Sightsong

自縄自縛日記

渚ようこ『渚ストラット』

2018-08-25 10:49:01 | ポップス

渚ようこ『渚ストラット』(Sound・Of・Elegance、-2016年)を聴く。

渚ようこ (vo)
花園臨界実験所:
たけやん(鍵盤屋)(org, p)
ベンジャミン・オイカワ (g)
的場慎太郎 (b)
長谷革ナオヤ (ds)

そうか、渚ようこは幻の名盤解放同盟のファンなんだな。いきなり「新小岩から亀戸へ」、それから「カモネギ音頭」。山崎春美が作詞の「ガセネタの荒野」、最後は阿久悠の「津軽海峡冬景色」と「哀愁のロカビリアン」。渚ようこの場末感ある歌声も最高だし、ギターもオルガンも暴れていて最高。

また新宿ゴールデン街の汀に行こうかな。11月30日・四谷区民ホールのリサイタルも興味津々。

●渚ようこ
新宿ゴールデン街、歌舞伎町のナルシス(2017年)
渚ようこ『あなたにあげる歌謡曲』、若松孝二『天使の恍惚』(1971年、2005年)


広瀬淳二『No-Instrument Air Noise』

2018-08-25 09:39:37 | アヴァンギャルド・ジャズ

広瀬淳二『No-Instrument Air Noise』(Hitorri、2017年)を聴く。

Junji Hirose 広瀬淳二 (no-instrumental air noise)

タイトル通り、ここで広瀬氏は楽器を使っていない。自作楽器でもない。エアコンプレッサーから噴出されるエアをマイクに当てることによるサウンドである。1曲目はマイク1本、2曲目はマイク2本。

企てが轟音の中に隠れていく過程を追体験していると、確たる理屈なく精神の自由を得るような気がしてくる。そういえば、クラリネットのエリザベス・ミラーさんがこのサウンドのことを実に愉しそうに話していた。

●広瀬淳二
ブライアン・アレン+広瀬淳二+ダレン・ムーア@Ftarri(2018年)
ロジャー・ターナー+広瀬淳二+内橋和久@公園通りクラシックス(2017年)
クリス・ピッツィオコス+吉田達也+広瀬淳二+JOJO広重+スガダイロー@秋葉原GOODMAN(2017年)
広瀬淳二+今井和雄@なってるハウス(2017年)
広瀬淳二+中村としまる+ダレン・ムーア@Ftarri(2017年)
広瀬淳二+今井和雄+齋藤徹+ジャック・ディミエール@Ftarri(2016年)
広瀬淳二『SSI-5』(2014年)
広瀬淳二+大沼志朗@七針(2012年)
広瀬淳二『the elements』(2009-10年)


長沢哲『a fragment and beyond』

2018-08-24 22:59:38 | アヴァンギャルド・ジャズ

長沢哲『a fragment and beyond』(fragmental records、2015年)を聴く。

Tetsu Nagasawa 長沢哲 (ds, cymbals, bells, wind chimes, glockenspiel)

長沢哲のパーカッションソロ。

このユニーク極まりない人の音は清冽であり、響きの遠近感ゆえか、外に向かって開かれているように感じる。そのスピード感は、自然落下のようでもあり、また武具を用いた舞いのようでもある。自然と人為とはここまで接近する。

2曲目はどうやら自身の音を逆向きに再生して、それにオーバーダブしたもののようであり、そのスピードに焦燥と狂が付け加わる。また9曲目は「闇鍋」と題され、自身の音の最初と最後だけを聴こえるように再生して、オーバーダブしている。それでも不思議と長沢哲色となっているのだから面白い。

長沢さんはこの10月下旬に東京のあちこちで演奏する。昨年(2017年)に観た、長沢さんと齋藤徹さんとのデュオはなにしろ素晴らしかった。どれかに行けるといいなあ。

>> ライヴの予定

●長沢哲
#07 齋藤徹×長沢哲(JazzTokyo誌、2017年ベスト)


チャールス・ロイド&ザ・マーヴェルズ+ルシンダ・ウィリアムス『Vanished Gardens』

2018-08-24 21:43:03 | アヴァンギャルド・ジャズ

チャールス・ロイド&ザ・マーヴェルズ+ルシンダ・ウィリアムス『Vanished Gardens』(Blue Note、2017年)を聴く。

Charles Lloyd (ts, fl, ghost vocals)
Lucinda Williams (vo)
Bill Frisell (g)
Greg Leisz (pedal steel g, dobro)
Reuben Rogers (b)
Eric Harland (ds)

ビル・フリゼールのギター、グレッグ・リースのペダル・スティール・ギター、それにルシンダ・ウィリアムスのヴォーカルと、かなりどっぷりとアメリカーナ路線を押し出しているわけだが、聴くとこちらがその空気に取り囲まれてやられてしまう。要はアメリカーナ愛に満ち満ちている。

チャールス・ロイドのテナーは、自由なテンポとタイミングでそのあたりの空を旋回するようだ。この衒いのない自由さがまぶしいほどカッコ良い。フルートもまたそのような味の、ロイド印なのだ。ウィリアムスの声は少しかすれて少し低く、粋である。このバンドで来日してほしい。

そんな中でも、ロイドとフリゼールとのデュオで「Monk's Mood」を演るなど異物も忘れていない。そして最後の「Angel」では説明しがたい懐かしさに身体が固まる。超ステキ。超好き。

●チャールス・ロイド
チャールス・ロイド@ブルーノート東京(2017年)
チャールス・ロイドの映像『Arrows into Infinity』(2013年)
マイケル・ラドフォード『情熱のピアニズム』 ミシェル・ペトルチアーニのドキュメンタリー(2011年)
原将人『おかしさに彩られた悲しみのバラード』、『自己表出史・早川義夫編』(1968、70年) 


『OTOOTO』

2018-08-24 00:36:08 | アヴァンギャルド・ジャズ

OTOOTOはじめてのCDは『OTOOTO』(OTOOTO、2015、17年)。

Takashi Masubuchi 増渕顕史 (g)
Straytone (modular syn)
Riuichi Daijo 大上流一 (g)
Toshimaru Nakamura 中村としまる (no-input mixing board)
Tetuzi Akiyama 秋山徹次 (g)

各人のソロ演奏が1曲ずつ。どの演奏も面白い。沈黙の中で一音一音を逃すまいと集中している聴き手の様子が感じられる。

最後の秋山徹次ソロ。何かに依拠しようとすることを排した強度があるように思える。

●増渕顕史
齊藤僚太+ヨシュア・ヴァイツェル+増渕顕史@Permian(2018年)
Zhu Wenbo、Zhao Cong、浦裕幸、石原雄治、竹下勇馬、増渕顕史、徳永将豪@Ftarri(2018年)
クレイグ・ペデルセン+エリザベス・ミラー+徳永将豪+増渕顕史+中村ゆい@Ftarri(2017年)
杉本拓+増渕顕史@東北沢OTOOTO(2017年)
Spontaneous Ensemble vol.7@東北沢OTOOTO(2017年)

●Straytone
Spontaneous Ensemble vol.7@東北沢OTOOTO
(2017年)

●大上流一
謝明諺+大上流一+岡川怜央@Ftarri(2018年)
Shield Reflection@Ftarri(2017年)
リアル・タイム・オーケストレイション@Ftarri(2016年)

●中村としまる
フタリのさとがえり@Ftarri(2018年)
竹下勇馬+中村としまる『Occurrence, Differentiation』(2017年)
クレイグ・ペデルセン+中村としまる@Ftarri(2017年)
広瀬淳二+中村としまる+ダレン・ムーア@Ftarri(2017年)
Spontaneous Ensemble vol.7@東北沢OTOOTO(2017年)
中村としまる+沼田順『The First Album』(2017年)
内田静男+橋本孝之、中村としまる+沼田順@神保町試聴室(2017年)
山内桂+中村としまる『浴湯人』(2012年)
中村としまる+ジョン・ブッチャー『Dusted Machinery』(2009年)

●秋山徹次
高島正志+古池寿浩+秋山徹次「Blues Frozen Xīng ブルース 凍てついた星」@Ftarri(2018年)
ファビオ・ペルレッタ+ロレンツォ・バローニ+秋山徹次+すずえり@Ftarri(2017年)
池田謙+秋山徹次@東北沢OTOOTO(2017年)


『SONONI, Laetitia Benat』

2018-08-23 23:11:07 | アヴァンギャルド・ジャズ

『SONONI, Laetitia Benat』(NITECO STUDIO & MUSIC ARTS、2016年)。

Kaori Nishijima 西島芳 (p, voice)
Motohiko Ichino 市野元彦 (g)
Akira Sotoyama 外山明 (ds)
Laetitia Benat (painting/photo)

フランスのレティシア・ベナによる写真と絵のブックと、西島芳のトリオSONONIによる音楽とのコラボレーション作品。

簡素だけどタッチに愁いが込められているような絵とサウンドとが本当にマッチする。それは西島さんのピアノもそうだし、また、ヴォイスとピアノとのユニゾンというか並走が心を触ってくる気持ちはなかなかないものだ。

市野さんのギターは音響的でもあるが、多くのろ過を経て得られたような澄んだ感覚もある。これを聴くと、確かに、何かと競争するかのような即興やエネルギーの放出とはどういうことなのだろうと思わされる。外山さんの音もまたスクリーニングを経て浸透してきたもののようだ。

●西島芳
西島芳 triogy@本八幡cooljojo(2018年)
西島芳 triogy@下北沢Apollo(2018年)
西島芳 trio SONONI@下北沢Apollo(2018年)
西島芳アンサンブル・シッポリィ『Very Shippolly』(2017年)

●市野元彦
西島芳 trio SONONI@下北沢Apollo(2018年)
The Quiet Sound Graphy@KAKULULU(2017年)
rabbitoo@フクモリ(2016年)
rabbitoo『the torch』(2015年)
渋谷毅+市野元彦+外山明『Childhood』(2015年)
かみむら泰一『A Girl From Mexico』(2004年)

●外山明
松風鉱一カルテット@西荻窪Clop Clop(2018年)
松風鉱一カルテット+石田幹雄@新宿ピットイン(2018年)
西島芳 trio SONONI@下北沢Apollo(2018年)
齋藤徹+喜多直毅+外山明@cooljojo(2018年)
Shield Reflection@Ftarri(2017年)
渋谷毅オーケストラ@新宿ピットイン(2017年)
渋谷毅オーケストラ@新宿ピットイン(2016年その3)
渋谷毅オーケストラ@新宿ピットイン(2016年その2)
渋谷毅オーケストラ@新宿ピットイン(2016年その1)
松風鉱一カルテット+石田幹雄@新宿ピットイン(2016年)
渋谷毅+市野元彦+外山明『Childhood』(2015年)
松風鉱一カルテット+石田幹雄@新宿ピットイン(2015年)
纐纈雅代『Band of Eden』(2015年)
渋谷毅エッセンシャル・エリントン@新宿ピットイン(2015年)
渋谷毅オーケストラ@新宿ピットイン(2014年)
纐纈雅代 Band of Eden @新宿ピットイン(2013年)
松風鉱一カルテット@新宿ピットイン(2012年)
渋谷毅オーケストラ@新宿ピットイン(2011年)
松風鉱一カルテット、ズミクロン50mm/f2(2007年)
原みどりとワンダー5『恋☆さざなみ慕情』(2006年)


豊住芳三郎+ジョン・ラッセル『無為自然』

2018-08-23 07:27:17 | アヴァンギャルド・ジャズ

豊住芳三郎+ジョン・ラッセル『無為自然』(Chap Chap Records、2013年)。

Sabu Toyozumi 豊住芳三郎 (ds, perc, 二胡, 胡弓)
John Russell (g)

耳を傾けていると、有限の演奏時間のどこに居るのかわからなくなってしまうのだが、一刻ごとに何か新しいものが生み出されている。それが続く。

ジョン・ラッセルのギターは高音までをへばりつくように使う。12音を平等に扱い、そこからの抽出によりひりひりとした緊張とスピードとを創出している。そのあたりは師匠筋のデレク・ベイリーと共通するのではあるけれど、ベイリーよりもしなやかでマイルドな印象がある。

スピードといえば、豊住さんのドラムスがそれに激しく貢献している。タイトルの無為というか、無形の疾走であり、パルスを発する人というよりパルスそのものであるような。加えて、二胡がラッセルのギターと重なるときの他とのコントラストがまた素晴らしい。

この9月23日には稲毛のCandyで同じデュオがある。わたしも観に行くつもりである。

●ジョン・ラッセル
ドネダ+ラッセル+ターナー『The Cigar That Talks』(2009年)
『News from the Shed 1989』(1989年)
ジョン・ラッセル+フィル・デュラン+ジョン・ブッチャー『Conceits』(1987、92年)

●豊住芳三郎
謝明諺『上善若水 As Good As Water』(JazzTokyo)(2017年)
ブロッツ&サブ@新宿ピットイン(2015年)
豊住芳三郎『Sublimation』(2004年)
ポール・ラザフォード+豊住芳三郎『The Conscience』(1999年)
加古隆+高木元輝+豊住芳三郎『滄海』(1976年)
加古隆+高木元輝+豊住芳三郎『新海』、高木元輝+加古隆『パリ日本館コンサート』(1976年、74年)
豊住芳三郎+高木元輝 『もし海が壊れたら』、『藻』(1971年、75年)
富樫雅彦『風の遺した物語』(1975年)


アンソニー・ブラクストンとアンドリュー・シリルのデュオ

2018-08-22 22:01:27 | アヴァンギャルド・ジャズ

『Andrew Cyrille - Anthony Braxton Vol.1』『Anthony Braxton - Andrew Cyrille Vol.2』(Intakt、2002年)を聴く。

Andrew Cyrille (ds)
Anthony Braxton (reeds)

同じ2002年10月26日の録音。

ひたすらふたりのオリジナルを淡々と演奏するのみである。仕掛けとしての盛り上がりは無い。アンソニー・ブラクストンは驚くほど自分のタイム感覚でことを運んでおり、グループの編成がかれに影響することはあるのだろうか、などと思ってしまう。一方のアンドリュー・シリルも、いつものようにキレキレの達人ぶり。

だから何?これでよし。

●アンソニー・ブラクストン
アンソニー・ブラクストン『Ao Vivo Jazz Na Fabrica』(2014年)
アンソニー・ブラクストンとテイラー・ホー・バイナムのデュオの映像『Duo (Amherst) 2010』(2010年)
アンソニー・ブラクストン『Trio (Victoriaville) 2007』、『Quartet (Mestre) 2008』(2007、08年)
ブラクストン、グレイヴス、パーカー『Beyond Quantum』(2008年)
ブラクストン+ブロッツマン+バーグマン『Eight by Three』(1997年)
アンソニー・ブラクストンはピアノを弾いていた(1995年)
映像『Woodstock Jazz Festival '81』(1981年)
ムハール・リチャード・エイブラムス『1-OQA+19』(1977年)
アンソニー・ブラクストン『捧げものとしての4つの作品』(1973年)
デイヴ・ホランド『Conference of the Birds』(1973年)
ギュンター・ハンペルとジーン・リーの共演盤(1968、69、75年)
ジャズ的写真集(2) 中平穂積『JAZZ GIANTS 1961-2002』

●アンドリュー・シリル
ベン・モンダー・トリオ@Cornelia Street Cafe(2017年)
トリオ3@Village Vanguard(2015年)
アンドリュー・シリル『The Declaration of Musical Independence』(2014年)
アンドリュー・シリル+ビル・マッケンリー『Proximity』(2014年)
ビル・マッケンリー+アンドリュー・シリル@Village Vanguard(2014年)
ベン・モンダー『Amorphae』(2010、13年)
トリオ3+ジェイソン・モラン『Refraction - Breakin' Glass』(2012年)
アンドリュー・シリル『Duology』(2011年)
US FREE 『Fish Stories』(2006年)
アンドリュー・シリル+グレッグ・オズビー『Low Blue Flame』(2005年)
バーグマン+ブロッツマン+シリル『Exhilaration』(1996年)
ビリー・バング+サン・ラ『A Tribute to Stuff Smith』(1992年)
1987年のチャールズ・ブラッキーン(1987年)
『Andrew Cyrille Meets Brötzmann in Berlin』(1982年)
アンドリュー・シリル『Special People』(1980年)
アンドリュー・シリル+ミルフォード・グレイヴス『Dialogue of the Drums』(-1974年)
アンドリュー・シリル『What About?』(1969年) 


鈴木ちほ+荻野やすよし(solo solo duo)@高円寺グッドマン

2018-08-22 07:06:49 | アヴァンギャルド・ジャズ

高円寺グッドマンにて、鈴木ちほと荻野やすよしのソロとデュオ。(2018/8/21)

Chiho Suzuki 鈴木ちほ (bandoneon)
Yasuyoshi Ogino 荻野やすよし (g)

鈴木ちほソロ。ディノ・サルーシとエグベルト・ジスモンチの曲、本人のオリジナル曲を演った。ちほさんが「曲」を弾くのは新鮮な気がする。バンドネオンにはさまざまな音の濁りがあって、それが曲の良さと相まって、遠くを視てしまう哀感が濃淡をもって漂い出す。蛇腹を閉じるときの音が大きな息継ぎのようである。最後は愉しくもあった。

荻野やすよしソロ。即興から「Over the Rainbow」、オリジナル曲、タンゴ2曲をはさんでまたオリジナル曲。長い指が自在に動き、音の素晴らしい細さ長さ、柔らかさを味わった。タンゴ曲では、熱気をはらんだ繰り返しの中から、空が開けて情が外に向けて吐き出されるような瞬間があった。

デュオ。ちほさんがバンドネオンを叩き、やがてギターが走りはじめた。バンドネオンは奇妙にくねり、ギターは虹のように音を鮮やかに変えていく。荻野さんがピックを置いて指弾きにしたところで潮目が変わり、ちほさんはまたバンドネオンを叩く。荻野さんは音叉を使ってギターに共鳴を拡げ、ちほさんは折りたたみを音楽にする。ギターの指弾きと、バンドネオンの風。デュオは激しくなってゆき、その中から歌が見え隠れした。

Nikon P7800

●鈴木ちほ
鳥の未来のための螺旋の試み@ひかりのうま(2017年)
毒食@阿佐ヶ谷Yellow Vision(2017年)
晩夏のマタンゴクインテット@渋谷公園通りクラシックス(2017年)
北田学+鈴木ちほ@なってるハウス(2017年)
りら@七針(2017年)
齋藤徹+類家心平@sound cafe dzumi(2015年) 


『宮沢賢治コレクション3 よだかの星』

2018-08-21 07:25:05 | 東北・中部

『宮沢賢治コレクション3 よだかの星』(筑摩書房)を読む。

 

きびしい自然と生活と、日常言語を使ったとんでもない想像力。宮沢賢治はときに残酷でおそろしくもある。本書にはそのような短編の物語がいくつも収められている。はじめて読むものも多く、震えてしまう。「蜘蛛となめくじと狸」や「気のいい火山弾」なんてアフォリズム的でもある。

賢治の自然観察能力も特筆すべきものだ。たとえば、「よく利く薬とえらい薬」の以下の描写など素晴らしく、音楽的でもある。

「そのうちにもうお日さまは、空のまん中までおいでになって、林はツーンツーンと鳴り出しました。
 (木の水を吸いあげる音だ)と清夫はおもいました。
 それでもまだ籠の底はかくれませんでした。」

日常言語とはいえ、ときにそれは飛翔し、ときにしみじみするほど美しい。以下の文章のえもいわれぬテンポなど、意味がよくわからないながら、ほれぼれする(「ひかりの素足」)。

「お父さんはなんだか少し泣くように笑って
「さあもう一がえり面洗わなぃやなぃ。」と云いながら立ちあがりました。」

●宮沢賢治
『宮沢賢治コレクション1 銀河鉄道の夜』
『宮沢賢治コレクション2 注文の多い料理店』
横田庄一郎『チェロと宮沢賢治』
ジョバンニは、「もう咽喉いっぱい泣き出しました」
6輌編成で彼岸と此岸とを行き来する銀河鉄道 畑山博『「銀河鉄道の夜」探検ブック』
小森陽一『ことばの力 平和の力』
吉本隆明のざっくり感


高島正志+竹下勇馬+河野円+徳永将豪「Hubble Deep Fields」@Ftarri

2018-08-20 23:13:03 | アヴァンギャルド・ジャズ

水道橋のFtarri(2018/8/19)。

高島正志 (ds, G.I.T.M.)
竹下勇馬 (electro b)
河野円 (casette tape, recorder, feedback)
徳永将豪 (as)

(※)写真を使っていただいた

高島正志の作曲作品「Hubble Deep Fields」。それは少なからず奇妙であり、図示による楽譜、五線譜に少ない音符と指示が書き込まれた楽譜との組み合わせによるものだった。ファーストセットにその順序、セカンドセットは逆の順序。

あとで高島さんに訊くと、リハーサルは行わなかったという。その場でおのおのが楽譜の指示を見ながら試行するように音を出してゆく。「うまく従うことができるかどうか」といった点も含めて、緊張感が支配する時間でもあった。その結果、独自性の強い即興音楽家のもつ要素がまるで抽出されたかのような印象となった。社会になったと見ることもできた。サードセットには「時間が余ったから」という理由で短いインプロ演奏がなされたのだが、そのときの共振的な印象と比較すると、この抽出的な作品がなおさら特異なものに聴こえた。

はじめは静かに音が出され重なってゆく。やがて脈動的になり、また連続的なものと不連続的なものが入れ替わってあらわれたりもする。高島さんのときおりの手による指示は、要素以上の介入だった。フィードバックやエフェクトと、人為(不均一なバスドラムや、アナログな周波数プロファイルたるサックス)との対照。エレクトロベースの痙攣や河野さんの装置の振り回しと、自律的なグルーヴとの対照。そういった異質なものの共存が音楽になった。

Fuji X-E2、XF60mmF2.4

●高島正志
高島正志+古池寿浩+秋山徹次「Blues Frozen Xīng ブルース 凍てついた星」@Ftarri(2018年)
高島正志+河野円+徳永将豪+竹下勇馬@Ftarri(2018年)

●河野円
高島正志+河野円+徳永将豪+竹下勇馬@Ftarri(2018年)

●竹下勇馬
Zhu Wenbo、Zhao Cong、浦裕幸、石原雄治、竹下勇馬、増渕顕史、徳永将豪@Ftarri(2018年)
高島正志+河野円+徳永将豪+竹下勇馬@Ftarri(2018年)
TUMO featuring 熊坂路得子@Bar Isshee(2017年)
竹下勇馬+中村としまる『Occurrence, Differentiation』(2017年)
二コラ・ハイン+ヨシュア・ヴァイツェル+アルフレート・23・ハルト+竹下勇馬@Bar Isshee(2017年)
『《《》》 / Relay』(2015年)
『《《》》』(metsu)(2014年)


ファドも計画@in F

2018-08-20 00:12:31 | アヴァンギャルド・ジャズ

大泉学園のin Fに足を運び、「ファドも計画」。(2018/8/19)

Naoki Kita 喜多直毅 (vln)
Yuki Saga さがゆき (vo, g)
Keiki Midorikawa 翠川敬基 (cello)

「ファド化計画」あらため「ファドも計画」。ファドも演る、とはいえ最初はファド2曲から。「孤独」では、ヴァイオリンのしなる弦、ここにチェロの指の音と、口蓋にて想いを共鳴させるような声が入ってきて妙に動かされる。さがさんのヴォーカルを聴くのは実に久しぶりだが、それがいつ誰とだったか思い出せない。「奇妙な人生」では、翠川さんは静かに指で弾いていたが、クライマックスに差し掛かるとおもむろに弓で音の塊を発する。凄い音である。喜多さんはチェロとヴォーカルとに呼応し、震え泣き叫ぶ声を表現した。

ここでいきなり昭和歌謡にシフトする。松尾和子が歌った「再会」では弦ふたりの抑制した擦れ音のシンクロが印象的だった。また、翠川さんの抑制された丸い音には惹かれるものがある。続いて中島みゆきの「この空を飛べたら」。中盤でさがさんが喉を鳴らすように声を出し、その瞬間は黙っていたヴァイオリンが激しい音を放つ。曲を締めるときのヴァイオリンの軋みが効果的に聴こえた。

そしてなんと、八代亜紀が歌った「舟唄」。さがさんの歌声はひときわ力強くなり、ヴァイオリンは震え咽び、チェロは弦を押さえてのはじく音から強い音に移り変わっていった。続き、「ざんげの値打ちもない」では、ヴァイオリンが細いながら振幅の大きな波形を発生させ、また、チェロが入るところでまたしてもぞくりとさせられた。最後に、ちあきなおみの「かもめの街」。泣き笑いの気持ちが沁みてくる。

セカンドセットは、ファドの「難船」から加藤登紀子が歌った「難破船」(わたしは中森明菜を思い出すのだけれど)。揺れ動くヴァイオリン、弦3人での哀しいアンサンブル。ヴァイオリンが滑るような表現などをして、その一方で、サウンドから浮かび上がってくるチェロが色気を感じさせる。

早川義夫の「からっぽの世界」はたいへんな世界だ。ここで翠川さん、喜多さんの重ねる不協和音が歌とマッチした。続いて「セントジェームス医院」。三者の役割分担や移り変わりに注目していると面白い。

ファドに戻り、「私の中のファド」、「アルファーマ」。ファドの哀愁の強さを表現するかのように、さがさんがギターを叩き、それにヴァイオリンとチェロが重ねていった。次はファドではなくスペインの曲「ありがとう人生」。翠川さんは揺れながら旋律を弾いてゆく、それにどうしても気を奪われてしまう。最後はゴキゲンな「マリア・リスボア」で締めた。

それにしてもファドと昭和歌謡。実は同じ場所に居てもいいのだという気がしてくる。哀しさも楽しさもそのへんから勢いよくはみ出してきて、いいライヴだった。

Fuji X-E2、XF35mmF1.4、XF60mmF2.4

●翠川敬基
翠川敬基+齋藤徹+喜多直毅@in F(2017年)
1999年、井上敬三(1999年)
ペーター・コヴァルトのソロ、デュオ(1981、91、98年)
富樫雅彦『かなたからの声』(1978年)
翠川敬基『完全版・緑色革命』(1976年)
富樫雅彦『風の遺した物語』(1975年)

●喜多直毅
齋藤徹+喜多直毅@板橋大山教会(2018年)
齋藤徹+喜多直毅+外山明@cooljojo(2018年)
齋藤徹+喜多直毅+皆藤千香子@アトリエ第Q藝術(2018年)
ロジャー・ターナー+喜多直毅+齋藤徹@横濱エアジン(JazzTokyo)(2017年)
翠川敬基+齋藤徹+喜多直毅@in F(2017年)
喜多直毅+マクイーン時田深山@松本弦楽器(2017年)
黒田京子+喜多直毅@中野Sweet Rain(2017年)
齋藤徹+喜多直毅@巣鴨レソノサウンド(2017年)
喜多直毅クアルテット@求道会館(2017年)
ハインツ・ガイザー+ゲリーノ・マッツォーラ+喜多直毅@渋谷公園通りクラシックス(2017年)
喜多直毅クアルテット@幡ヶ谷アスピアホール(JazzTokyo)(2017年)
喜多直毅・西嶋徹デュオ@代々木・松本弦楽器(2017年)
喜多直毅+田中信正『Contigo en La Distancia』(2016年)
喜多直毅 Violin Monologue @代々木・松本弦楽器(2016年)
喜多直毅+黒田京子@雑司が谷エル・チョクロ(2016年)
齋藤徹+かみむら泰一、+喜多直毅、+矢萩竜太郎(JazzTokyo)(2015-16年)
うたをさがして@ギャラリー悠玄(2015年)
http://www.jazztokyo.com/best_cd_2015a/best_live_2015_local_06.html(「JazzTokyo」での2015年ベスト)
齋藤徹+喜多直毅+黒田京子@横濱エアジン(2015年)
喜多直毅+黒田京子『愛の讃歌』(2014年)
映像『ユーラシアンエコーズII』(2013年)
ユーラシアンエコーズ第2章(2013年)
寺田町の映像『風が吹いてて光があって』(2011-12年)
『うたをさがして live at Pole Pole za』(2011年)


キース・ジャレット『Festival de jazz d'Antibes 1985』、『Canada '84 Japan '86』、『Live in Sendai 1986』

2018-08-18 09:02:46 | アヴァンギャルド・ジャズ

キース・ジャレットのスタンダーズ(ゲイリー・ピーコック、ジャック・デジョネット)については、『Bye Bye Blackbird』(1991年)や『At the Blue Note』(1994年)のシンプルさに驚き、少し失望もしたこともあって、それ以降の作品はほとんど聴いていない。『Standards in Norway』(1989年)は微妙で、リリースは確か『Bye Bye Blackbird』よりも少し後だった。この頃からシンプルなピアノ演奏に変わってきた。とは言えこの3人であるから悪いはずはないので、まあ気持ちの問題である。(同時期の『At the Deer Head Inn』はドラマーがモチアンに変わっただけで好きなアルバムになってしまっている。)

わたしが好きなスタンダーズのアルバムは、最初の『Standards』の2作(1983年)から『Still Live』(1986年)までの時期。特に愛聴してきたアルバムが『Standards Live』(1985年)で、この頃の音源を聴くとキースの天才ぶりに圧倒される。絢爛豪華で、70年代の雰囲気も引きずっている。曲の解釈や演奏は毎回かなり異なり、それに、ピーコックが香りたつような音で介入する。

これまで出た音源を整理すると以下のような録音順。

1977年 2月 『Tales of Another』(ゲイリー・ピーコック)
1983年 1月『Standards Vol.1』、『同 Vol.2』
1984年12月 『Canada '84 Japan '86』(1枚目)
1985年 2月 『Standards I/II』(DVD)
1985年 7月 『Standards Live』
1985年 7月 『North Sea Standards』
1985年 7月 『Festival de jazz d'Antibes 1985』
1986年 7月 『Still Live』
1986年10月 『Canada '84 Japan '86』(2枚目)、『Live in Sendai 1986』
1986年10月 『Standards I/II』(DVD)
1987年10月 『Changeless』
以下略

このうち最近出てきた音源。

『Festival de jazz d'Antibes 1985』(JazzTime、1985年)は『Standards Live』『North Sea Standards』と同じヨーロッパ・ツアーの記録。2枚組である。いきなりボビー・マクファーリンが歌いながらメンバーを紹介し驚いてしまう。ゆっくりとしたテンポの「Falling in Love with Love」や明快に弾きゲイリーが活躍する「God Bless the Child」など、演奏は当然どれも良い。聴けば聴くほどキースが素晴らしいので比較するものでもないが、やはり、『Standards Live』が際立って神憑りだったのだなと感じる。

『Canada '84 Japan '86』(Hi Hat、1984、86年)は、1枚目は1984年のトロントでのライヴ、2枚目は1986年の仙台でのライヴ。特に印象深い演奏が、仙台での「Stella by Starlight」であり、この執拗さや粘っこさは、『Standards Live』における同曲の演奏とはまた違った魅力を持っている。

ところで、『Live in Sendai 1986』(JazzTime、1986年)というものもあって、『Canada '84 Japan '86』の2枚目と同じである。しかし、『Canada '84 Japan '86』は日本のラジオ放送を音源にしており日本語のアナウンスが入っているのに対し、『Live in Sendai 1986』はまた別の音源でありアナウンスはない。

Keith Jarrett (p)
Gary Peacock (b)
Jack DeJonette (ds)

●キース・ジャレット
キース・ジャレット『North Sea Standards』(1985年)
キース・ジャレット『Standards Live』(1985年)
ピーター・ブルック『注目すべき人々との出会い』、クリストのドキュ、キース・ジャレットのグルジェフ集 (1980年)
キース・ジャレット『Staircase』、『Concerts』(1976、81年)
キース・ジャレット『Eyes of the Heart』(1976年)
キース・ジャレットのインパルス盤(1975-76年)
キース・ジャレット『Arbour Zena』(1975年)
キース・ジャレット『Solo Performance New York '75』(1975年)
キース・ジャレット『The New York Concert』(1975年)
キース・ジャレット『The Bremen Concert』(1975年)
70年代のキース・ジャレットの映像(1972、76年)
1972年6月のキース・ジャレット・トリオ(1972年)
キース・ジャレット+チャーリー・ヘイデン+ポール・モチアン『Hamburg '72』(1972年)
キース・ジャレット『Facing You』(1971年)


角銅真実+横手ありさ、田中悠美子+清田裕美子、すずえり+大城真@Ftarri

2018-08-15 07:03:16 | アヴァンギャルド・ジャズ

水道橋のFtarriで、「6周年記念コンサート Vol. 4」(2018/8/14)。

■ 角銅真実 (声)+横手ありさ (声)

暗闇でふたりが並んで立ち、両手に持ったライターを点火するリレーを行う。そのたびに無表情の顔が浮かび上がり、人間性を殺す演劇的なしぐさが逆に人間性を強調する。点火のリレーは囁き声のリレーへと移行し、やがて、ふたりは音楽を奏で始める。

■ 田中悠美子 (エレキ大正琴)+清田裕美子 (龍笛、琵琶)

清田さんの龍笛ソロのあと、田中さんが大正琴を弾きはじめた。

前回はじめて観たときに激しく驚いた大正琴、それは「鍵盤を取り除いてフレットも少し削った改造エレキ大正琴」。田中さんは音を探るとはいっても確信犯。弦の端と端とを同時に弾いたり、小道具で弾いてはボトルネックで自在に周波数を変えたり。前回と違い、演奏の愉しさを少し隠し、良い音ヘンな音が出てもそれを見せず含み笑い。

ここに清田さんの琵琶が楔をさしまくった。重そうな楽器は音も重い。

■ すずえり (プリペアド・ピアノ、自作楽器、ほか)+大城真 (自作楽器)

大城さんはスピーカーを床に置き、発信機とともにフィードバックを発生させる。同じサイズの発信機が次々に悪夢のように取りだされ、それを、片手で乱暴に無造作に置いてゆく。ここには暴力的な怖さがあって、いちいち自分の頭に当たってスプラッター映画のようになることを想像してしまう。

バイオレントなアメリカンポップアート大城真と組んだすずえりさんは、その影響もあってか、パフォーマンスをスピードアップしたように見えた。ピアノの内部を半分自動・半分手動で操作しつつ、鍵盤を弾く。横にはくるくる回るオブジェ、それを照らしての天井と壁の影絵。ミニマルよりもドラマチック。

●参照
フタリのさとがえり@Ftarri(2018年)
齊藤僚太+ヨシュア・ヴァイツェル+田中悠美子@Ftarri(2018年)
Zhao Cong、すずえり、滝沢朋恵@Ftarri(2018年)
ファビオ・ペルレッタ+ロレンツォ・バローニ+秋山徹次+すずえり@Ftarri(2017年)
すずえり、フィオナ・リー『Ftarri de Solos』(2017年)
網守将平+岡田拓郎、角銅真実+滝沢朋恵、大城真+川口貴大@Ftarri
(2017年)
大城真『Cycles』(2017年)
大城真+永井千恵、アルフレート・23・ハルト、二コラ・ハイン+ヨシュア・ヴァイツェル+中村としまる@Ftarri(2017年)


This is It! 『1538』

2018-08-13 07:59:07 | アヴァンギャルド・ジャズ

This is It! 『1538』(Libra Records、2018年)を聴く。

Natsuki Tamura 田村夏樹 (tp)
Satoko Fujii 藤井郷子 (p)
Takashi Itani 井谷享志 (ds, perc)

最初は藤井郷子、トッド・ニコルソン、井谷享志のトリオ、次に田村夏樹が加わりQuartet Tobira、トッドさんがNYに去ってTobira-1、それを2017年にThis is It!に改名。ちょうど現バンド名になったばかりのライヴを観たが(告知はTobira-1名でなされていた)、本盤のサウンドは、そのときよりもかなり進化しているように思われる。

なにしろリズムやテンポの変化が複雑で目まぐるしく、各プレイヤーは、随時、足場の違うところに瞬間移動を強いられる。しかしサウンドから受ける印象はアクロバティックなものではない。休むことなく絶えず体制変更を見事に行うことを前提とした先鋭的な音空間は、やはり、聴き物である。

●参照
与之乃+田村夏樹@渋谷メアリージェーン(2018年)
魔法瓶@渋谷公園通りクラシックス(2018年)
MMM@稲毛Candy(2018年)
藤井郷子オーケストラ東京@新宿ピットイン(2018年)
藤井郷子オーケストラベルリン『Ninety-Nine Years』(JazzTokyo)(2017年)
晩夏のマタンゴクインテット@渋谷公園通りクラシックス
(2017年)
This Is It! @なってるハウス(2017年)
田村夏樹+3人のピアニスト@なってるハウス(2016年)
藤井郷子『Kitsune-Bi』、『Bell The Cat!』(1998、2001年)