Sightsong

自縄自縛日記

山崎阿弥+坂口光央@神保町試聴室

2021-05-30 12:19:30 | アヴァンギャルド・ジャズ

神保町試聴室(2021/5/24)。

Ami Yamasaki 山崎阿弥 (voice)
Mitsuhisa Sakaguchi 坂口光央 (p, electronics)

はじめは山崎さんは脇をしぼって音を絞り出し、坂口さんがそれに音を重ねる。そのときすでに、ピアノとはサウンド全体の支配に向けてずいぶんと人為的な楽器なのだなと思ってしまう。山崎さんが連続的に拳の動きに連動させ、また掌をスライスすることによって音を中心から逸らせることで動的・連続的なサウンドを作っていくのに対し、坂口さんは旋律のパターンを作りそれを発展させるという対照的なところからも、その印象が強くなる。つまりピアノは「音楽」なのだなあ、と。

対照的な音の作り方を観察するのも悪くはないが、ピアノよりもエレクトロニクスでコズミックなサウンドを漂わせたほうが、山崎さんのありようにはマッチするようにみえた。

山崎さんは上半身だけでなく、踵で重心をコントロールすることにより、楽器を全身へと拡張させた。ここにスピードや分散やパーカッションやマチエールの要素が加わった。スピードやヴェクトルが定まっていれば、運動性をもつピアノはじつに強力。

●山崎阿弥
山崎阿弥『quantum quantum』(JazzTokyo)(2019年)
フローリアン・ヴァルター+石川高+山崎阿弥@Bar subterraneans(JazzTokyo)(2019年)
山崎阿弥+ネッド・ローゼンバーグ@千駄木Bar Isshee(2019年)
ローレン・ニュートン、ハイリ・ケンツィヒ、山崎阿弥、坂本弘道、花柳輔礼乃、ヒグマ春夫(JAZZ ART せんがわ2018、バーバー富士)(JazzTokyo)(2018年)
石原雄治+山崎阿弥@Bar Isshee(2018年)
岩川光+山崎阿弥@アートスペース.kiten(2018年)

●坂口光央
中村としまる+山本達久+坂口光央@新宿ピットイン(2020年)
植村昌弘+ナスノミツル+坂口光央@千駄木Bar Isshee(2014年)


かみむら泰一+古和靖章+遠藤ふみ+阿部真武@神保町試聴室

2021-05-05 07:26:58 | アヴァンギャルド・ジャズ

神保町の試聴室(2021/5/4)。

Taiichi Kamimura かみむら泰一 (ts, ss)
Yasuaki Kowa 古和靖章 (g)
Fumi Endo 遠藤ふみ (p)
Masatake Abe 阿部真武 (b)

最初は微かに擦れさせる音量のソプラノサックス。他の3人も音を散りばめ置いてゆくのだが、減衰音を減衰するままにさせず、ピアノは旋律へ、ベースは音を持ち上げてプラトーへ、ギターもE-bowで連続音へと発展させる。それによるサウンドがもつ時間は停滞するものでもあって、かみむらさんが曲(遠藤)の旋律を吹き始めると時間も流れ始めた。古和さんのギターはかみむらさんのソプラノと同様に音の中心から逸脱する。

次に、テナー、ギター、ベースの各々がなにかを演り離合集散する。遠藤さんはペンをぶらぶらさせて鍵盤を触り、いきなり手を叩いて音の発散に一役買っている。そしてふたたび即興から曲(阿部)へと移り、阿部さんのエッジが柔らかいベースがサウンドを駆動させる。遠藤さんは多くの音をつまみ上げるようにして局所的には激しい演奏を行うがあくまで繊細でじつにおもしろい。ギターがサウンドを包み込み、それと並んで、かみむらさんのテナーがよれる高音を出した。

セカンドセットの始まりはピアノ、ギター、ベースの3人が金属片を弄びつつ強度を高めてゆく。かみむらさんはステージの端に裸足で立ち、サウンドの場に外部から音を与え、サウンドという球体を撫でるようにして発展させるありようが独特。かみむらさんは球体の中心に戻り、すこし間を置いて哀切な曲(かみむら)をテナーで吹いた。ここでも遠藤さんのピアノはじつに繊細。擦れとともにテナーが音を出すのをやめると、ベース、ギター、ピアノの音が前面に出てきたのが印象的だった。

次はピアノとベースが音を置くなかで、かみむらさんが玩具で遊び、仰向けに寝そべってソプラノを吹き、立ち上がって裸足でステップを踏む。ここからの曲(古和)は明るく狂騒的である。

続くタンゴ的な曲(かみむら)では全員が力強くテンポを刻み、しばらくして小唄の旋律に移行した。だがなかなか終われない。かみむらさんはソプラノを尺八のように使い、次に風を発生させ、このギグを収束させた。

Fuji X-E2、7Artisans 12mmF2.8、XF60mmF2.4

●かみむら泰一
『ツ・ナ・ゲ・ル・ヒ・ト』@千歳烏山TUBO(2020年)
クリス・ヴィーゼンダンガー+かみむら泰一『山の猫は水脈をたどる』(JazzTokyo)(2019年)
長沢哲+かみむら泰一@東北沢OTOOTO(2019年)
李世揚+瀬尾高志+かみむら泰一+田嶋真佐雄@下北沢Apollo(2019年)
かみむら泰一+永武幹子「亡き齋藤徹さんと共に」@本八幡cooljojo(2019年)
クリス・ヴィーゼンダンガー+かみむら泰一+落合康介+則武諒@中野Sweet Rain(2019年)
徹さんとすごす会 -齋藤徹のメメント・モリ-(2019年)
かみむら泰一+齋藤徹@喫茶茶会記(2018年)
かみむら泰一+齋藤徹@本八幡cooljojo(2018年)
かみむら泰一+齋藤徹@本八幡cooljojo(2018年)
かみむら泰一session@喫茶茶会記(2017年)
齋藤徹 plays JAZZ@横濱エアジン(JazzTokyo)(2017年)
かみむら泰一+齋藤徹@キッド・アイラック・アート・ホール(2016年)
齋藤徹+かみむら泰一、+喜多直毅、+矢萩竜太郎(JazzTokyo)(2015-16年)
かみむら泰一『A Girl From Mexico』(2004年) 

●阿部真武
池田陽子+阿部真武+岡川怜央@Ftarri(2021年)

●遠藤ふみ
徳永将豪+遠藤ふみ@Ftarri(その2)(2021年)
本藤美咲+遠藤ふみ@Ftarri(2021年)
徳永将豪+遠藤ふみ@Ftarri(2021年)
池田陽子+遠藤ふみ@Ftarri(2021年)


フェダイン『ファースト』『ジョイント』(JazzTokyo)

2021-05-04 10:29:12 | アヴァンギャルド・ジャズ

フェダイン『ファースト』(地底レコード、1990年)、『ジョイント』(地底レコード、~1993年)のレビューをJazzTokyo誌に寄稿した。

>> #2083 『フェダイン/ファースト&ジョイント』 

●ファースト
フェダイン:
Naohiro Kawashita 川下直広 (ss, ts, vln)
Daisuke Fuwa 不破大輔 (b)
Shiro Onuma 大沼志朗 (ds)
Guest:
Yuji Katsui 勝井祐二 (vln)

●ジョイント
フェダイン:
Naohiro Kawashita 川下直広 (ts)
Daisuke Fuwa 不破大輔 (b)
Shiro Onuma 大沼志朗 (ds)
Guest:
Masato Minami 南正人 (vo, g)
Takayuki Kato 加藤崇之 (g)

●川下直広
『Green Planets』(2019年)
波多江崇行+川下直広+小山彰太(Parhelic Circles)@阿佐ヶ谷Yellow Vision(2018年)
原田依幸+川下直広『東京挽歌』(2017年)
川下直広カルテット@なってるハウス(2017年)
波多江崇行+川下直広+小山彰太『Parhelic Circles』(2017年)
川下直広@ナベサン(2016年)
川下直広カルテット@なってるハウス(2016年)
沖至『夜の眼』(2015年)
渡辺勝+川下直広@なってるハウス(2015年)
川下直広『Only You』(2006年)
川下直広『漂浪者の肖像』(2005年)
川下直広+山崎弘一『I Guess Everything Reminds You of Something』(1997年)
『RAdIO』(1996, 99年)
『RAdIO』カセットテープ版(1994年)
のなか悟空&元祖・人間国宝オールスターズ『伝説の「アフリカ探検前夜」/ピットインライブ生録画』(1988年) 

●不破大輔
不破ワークス@なってるハウス(2020年)
加藤崇之+不破大輔+藤掛正隆+元晴@荻窪ルースターノースサイド(2019年)
渋大祭@川崎市東扇島東公園(2019年)
渋さチビズ@なってるハウス(2019年)
青山健一展「ペタペタ」とThe Space Baa@EARTH+GALLERY(2017年)
川下直広カルテット@なってるハウス(2017年)
川下直広カルテット@なってるハウス(2016年)
立花秀輝+不破大輔@Bar Isshee(2015年)
不破大輔@東京琉球館(2015年)
山口コーイチ『愛しあうことだけはやめられない』(2009-10年)
高木元輝の最後の歌(2000年)
2000年4月21日、高木元輝+不破大輔+小山彰太(2000年)
『RAdIO』(1996, 99年)
『RAdIO』カセットテープ版(1994年)
のなか悟空&元祖・人間国宝オールスターズ『伝説の「アフリカ探検前夜」/ピットインライブ生録画』(1988年)

●大沼志朗
松風M.A.S.H. その3@なってるハウス(2018年)
松風M.A.S.H. その2@なってるハウス(2017年)
松風M.A.S.H.@なってるハウス(2017年)
M.A.S.H.@七針(2016年)
M.A.S.H.@七針(2015年)


鳥羽耕史『運動体・安部公房』

2021-05-04 09:55:22 | 思想・文学
鳥羽耕史『運動体・安部公房』(一葉社、2007年)がわりとおもしろい本だった。
安部は共産党に入党して1961年に除名されるわけだけれど(そのころの活動のありようについては、道場親信『下丸子文化集団とその時代』に詳しい)、それは、寓意に満ちた作品群がそのイデオロギー体系と根本的に相容れないことと無縁ではなかった。
もうひとつの発見は、安部と写真との関係。安部の写真作品(ミノルタCLEなんかも使っていたはず)は、言語世界に亀裂を入れて都市の回路をあぶり出すための手段だけではなかった。そして、『砂の女』の細部を凝視するような描写は東松照明の写真に影響を受けていたこと(!!)、それによる作品世界(『砂の女』から『箱男』、『方舟さくら丸』へ)は砂の外の政治状況にはもうコミットしないという決意表明でもあったことが示されている。
なるほどなあ、そうだとすると安部のユートピア指向(=地獄指向)も納得できるというものだ。
ところで仙川の安部邸が取り壊されると聞いて焦って見に行ったのが2014年2月だった。それ以来安部公房のことなんて考えもしていなかったけれど、また別のアタマで読んでみようかな。
それはともかく、「運動体」は定義されることのない良い言葉なので、来るべき本のタイトルにも使おうと思っている。
 

『Kobo Abe as Photographer』(1996年の写真展の図録)
仙川の安部公房邸(2014年2月15日)

渋谷毅オーケストラ@新宿ピットイン

2021-05-01 11:28:15 | アヴァンギャルド・ジャズ

新宿ピットイン(2021/4/30)。

Takeshi Shibuya 渋谷毅 (p, org)
Kosuke Mine 峰厚介 (ts)
Koichi Matsukaze 松風鉱一 (bs, as, fl)
Eiichi Hayashi 林栄一 (as)
Kenta Tsugami 津上研太 (ss, as)
Osamu Matsumoto 松本治 (tb)
Akihiro Ishiwatari 石渡明廣 (g)
Katsumasa Kamimura 上村勝正 (b)
Akira Sotoyama 外山明 (ds)
Guest:
Hideko Shimizu 清水秀子 (vo)

最近のパターンに沿って「Side Slip」(石渡)から(むかしはこれが「Great Type」だったりした)。ずらりと並んだメンバーのソロが向かって右から順番に(松本→林→津上→峰→松風)。林さんのアルトがかつてを思わせる可愛い音でちょっと驚いたがどうだろう。松風さんのバリトンはことさらのキメでドヤとは終わらない、これが師匠の美学にちがいない。外山さんの音圧が印象的。

「Ballad」(石渡)に続いて清水秀子さんが入り、スタンダードの「Crazy He Calls Me」、松風さんのフルートをフィーチャーした「Sometime Ago」。皆が照れたようにアアと声を出してハモりおもしろい。それにしてもフルートの擦れが良い。渋谷さんが峰さんに無茶振りして「Girl Talk」、そして清水さんが抜けて、時間がないからというので(コロナ禍なのだ)、「Chealsea Bridge」(ビリー・ストレイホーン)。渋谷さんの妙なるピアノの和音がすばらしい。外山さんの不規則で自由なドラムスも、つねに違和感とともに食い込んでくる峰さんのテナーも良い(1993年に『Major to Minor』が出たときその感覚に魅せられたことをまだ鮮やかに覚えている)。

セカンドセットの最初は「もはやちがう町」(石渡)で林栄一フィーチャー。この重さと独自の時間軸によって突き進むアルトはたしかに唯一無二だろう。「Three Views Of A Secret」(ジャコ・パストリアス)での津上さんの硬い透明樹脂のようなソプラノ、峰さんのテナーはかれららしい。ここでふたたび清水さんが入り、エリントンの知られていない曲をというので「I'm Just A Lucky So And So」。エリントンのハーモニーはじつに気持ちが良い。松本さんのトロンボーンからの「Love Dance」(イヴァン・リンス)、サウンドが分厚くて嬉しい「Caravan」(エリントン)を経て、「Soon I Will Be Done With The Trouble Of The World」(カーラ・ブレイ)でも分厚いハモり。

アンコールは渋谷さんのピアノソロ「Lotus Blossom」(ビリー・ストレイホーン)。久しぶりに聴いたらちょっと工夫された展開に聴こえた。

●渋谷毅
渋大祭@川崎市東扇島東公園(2019年)
平田王子+渋谷毅『Luz Do Sol*やさしい雨』(2018年)
2018年ベスト(JazzTokyo)(2018年)
廣木光一+渋谷毅『Águas De Maio 五月の雨』(2018年)
今村祐司グループ@新宿ピットイン(2017年)
渋谷毅@裏窓(2017年)
渋谷毅オーケストラ@新宿ピットイン(2017年)
渋谷毅オーケストラ@新宿ピットイン(2016年その3)
渋谷毅オーケストラ@新宿ピットイン(2016年その2)
廣木光一+渋谷毅@本八幡Cooljojo(2016年)
渋谷毅オーケストラ@新宿ピットイン(2016年その1)
渋谷毅@裏窓(2016年)
渋谷毅+市野元彦+外山明『Childhood』(2015年)
渋谷毅エッセンシャル・エリントン@新宿ピットイン(2015年)
渋谷毅オーケストラ@新宿ピットイン(2014年)
渋谷毅オーケストラ@新宿ピットイン(2011年)
渋谷毅+津上研太@ディスクユニオン(2011年)
渋谷毅のソロピアノ2枚(2007年)
原みどりとワンダー5『恋☆さざなみ慕情』(2006年)
『RAdIO』(1996, 99年) 
渋谷毅+川端民生『蝶々在中』(1998年)
『RAdIO』カセットテープ版(1994年)
『浅川マキを観る vol.3』@国分寺giee(1988年)
『山崎幹夫撮影による浅川マキ文芸座ル・ピリエ大晦日ライヴ映像セレクション』(1987-92年)
浅川マキ+渋谷毅『ちょっと長い関係のブルース』(1985年) 
カーラ・ブレイ+スティーヴ・スワロウ『DUETS』、渋谷毅オーケストラ
見上げてごらん夜の星を