはその前にカーラ・ブレイ・トリオを観た)。中で演っているコンサートを邪魔しないように、休憩時間か終わってからかに行うことになった。スーパーでビールなど買ってきてしばらく歓談。

もちろん再開したあとも、かれらはエネルギーをまったく落とさない演奏を続けた。

終わってから皆で近くのZimmerman'sという店でハンバーガーを食べた。ベース奏者のルーカス・ケラーさんと、かれが参加した数十人のコントラバス奏者によるアンサンブル(セバスチャン・グラムス指揮、齋藤徹、バール・フィリップスら参加)のことや、かれのバンドについて聞くことができた。ケルンに来る際に、ダンスの皆藤千香子さんと、ケルンに住むグラムスの話をしていたことがきっかけである。これもまた縁。

ちょうどFBを開いたら、日本でタリバム!と共演したばかりの今西紅雪さんが誕生日だというので、ケヴィン、マットのふたりとクレイジーなハッピー・バースデイを歌って送った。何をしているのか。

Fuji X-E2、XF60mmF2.4

●タリバム!
タリバム!+今西紅雪@本八幡cooljojo(JazzTokyo)(2019年)
タリバム!&パーティーキラーズ!@幡ヶ谷forestlimit(2019年)
Talibam!『Endgame of the Anthropocene』『Hard Vibe』(JazzTokyo)(2017年)

●ケヴィン・シェイ
タリバム!+今西紅雪@本八幡cooljojo(JazzTokyo)(2019年)
タリバム!&パーティーキラーズ!@幡ヶ谷forestlimit(2019年)
スティーヴン・ガウチ+サンディ・イーウェン+アダム・レーン+ケヴィン・シェイ『Live at the Bushwick Series』(-2019年)
MOPDtK@Cornelia Street Cafe(2017年)
Pulverize the Sound、ケヴィン・シェイ+ルーカス・ブロード@Trans-Pecos(2017年)
Bushwick improvised Music series @ Bushwick Public House(2017年)
Talibam!『Endgame of the Anthropocene』『Hard Vibe』(JazzTokyo)(2017年)
ヨニ・クレッツマー『Five』、+アジェミアン+シェイ『Until Your Throat Is Dry』(JazzTokyo)(2015-16年)
クリス・ピッツィオコス『Gordian Twine』(2015年)
PEOPLEの3枚(-2005年、-2007年、-2014年)
MOPDtK『Blue』(2014年)
MOPDtK『(live)』(2012年)
MOPDtK『The Coimbra Concert』(2010年)
ピーター・エヴァンス『Live in Lisbon』(2009年)
MOPDtK『Forty Fort』(2008-09年) 


デイヴィッド・マレイ+ポール・ニルセン・ラヴ+インゲブリグト・ホーケル・フラーテン@オーステンデKAAP

2019-05-28 15:40:50 | アヴァンギャルド・ジャズ

ベルギーの古い街ブリュージュから海に出たところに、オーステンデという街がある。まさに海に面したKAAPという小さいハコで、デイヴィッド・マレイのヨーロッパツアーのトリオを観た(2019/5/26)。ついでに海を眺めようと歩いていくとポールさんが居て、今年のあと2回の日本ツアーのことや最近のビザ問題について話をした。

David Murray (ts, bcl)
Ingebrigt Haker Flaten (b)
Paal Nilssen-Love (ds)

近年のマレイは衰えて味だけ残ったのかなと寂しくも思っていたのだが、いやそんなことはなかった。精悍で生命力に満ちているようにみえたから、本人の変化もあるかもしれない。あるいはポール・ニルセン・ラヴ、インゲブリグト・ホーケル・フラーテンというウルトラ実力者に突き上げられて、また目覚めたのかもしれない。

それにしてもマレイのテナーは唯一無二である。ちょっとピッチが外れた音、悠然とした大きなヴィブラート、独特のブルージーな節回し、過度のフラジオによる高音を中心に持ってくる豪放さ、ソウル曲でのちょっと引いた小唄的な余裕。バスクラも良い。撥音での表現も、ひとしきり吹いてもとに戻ってくるときの快感さ。どれを取ってもマレイである。

ニルセン・ラヴは、いつもの低めに据えたドラムセットに渾身の力で叩く。それはたんなるパワープレイではない。たとえばブラシも先っぽの柔軟性ではなく、根っこのしなりがサウンドになっている。この力ゆえの音の広がりが迫ってくる。

フラーテンの指のパワーも並外れているのだが、固く張られた弦がその力でたわんだり、引っぱって容赦なく離したりすることの快感がやはりある。うっかり手を出したら切断されそうだ。そしてまだ残る余裕があり、全体としてはデイヴ・ホランドを思わせる踊りのベース。この人はかなり「歌う」ソロを取るのだということが嬉しい発見だった。

マレイのオリジナル(「Acoustic Oct Funk」など)の他、なんと、ユセフ・ラティーフの「The Plum Blossom」(『The Eastern Sounds』に収録)や、ブッチ・モリスの曲も演った。ソウルの曲は何だったか。このメンバーでライヴ盤を録音してほしい。

Fuji X-E2、XF60mmF2.4

●デイヴィッド・マレイ
デイヴィッド・マレイ feat. ソール・ウィリアムズ『Blues for Memo』(2015年)
デイヴィッド・マレイ+ジェリ・アレン+テリ・リン・キャリントン『Perfection』(2015年)
デイヴィッド・マレイ・ビッグ・バンド featuring メイシー・グレイ@ブルーノート東京(2013年)
デイヴィッド・マレイ『Be My Monster Love』、『Rendezvous Suite』(2012、2009年)
ブッチ・モリス『Possible Universe / Conduction 192』(2010年)
ワールド・サキソフォン・カルテット『Yes We Can』(2009年)
デイヴィッド・マレイの映像『Saxophone Man』(2008、2010年)
デイヴィッド・マレイ『Live at the Edinburgh Jazz Festival』(2008年) 
デイヴィッド・マレイの映像『Live in Berlin』(2007年)
マル・ウォルドロン最後の録音 デイヴィッド・マレイとのデュオ『Silence』(2001年)
デイヴィッド・マレイのグレイトフル・デッド集(1996年)
デイヴィッド・マレイの映像『Live at the Village Vanguard』(1996年)
ジョルジュ・アルヴァニタス+デイヴィッド・マレイ『Tea for Two』(1990年)
デイヴィッド・マレイ『Special Quartet』(1990年)
デイヴィッド・マレイ『The London Concert』(1978年)
デイヴィッド・マレイ『Live at the Lower Manhattan Ocean Club』(1977年)

●インゲブリグト・ホーケル・フラーテン
ロッテ・アンカー+パット・トーマス+インゲブリグト・ホーケル・フラーテン+ストーレ・リアヴィーク・ソルベルグ『His Flight's at Ten』(2016年)
ジョー・マクフィー+インゲブリグト・ホーケル・フラーテン『Bricktop』(2015年)
アイスピック『Amaranth』(2014年)
ザ・シング@稲毛Candy(2013年)
インゲブリグト・ホーケル・フラーテン『Birds』(2007-08年)
スティーヴン・ガウチ(Basso Continuo)『Nidihiyasana』(2007年)
スクール・デイズ『In Our Times』(2001年)

●ポール・ニルセン・ラヴ
Arashi@稲毛Candy(2019年)
ボーンシェイカー『Fake Music』(2017年)
ペーター・ブロッツマン+スティーヴ・スウェル+ポール・ニルセン・ラヴ『Live in Copenhagen』(2016年)
ザ・シング@稲毛Candy(2013年)
ジョー・マクフィー+ポール・ニルセン・ラヴ@稲毛Candy(2013年)
ポール・ニルセン・ラヴ+ケン・ヴァンダーマーク@新宿ピットイン(2011年)
ペーター・ブロッツマン@新宿ピットイン(2011年)
ペーター・ブロッツマンの映像『Concert for Fukushima / Wels 2011』
(2011年)
ジョー・マクフィーとポール・ニルセン-ラヴとのデュオ、『明日が今日来た』(2008年)
4 Corners『Alive in Lisbon』(2007年)
ピーター・ヤンソン+ヨナス・カルハマー+ポール・ニルセン・ラヴ『Live at Glenn Miller Cafe vol.1』(2001年)
スクール・デイズ『In Our Times』(2001年)


ICP+Waterlandse Harmonie@アムステルダムBimhuis

2019-05-28 14:13:18 | アヴァンギャルド・ジャズ

アムステルダムのBimhuis(2019/5/25)。

20時に着いてみるとまだ日中みたいに明るい。Bimhuisは大きな運河に面したモダンな建物の2階にある。

目当てはミシャ・メンゲルベルク亡きあとのICP(Instant Composers Pool)。地元のオーケストラと共演する趣向で、総勢30人くらいがステージ上にぎっしり。トリスタン・ホンジンガー、メアリー・オリヴァーらICPのメンバーだけではなく、オケの面々も混ざって前面に出ている。指揮者はときおり出てきてすっくと立ち、指揮をするが、それ以外の時間は最前列に座っている(笑)。わたしも最前列に座ったらあまりのかぶりつきでちょっと驚いた。

ICP:
Tristan Honsinger (cello)
Ab Baars (sax, cl)
Michael Moore (sax, cl)
Thomas Heberer (cor)
Wolter Wierbos (tb)
Mary Oliver (viola)
Guus Janssen (p)
Ernst Glerum (b)
Han Bennink (ds)

Waterlandse Harmonie

この日は、ミシャと、やはり故人だがオランダで活動したサックスのショーン・バージン(Sean Bergin)(トリスタン・ホンジンガー『Sketches of Probability』なんかにも参加している)の曲が演奏された。

演奏前も和やかな雰囲気で、演奏者たちが登壇しながら「Hi there」と口々に挨拶する。それが皆に伝播していって「Hi there, hi there」とおもむろに音楽になっていった。生活から自由に音楽とつながる、いきなりの自由さである。ここからICP劇場が始まった。

アブ・バースのクラはときに刺すように尖り、ときにユーモラスによじれる(ミシャの「Who's Bridge」を演った!)。マイケル・ムーアのサックスは擦れて渋く、含みがある。メアリー・オリヴァーの悠然とボスのように振る舞うヴィオラ。ピアノのフース・ヤンセンは猫のように柔らかいミシャとはまた違い、端正でありながら奇妙な音楽に溶け込んでゆく。「ドレミファソファミレ」から段々と崩し、ずれを盛り上げに変えてゆくソロは見事だった。それにトリスタン・ホンジンガーがチェロを乗せた。トロンボーンのウォルター・ウィールボスは笑いも何もすべてを音色に込めていた(1997年のベルリン・コンテンポラリー・ジャズ・オーケストラの中野ZERO公演では、いきなりデジカメで客席を撮っていた)。

トリスタンのチェロの音色は、発せられるたびに、幽玄で心のどこかを触るようである。それだけでない。かれはいきなり立って、くるくる回ったりしゃがんだりして奇妙な指揮をした。歌いもした。そしてハン・ベニンクも健在で、さほどソロの機会はなかったものの、背後にあのエネルギーの塊が動いているだけで色が付くというものだ。アンコールでのブラシも、嬉しいハンのノリだった。

この過激な自由さ。多幸感が溢れていた。

(フリッカーが出てしまった)

Fuji X-E2、XF60mmF2.4、XF35mmF1.4

●ICP
ICPオーケストラ『Bospaadje Konijnehol』の2枚(1986-91年)

●トリスタン・ホンジンガー
ジャスト・オフ『The House of Wasps』(2015年)
「KAIBUTSU LIVEs!」をエルマリート90mmで撮る(2)(2010年)
「KAIBUTSU LIVEs!」をエルマリート90mmで撮る(2007年)
トリスタン・ホンジンガー『From the Broken World』、『Sketches of Probability』(1991、96年)
セシル・テイラー『Corona』(1996年)
ICPオーケストラ『Bospaadje Konijnehol』の2枚(1986-91年)
浅川マキ『Stranger's Touch』(1989年)
1988年、ベルリンのセシル・テイラー(1988年)

●ハン・ベニンク
ハン・ベニンク『Adelante』(2016年)
ハン・ベニンク@ディスクユニオン Jazz Tokyo(2014年)
ペーター・ブロッツマンの映像『Soldier of the Road』(2011年)
ハン・ベニンク『Parken』(2009年)

ハン・ベニンク『Hazentijd』(2009年)
イレーネ・シュヴァイツァーの映像(2006年)
ハン・ベニンク キヤノン50mm/f1.8(2002年)
ハン・ベニンク+ユージン・チャドボーン『21 Years Later』(2000年)
エリック・ドルフィーの映像『Last Date』(1991年)
ICPオーケストラ『Bospaadje Konijnehol』の2枚(1986-91年)
レオ・キュイパーズ『Heavy Days Are Here Again』(1981年)
レオ・キュイパーズ『Corners』(1981年)
ペーター・コヴァルトのソロ、デュオ(1981、91、98年)
アネット・ピーコック+ポール・ブレイ『Dual Unity』(1970年)
ウェス・モンゴメリーの1965年の映像(1965年)

●ミシャ・メンゲルベルグ
ハン・ベニンク『Hazentijd』(2009年)
横井一江『アヴァンギャルド・ジャズ ヨーロッパ・フリーの軌跡』(2011年) 
ICPオーケストラ『Bospaadje Konijnehol』の2枚(1986-91年)
カンパニー『Fictions』(1977年)


カーラ・ブレイ@ケルンStadtgarten

2019-05-25 14:19:27 | アヴァンギャルド・ジャズ

2月にドイツに来たときにサックスのフローリアン・ヴァルターが送ってくれたリンク集を一応確認していたら(ジャズ旅のつもりではないので)、到着する日にカーラ・ブレイが演奏する(2019/5/24)。驚いてすぐに予約した。

カーラは昨年は韓国まで来たが日本には立ち寄らなかったし、スティーヴ・スワロウはスティーヴ・キューンのトリオで来日するはずが(2年前?)、キューンの怪我で中止になった。アンディ・シェパードは9年前にパリのSunsetで観て以来である。そんなわけで思わぬ機会が出来てとても嬉しい。

デュッセルドルフの宿に荷物を置いて、ダンスの皆藤千香子さんと少しおしゃべりして、駅のLe Crobagというフランス風の店でコーヒーとサンドイッチを買って、すぐに電車でケルンに向かった。立ち見も出た。この場所で演奏するのは25年ぶりだそうで、隣の席に座った人は29年前にやはりここでカーラのビッグバンドを観たんだよと嬉しそうに話してくれた(その人は、佐藤允彦とアッティラ・ゾラーとのデュオ盤が好きだそうだ)。

Carla Bley (p)
Steve Swallow (b)
Andy Sheppard (ts, ss)

カーラ・ブレイ83歳、スティーヴ・スワロウ78歳。健康など大丈夫なのかなと思ったが、それは杞憂だった。

前半はこの2、3年でカーラが作曲したものが中心。カーラの音数は多くはないが、和音を提示するたびに、深い哀しみと悦楽のカーラ色が強く展開される。そしてスワロウの音数も多くはない。ギターのような音色はエロチックに研ぎ澄まされており(氏は演奏前と休憩中に入念に確認していた)、それがカーラの音とふわりふわりと回り合う。そこには余計な力など何もない。嬉しくて泣き笑いしながら観てしまう。

62歳のアンディ・シェパードの方が、前よりも枯れたかなという印象があったが、それだって悪い印象ではない。特にテナーは大気に溶けるような感覚でとても良い。ソプラノでのノイジーなマルチフォニックもまた見事。

ファーストセットの最後に演ったカーラのオリジナル「Beautiful Telephones」はドナルド・トランプに捧げたのだとシェパードの弁、どこまで冗談なのかわからず会場も微妙な笑いが起きる。セカンドセット冒頭は「Life Goes On」だったか、それも含めて、底知れないユーモアと人生の機微とがあって、たまらない気分になった。

最後に、この日初めて他の人の曲を演った。カーラ曰く、Mr. Misteriousの曲だ、と。やはりセロニアス・モンクの「Misterioso」だった。このトリオの『Songs with Legs』と同じアレンジで、最初にテナーが新しい世界を拓くように吹いたあと、おもむろにピアノでミステリアスな世界に移行する。やがてブルージーになり、また戻ってくる。

アンコールは「Utviklingssang」。言うまでもなく渋谷毅オーケストラのレパートリーでもある名曲、わたしも含めて思い入れのある人が多いだろう。スワロウのベースからゆっくりと始まり、カーラが哀しみの和音を重ね、アンディのテナーがそれを増幅する。もう、どうしようという気持ちにしかならない。

終わってから、サインをいただけないかなと待っていたら、同好の士が何人か。チリから勉強に来ているんだという男は、『Escalator Over The Hill』のヴァイナルを大事に持ってきていた。スワロウが楽屋に招き入れてくれて、みんなにサインの場所まで指示してくれた。

Fuji X-E2、XF60mmF2.4

●カーラ・ブレイ
カーラ・ブレイ『Andando el Tiempo』(2015年)
チャーリー・ヘイデンLMO『Time/Life』(2011、15年)
カーラ・ブレイ+アンディ・シェパード+スティーヴ・スワロウ『Trios』(2012年)
カーラ・ブレイ+スティーヴ・スワロウ『DUETS』、渋谷毅オーケストラ(1988年)
スティーヴ・スワロウ『Into the Woodwork』(2011年)
ポール・ブレイ『Homage to Carla』(1992年)
ポール・ブレイ『Plays Carla Bley』(1991年)
ゲイリー・バートンのカーラ・ブレイ集『Dreams So Real』(1975年)
ザ・ジャズ・コンポーザーズ・オーケストラ(1968年)
スペイン市民戦争がいまにつながる

●スティーヴ・スワロウ
スティーヴ・キューン『To And From The Heart』(-2018年)
カーラ・ブレイ『Andando el Tiempo』(2015年)
スティーヴ・キューン『Jazz Middelheim 2015』(2015年)
カーラ・ブレイ+アンディ・シェパード+スティーヴ・スワロウ『Trios』(2012年)
チャーリー・ヘイデンLMO『Time/Life』(2011、15年)
スティーヴ・スワロウ『Into the Woodwork』(2011年)
ケニー・ホイーラー『One of Many』(2006年)
ポール・モチアン『Flight of the Blue Jay』(1996年)
日野元彦『Sailing Stone』(1991年)
ゲイリー・バートンのカーラ・ブレイ集『Dreams So Real』(1975年)
ゲイリー・バートン+スティーヴ・スワロウ『Hotel Hello』(1974年)
アート・ファーマー『Sing Me Softly of the Blues』(1966年)
ポール・ブレイ『Complete Savoy Sessions 1962-63』(1962-63年)

●アンディ・シェパード
カーラ・ブレイ『Andando el Tiempo』(2015年)
カーラ・ブレイ+アンディ・シェパード+スティーヴ・スワロウ『Trios』(2012年)
アンディ・シェパード『Surrounded by Sea』(2014年)
キース・ティペット+アンディ・シェパード『66 Shades of Lipstick』、シェパード『Trio Libero』(1990年、2012年)
アンディ・シェパード、2010年2月、パリ
ケティル・ビヨルンスタ『La notte』(2010年)
アンディ・シェパード『Movements in Color』、『In Co-Motion』(2009年、1991年)


日本ドキュメンタリストユニオン『沖縄エロス外伝 モトシンカカランヌー』

2019-05-21 00:26:34 | 沖縄

国分寺gieeにて、日本ドキュメンタリストユニオン『沖縄エロス外伝 モトシンカカランヌー』(1971年)を観る。

コザ暴動(1970年12月)前の沖縄を生々しくとらえた作品である。竹中労が『琉球共和国』で書いていて、ずっと観たいと思っていた。

上映前に、森美千代さんによる唄三線が2曲。「十九の春」は映画に登場するアケミが唄っていて、また、「海のチンボーラ―」は嘉手苅林昌による唄三線が挿入されていたからだろう。

売春婦のアケミは若い時の性暴力やいまの生活を、まるで夢の中にいるかのように語る。黒人兵の一部は軍隊や差別の問題を認識し、ブラックパンサー党に入って、場所を見つけて議論をしている(ここでオーネット・コールマン『ジャズ来るべきもの』の「Lonely Woman」がかぶせられているが、まあ、大したことではない)。堅気の市民は、コザの吉原なんかのことについて他人事のように語る。中城湾の石油備蓄基地建設への反対運動、それに関する琉球石油(現・りゅうせき)社長であった稲嶺一郎(稲嶺知事の父)による綺麗ごとの演説。

上映後に、日本ドキュメタリストユニオン(N.D.U)の井上修さんが登壇し、興味深いことを話した。

竹中労とは撮影中には会ったことがなかったこと。ビザを3か月おきに更新しなければならず、何人かで入れ替わりたちかわり沖縄に行ったこと。制作予算は社会党と羽仁五郎が援助したこと(N.D.Uの最初の作品『親に似ぬ子は鬼っ子』を羽仁氏が気に入り、『都市の論理』の印税収入を出した)。N.D.Uは早大のカメラルポルタージュ研究会と放送研究会のメンバーが集まってできたがやがて分裂したこと。メンバーは井上氏の他、布川徹郎、コザ暴動プロジェクト in 東京(2016年)にも登壇した今郁義、村瀬春樹(『誰か沖縄を知らないか』)ら。アケミと知り合ったのは、彼女が、六軒長屋を溜まり場にしていたやくざ(山原派に関係)の「スケ」であったのが縁だったこと。みんなハイミナールでラリッていたこと。録音はアカイのオープンリールを使ったこと(同録でない時代のドキュメンタリーは味があるものだ)。「十九の春」はアケミが歌ったが、後ろのほうが録れていなくて、吉田日出子に歌ってもらったこと。アケミを探しに行ったが、源氏名として多いこともあり見つからなかったこと(藤井誠二『沖縄アンダーグラウンド』に書かれている通りだ、と)。売春街の歴史をドキュメンタリーとして残すことの意義(今でも栄町や吉原の一部は残っているから、と)。

その後もライヴがあったが、事情があって聴けなかった。申し訳ない。


サインホ・ナムチラック+内橋和久@八丁堀ハウル

2019-05-20 23:45:13 | アヴァンギャルド・ジャズ

八丁堀ハウル(2019/5/20)。

Sainkho Namtchylak (voice)
Kazuhisa Uchihashi 内橋和久 (daxophone, g, effect)

トゥヴァの歌などをデュオでじっくり2セット。

サインホは、声を出すということ自体を問うかのようにして発声する。微かな囁き声、唸り声、童女の声、ホーメイ、すべてが円熟している。声に有機物が詰まっているようだ。一方の内橋さんはダクソフォンで毎回驚かせてくれる。エフェクターで大きな雰囲気を、また、素朴にして力強いリズムも創り出す。それがサインホに伝わり、声=気に反映されていることがよくわかる。

90年代に『Lost Rivers』でサインホにはじめて接し、恐怖を覚えた。サインホはその先鋭性を維持しながら、まろやかになっていった。そして今回のようなルーツ回帰。素晴らしい人生の円環をみているようである。

●サインホ・ナムチラック
ユーラシアンオペラ東京2018(Incredible sound vision of Eurasia in Tokyo)@スーパーデラックス(2018年)
サインホ・ナムチラック『Like A Bird Or Spirit, Not A Face』(2016年)
サインホ・ナムチラック『TERRA』(2010年)
サインホ・ナムチラックの映像(2008年)
モスクワ・コンポーザーズ・オーケストラ feat. サインホ『Portrait of an Idealist』(2007年)
テレビドラマ版『クライマーズ・ハイ』(2003年)(大友良英+サインホ)
サインホ・ナムチラックとサックスとのデュオ(1992-96年)

●内橋和久
内橋和久+サーデット・テュルキョズ@Bar Isshee(2018年)
ユーラシアンオペラ東京2018(Incredible sound vision of Eurasia in Tokyo)@スーパーデラックス(2018年)
ロジャー・ターナー+広瀬淳二+内橋和久@公園通りクラシックス(2017年)
U9(高橋悠治+内橋和久)@新宿ピットイン(2017年)


沼田順+照内央晴+吉田隆一@なってるハウス

2019-05-20 07:59:12 | アヴァンギャルド・ジャズ

入谷のなってるハウス(2019/5/19)。昼間でお祭りもやっていて良い雰囲気だが、赤いドアを開けるとそこは地下音楽の世界。

Jun Numata 沼田順 (g, electronics)
Hisaharu Teruuchi 照内央晴 (p, pig, bell)
Ryuichi Yoshida 吉田隆一 (bs, bell)

この3人とは?と驚かされた前回のギグからはや1年が経つ。そのときは、「めちゃくちゃにしよう」という過度の策動によって、次へのポテンシャルが期待されるものとなった。

ファーストセットでは、意外なほどに三者の音が前へ前へと押し出され、大きな奔流を作った。吉田さんのウェットな轟音、ピアノとしてはそれに応じるために堅い和音を次々に積み重ねてゆく。沼田社長はずっとピピピピピという目覚まし時計のような音を出している(ご本人は「バリトンサックスの音かと思った」と謎のコメント)。照内さんのピアノもそれに呼応してか横方向に音を散らした。

セカンドセットでは、序盤は照内さんのピアニズムが支配的かと思われた。しかしふたりも呼応し、轟音だけではない複層的なサウンドを構築してゆく。合間合間に吉田さんが鳴らす鐘の音もまたサウンドの小さな亀裂となっていて良い。

このまま多様化を続けるのかと思っていると、照内さんが動いた。何を考えてか不敵な笑みを浮かべ、どこからか豚ちゃんを取りだし、腹を押してぶぎゅーぶぎょーと鳴かせる(どちらかというと豚の虐待にみえた)。轟音が止まり空間ができるたびに豚ソロが聴こえる。吉田さんはどう見ても笑いをこらえているように見える。だがその挑発に負ける面々ではない。バリサクは高いエネルギーをウェットに維持した(ときおり右手を招き猫みたいに振り上げるのはどういうことだろう。ガトー・バルビエリ化への一歩か)。沼田社長の音はここにきて、やはりというか、奇妙に懐かしい雰囲気を感じさせた。硬い大理石を叩くかのようなピアノの音とともに、静まって終わった。

次はまた1年後か。

Fuji X-E2、7Artisans 12mmF2.8、XF60mmF2.4

●沼田順
mn+小埜涼子@七針(2019年)
mn+武田理沙@七針(2019年)
沼田順+照内央晴+吉田隆一@なってるハウス(2018年)
中村としまる+沼田順『The First Album』(2017年)
RUINS、MELT-BANANA、MN @小岩bushbash(2017年)
内田静男+橋本孝之、中村としまる+沼田順@神保町試聴室(2017年) 

●照内央晴
吉久昌樹+照内央晴@阿佐ヶ谷ヴィオロン(2019年)
照内央晴、荻野やすよし、吉久昌樹、小沢あき@なってるハウス(2019年)
照内央晴+方波見智子@なってるハウス(2019年)
クレイグ・ペデルセン+エリザベス・ミラー+吉本裕美子+照内央晴@高円寺グッドマン(2018年)
照内央晴+川島誠@山猫軒(2018年)
沼田順+照内央晴+吉田隆一@なってるハウス(2018年)
『終わりなき歌 石内矢巳 花詩集III』@阿佐ヶ谷ヴィオロン(2018年)
Cool Meeting vol.1@cooljojo(2018年)
Wavebender、照内央晴+松本ちはや@なってるハウス(2018年)
フローリアン・ヴァルター+照内央晴+方波見智子+加藤綾子+田中奈美@なってるハウス(2017年)
ネッド・マックガウエン即興セッション@神保町試聴室(2017年)
照内央晴・松本ちはや《哀しみさえも星となりて》 CD発売記念コンサートツアー Final(JazzTokyo)(2017年)
照内央晴+松本ちはや、VOBトリオ@なってるハウス(2017年)
照内央晴・松本ちはや『哀しみさえも星となりて』@船橋きららホール(2017年)
照内央晴・松本ちはや『哀しみさえも星となりて』(JazzTokyo)(2016年)
照内央晴「九月に~即興演奏とダンスの夜 茶会記篇」@喫茶茶会記(JazzTokyo)(2016年)
田村夏樹+3人のピアニスト@なってるハウス(2016年)

●吉田隆一
吉田隆一ソロ@なってるハウス(2019年)
吉田隆一ソロ@T-BONE(2018年)
沼田順+照内央晴+吉田隆一@なってるハウス(2018年)
藤井郷子オーケストラ東京@新宿ピットイン(2018年)
MoGoToYoYo@新宿ピットイン(2017年)
秘宝感とblacksheep@新宿ピットイン(2012年)
『blacksheep 2』(2011年)
吉田隆一+石田幹雄『霞』(2009年)


ジャン・サスポータス+矢萩竜太郎+熊坂路得子@いずるば(齋藤徹さんの不在の在)

2019-05-19 09:24:01 | アヴァンギャルド・ジャズ

大田区のいずるば(2019/5/18)。

Jean Sasportes (dance)
Ryotaro Yahagi 矢萩竜太郎 (dance)
Rutsuko Kumasaka 熊坂路得子 (accordion)

ジャン・サスポータスのダンスを観るのは、2013年に齋藤徹さんが行ったプロジェクト『ユーラシアンエコーズII』以来だ。ヴィム・ヴェンダース『Pina』に愛犬スロッギーとともに登場するジャンさんも観た。ジャンさんは、テツさんの具合が良くないこともあって、急遽来日したのだった。そんなことを、ドイツに住むダンスの皆藤千香子さんからも聴いた。

会場に入ると、ジャンさん、矢萩竜太郎さん、熊坂路得子さんの3人がストレッチのような体操をしている。楽しそうだ。

始まる前には、竜太郎さんのアイデアで、皆で目を瞑ってテツさんに祈りを捧げた。ここからの休憩なしのパフォーマンスには大きな驚きがあった。路得子さんはふたりを見つめて優しくアコーディオンで介入する、千夜一夜物語の跳ねる魚のように。竜太郎さんは身体にも気持ちにもとても柔らかいバネがあるように跳ね円環を描いた。

そして、ジャンさんの踊りである。動きも佇まいも明らかに何かを超えている。静かで変わった動きもするのに欲や作為が皆無であり、そこに存在することの必然性がものすごい力で伝わってくる。ダンスを観てこんなふうに動かされたのははじめてだ。

終盤、ジャンさんは観客を次々に招き入れては一緒に舞った。ダンサーもそうでない人もいただろう。子どもも、竜太郎さんのお父さんも。路得子さんも竜太郎さんも、躍るみなさんも笑っている。共に在ることへの礼讃である。

実はこのとき、既にテツさんは亡くなっていた。公演が終わるまでは伏せておかれたのだろう。しかしここにはテツさんが確実にいた。おそらくこれからも色々な場にいることだろう。テツさん、安らかに。

Fuji X-E2、XF60mmF2.4、7artisans 12mmF2.8

●ジャン・サスポータス
映像『ユーラシアンエコーズII』(2013年)
ユーラシアンエコーズ第2章
(2013年)

●矢荻竜太郎
齋藤徹+久田舜一郎@いずるば(2019年)
齋藤徹+沢井一恵@いずるば(JazzTokyo)(2019年)
近藤真左典『ぼくのからだはこういうこと』、矢荻竜太郎+齋藤徹@いずるば(2019年)
即興パフォーマンス in いずるば 『今 ここ わたし 2017 ドイツ×日本』(2017年)
齋藤徹+かみむら泰一、+喜多直毅、+矢萩竜太郎(JazzTokyo)(2015-16年)
齋藤徹、2009年5月、東中野(2009年)

●熊坂路得子
酒井俊+会田桃子+熊坂路得子@Sweet Rain(2018年)
うたものシスターズ with ダンディーズ『Live at 音や金時』(2017年)
TUMO featuring 熊坂路得子@Bar Isshee(2017年)
『小林裕児と森』ライヴペインティング@日本橋三越(2017年)


リッキー・リー・ジョーンズ@オーチャードホール

2019-05-18 09:43:06 | ポップス

渋谷のオーチャードホール(2019/5/17)。たぶん数回しか来たことがない。当時の皇太子夫妻が観に来たキース・ジャレットのスタンダーズとかオーネット・コールマンとか。指定席に着いてみるとかなり遠く、わたしの視力ではリッキー・リー・ジョーンズの表情などわからない。しかしそれでいいのだ。

Rickie Lee Jones (vo, g, p)
Cliff Hines (g, vo)
Mike Dillon (vib, perc, vo)

はじめはマイク・ディロンの個人技からであり、ヴァイブも演奏することで、まったりとしそうな雰囲気で目が醒める。

リッキー・リー・ジョーンズは不器用そうなMCを差し挟んでは、知っている曲も知らない曲も歌った。「Weasel and the White Boys」だとか「Flying Cowboys」、そしてヒット曲の「Chuck E's in Love」、「It Must Be Love」。ちょっと鼻声で気持ちよく透き通る歌声は衰えておらず、ちょっと驚いた。いやカッコいいな。新アルバムからはバッド・カンパニー。聴こう。

●リッキー・リー・ジョーンズ
リッキー・リー・ジョーンズ『Pop Pop』と『Pop Pop at Guthrie Theater 1991』
(1991年)


小林裕児展『馬のいる』@檜画廊

2019-05-17 07:44:06 | アート・映画

神保町すずらん通りの檜画廊にて、小林裕児展『馬のいる』。

馬が登場する絵ばかりである。

馬に乗ったり近づいたりする人たちはそれぞれに飛翔している。上に横に、ななめ下に。身をのけぞらせてもいる。

馬の体温や不思議な顔の向こう側の思考と人の飛翔との出逢いが脳内に伝染して、ギャラリーを出てもまだ気持ちはひらりひらり。

●小林裕児
小林裕児展『田園の秘密』@ギャラリー椿(2018年)
『小林裕児と森』ライヴペインティング@日本橋三越(2017年)
小林裕児個展『ドローイングとスケッチブック』@檜画廊(2017年)
齋藤徹『TRAVESSIA』(2016年)
齋藤徹+かみむら泰一、+喜多直毅、+矢萩竜太郎(JazzTokyo)(2015-16年)


チェット・ベイカー『& The Boto Brasilian Quartet』

2019-05-17 00:59:07 | アヴァンギャルド・ジャズ

チェット・ベイカー『& The Boto Brasilian Quartet』(Dreyfus、1980年)を聴く。

Chet Baker (tp, vo)
Richard Galliano (accordion)
Rique Pantoja Leite (p)
Michel Peyratoux (b-g)
Josè Boto (ds)

先日、ピアノの照内央晴さんが貸してくれた。ちょうどギターの吉久昌樹さんが照内さんに返すところだった。

ほとんどこのピアニスト氏の曲を演り、アコーディオンのリシャール・ガリアーノが参加している。チェット・ベイカーにしてみればちょっと異色盤か。(ところでガリアーノもフランス出身だし、何がBrasilianなのかわからない。ドラムスのホセ・ボトがそうなのか。)

しかし何の曲であっても、チェットはチェット。トランペットにも声にも弱さの美学があって、聴いているともう厭になってきたりもするのだが、その哀しさこそチェット。わかった気になっていないでまたチェットを聴こうかな。

●チェット・ベイカー
ロバート・バドロー『ブルーに生まれついて』(2015年)
ブルース・ウェーバー『Let's Get Lost』(1988年)
チェット・ベイカー+ポール・ブレイ『Diane』(1985年)


クニ三上@東京倶楽部

2019-05-16 00:47:12 | アヴァンギャルド・ジャズ

水道橋の東京倶楽部(2019/5/15)。

Kuni Mikami クニ三上 (p)
Satoshi Ikeda 池田聡 (b)
Tomoyuki Okabe 岡部朋幸 (ds)

NY暮らしの長いクニ三上さんについては、名前は知っていたのだが、こうして聴く機会はなかった。先日ある偶然から今回のライヴのことを知り、この店に20年ぶりくらいに足を運んだ次第。

最初の「Old Devil Moon」においてタッチの軽さに驚く。そのあかぬけた洒脱さは、「Prelude to a Kiss」でもみられた。演奏中に店の電話が鳴ったのだが、三上さんは電話のコールを真似し次の展開につなげていく。余裕すぎて感心するのみである。「Danny Boy」では池田聡さん(池田芳夫さんのご子息)のベースと微妙に合わせる巧さをみせ、そのまま「おたまじゃくしは蛙の子」(ヨドバシカメラを思い出すのは仕方がない)に移って気持ち良いスイング。

ここで、三上さんが両手にピンポン玉を握ったり置いたりしていることに気が付いた。どうやら握ることで親指と小指の動きを自ら封じ、それによりシンプルで小気味の良い音を出しているようなのだった。逆に封印を解くと音が横に拡がり、これもまた気持ちが良い。

バッハ曲でも岡部さんのブラシが良かったのだが、さらに「Memories of You」ではいきなりドラムソロでと三上さんに無茶振りされ、見事に歌心のあるソロを取った。三上さんは過度に弾かない時間も多く、「Satin Doll」や「One Note Samba」などでのバッキングがアーマッド・ジャマルを思わせた。

セカンドセットは、奇妙なコードでの「The Sidewinder」から。「Nearness of You」などをはさみ、やはりちょっとトリッキーな「Take Five」では終盤に別の曲に移るのかどうなのかわからない展開で、池田さんのベースがやや困っていた(それも愉しい)。静かにゆったりと始まる「It's Only a Paper Moon」では和音が次第にゴージャスに重ねられてゆき、さらに軽快になってからピンポン玉を棄てて両側の指解禁、さらに音が拡がった。「My Foolish Heart」や「Yesterday」での工夫があり、最後はきらびやかでもブルージーでもゴキゲンでもある「Moanin'」。

余裕も技もあるエンタテインメントは良いものだ。

Fuji X-E2、XF60mmF2.4


アンドレ・マルケス@MUSICASA

2019-05-15 07:54:45 | 中南米

代々木上原のMUSICASA(2019/5/14)。

André Marques (p)

エルメート・パスコアールのグループの一員として来日しているアンドレ・マルケス、1日だけのソロピアノである。

マルケスは知的にきっちりとした旋律を弾き始める。毎回それはとどまることなく発展を続け、端正さとはしゃぎとが両立した演奏となってゆく。丁寧に作られた寄木細工の各部分が、自律的に予想外の動きをみせるような感覚である。マルケスは足踏みさえもそのように行う。

16歳のときに祖母に捧げて作曲したというオリジナルや、「Desafinado」や、エルメートの「O OVO」(『Viva Hermeto』の冒頭曲)なんかを演奏した。エルメートとはもう15年ほど共演しているそうであり、オリジナルでも、装飾音というには強烈すぎるエルメート・フレーズが飛び出してくる。

もちろんグループの中でも光を放っているマルケスのソロに向き合うわけだから、素晴らしいことははじめからわかっている。それにしても期待を超えるパフォーマンスにちょっと興奮した。

『Viva Hermeto』にサインを頂戴した。
 
 

マリオン・ブラウン+デイヴ・バレル『Live at the Black Musicians' Conference, 1981』

2019-05-14 08:26:03 | アヴァンギャルド・ジャズ

マリオン・ブラウン+デイヴ・バレル『Live at the Black Musicians' Conference, 1981』(No Business、1981年)を聴く。最近の発掘盤である。

Marion Brown (as)
Dave Burrell (p)

マリオン・ブラウンはこれまでもよく聴いてきたはずなのに唖然とする。弱弱しく音色が一定しないアルト、それが抒情を伴うという強烈な個性。しかしいきなり人が変わったように吹きまくったりしていて、「La Placita」なんて嬉しくて悶えてしまう。あまりにもマリオンがマリオンなので、デイヴ・バレルが耳に残ってこない。

●マリオン・ブラウン
マリオン・ブラウンが亡くなった(2010年)
November Cotton Flower(1979年)
マリオン・ブラウン『Five Improvisations』(1977年)
ロヴァ・サクソフォン・カルテットとジョン・コルトレーンの『Ascension』(1965、1995年)

●デイヴ・バレル
スティーヴ・スウェル『Soul Travelers』(2016年)
デイヴ・バレル『Conception』(2013年)
ウィリアム・パーカー『Essence of Ellington / Live in Milano』(2012年)
サニー・マレイ『Perles Noires Vol. I & II』(2002、04年)
ザ・360ディグリー・ミュージック・エクスペリエンス『In: Sanity』(1976年)