Sightsong

自縄自縛日記

チャーネット・モフェット『Bright New Day』

2019-10-30 08:03:29 | アヴァンギャルド・ジャズ

チャーネット・モフェット『Bright New Day』(Motema、2018年)を聴く。

Charnett Moffett (b)
Jana Herzen (g)
Brian Jackson (p, synth)
Scott Tixier (vln)
Mark Whitfield, Jr (ds)

どうしても四半世紀前にケニー・ギャレットの横で指を高速で動かし、アコースティックベースなのにエフェクターを足で駆使しまくっていた姿が忘れられず、チャーネット・モフェットを今も聴き続けている。突き抜けた作品は望めないことはわかっている(勝手に)。

本盤はフレットレスのベースギターである、チャーネットらしくない。だが聴いてみると本質的になにも変わらない。速いフレージングも響かせ方もチャーネットである。「O My God Elohim」や「Waterfalls」などで、味のある男の歌声のように、敢えて音を外すところも憎い。

他の腕利きたちの音も良いがチャーネットばかりを聴く。仕方がない。

●チャーネット・モフェット
チャーネット・モフェット『Music from Our Soul』(2014-15年)
デイヴィッド・マレイ+ジェリ・アレン+テリ・リン・キャリントン『Perfection』(-2015年)
マルグリュー・ミラー逝去、チャーネット・モフェット『Acoustic Trio』を聴く
ドン・プーレンのピアノトリオとシンディ・ブラックマン


タリバム!featuring 川島誠&KみかるMICO『Live in Japan / Cell Phone Bootleg』

2019-10-29 23:53:37 | アヴァンギャルド・ジャズ

タリバム!featuring 川島誠&KみかるMICO『Live in Japan / Cell Phone Bootleg』(2019年)。

Talibam!:
Matt Mottel (keytar)
Kevin Shea (ds)

Makoto Kawashima 川島誠 (as)
K.mical.mico KみかるMICO (voice, melodica)

今年の春にタリバム!のふたりが来日し、立川では川島誠さんと、京都ではKみかるMICOさんと共演した。そのときの記録である。(先日川島さんがNYに行ったとき、かれらが演奏を観にきて、CDが出来たと50枚渡されたとのことである。そのうちの1枚。)

タリバム!は共演者をさまざまに入れることによって異なるサウンドを創り上げるユニットなのだろう。その意味で触媒のようでもあり、溶媒のようでもある。

初対面の川島さんとの共演は、立川が遠いこともあって、観には行かなかった。このようなプレイだったならば目撃しておくべきだったかもしれない。マット・モッテルの執拗なフレーズの繰り返し、常にフルスロットルのケヴィン・シェイのドラムス。ここに川島さんのアルトが入るのだが、ソロで聴けるようなウェットで内省的な音ではなく、紙やすりのようにサウンドを粗く削りながら掘り進んでいく音である。川島さんはエレクトロニクスが好きではないと話しているが、これを聴くとまた別の可能性があるのではないかと思ってしまう。

一方KみかるMICOさんとの共演は、同様に執拗でエネルギッシュではあるものの、よりポップなサウンドである。巻き込まれて麻痺した頭は、躁的なほうへと浮上する。立ち会っていたならばいつの間にか笑って呆然としている自分がみえる。

●タリバム!
タリバム!@ケルンのGloria前とStadtgarten前(2019年)
タリバム!+今西紅雪@本八幡cooljojo(JazzTokyo)(2019年)
タリバム!&パーティーキラーズ!@幡ヶ谷forestlimit(2019年)
Talibam!『Endgame of the Anthropocene』『Hard Vibe』(JazzTokyo)(2017年)

●ケヴィン・シェイ
タリバム!@ケルンのGloria前とStadtgarten前(2019年)
タリバム!+今西紅雪@本八幡cooljojo(JazzTokyo)(2019年)
タリバム!&パーティーキラーズ!@幡ヶ谷forestlimit(2019年)
スティーヴン・ガウチ+サンディ・イーウェン+アダム・レーン+ケヴィン・シェイ『Live at the Bushwick Series』(-2019年)
MOPDtK@Cornelia Street Cafe(2017年)
Pulverize the Sound、ケヴィン・シェイ+ルーカス・ブロード@Trans-Pecos(2017年)
Bushwick improvised Music series @ Bushwick Public House(2017年)
Talibam!『Endgame of the Anthropocene』『Hard Vibe』(JazzTokyo)(2017年)
ヨニ・クレッツマー『Five』、+アジェミアン+シェイ『Until Your Throat Is Dry』(JazzTokyo)(2015-16年)
クリス・ピッツィオコス『Gordian Twine』(2015年)
PEOPLEの3枚(-2005年、-2007年、-2014年)
MOPDtK『Blue』(2014年)
MOPDtK『(live)』(2012年)
MOPDtK『The Coimbra Concert』(2010年)
ピーター・エヴァンス『Live in Lisbon』(2009年)
MOPDtK『Forty Fort』(2008-09年) 

●川島誠
徹さんとすごす会 -齋藤徹のメメント・モリ-(2019年)
マーティン・エスカランテ、川島誠、UH@千駄木Bar Isshee(2019年)
川島誠@白楽Bitches Brew(2019年)
フローリアン・ヴァルター+直江実樹+橋本孝之+川島誠@東北沢OTOOTO(2018年)
照内央晴+川島誠@山猫軒(2018年)
川島誠+齋藤徹@バーバー富士(JazzTokyo)(2018年)
2017年ベスト(JazzTokyo)
川島誠@川越駅陸橋(2017年)
むらさきの色に心はあらねども深くぞ人を思ひそめつる(Albedo Gravitas、Kみかる みこ÷川島誠)@大久保ひかりのうま(2017年)
#167 【日米先鋭音楽家対談】クリス・ピッツィオコス×美川俊治×橋本孝之×川島誠(2017年)
川島誠『Dialogue』(JazzTokyo)(2017年)
Psychedelic Speed Freaks/生悦住英夫氏追悼ライヴ@スーパーデラックス(2017年)
川島誠『you also here』(2016-18年)
川島誠+西沢直人『浜千鳥』(-2016年)
川島誠『HOMOSACER』(-2015年) 

●KみかるMICO 
むらさきの色に心はあらねども深くぞ人を思ひそめつる(Albedo Gravitas、Kみかる みこ÷川島誠)@大久保ひかりのうま(2017年) 


長沢哲+かみむら泰一@東北沢OTOOTO

2019-10-29 21:49:58 | アヴァンギャルド・ジャズ

東北沢のOTOOTO(2019/10/28)。

Tetsu Nagasawa 長沢哲 (ds)
Taiichi Kamimura かみむら泰一 (ss, ts, 石、笛)

長沢哲さんの今回のツアー最終日。このふたりの共演は5年ぶりだという。

マレットで止まっては進むドラミング、間に石を吹く音。この間合いによるはじまりもいま決めたのだろう。時間は止まってまた進むが、やがてシンバルが鳴り、バスドラも追随する。そのようにして音を集める横で、かみむらさんは長い笛を吹く。

かみむらさんはソプラノに持ち替え、キーのタップをパーカッションのように扱い、音世界をシンクロさせる。そして吹く音色はアジアや中東を想像させる。長沢さんの創る残響のなかでソプラノの音は落ち着いてゆき、ここにバスドラが事件のように介入する。大きなタムをさらに事件的に連打し発展させ、かみむらさんは痙攣し、羽化し飛び立つように吹いた。

フェーズが変わる。内部で唸り反響させるテナー、ゆっくりと繰り返し事態をわからせるドラム。ふたりは収束を見据えて動いた。

セカンドセット。ガラガラキラキラとしたドラムの音に、テナーもキーのタッピングやリードを爪で弾く音でシンクロさせる。休止というものがしばしばあり、これが関係を創りだす。いつの間にか、かみむらさんは床の感覚を音に取り入れようと言わんばかりに裸足になっている。ドラムスに対して別のかたちを創出してゆく。常に眼は長沢さんの動きを見据えている(この音楽のスピードを考えれば驚くべきことだ)。

ドラムの擦り、テナーの鎖。シンバルによる仏事のような響き、笛によるやはり宗教的な感覚。かみむらさんは前に出てきて、ソプラノの音色をベンドしてよれさせた。下から響くパーカッションに対し、ソプラノはいつまでも横滑りを続ける。アフリカン・パーカッションと共演したときのミシェル・ドネダをも思わせる。長沢さんはシンバルを連打し、突然手で止めた。聴く者に大きな余韻を残した。

Fuji X-E2、XF60mmF2.4、7Artisans 12mmF2.8

●長沢哲
長沢哲ソロ~齋藤徹さんに捧ぐ@本八幡cooljojo(2019年)
長沢哲+清水一登+向島ゆり子@入谷なってるハウス(2019年)
蓮見令麻+長沢哲@福岡New Combo(2019年)
長沢哲+齋藤徹@ながさき雪の浦手造りハム(2018年)
長沢哲+近藤直司+池上秀夫@OTOOTO(2018年)
齋藤徹+長沢哲+木村由@アトリエ第Q藝術(2018年)
#07 齋藤徹×長沢哲(JazzTokyo誌、2017年ベスト)
長沢哲『a fragment and beyond』(2015年)

●かみむら泰一
李世揚+瀬尾高志+かみむら泰一+田嶋真佐雄@下北沢Apollo(2019年)
かみむら泰一+永武幹子「亡き齋藤徹さんと共に」@本八幡cooljojo(2019年)
クリス・ヴィーゼンダンガー+かみむら泰一+落合康介+則武諒@中野Sweet Rain(2019年)
徹さんとすごす会 -齋藤徹のメメント・モリ-(2019年)
かみむら泰一+齋藤徹@喫茶茶会記(2018年)
かみむら泰一+齋藤徹@本八幡cooljojo(2018年)
かみむら泰一+齋藤徹@本八幡cooljojo(2018年)
かみむら泰一session@喫茶茶会記(2017年)
齋藤徹 plays JAZZ@横濱エアジン(JazzTokyo)(2017年)
かみむら泰一+齋藤徹@キッド・アイラック・アート・ホール(2016年)
齋藤徹+かみむら泰一、+喜多直毅、+矢萩竜太郎(JazzTokyo)(2015-16年)
かみむら泰一『A Girl From Mexico』(2004年)
 


日本天狗党、After It's Gone、隣人@近江八幡・酒游館

2019-10-29 20:25:40 | アヴァンギャルド・ジャズ

近江八幡市の酒游館(2019/10/27)。

日本天狗党:
Tobio Akagi 赤木飛夫 (as)
Houhi Suzuki 鈴木放屁 (ts)
Kenichi Akagi 赤木憲一 (ds)

After It's Gone:
Homei Yanagawa 柳川芳命 (as)
Meg Mazaki (ds)
Kazunori Inoue 井上和徳 (ts)

隣人(Ring-Jing):
Raguno Miyabe 宮部らぐの (g)
Barabara Komatsu 小松バラバラ (咆哮)
Meg Mazaki (ds)

セッション: 以下のふたりが加わる
Toshihiro Yokoi 横井俊浩 (as)
Nozomu Matsubara 松原臨 (as)

近江八幡の駅近くで昼食を取り、そこからしぶい街をしぶいしぶいと呟きながら歩いているとあっという間に酒游館。赤木飛夫さんに出くわして安心した。Megさんはえっ歩いてきたんですかと笑っていた。腰の具合はだいぶ良くなったということだった。

はじめは「After It's Gone」。柳川芳命さんとMegさんは「Hyper Fuetaico」や「Heal Roughly」でデュオシリーズを展開してきた。今回は「After It's Gone」にテナーの井上和徳さんを加えた形である。はじめて聴く井上さんは低音も活かしつつ、その音色からは陽の部分を感じる。柳川さんは小刻みな音も流れるような音も吹く。決して表面的に過激でもエキセントリックでもなく、むしろ抑制されたところも大きいのだが、常に柳川さんのアルトは底からの恐ろしさを覚える。以前はアジアのブルースだと思っていた。その印象は変わらないが、それはことさらに感情を暴発させるブルースではない。対面して話すときに、穏やかなのに威圧される感覚と同じである。

Megさんはバスドラやハットを連打し、タイコを叩くときも両手で力をその瞬間に集中させる。それを左右に振らせまくる。以前はフリーフォールのようなドラムスだなと思っていたのだが、今回は円環を感じた。腰を痛めたこともあるのかと訊いてみたが、ほとんど治り椅子を高くしたくらいだ、という。

二番手は隣人。ひとりサン・ラのようなバラバラさんの挙動が気になって仕方がない(なぜか下は脛を出してスクールシューズを履いているのだが、あとで訊くと予算不足だと答えた)。それはともかく、バラバラさんの咆哮は奇妙に肉感的で、それゆえに逃げ場がない感覚で、眼だけでなく耳も貼りついてしまう。Megさんのドラムスは先とはちょっと違ってカラフルな要素もあり、それはサックスのブロウに拮抗しないからでもあった。そして宮部さんのギターは、重力を感じさせ、ドラムス的でもあった。Megさんは前に出てきてシンバルを床に叩きつけ、この奇妙な渦を裂いた。

三番手は日本天狗党。まずは鈴木放屁さんのテナーぶっ放しにのけぞる。わかってはいてものけぞる。そのあとも巨大なナタを振り回すがごとき危険極まりないテナーである。赤木飛夫さんのアルトは実に圧が強く、実に艶やかである。赤木憲一さんはバスドラを連打し、この強力なふたりに立ち向かう。三者によるエネルギーとしか言いようのない音楽。それがずっと続けられ、気がつくと頭が朦朧として異世界を旅している。脳内の何かが一掃されているような錯覚を覚える。

続いてジャムセッション。

1. 宮部+柳川
2. 井上+横井+赤木憲一
3. 鈴木+バラバラ
4. 赤木飛夫+松原+Meg

それぞれに見ごたえがあった。横井さんは端正にフレーズを吹き濁流の中に入っていく感覚。松原さんは艶々したアルトで自分の周りに力技で時空間を拓く感覚。

終わってから、うまい酒と食べ物。琵琶湖のわかさぎ、鮎、赤蒟蒻、冬瓜、いちいちうまい。日本酒は翌朝頭痛になるので抑えめにしようと思っていたが、愉しくてやはり飲み過ぎた。しかし川島誠さんもMegさんも言ったとおり、まったく翌朝残っていなかった。

ところで、この12月下旬に、日本天狗党の赤木飛夫さんと鈴木放屁さん、それから赤木憲一さんが不都合なのでMegさんが入って東京でライヴを演るそうである。思いついたので「日本天Meg党」が良いと進言した。実現するかな。

Fuji X-E2、XF60mmF2.4、7Artisans 12mmF2.8

●日本天狗党
Sono oto dokokara kuruno?@阿佐ヶ谷Yellow Vision(2017年)
第三回天下一Buzz音会 -披露”演”- @大久保ひかりのうま(2017年)

●柳川芳命、Meg
柳川芳命+Meg Mazaki『Heal Roughly Alive』(2018年)
柳川芳命+Meg『Hyper Fuetaico Live 2017』(JazzTokyo)
(2017年)
Sono oto dokokara kuruno?@阿佐ヶ谷Yellow Vision(2017年)
柳川芳命『YANAGAWA HOMEI 2016』(2016年)
柳川芳命+ヒゴヒロシ+大門力也+坂井啓伸@七針(2015年)
柳川芳命『邪神不死』(1996-97年)
柳川芳命『地と図 '91』(1991年)


長沢哲ソロ~齋藤徹さんに捧ぐ@本八幡cooljojo

2019-10-29 07:32:43 | アヴァンギャルド・ジャズ

本八幡のcooljojo(2019/10/26)。

Tetsu Nagasawa 長沢哲 (ds)

演奏前に、長沢哲さんからことし亡くなった齋藤徹さんへの思いが述べられた。徹さんの気配を感じながら演奏します、鳴らす音のすべてを徹さんに捧げます、と。

長沢哲さんと齋藤徹さんとの初共演はすばらしいもので、立ち会うことができたのは幸運だった。その前に、徹さんが哲さんのCDを聴き、連絡したというのだった。未知の自分より若い音楽家との共演に意欲があった。なんどか共演もして、病気療養のときには徹さんは長崎に滞在し、そのときプライヴェートライヴもあった。

はじめはシンバルと鐘が徹さんを悼むように静かに鳴らされた。タムの響きはひとつひとつが静かに減衰し、哲さんはそれを確かめているようにみえた。やがてハットを含め音が複合的なものになり、少しずつバスドラも足されてきた。右手で木魚のごとき音、それを軸にして他の要素が加えられ発展する。その軸は左右の手の2本分となり、微妙な周波数のずれや時間のずれが、小さなうねりと大きなうねりとを創り出した。

突然不定形の大きな音が鳴らされ、続いて、鎮魂の歌のような流れがある。ドラムスで歌うことができるのかと感嘆する。大きなタムに集中するとそれは和太鼓のように聴こえ、さまざまな組み合わせの音は韓国音楽のように聴こえる。演奏はゼロへと収束する。

セカンドセットは横に置かれた小さいヴァイブを鳴らすところからはじまった(今回のツアーでも、メロディ楽器との共演のときは使わず、この日はじめての登場となったという)。石のような硬い響きであり、それまでが重力を感じさせないものであっただけに異質な響きである。またファーストセットと同様に、音を跳ねさせることによって、徹さんに呼びかけているように感じられた。

静寂を経て哲さんはブラシを取る。余計な念を棄て、叩くということに専念しているようにみえる。そしてスティックでハットを横から叩き、そのまま音を周囲から集め激しくしてゆく。横の動きも激しいものとなる。

ふたたびマレットで再始動し、バスドラを含め、下から音を揺り動かす。出来てきたのは音のプラトーのごときものであり、その上での激しい舞いを幻視する。やがてヴァイブに戻った。演奏のはじまりよりは音が堅くない。その残響が、記憶に直結するものであるように思えた。

終わってから、哲さんは、徹底的に自身の音楽を演ることで徹さんへのご恩返しとしたいと話した。

Fuji X-E2、XF60mmF2.4、7Artisans 12mmF2.8

●長沢哲
長沢哲+清水一登+向島ゆり子@入谷なってるハウス(2019年)
蓮見令麻+長沢哲@福岡New Combo(2019年)
長沢哲+齋藤徹@ながさき雪の浦手造りハム(2018年)
長沢哲+近藤直司+池上秀夫@OTOOTO(2018年)
齋藤徹+長沢哲+木村由@アトリエ第Q藝術(2018年)
#07 齋藤徹×長沢哲(JazzTokyo誌、2017年ベスト)
長沢哲『a fragment and beyond』(2015年)


ジャック・デリダ『歓待について』

2019-10-26 09:26:21 | 思想・文学

ジャック・デリダ『歓待について』(ちくま学芸文庫、原著1997年)を読む。1996年の講義の記録である。

歓待とは、異邦人を招き入れるとは、どういうことか。歓待される異邦人は無縁者ではないのか。歓待する側は、自身がなにものだという基盤があることが前提となっているのではないのか。

デリダの思想はそこを起点にする。異邦人が何ものだということを問う。冨山一郎『流着の思想』は、絶えず名を所与のものとして呼ばれることの暴力を、沖縄からの視線として書いた。あるいは今年の台風19号において、ホームレスの身分が明確でないために受入を、歓待を、拒否した台東区のことを想起させられる。

さらには、言語を自分たちのものへと翻訳するよう迫ることもまた、暴力であるとする。ここでデリダは母語を人間の根源的なアイデンティティとみなすハンナ・アーレントを批判している。確かに歓待の無条件性を文字通り受けとめようとする点でエマニュアル・レヴィナスと通じるものが大きい。

このような暴力と掟は、政治的空間と個人的空間との境界、公的なものと公的でないものとの境界においてあらわれ、それをかき乱す。それゆえに公の優先ばかりを謳う言説は暴力に直結する。 

「絶対的で誇張的で無条件な歓待とは、言葉を停止すること、ある限定された言葉を、さらには他者への呼びかけを停止することにあるのではないか。つまり他者に対して、あなたは誰だ、名前は何だ、どこから来たのだ、などと尋ねたいという誘惑は抑えなければならないのではないか。さもないと歓待には限定が加えられ、権利と義務に縛り付けられ、そこに閉じ込められてしまうのではないだろうか。こうして歓待は、円環の経済=配分法則に閉じ込められてしまうのではないか、とわたしたちは問うてきたのです。つねにジレンマが狙っています。」

●参照
ジャック・デリダ『動物を追う、ゆえに私は(動物で)ある』(2006年)
ジャック・デリダ『言葉にのって』(1999年)
ジャック・デリダ『アデュー エマニュエル・レヴィナスへ』(1997年)
ジャック・デリダ『嘘の歴史 序説』(講演1997年)
ジャック・デリダ『死を与える』(1992年)
高橋哲哉『デリダ』(1998年)
ガヤトリ・C・スピヴァク『デリダ論』(1974年)
ジャック・デリダ『声と現象』(1967年)
フランソワ・キュセ『How the World Swung to the Right』(2016年)


スガダイロートリオ@荻窪ベルベットサン

2019-10-26 08:35:26 | アヴァンギャルド・ジャズ

荻窪のベルベットサン(2019/10/25)。

Dairo Suga スガダイロー (p)
Hiroki Chiba 千葉広樹 (b)
Sonosuke Imaizumi 今泉総之輔 (ds)

セカンドセットを観た。ベルベットサンの3セット入れ替えシステムは思ったより使いやすい。1セットだけ観る場合でも損をしたとか余計な気分にとらわれることなく愉しむことができる。

ピアノの「Solitude」的なイントロからスガダイロートリオ世界に突入。ケレン味、とは言ってもステージ上の生命力を高めるための手段であり、観客はそれに惹きつけられることによって音楽に入っていった。千葉さんのベースは逆に非どや顔的なのだが、音色が柔らかくもあり、そのままこの迫力音楽の律動をみごとに創っていた。今泉さんのドラムスは共演者の動きをみた繊細さに嬉しくなってしまうのだが、この日は、その要素と、自身の恍惚的ドラミングとが両立していて、また面白いものだった。

大満足で焼き鳥を食べて帰った。

●スガダイロー
秘湯感@新宿ピットイン(2019年)
森山威男 NEW YEAR SPECIAL 2019 その2@新宿ピットイン
(2019年)
JazzTokyoのクリス・ピッツィオコス特集その2(2017年)
クリス・ピッツィオコス+吉田達也+広瀬淳二+JOJO広重+スガダイロー@秋葉原GOODMAN(2017年)
纐纈雅代『Band of Eden』(2015年)
秘宝感とblacksheep@新宿ピットイン(2012年)
『blacksheep 2』(2011年)
『秘宝感』(2010年)


奥田梨恵子+照内央晴@荻窪クレモニア

2019-10-24 00:59:13 | アヴァンギャルド・ジャズ

荻窪のクレモニア(2019/10/23)。

Rieko Okuda 奥田梨恵子 (p)
Hisaharu Teruuchi 照内央晴 (p)

奥田さんは最近サックスのフローリアン・ヴァルターとツアーをしたばかりであり、そんなメッセージがフローリアンからも届いていた。終わった後に日本に飛んできたわけである。(なおそのふたりが共演した録音は事情により音盤化されない。また録音するとのこと。)

クレモニアにはグランドピアノが2台あり、そのためにこの日の場所として選ばれた。ふたりのピアニストも観客も1時間ほどの演奏のあいだ、自由に立って移動してもよいという趣向である。ふたりはピアノを替わったり、連弾をしたり、内部奏法を仕掛けたり。同じヤマハのピアノでありながら響きのニュアンスが異なり、また聴く場所によって相乗効果が出たり差異が別のものに化けたりもした。

とは言え、際立ったのはふたりのアクションや出す音の大きな違いである。

照内さんは鳴らすときも響かせるときも、ピアノの強弱の振幅を大きく取り、音による態度表明を表現の一部としているようにみえる。静かに弾くときの残響、響きを断っての旋律、大きく鳴り響かせること自体によるピアノの筐体全体の響き、それらが動的に変貌した。

一方の奥田さんはさまざまな両極の間に浮かび、ときにはエア鍵盤で音を出さずに飛んだ。内部奏法もかなり独特なもので、繊細な絹糸に触れて連続的に音を変えた。鍵盤という不連続なものを持つ楽器でありながら、音が連続的に遷移し揺らいでゆくのである。これは内部奏法に限らず、鍵盤を弾いているときにもそう感じられた。

ふたりの相互作用は貌を変え続けた。奥田さんが曖昧な雲を創ったとき、照内さんがその雲の中に入り、半睡で陶然としたピアノを弾いた時間など、短かったがみごとだった。そして音を削り、残してゆき、静かにシンクロし、着地した。予定調和ではなくおそらく本人たちも想定せざる調和というものは驚きを残してくれる。

Fuji X-E2、7Artisans 12mmF2.8、XF60mmF2.4

●奥田梨恵子
Wavebender、照内央晴+松本ちはや@なってるハウス(2018年)
奥田梨恵子(Rieko Okuda)『Paranorm』(JazzTokyo)(2017年)
照内央晴+松本ちはや、VOBトリオ@なってるハウス(2017年)

●照内央晴
豊住芳三郎+コク・シーワイ+照内央晴@横濱エアジン(2019年)
照内央晴+加藤綾子@神保町試聴室(2019年)
特殊音樂祭@和光大学(JazzTokyo)(2019年)
フローリアン・ヴァルター+照内央晴@なってるハウス(2019年)
豊住芳三郎インタビュー(JazzTokyo)(2019年)
豊住芳三郎+庄子勝治+照内央晴@山猫軒(2019年)
豊住芳三郎+老丹+照内央晴@アケタの店(2019年)
豊住芳三郎+謝明諺@Candy(2019年)
沼田順+照内央晴+吉田隆一@なってるハウス(2019年)
吉久昌樹+照内央晴@阿佐ヶ谷ヴィオロン(2019年)
照内央晴、荻野やすよし、吉久昌樹、小沢あき@なってるハウス(2019年)
照内央晴+方波見智子@なってるハウス(2019年)
クレイグ・ペデルセン+エリザベス・ミラー+吉本裕美子+照内央晴@高円寺グッドマン(2018年)
照内央晴+川島誠@山猫軒(2018年)
沼田順+照内央晴+吉田隆一@なってるハウス(2018年)
『終わりなき歌 石内矢巳 花詩集III』@阿佐ヶ谷ヴィオロン(2018年)
Cool Meeting vol.1@cooljojo(2018年)
Wavebender、照内央晴+松本ちはや@なってるハウス(2018年)
フローリアン・ヴァルター+照内央晴+方波見智子+加藤綾子+田中奈美@なってるハウス(2017年)
ネッド・マックガウエン即興セッション@神保町試聴室(2017年)
照内央晴・松本ちはや《哀しみさえも星となりて》 CD発売記念コンサートツアー Final(JazzTokyo)(2017年)
照内央晴+松本ちはや、VOBトリオ@なってるハウス(2017年)
照内央晴・松本ちはや『哀しみさえも星となりて』@船橋きららホール(2017年)
照内央晴・松本ちはや『哀しみさえも星となりて』(JazzTokyo)(2016年)
照内央晴「九月に~即興演奏とダンスの夜 茶会記篇」@喫茶茶会記(JazzTokyo)(2016年)
田村夏樹+3人のピアニスト@なってるハウス(2016年)


長沢哲+清水一登+向島ゆり子@入谷なってるハウス

2019-10-23 00:12:39 | アヴァンギャルド・ジャズ

入谷のなってるハウス(2019/10/22)。今回の長沢哲さんのツアーでは関東初日である。

Tetsu Nagasawa 長沢哲 (ds)
Kazuto Shimizu 清水一登 (p)
Yuriko Mukojima 向島ゆり子 (vln)

最初は長沢さんのドラムソロ。タムやスネアの打面は硬く張られており、そのテンションがとても澄んだ打音を生み出している。マレットで多くの太鼓を叩き、そのときハコの中を伝わる音が縦波となって目に見えるようだ。存在がまるでマリンバである。それに加えて微細な音までが連続的につながっているシンバル音。終盤には太鼓のエッジも叩き刺激を付加した。

続いてトリオ。向島さんは摩擦音を中心に発し、長沢さんはスティックに持ち替えて、ピアノとともにサウンドを鼓舞する。やがて向島さんが楽器を持ち替えてより澄んで歌うような旋律を弾き始めてから、潮目が変わった。清水さん主導でフォーク的なうたに誘い込み、向島さんもまた呼応して実際にうたも歌った。三者がいい形で組み合い、インプロとは思えないほど曲に近づいた。

セカンドセットでは、長沢さんはぎりぎりと摩擦音を発し、ブラシもスティックも使った。先のトリオよりもスピード的な表現が重視され、そして再びうたへと接近した。

アンコールでは、やはり向島さんは摩擦音で攻める。驚いたことに、清水さんはドラムスの三連打の三番目に鍵盤を合わせ、そこから即興を発展させる。長沢さんもそれを十分に意識してか逆に呼応してみせる。そして再び向島さんが旋律を主軸に据え、清水さんも歌い、知的でも躁的でもある音世界が出来上がった。さすが百戦錬磨の人たちである。全員が全員に向けて長い拍手をした。

終わった直後にギターの小沢あきさんと息子さんがあらわれ、それではと再アンコール。深くもあり、機敏に愉しくもなるサウンドは、このトリオならではに違いない。

Fuji X-E2、7Artisans 12mmF2.8、XF60mmF2.4

●長沢哲
蓮見令麻+長沢哲@福岡New Combo(2019年)
長沢哲+齋藤徹@ながさき雪の浦手造りハム(2018年)
長沢哲+近藤直司+池上秀夫@OTOOTO(2018年)
齋藤徹+長沢哲+木村由@アトリエ第Q藝術(2018年)
#07 齋藤徹×長沢哲(JazzTokyo誌、2017年ベスト)
長沢哲『a fragment and beyond』(2015年)

●清水一登
障子の穴 vol.2@ZIMAGINE(2019年)
クリス・ピッツィオコス+ヒカシュー+沖至@JAZZ ARTせんがわ(JazzTokyo)(2017年)
ヒカシュー@Star Pine's Cafe(2017年)


吉田隆一ソロ@喫茶茶会記

2019-10-22 23:39:01 | アヴァンギャルド・ジャズ

四谷三丁目の喫茶茶会記(2019/10/22)。

Ryuichi Yoshida 吉田隆一 (bs, bells)

小さなグロッケンを叩くことから始め、その旋律を直接的に引用するでもなくバリトンサックスに移行した。

はじめは比較的なめらかに高低をつないでいく旋律であり、やがて低音をびりびりと響かせるようにシフトしていった。そして実に様々なマルチフォニック。低音の中から高音があらわれる。高音が分かれていきそれぞれの太さも異なる。息の音と共鳴音。音色も一様ではない。太い低音を吹いていて突然マウスピースを引き離すようにして音を断ち切る。ベンド。右手を敢えて上に持ってきたのはオクターブキーを微妙に操作するためだったのだろうか。吹きはじめの慣性や前の音からのつながりによっても鳴り方が異なる。

40分ほどの飽きることのないバリサク・ソロが終わり、ふたたび、町中華のあとにコーヒーで油流しをするようにグロッケンを響かせた。

以前に吉田さんは、単音をさまざまに提示する方法を追求すると言っていたが、それとはまた異なるアプローチだろうか。それともその発展形でもあっただろうか。脳の反応する領域が遷移していくような、面白いサウンドだった。

Fuji X-E2、7Artisans 12mmF2.8

●吉田隆一
渋大祭@川崎市東扇島東公園(2019年)
沼田順+照内央晴+吉田隆一@なってるハウス(2019年)
吉田隆一ソロ@なってるハウス(2019年)
吉田隆一ソロ@T-BONE(2018年)
沼田順+照内央晴+吉田隆一@なってるハウス(2018年)
藤井郷子オーケストラ東京@新宿ピットイン(2018年)
MoGoToYoYo@新宿ピットイン(2017年)
秘宝感とblacksheep@新宿ピットイン(2012年)
『blacksheep 2』(2011年)
吉田隆一+石田幹雄『霞』(2009年)


ミシェル・フーコー『性の歴史Ⅱ 快楽の活用』

2019-10-22 10:32:35 | 思想・文学

ミシェル・フーコー『性の歴史Ⅱ 快楽の活用』(新潮社、原著1984年)を読む。

第1巻では近代において性という欲望装置が内部化されることを説いた。この第2巻は、時代を遡り、古代ギリシャ・ローマ時代における性のあり方を扱っている。

あるときは開けっ広げでもある。コード化もされている。そして内部化は、近代における権力構造とは異なる形でなされていた。それは必ずしも性差や婚姻の有無と紐づけられてはいない。そうではなく、求められるものはアリストテレスの言いまわしによると「何をするか、いかにそうすべきか、いつそうすべきか」という決定や分別であり、養生であり、熟慮と慎重さであった。

すなわち権力は自己に行使されるものであり、その権力行使の物語を外部化していなければならなかったということである。

●ミシェル・フーコー
ミシェル・フーコー『性の歴史Ⅰ 知への意志』(1979年)
ミシェル・フーコー『監獄の誕生』(1975年)
ミシェル・フーコー『ピエール・リヴィエール』(1973年)
ミシェル・フーコー『言説の領界』(1971年)
ミシェル・フーコー『マネの絵画』(1971年講演)

ミシェル・フーコー『わたしは花火師です』(1970年代)
ミシェル・フーコー『知の考古学』(1969年)
ミシェル・フーコー『狂気の歴史』(1961年)
ミシェル・フーコー『コレクション4 権力・監禁』
重田園江『ミシェル・フーコー』
桜井哲夫『フーコー 知と権力』
ジル・ドゥルーズ『フーコー』
ルネ・アリオ『私、ピエール・リヴィエールは母と妹と弟を殺害した』
二コラ・フィリベール『かつて、ノルマンディーで』
ハミッド・ダバシ『ポスト・オリエンタリズム』
フランソワ・キュセ『How the World Swung to the Right』


草野心平『宮沢賢治覚書』

2019-10-22 09:33:30 | 思想・文学

草野心平『宮沢賢治覚書』(講談社文芸文庫、原著1981年)を読む。

草野は、宮沢賢治を天然の思想家であったと言う。すべてが天然から発しており、それゆえに借り物でない力を持って読む者の心をとらえる。吉本隆明が宮沢について「「中学生」がよくかんがえる程度の空想が、あまりに真剣に卓越した詩人によって考えられている」と書いたのと同じである。

「思想とは、賢治の場合、イメエジの如きものであった。そのように思想とは、彼の場合は独立した外部精神体などではなくて、彼の内部に生活していた。もっと密接で肉体的な細胞体、言わば原始的な存在だったのである。」

おそらく科学も音楽もかれの内部を通過して出てきたものだ。そして妹を失った悲しみの中で、北へと旅をしながら書いた『春と修羅』のひとつ「青森挽歌」には、次のようにある。草野は「そのリアルさがいいのである」と、割とさらっと書いているけれど、いやもっと切実なものがある。何度も眼で追っていくと怖くなってくる。

あいつがいなくなってからあとのよるひる
わたくしはただの一どたりと
あいつだけがいいとこに行けばいいと
さういのりはしなかつたとおもひます

●宮沢賢治
『宮沢賢治コレクション1 銀河鉄道の夜』
『宮沢賢治コレクション2 注文の多い料理店』
『宮沢賢治コレクション3 よだかの星』
横田庄一郎『チェロと宮沢賢治』
ジョバンニは、「もう咽喉いっぱい泣き出しました」
6輌編成で彼岸と此岸とを行き来する銀河鉄道 畑山博『「銀河鉄道の夜」探検ブック』
小森陽一『ことばの力 平和の力』
吉本隆明のざっくり感


イーサン・アイヴァーソン w/ トム・ハレル『Common Practice』

2019-10-21 21:24:51 | アヴァンギャルド・ジャズ

イーサン・アイヴァーソン w/ トム・ハレル『Common Practice』(ECM、2017年)を聴く。

Ethan Iverson (p)
Tom Harrell (tp)
Ben Street (b)
Eric McPherson (ds)

もちろんイーサン・アイヴァーソンもベン・ストリートもエリック・マクファーソンも気が効いていてカッコよくて素敵である。そんなことはわかっている。しかしもっとはじめからわかっているのはトム・ハレルがトム・ハレルであることだ。もう主役は決まりであり他の腕利き3人の影はどうしても薄くなるのは仕方がない。

トム・ハレルのトランペットは、ナチュラルに震え、雲を作り、妙なところから吹き始めて妙なところに着陸する。奇妙な円環、その繰り返しのスタンダード集。ひとりでスタンディングオベーションをしている、泣き笑いしながら。

●イーサン・アイヴァーソン
アルバート・"トゥーティー"・ヒース『Philadelphia Beat』(2014年)

●トム・ハレル
トム・ハレル『Infinity』(2018年)
トム・ハレル『Something Gold, Something Blue』(2015年)
トム・ハレル@Cotton Club(2015年)
トム・ハレル@Village Vanguard(2015年)
ジョン・イラバゴン『Behind the Sky』(2014年)
トム・ハレル『Trip』(2014年)
トム・ハレル『Colors of a Dream』(2013年)
デイヴィッド・バークマン『Live at Smalls』(2013年)
ジム・ホール(feat. トム・ハレル)『These Rooms』(1988年)


酒井俊+纐纈雅代+永武幹子@本八幡cooljojo

2019-10-21 07:49:58 | アヴァンギャルド・ジャズ

本八幡のcooljojo(2019/10/20)。

Shun Sakai 酒井俊 (vo)
Masayo Koketsu 纐纈雅代 (as)
Mikiko Nagatake 永武幹子 (p)

最初の「It's A Most Unusual Day」で驚いたのは纐纈雅代のアルト。歌伴らしくもなく、ソロでもなく、隙間にがっちりと入ってライヴをいきなり高みに持ち上げた。続く「There Will Never Be Another You」での熱に浮かされたような音色のアルト、次いで俊さんがゆっくりとためるヴォイス。永武さんが入って、アルトは(敢えて)音が割れるのも厭わず強い。会いたいという想いの語りから入るトム・ウェイツの「Martha」、永武さんのキーボードとのマッチングが面白い。アルトは終わりにかすれ、静かに泣くよう。

前回知って驚いたことは、俊さんが齋藤徹さんと一時期毎月のように共演していたということだ。その徹さんの「街」では、散歩するように跳ねるピアノから入り独特の世界を創り上げた。いちばん好きなレパートリーだと俊さんが語る「Both Sides Now」では、アルトのエネルギーを受けとめるように声を強くしていった。「Beautiful Love」でも纐纈さんは印象的で、息を抜くことで強弱を付けた。

そして林栄一「回想」。俊さんは林さんに「ナーダム」とともに歌詞を付けてくれと頼まれ時間がかかっていたのだが、歌詞の世界について林さんにあらためて聴いたところ「だから色々あるじゃない」と答えたのだという(いい話!)。そんな色々の人生、「かけらたち」と呼ぶ些細なものへの俊さんの愛情が強く伝わってきた。

セカンドセットはクルト・ヴァイルの「Lost in the Stars」から。終盤の「blowing through the night」のところ、急に声量とともに想いが強くなって驚く。そして「We're lost here in the stars」において声もこちらも震える。続く「My Man」での叫び、疲れたあとに独白するようなアルトがとても良い。3人一緒に始める「On a Slow Boat to China」、そして一転して「Send in the Crowns」では自虐的にもなってしまう淋しい人を歌った。永武さんは残響でそれに優しく貢献した。

エンリコ・カルーソーのことを歌った「カルーソー」、イタリア的に字余りな歌詞と歌い方が愉快。友川かずき・ちあきなおみの「夜へ急ぐ人」では、断片化されたサウンドから各々がつなぎあわされてゆき、心の猛追。ちょっと間を挟むアルトとピアノの走り方も見事。

アンコールはちあきなおみが歌った「紅い花」、そして「Over the Rainbow」。ピアノのイントロから、俊さんはこの歌に入るのが恥ずかしいように合わせる。

それにしても3人それぞれの強度も、サウンドに向かっての協力も素晴らしいバンド。次回も観たい。

Fuji X-E2、XF60mmF2.4、7Artisans 12mmF2.8

●纐纈雅代
纐纈雅代+松丸契+落合康介+林頼我@荻窪ベルベットサン(2019年)
秘湯感@新宿ピットイン(2019年)
原田依幸+纐纈雅代@なってるハウス(2019年)
The Music of Anthony Braxton ~ アンソニー・ブラクストン勉強会&ライヴ@KAKULULU、公園通りクラシックス(JazzTokyo)(2019年)
【日米先鋭音楽家座談】ピーター・エヴァンスと東京ジャズミュージシャンズ(JazzTokyo)(2018年)
纐纈雅代@Bar Isshee(2018年)
纐纈雅代トリオ@新宿ピットイン(2017年)
渋谷毅オーケストラ@新宿ピットイン(2016年)
纐纈雅代@Bar Isshee(2016年)
板橋文夫+纐纈雅代+レオナ@Lady Jane(2016年)
纐纈雅代『Band of Eden』(2015年)
鈴木勲セッション@新宿ピットイン(2014年)

渋谷毅オーケストラ@新宿ピットイン(2014年)
纐纈雅代 Band of Eden @新宿ピットイン(2013年)
秘宝感とblacksheep@新宿ピットイン(2012年)
『秘宝感』(2010年)
鈴木勲 フィーチャリング 纐纈雅代『Solitude』(2008年)

●永武幹子
かみむら泰一+永武幹子「亡き齋藤徹さんと共に」@本八幡cooljojo(2019年)
酒井俊+青木タイセイ+永武幹子@本八幡cooljojo(2019年)
古田一行+黒沢綾+永武幹子@本八幡cooljojo(2019年)
蜂谷真紀+永武幹子@本八幡cooljojo(2019年)
2018年ベスト(JazzTokyo)
佐藤達哉+永武幹子@市川h.s.trash(2018年)
廣木光一+永武幹子@cooljojo(2018年)
植松孝夫+永武幹子@中野Sweet Rain(2018年)
永武幹子+齋藤徹@本八幡cooljojo(JazzTokyo)(2018年)

永武幹子+類家心平+池澤龍作@本八幡cooljojo(2018年)
永武幹子+加藤一平+瀬尾高志+林ライガ@セロニアス(2018年)
永武幹子+瀬尾高志+竹村一哲@高田馬場Gate One(2017年)
酒井俊+永武幹子+柵木雄斗(律動画面)@神保町試聴室(2017年)
永武幹子トリオ@本八幡cooljojo(2017年)
永武幹子+瀬尾高志+柵木雄斗@高田馬場Gate One(2017年)
MAGATAMA@本八幡cooljojo(2017年)
植松孝夫+永武幹子@北千住Birdland(JazzTokyo)(2017年)
永武幹子トリオ@本八幡cooljojo(2017年)


ハインツ・ガイザー・アンサンブル5@渋谷公園通りクラシックス

2019-10-19 09:53:39 | アヴァンギャルド・ジャズ

渋谷の公園通りクラシックス(2019/10/18)。アンサンブル5の日本ツアー最終日にやっと来ることができた。

Heinz Geisser (perc)
Fridolin Blumer (b)
Reto Staub (p)
Robert Morgenthaler (tb)
Guest:
Naoki Kita 喜多直毅 (vln)

全員が静かに音楽に入る。ドラムスは擦りからブラシへ、ヴァイオリンは軋みから共鳴へ。いったんその静かな導入世界は閉じて、全員が音の重力に身をまかせはじめた。ピアノは和音を目立たせ、ベースもトロンボーンもドラムスもそのパルスが重い。ピアノの内部奏法とヴァイオリンの指による弾きが不穏に重なる。また潮目が変わった。ピアノは旋律を意識し、ドラムスのマレットと別の音風景を創出する。

2曲目。ヴァイオリンも、手によるドラミングも、みんな跳ねる。ベースの音が臓腑に響くようである。ピアノトリオでスピードに乗ったと思ったら、ふと世界がミクロの領域に入った。各々の音が水たまりのプランクトンを凝視しているような按配である。ヴァイオリンによる糸は最初から最後までつらなってゆく糸であり続けた。ハインツの椅子の軋みが演奏終了の音になった。

セカンドセット。ヴァイオリンを合図のように各人がマイペースでそろそろと動く。ふと間があって再スタートの瞬間もある。ヴァイオリンの音は弦と指とを駆使して実に複雑に縒れ、回転してさまざまな貌をみせながら進む。ドラムスティックとヴァイオリンの指による撥音の重ね合わせが愉しい。

サウンドが盛り上がったあとに葬送のように静かになり、ドラムスとピアノとが硬い石のような音を立て、互いに呼応する。マレットの音が中心になってもヴァイオリンの音色の糸は途切れない。トロンボーンが主役になると、ピアノとドラムスとが高い音でバッキングする。ヴァイオリンとトロンボーンとの対話もある。ベースがピチカートで歌うと、マラカス、煌くようなピアノ、ヴァイオリンが周囲を踊る。こうした音のコントラストに耳が悦んでしまう。次第にヴァイオリンの糸が太くなってきた。

2曲目。弓によるシンバルの擦り、ピアノの内部奏法、ノイズを入れるベース、それらの重なりが廃墟を吹き抜ける風を思わせる。そして全員がそれぞれのやり方で、延々と途切れない糸になった。

ピアノの音はときに宝石のようで、またベースの弓弾きとトロンボーンの音がシンクロしてわからなくなったりして、そしてここにきてヴァイオリンの音が人の声のようになった。ヴァイオリンは流れ星を創り出し、ここにピアノが入ってクラシックスの空に星々を散らした。夜の世界、ハインツの椅子の軋み。

このグループは静かなのにコントラストが豊かで、さまざまな組み合わせの貌をみせてくれて、気がつくとサウンドの潮目が変わっているという面白さがあった。

Fuji X-E2、7artisans 12mmF2.8、XF60mmF2.4

●ハインツ・ガイザー
ハインツ・ガイザー+ゲリーノ・マッツォーラ+喜多直毅@渋谷公園通りクラシックス
(2017年)

●喜多直毅
喜多直毅+西嶋徹『L’Esprit de l’Enka』(JazzTokyo)(-2019年)
宅Shoomy朱美+北田学+鈴木ちほ+喜多直毅+西嶋徹@なってるハウス(2019年)
喜多直毅+元井美智子+フローリアン・ヴァルター@松本弦楽器(2019年)
徹さんとすごす会 -齋藤徹のメメント・モリ-(2019年)
喜多直毅+翠川敬基+角正之@アトリエ第Q藝術(2019年)
熊谷博子『作兵衛さんと日本を掘る』(2018年)
喜多直毅クアルテット「文豪」@公園通りクラシックス(2018年)
ロジャー・ターナー+喜多直毅+齋藤徹@横濱エアジン(2018年)
ファドも計画@in F(2018年)
齋藤徹+喜多直毅@板橋大山教会(2018年)
齋藤徹+喜多直毅+外山明@cooljojo(2018年)
齋藤徹+喜多直毅+皆藤千香子@アトリエ第Q藝術(2018年)
ロジャー・ターナー+喜多直毅+齋藤徹@横濱エアジン(JazzTokyo)(2017年)
翠川敬基+齋藤徹+喜多直毅@in F(2017年)
喜多直毅+マクイーン時田深山@松本弦楽器(2017年)
黒田京子+喜多直毅@中野Sweet Rain(2017年)
齋藤徹+喜多直毅@巣鴨レソノサウンド(2017年)
喜多直毅クアルテット@求道会館(2017年)
ハインツ・ガイザー+ゲリーノ・マッツォーラ+喜多直毅@渋谷公園通りクラシックス(2017年)
喜多直毅クアルテット@幡ヶ谷アスピアホール(JazzTokyo)(2017年)
喜多直毅・西嶋徹デュオ@代々木・松本弦楽器(2017年)
喜多直毅+田中信正『Contigo en La Distancia』(2016年)
喜多直毅 Violin Monologue @代々木・松本弦楽器(2016年)
喜多直毅+黒田京子@雑司が谷エル・チョクロ(2016年)
齋藤徹+かみむら泰一、+喜多直毅、+矢萩竜太郎(JazzTokyo)(2015-16年)
うたをさがして@ギャラリー悠玄(2015年)http://www.jazztokyo.com/best_cd_2015a/best_live_2015_local_06.html(「JazzTokyo」での2015年ベスト)
齋藤徹+喜多直毅+黒田京子@横濱エアジン(2015年)
喜多直毅+黒田京子『愛の讃歌』(2014年)
映像『ユーラシアンエコーズII』(2013年)
ユーラシアンエコーズ第2章(2013年)
寺田町の映像『風が吹いてて光があって』(2011-12年)
『うたをさがして live at Pole Pole za』(2011年)