Sightsong

自縄自縛日記

小田切一巳『突撃神風特攻隊』

2019-08-31 08:43:34 | アヴァンギャルド・ジャズ

小田切一巳『突撃神風特攻隊』(Aketa's Disk、1976年)を聴く。

Kazumi Odagiri 小田切一巳 (ts, ss)
Koichi Yamazaki 山崎弘一 (b)
Kenichi Kameyama 亀山賢一 (ds)

極めて真面目で神経質で31歳で亡くなった、ということが必ず付記されるけれど、それを忘れても本盤は傑作である。自意識とクリシェと出てきた音との孤独な闘いであるようなサックスソロには迫りくるものがある。その切迫感はトリオでも変わらない。

これまで、森山威男『Hush-a-Bye』(Union Records、1978年)でのみ聴いていて、音色が繊細に変わるサックスだなという印象にとどまっていた。今回の再発で聴くことができてよかった。

Takeo Moriyama 森山威男 (ds)
Kazumi Odagiri 小田切一巳 (ts, ss)
Fumio Itabashi 板橋文夫 (p)
Hideaki Mochizuki 望月英明 (b)
Shigeharu Mukai 向井滋春 (tb)


山田健太『沖縄報道』

2019-08-29 23:13:42 | 沖縄

山田健太『沖縄報道―日本のジャーナリズムの現在』(ちくま新書、2018年)を読む。

戦後現在に至るまでの沖縄におけるひどい事件と状況を追いかけている者にとっては、本書で整理されている情報は言ってみれば復習である。しかし復習であっても、いかにひどいかをあらためて思い知らされる。沖縄は日本にとってそのような場所であり続けてきた。

では報道はどうか。数字で事件ごとの報道量を示されると一目瞭然である。日本、とくに産経や読売は、都合の悪いことをほとんど報道せず、都合のよいことが起きると急に情報量を増やしている。政府がメディアへの介入のタテマエに使う公平で客観的な報道など、最初からないのである。もっと広く言えば、「数量平等原理」が報道においても教育においても悪用されている。

そのような中で、沖縄において琉球新報と沖縄タイムスという二大紙が存在することが如何に健全なことか、よくわかる。そしてそれゆえに、沖縄のメディアはおかしな政府の動きに極めて敏感であり続けている。

「沖縄が「闘っている」ものは、かつては米軍であり、国民の無関心であったといえようが、いまは日本政府であり、本土の偏見であり、そして県民の亀裂にかわってきている。」

「ジャーナリズム倫理として、「公正さ」は大切な基準であるといえ、その公正さとは、真ん中をさすのでも中庸をさすのでもなく、むしろ社会に埋もれがちな小さな声を拾うことや、弱い者の側に立つことを指す概念だからだ。これからすると、沖縄二紙の紙面編集方針が、公正さを実践する報道であることがわかるのであって、「偏向」報道批判は誤った解釈に基づくものといえる。」

●参照
森口豁『紙ハブと呼ばれた男 沖縄言論人・池宮城秀意の反骨』(1995/2019年)
島洋子『女性記者が見る基地・沖縄』(2016年)
三上智恵・島洋子『女子力で読み解く基地神話』(2016年)
島洋子さん・宮城栄作さん講演「沖縄県紙への権力の圧力と本土メディア」(2014年)


ハービー・ハンコック『Nice Jazz Festival 1987』

2019-08-29 22:07:17 | アヴァンギャルド・ジャズ

ハービー・ハンコック『Nice Jazz Festival 1987』(Jazz Time、1987年)を聴く。

Herbie Hancock (p)
Buster Williams (b)
Al Foster (ds)

アル・フォスターの豪放なドラムスが嬉しい。今となってはベタなロン・カーター、トニー・ウィリアムスとのトリオよりも良いんじゃないかと思える。ハービーがファンク路線もやりつつ、アコースティックピアノも商売ではない意気で弾いていたのだという証拠。

ジーン・ジャクソンがハービーのグループに入るのは1991年、ジーンとの傑作ピアノトリオ『Herbie Hancock Trio 1993』を吹き込むのはその後である。「Just One of Those Things」を聴き比べると、ジーンとアル・フォスターの個性の違いが浮かび上がってくる。

これも公式盤ではなかったし、ハービーはこの手の演奏を作品として残したい気持ちが希薄だったのかな。勿体ない。

●ハービー・ハンコック
ハービー・ハンコック『Jazz in Marciac 2017』(2017年)
小沼ようすけ+グレゴリー・プリヴァ、挟間美帆 plus 十@Jazz Auditoria(2017年)
ドン・チードル『MILES AHEAD マイルス・デイヴィス空白の5年間』(2015年)
ハービー・ハンコックの2014年来日ライヴ(2014年)
『A Tribute to Miles Davis』(1992年)
ジョージ川口『Plays Herbie Hancock』(1987年)

ベルトラン・タヴェルニエ『ラウンド・ミッドナイト』(1986年)
ハービー・ハンコック『VSOP II TOKYO 1983』(1983年)
ハービー・ハンコック『Chicago 1981』(1981年)
ハービー・ハンコック『Velden 1981』(1981年)
ジャッキー・マクリーン『The Complete Blue Note 1964-66 Jackie McLean Sessions』(1964-66年)
マイルス・デイヴィスの1964年日本ライヴと魔人(1964年) 


Ortance@荻窪ベルベットサン

2019-08-28 07:33:30 | アヴァンギャルド・ジャズ

荻窪のベルベットサン(2019/8/27)。リニューアルされて随分オシャレな雰囲気になっている。満席で立ち見もたくさんいたが運よく座ることができた。

Ortance:
Masayasu Tzboguchi 坪口昌恭 (synth, p)
Shuta Nishida 西田修大 (g, effect)
kazuya Oi 大井一彌 (ds, effect)

演奏はフライング・ロータス、リチャード・スペイヴンの曲に続きオリジナル群。

坪口さんの七色のキーボードが次々に色付けをする異次元感には圧倒されるし、それだけに、ときに弾くピアノにはたいへんな色気がある。西田さんのギターとエフェクトはその上で舞う狂った蝶のようだ。大井さんのドラムスは叩くというアクションを叩いた音とともに提示する複層構造(エチオピアのカレーは、スパイスを噛んだときにそれがスパイスであることを再認識させる)。

曲は数学的でグラフィカルに構築されているのに、それを3人が実に愉しそうにすべて人力で描いてゆく面白さがある。それは単なるアクロバチックな快感ではない。精緻さとアナログな揺れ動きとが常に混淆している感覚。

Fuji X-E2、XF60mmF2.4

●坪口昌恭
The Music of Anthony Braxton ~ アンソニー・ブラクストン勉強会&ライヴ@KAKULULU、公園通りクラシックス(JazzTokyo)(2019年)
東京ザヴィヌルバッハ・スペシャル@渋谷The Room(2018年)
ホセ・ジェイムズ@新宿タワーレコード
(2015年)


キース・ジャレット『Tribute to Miles』

2019-08-26 22:52:08 | アヴァンギャルド・ジャズ

キース・ジャレット『Tribute to Miles』(Jazz Time、1992年)を聴く。

Keith Jarrett (p)
Gary Peacock (b)
Jack DeJohnette (ds)

このスタンダーズ・トリオにより、亡くなったばかりのマイルス・デイヴィスに捧げる『Bye Bye Blackbird』が吹き込まれたのが1991年10月12日。リリースされた盤を聴いたとき、あまりにもキースのプレイがシンプルになっていて、肩すかしをくらった気がした。わたしは絢爛豪華なキースのピアノが好きだった。

とは言え特別な存在であるから、1993年7月25日のよみうりランドのコンサートには駆けつけた。そのときの印象もアルバムとはさほど変わらない。だが四半世紀が経っても忘れられない、悦びに満ちたライヴだった。そしてこの2枚組の盤は、よみうりランドからちょうど1年前の録音なのだ。

ちょっと驚いたことに、91年と93年の間にあって、それらよりもアグレッシブだ。キースも揺れ動いていたのかもしれない。キースの弾く「Basin Street Blues」は『At The Deer Head Inn』(1992年9月16日)における演奏がとても好きだが、それは珍しくドラムスがポール・モチアン。本盤のジャック・デジョネットとの違いがサウンドの違いそのものであるように思える。

●キース・ジャレット
キース・ジャレット『Festival de jazz d'Antibes 1985』、『Canada '84 Japan '86』、『Live in Sendai 1986』(1985-86年)
キース・ジャレット『North Sea Standards』(1985年)
キース・ジャレット『Standards Live』(1985年)
ピーター・ブルック『注目すべき人々との出会い』、クリストのドキュ、キース・ジャレットのグルジェフ集 (1980年)
キース・ジャレット『Staircase』、『Concerts』(1976、81年)
キース・ジャレット『Eyes of the Heart』(1976年)
キース・ジャレットのインパルス盤(1975-76年)
キース・ジャレット『Arbour Zena』(1975年)
キース・ジャレット『Solo Performance New York '75』(1975年)
キース・ジャレット『The New York Concert』(1975年)
キース・ジャレット『The Bremen Concert』(1975年)
70年代のキース・ジャレットの映像(1972、76年)
1972年6月のキース・ジャレット・トリオ(1972年)
キース・ジャレット+チャーリー・ヘイデン+ポール・モチアン『Hamburg '72』(1972年)
キース・ジャレット『Facing You』(1971年)
チャールス・ロイド『Live... 1966』(1966年)


佐々木幹『リハビリ 生きる力を引き出す』

2019-08-25 10:27:17 | もろもろ

佐々木幹『リハビリ 生きる力を引き出す』(岩波新書、2019年)を読む。

生きていると病気を抱え込んでしまう人が周りに何人も。

自分も大きな病気をして、幸いリハビリが必要というものではなかったけれど、それは運がそのように転んだ結果に過ぎない。今後だってそうだし、誰だってそうである。年齢や生活環境にはあまり関係がない。親しくなってみると実はわたしも、と共有してくれる人も少なくない。

悲しさも不自由もすべて人生の親戚(大江健三郎の本をそのたびに思い出す)、リハビリも人生の親戚とともに生活する過程かもしれない。

本書を読んでいてあらためて思ったことは、病気とは単なる機能不全ではないということだ。機能不全を望ましくないことのように言うなら、誰しもそれを潜在的に抱えている。人間をそんなくだらぬ機能の比較によって評価してはならない。そして重要なことは、リハビリという過程そのものを「望ましい状況」への無駄な時間ととらえるべきではないこと、他者の認識も自分自身の思考も極めて重要であること。これを著者は主体性と呼んでいる。


安保徹+松井節子+小杉敏+村田憲一郎@行徳ホットハウス

2019-08-25 09:36:08 | アヴァンギャルド・ジャズ

行徳のホットハウス(2019/8/24)。

Toru Ambo 安保徹 (ts)
Setsuko Matsui 松井節子 (p)

Satoshi Kosugi 小杉敏 (b)
Kenichiro Murata 村田憲一郎 (ds)

実は安保徹さんを観たかったのだ。前回はと思い出すと、たぶん90年代半ばに新宿ピットインやNARUで椎名豊さんとの共演を観た記憶があるからもう20年以上が経っている。

その際のテナーの印象は、固い音色で積み木のようにソロを構築していくようなものだった。久しぶりに近くで聴くと、微妙にかすれ、微妙に裏返り、ケレンのない音。デクスター・ゴードンの「Cheese Cake」では同じ音をデックス的に繰り返し、しかしデックスほどにはレイドバックせず、安保さんのいいテナー。

「It Could Happen to You」、「All The Things You Are」、「Body And Soul」、「Blue Monk」。セカンドセットからリクエストに応じて、トリオでの「Begin the Beguine」(松井さんのこの曲の演奏については平岡正明が絶賛している)、「Easy Living」(わたしがリクエスト)、「Wave」、「Cheese Cake」。ふたたび自分たちで選んで、「I Should Care」、「Perdido」。そして松井さんが時間がないときっぱりと言い放って「Goodbye」。

松井さんも元気で、細かいことに拘泥せずクールに切り上げるソロを聴くことができた。いやカッチョいい。

来るたびに人を紹介してもらったり、ベトナムやキューバのお土産をいただいたりと、本当にいい感じのお店。

Fuji X-E2、XF60mmF2.4

●参照
澤田一範+松井節子+小杉敏+村田憲一郎@行徳ホットハウス(2019年)
中村誠一+松井節子+小杉敏+村田憲一郎@行徳ホットハウス
(2018年)


HIROKI BAND@南青山ZIMAGINE

2019-08-25 08:47:55 | アヴァンギャルド・ジャズ

南青山のZIMAGINE(2019/8/24)。

Koichi Hiroki 廣木光一 (g)
Nobumasa Tanaka 田中信正 (p)
Masaharu Iida 飯田雅春 (b)
Kazuko Habu 羽生一子 (ds)

このメンバーで悪いわけはないのだが、期待を上回る興奮と満足。

最初はミンガスの「Goodbye Pork Pie Hat」から始まった。ちょっとしたドラムスの変化によってピアノが音風景を変えたのには目が醒めてしまった(暑くてぐったりしていた)。続いて、「I Remember You」をクールジャズのコンセプトで書き換えたという「Remember Jojo」。それはまさにトリスターノ~コニッツ、またタイトルの通り高柳昌行の解釈を踏まえた再解釈で、淡々と研ぎ澄まされた廣木さんのギターと他とのユニゾンが良い。飯田さんは「Our Love Is Here To Stay」を引用したような気持ちの良いソロを弾いた。

廣木さんのオリジナル「白いシクラメン」では田中さんのここまで拡がるかという煌びやかなピアノに驚かされる。シコ・ブアルキの「ウ・キ・セラ」は飯田さんのベースソロからはじまった。それはあたたかく残響を効かせていた。羽生さんは頻繁にギアを入れ替えた。

セカンドセットはスティーヴ・スワロウの「Ladies in Mercedes」から。繰り返し快感という地獄に向かうスワロウらしい曲、これにHIROKI BANDのサウンドはとても合っているように思えた。題名のまだないオリジナルのあとのやはりオリジナル「Otaru Shibuya Yokohama」では、みんなノリノリで、羽生さんがシンバルの上を叩くことによる尖ったパルスが刺激剤となった。

驚いたことに、ここで「涙そうそう」。先日の終戦記念日には、廣木さんは一日中YouTubeで夏川りみのクリップを観ていたという。と照れながらメンバー全員が一緒に出て、不協和音もはさんだピアノソロ。音をぎちぎちに詰め込んだベースソロではメロディを風のように使ったりもした。最後のオリジナルではふたたび目が醒めるドラムソロ、それは硬く光る切子グラスを思わせた。

廣木さんや飯田さんと、齋藤徹さんの話をすこし。飯田さんの初吹き込みは徹さんの『アウセンシャス』だった。

Fuji X-E2、7Artisans 12mmF2.8、XF60mmF2.4

●廣木光一
廣木光一+渋谷毅『Águas De Maio 五月の雨』(2018年)
廣木光一+永武幹子@cooljojo(2018年)

高田ひろ子+廣木光一@本八幡cooljojo(2017年)
安ヵ川大樹+廣木光一@本八幡Cooljojo(2016年)
吉野弘志+中牟礼貞則+廣木光一@本八幡Cooljojo(2016年)
廣木光一+渋谷毅@本八幡Cooljojo(2016年)
Cooljojo Open記念Live~HIT(廣木光一トリオ)(JazzTokyo)(2016年)
廣木光一(HIT)@本八幡cooljojo(2016年)
廣木光一『Everything Shared』(2000年)
廣木光一『Tango Improvisado』(1995年)

●飯田雅春
廣木光一(HIT)@本八幡cooljojo(2016年)

●田中信正
森山威男 NEW YEAR SPECIAL 2019 その2@新宿ピットイン(2019年)
纐纈雅代トリオ@新宿ピットイン(2017年)
森山威男3Days@新宿ピットイン(2017年)
喜多直毅+田中信正『Contigo en La Distancia』(2016年)
松風鉱一トリオ@Lindenbaum(2008年)
廣木光一『Everything Shared』(2000年)

 


李世揚+瀬尾高志+細井徳太郎+レオナ@神保町試聴室

2019-08-24 08:57:37 | アヴァンギャルド・ジャズ

神保町試聴室(2019/8/23)。

Shih-Yang Lee 李世揚 (p, melodica) 
Takashi Seo 瀬尾高志 (b)
Tokutaro Hosoi 細井徳太郎 (g, effect)
Reona レオナ (tap)

シーヤンさんのタッチは強い。と、先日かれと共演したばかりのサックスの古川忠幸さんが言っていて、確かに最初の強く跳躍する瀬尾さんとのデュオで強く印象付けられるものだった。手の内をそろそろと出すような感じは、4人の共演になってどこかに飛んでいった。ピアノやコントラバスを遊ぶように叩き、タップの板とギターを擦るようにはじまり、そのあとは4人とも溜めていた力を放出させた。

セカンドセットはピアノソロから始まったのだが、キース・ジャレットかというような美しい旋律を弾いてくるところでまた驚かされる。それでいてためらいなく激しいインプロに突入するのだから面白い。

レオナさんとのデュオになり、やがて、細井さんが入り、次に瀬尾さんが入って、また4人になった。ここでの愉しさと激しさはファーストセットを凌駕した。レオナさんは悠然と次に出す音を選んでいた。細井さんは音の合間に狂った歪みを挿しはさんだ。4人を同時に眺めていると、全員が共有するものの上で好きに跳躍していて嬉しくなった。

Fuji X-E2、XF35mmF1.4、XF60mmF2.4

●李世揚
謝明諺『上善若水 As Good As Water』(JazzTokyo)(2017年)

●レオナ
謝明諺+レオナ+松本ちはや@Bar subterraneans(JazzTokyo)(2019年)
後藤篤+レオナ@國學院大學(2018年)
晩夏のマタンゴクインテット@渋谷公園通りクラシックス(2017年)
板橋文夫+纐纈雅代+レオナ@Lady Jane(2016年)
板橋文夫『みるくゆ』(2015年)

●細井徳太郎
細井徳太郎+君島大空@下北沢Apollo(2019年)
秘密基地@東北沢OTOOTO(2019年)
謝明諺+高橋佑成+細井徳太郎+瀬尾高志@下北沢Apollo(2019年)
WaoiL@下北沢Apollo(2019年)
ヨアヒム・バーデンホルスト+シセル・ヴェラ・ペテルセン+細井徳太郎@下北沢Apollo、+外山明+大上流一@不動前Permian(2019年)
合わせ鏡一枚 with 直江実樹@阿佐ヶ谷Yellow Vision(2019年)
SMTK@下北沢Apollo(2019年)
伊藤匠+細井徳太郎+栗田妙子@吉祥寺Lilt
(2018年)


ブランフォード・マルサリス『The Secret Between The Shadow And The Soul』

2019-08-22 08:21:26 | アヴァンギャルド・ジャズ

ブランフォード・マルサリス『The Secret Between The Shadow And The Soul』(Marsalis Music、2018年)を聴く。

Branford Marsalis (sax)
Joey Calderazzo (p)
Eric Revis (b)
Justin Faulkner (ds)

最近ではブランフォード・マルサリスが話題になることも少ないし、このアルバムも出ていたことにしばらく気がつかなかった。

それにはやはり理由があって、2010年代のジャズの動きに敢えて背を向けているように見えること、またブランフォード自身のサックスやバンドのスタイルを変えていないことが大きい。かつてブランフォードが先鋭的に聴こえたのは80年代から90年代のピアノレストリオ(『Trio Jeepy』や『The Dark Keys』)だとか、R&Bやヒップホップと仲間になろうとしたアルバムだとか、だった。

本盤は典型的なカルテットで、驚いたことに、アンドリュー・ヒル(「Snake Up Waltz」)やキース・ジャレット(『Belonging』の「The Windup」!)も演奏している。しかしすべてブランフォードの、というか、マルサリスのスタイルだ。ヒルの歪みもキースの人外感もない。

でも好きである。ブランフォードのサックスはなめらかで巧く惚れ惚れするし、ジョーイ・カルデラッツォは今もまだ溌剌としている。ホントに高品質なサウンドで決して退屈ではない。

●ブランフォード・マルサリス
及部恭子+クリス・スピード@Body & Soul(2015年)
エリック・レヴィス『In Memory of Things Yet Seen』(2014年)
ハリー・コニック・ジュニア+ブランフォード・マルサリス『Occasion』(2005年)
デイヴィッド・サンボーンの映像『Best of NIGHT MUSIC』(1988-90年)


『TEST』

2019-08-22 00:38:23 | アヴァンギャルド・ジャズ

『TEST』(AUM Fidelty、1998年)を聴く。

Sabir Mateen (as, ts, fl, cl)
Daniel Carter (as, ts, tp, fl)
Tom Bruno (ds)
Matthew Heyner (b)

タリバム!のマット・モッテルが、ランチ後にマックでNYの音楽シーンの個人史のような話をしてくれて、その中に、この「TEST」というバンドが出てきた。

ベースとドラムスに管楽器がふたり、サビア・マティーンが右、ダニエル・カーターが左。ふたりとも楽器をあれこれ持ち替えているが、どれであっても個性の違いがあらわれていて面白い。マティーンはエネルギッシュに良い音で前に出てきて渦を作る。カーターは一歩引いたようで、いちど沈めてまた持ち上げたような音色で、伴奏するようなソロ。

ソリッドと言いたくなるがよく聴くと緻密な応酬である。たしかにこれが目の前で行われていたら夢中になるだろうね。

●サビア・マティーン
ウィリアム・パーカー『Essence of Ellington / Live in Milano』(2012年)
サニー・マレイ『Perles Noires Vol. I & II』(2002、04年)

●ダニエル・カーター
ダニエル・カーター+ウィリアム・パーカー+マシュー・シップ『Seraphic Light』(JazzTokyo)(2017年)
マシュー・シップ『Not Bound』(2016年)
トッド・ニコルソン+ニューマン・テイラー・ベイカー+ダニエル・カーター@6BC Garden(2015年)
ダニエル・カーター『The Dream』、ウィリアム・パーカー『Fractured Dimensions』(2006、03年)


照内央晴+加藤綾子@神保町試聴室

2019-08-21 23:22:54 | アヴァンギャルド・ジャズ

神保町試聴室(2019/8/20)。

Hisaharu Teruuchi 照内央晴 (p)
Ayako Kato 加藤綾子 (vln)

数日後に欧州に旅立つ加藤綾子さんの壮行ライヴである。いやそうじゃないかもしれないが、そんな雰囲気だった。どちらにしてもホスト役として照内央晴さんが適任者にちがいない。

ヴァイオリンは他よりも奏者によってまるで異なる音を出す楽器だが、ここで、加藤さんの多彩な音の数々にあらためて驚かされる。クラシックのバックボーンを持ち、完成された技術をもって即興シーンに参加した加藤さんは、もはや、その技術を即興に「適用」するような印象をまったく与えない。流れるような滑らかさ、踏みしめながら歩くような軋み、音からはみ出した感情の露出・・・。ピアノの音に呼応したり、ピアノとともに動いたりと、照内さんとの即興の対話もまた自然。

照内さんは静かに抑制するソロも弾き、また鍵盤を叩いて振幅を大きく取りもした。この日は内部奏法を使わず、ペダルで響きを強調することもなかった。そのこともあり、加藤さんの音とのぶつかり合いではなく、互いの重力で回転し合うように思えた。

Fuji X-E2、XF35mmF1.4、XF60mmF2.4

●加藤綾子
即興的最前線@EFAG East Factory Art Gallery(JazzTokyo)(2018年)
『終わりなき歌 石内矢巳 花詩集III』@阿佐ヶ谷ヴィオロン(2018年)
フローリアン・ヴァルター+照内央晴+方波見智子+加藤綾子+田中奈美@なってるハウス(2017年)

●照内央晴
特殊音樂祭@和光大学(JazzTokyo)(2019年)
フローリアン・ヴァルター+照内央晴@なってるハウス(2019年)
豊住芳三郎+庄子勝治+照内央晴@山猫軒(2019年)
豊住芳三郎+老丹+照内央晴@アケタの店(2019年)
豊住芳三郎+謝明諺@Candy(2019年)
沼田順+照内央晴+吉田隆一@なってるハウス(2019年)
吉久昌樹+照内央晴@阿佐ヶ谷ヴィオロン(2019年)
照内央晴、荻野やすよし、吉久昌樹、小沢あき@なってるハウス(2019年)
照内央晴+方波見智子@なってるハウス(2019年)
クレイグ・ペデルセン+エリザベス・ミラー+吉本裕美子+照内央晴@高円寺グッドマン(2018年)
照内央晴+川島誠@山猫軒(2018年)
沼田順+照内央晴+吉田隆一@なってるハウス(2018年)
『終わりなき歌 石内矢巳 花詩集III』@阿佐ヶ谷ヴィオロン(2018年)
Cool Meeting vol.1@cooljojo(2018年)
Wavebender、照内央晴+松本ちはや@なってるハウス(2018年)
フローリアン・ヴァルター+照内央晴+方波見智子+加藤綾子+田中奈美@なってるハウス(2017年)
ネッド・マックガウエン即興セッション@神保町試聴室(2017年)
照内央晴・松本ちはや《哀しみさえも星となりて》 CD発売記念コンサートツアー Final(JazzTokyo)(2017年)
照内央晴+松本ちはや、VOBトリオ@なってるハウス(2017年)
照内央晴・松本ちはや『哀しみさえも星となりて』@船橋きららホール(2017年)
照内央晴・松本ちはや『哀しみさえも星となりて』(JazzTokyo)(2016年)
照内央晴「九月に~即興演奏とダンスの夜 茶会記篇」@喫茶茶会記(JazzTokyo)(2016年)
田村夏樹+3人のピアニスト@なってるハウス(2016年)


ネナ・チェリー@ビルボード東京

2019-08-20 08:12:44 | ポップス

ミッドタウンのビルボード東京(2019/8/19)。

Neneh Cherry (vo)

6人のミュージシャンたちはハープ、ヴァイブ、ベース、ドラムス、パーカッション、パッド、キーボードなどを入れ替わっては演奏する。基本的には電気サウンドだがまったくやかましくない。そのコラージュのごとき洪水の中をネナ・チェリーが歩き踊る。「Woman」、「Manchild」、「Buffaro Stance」を歌ったが真正面からフラグメンツ化されサウンドにぶちまけられていて快感を覚える。しかもわずか2メートル先で。

ネナの声は鼓膜までダイレクトに突き通るものではない。またマチエールがすぐに個性的に感じられるわけでもない。そのあたりはCDやレコードを聴くのと同じである。だが重量をもってこちらの間合いに踏み入ってくる。存在感とはこのことだ。

●ネナ・チェリー
ネナ・チェリー+ザ・シング『The Cherry Thing』とリミックス盤
(-2012年)


細井徳太郎+君島大空@下北沢Apollo

2019-08-20 00:58:51 | アヴァンギャルド・ジャズ

下北沢のApollo(2019/8/18)。

Tokutaro Hosoi 細井徳太郎 (g, effect, vo)
Ohzora Kimishima 君島大空 (g, effect, vo)

早めに着いたし上のはやしでコーヒーでもと思っていたら行列。しかも男はほとんどいない。ヒマなので隣の女の子と話していたら、「徳井さんってどういう人ですか」と聞かれて笑った。

それはともかく、歌モノの細井さんを観たかったし、君島さんも映像で観た限りでは面白かったし、それで足を運んだわけである。しかし期待は裏切られた(良いほうに)。

はじまってからしばらくは、ふたりとも下を向いてあれこれを操作し、ノイズの饗宴。君島さんもこんな人なのかと驚いた。ふたりの音はかさなりどちらが発したのか判らないことが少なくないが、君島さんは慣性をもって加速度を音にし、細井さんは多方面に音を散らすことが多いように聴こえた。やがて君島さんの歌が浮かび上がってきた。ノイズの中からのナマの肉体であり、自傷的な印象も愉悦も覚える。

セカンドセットははじめから歌。君島さんの細やかな声が増幅され、それゆえの振れ幅のあやうい大きさがとても良い。細井さんはギターの太い音で伴奏し、コミュニティの信頼感のようなものを醸成した。「ホコリヲハイタラ」も、アンコールに持ってきた「遠視のコントラルト」も素晴らしかった。

Fuji X-E2、XF60mmF2.4

●細井徳太郎
秘密基地@東北沢OTOOTO(2019年)
謝明諺+高橋佑成+細井徳太郎+瀬尾高志@下北沢Apollo(2019年)
WaoiL@下北沢Apollo(2019年)
ヨアヒム・バーデンホルスト+シセル・ヴェラ・ペテルセン+細井徳太郎@下北沢Apollo、+外山明+大上流一@不動前Permian(2019年)
合わせ鏡一枚 with 直江実樹@阿佐ヶ谷Yellow Vision(2019年)
SMTK@下北沢Apollo(2019年)
伊藤匠+細井徳太郎+栗田妙子@吉祥寺Lilt
(2018年)