Sightsong

自縄自縛日記

川下直広『Only You』

2018-03-31 10:32:57 | アヴァンギャルド・ジャズ

川下直広『Only You』(地底レコード、-2006年)を聴く。

Naohiro Kawashita 川下直広 (ss, ts, vln, g, mandolin, banjo, harmonica, and all other effect)
Yukitaka Nagami 永見行崇 (org) (track 1-3)
Roby Johnson (ds) (track 1-3)

博多でライヴ録音された最初の3曲が凄まじい。「Only You」、「When A Man Loves A Woman」、「Besame Mucho」、いきなり絶頂、いきなりクライマックス。すべてクライマックス。すべての感情がぐちゃぐちゃの濁流となってオルガン、ドラムスと並走する。そうかオルガンってのは名前からして有機的で絶頂でもあったか(適当)。

「Besame Mucho」は傑作『I Guess Everything Reminds You of Something』でも吹いていて、暗闇で目を座らせて演奏しているような按配だったが、こちらは有機物の海の中で叫んでいるような感じ。

4、5曲目は川下さんのひとり演奏の多重録音。「Temporary Song」では、フェダインやRAdIOでも聴くことができた、スピード感とグルーヴ感あふれたヴァイオリン。「And I Love Her」の黄昏的なイメージもとても好きである。

●川下直広
波多江崇行+川下直広+小山彰太『Parhelic Circles』(2017年)
川下直広カルテット@なってるハウス(2017年)
川下直広@ナベサン(2016年)
川下直広カルテット@なってるハウス(2016年)
渡辺勝+川下直広@なってるハウス(2015年)
川下直広『漂浪者の肖像』(2005年)
川下直広+山崎弘一『I Guess Everything Reminds You of Something』(1997年)
『RAdIO』(1996, 99年)
『RAdIO』カセットテープ版(1994年)
のなか悟空&元祖・人間国宝オールスターズ『伝説の「アフリカ探検前夜」/ピットインライブ生録画』(1988年) 


山内桂『波照間』、『祝子』

2018-03-29 23:13:17 | アヴァンギャルド・ジャズ

山内桂『波照間』(selmo fishing association、2006年)、『祝子』(ほうり)(selmo fishing association、2008年)を聴く。

『波照間』
Katsura Yamauchi 山内桂 (as, sopranino sax)

『祝子』
Katsura Yamauchi 山内桂 (sopranino sax, C-melody ss, as, bs)

『波照間』はアルトまたはソプラニーノによるソロ演奏である。やはりアルトでは、音と音でないものとの狭間、音と音との狭間の往還が表現されている。先日のライヴで感じたように、アルトがその領域内の旅だとして、ソプラニーノは領域間を串刺しにして垂直の往還をしているようだ。ほとんどはスタジオ演奏だが、最後の演奏は宮崎の祝子川渓谷で収録されており、水や風の音と山内桂のソプラニーノとが世界を共有している。

『祝子』には驚いた。その祝子川渓谷において、ソプラニーノ、Cメロディ、アルト、バリトンを吹き(肩まで水に浸かって吹く氏の写真があある!)、それがオーバーダブされ、アンサンブルとなっている。この自然とともにある祝祭の感覚は何なのだ。内に籠っていながら外に向かって開かれてもいる。理由がよくわからないながら、嬉しさに震えてしまった。

●山内桂
千野秀一+山内桂@Ftarri(2018年)
山内桂+中村としまる『浴湯人』(2012年)
山内桂+マーティン・ヴォウンスン『Spanien』(2010年)
山内桂+ミシェル・ドネダ『白雨』(2004年)


齋藤徹+沢井一恵『八重山游行』

2018-03-29 00:08:47 | アヴァンギャルド・ジャズ

齋藤徹+沢井一恵『八重山游行』(JABARA、1996年)を聴く。

Tetsu Saitoh 齋藤徹 (b, ching)
Kazue Sawai 沢井一恵 (koto)

まるで対をなすようなソロ作品『パナリ』が西表島の海岸で演奏され、波の音が入り周囲の空気と融合するような感覚を与えるのに対し、『八重山游行』は石垣島の「アトリエ游」で録られており、開と閉とによる違いが印象的だ(ただし、『パナリ』の5曲目だけは『八重山游行』の翌日に同じ場所で沖縄の音楽家たちと録られたものである)。

それだけでなく、『八重山游行』での演奏は、いまのテツさんのそれとも異なっているような感覚がある。共演した沢井一恵さんの存在によるものか。それとも韓国音楽の影響によるものか。その場と時間において音楽を完結させようとする意思があったのかなと思えたりもする。

この魅力的な2作品を聴くと、また、琉球や奄美の方に接近するテツさんの音楽を聴きたいと思う。ユーラシアンエコーズのひとつの響きとして。

●齋藤徹
齋藤徹+喜多直毅@板橋大山教会(2018年)
齋藤徹+喜多直毅+外山明@cooljojo(2018年)
かみむら泰一+齋藤徹@本八幡cooljojo(2018年)
齋藤徹+喜多直毅+皆藤千香子@アトリエ第Q藝術(2018年)
2017年ベスト(JazzTokyo)
即興パフォーマンス in いずるば 『今 ここ わたし 2017 ドイツ×日本』(2017年)
『小林裕児と森』ライヴペインティング@日本橋三越(2017年)
ロジャー・ターナー+喜多直毅+齋藤徹@横濱エアジン(JazzTokyo)(2017年)
長沢哲+齋藤徹@東北沢OTOOTO(2017年)
翠川敬基+齋藤徹+喜多直毅@in F(2017年)
齋藤徹ワークショップ特別ゲスト編 vol.1 ミシェル・ドネダ+レ・クアン・ニン+佐草夏美@いずるば(2017年)
齋藤徹+喜多直毅@巣鴨レソノサウンド(2017年)
齋藤徹@バーバー富士(2017年)
齋藤徹+今井和雄@稲毛Candy(2017年)
齋藤徹 plays JAZZ@横濱エアジン(JazzTokyo)(2017年)
齋藤徹ワークショップ「寄港」第ゼロ回@いずるば(2017年)
りら@七針(2017年)
広瀬淳二+今井和雄+齋藤徹+ジャック・ディミエール@Ftarri(2016年)
齋藤徹『TRAVESSIA』(2016年)
齋藤徹の世界・還暦記念コントラバスリサイタル@永福町ソノリウム(2016年)
かみむら泰一+齋藤徹@キッド・アイラック・アート・ホール(2016年)
齋藤徹+かみむら泰一、+喜多直毅、+矢萩竜太郎(JazzTokyo)(2015-16年)
齋藤徹・バッハ無伴奏チェロ組曲@横濱エアジン(2016年)
うたをさがして@ギャラリー悠玄(2015年) 
齋藤徹+類家心平@sound cafe dzumi(2015年)
齋藤徹+喜多直毅+黒田京子@横濱エアジン(2015年)
映像『ユーラシアンエコーズII』(2013年)
ユーラシアンエコーズ第2章(2013年)
バール・フィリップス+Bass Ensemble GEN311『Live at Space Who』(2012年)
ミシェル・ドネダ+レ・クアン・ニン+齋藤徹@ポレポレ坐(2011年)
齋藤徹による「bass ensemble "弦" gamma/ut」(2011年)
『うたをさがして live at Pole Pole za』(2011年)
齋藤徹『Contrabass Solo at ORT』(2010年)
齋藤徹+今井和雄『ORBIT ZERO』(2009年)
齋藤徹、2009年5月、東中野(2009年)
ミシェル・ドネダと齋藤徹、ペンタックス43mm(2007年)
齋藤徹+今井和雄+ミシェル・ドネダ『Orbit 1』(2006年)
明田川荘之+齋藤徹『LIFE TIME』(2005年)
ミシェル・ドネダ+レ・クアン・ニン+齋藤徹+今井和雄+沢井一恵『Une Chance Pour L'Ombre』(2003年)
往来トリオの2作品、『往来』と『雲は行く』(1999、2000年)
齋藤徹+ミシェル・ドネダ+チョン・チュルギ+坪井紀子+ザイ・クーニン『ペイガン・ヒム』(1999年)
齋藤徹+ミシェル・ドネダ『交感』(1999年)
久高島で記録された嘉手苅林昌『沖縄の魂の行方』、池澤夏樹『眠る女』、齋藤徹『パナリ』(1996年)
ミシェル・ドネダ+アラン・ジュール+齋藤徹『M'UOAZ』(1995年)
ユーラシアン・エコーズ、金石出(1993、1994年)
ジョゼフ・ジャーマン 

●沢井一恵
映像『ユーラシアンエコーズII』(2013年)
ユーラシアンエコーズ第2章(2013年)
ミシェル・ドネダ+レ・クアン・ニン+齋藤徹+今井和雄+沢井一恵『Une Chance Pour L'Ombre』(2003年)
ユーラシアン・エコーズ、金石出(1993、1994年)


星の栖家『plays COMPOSTELA』

2018-03-28 08:03:16 | アヴァンギャルド・ジャズ

星の栖家『plays COMPOSTELA』(off note、2005年)を聴く。

Takero Sekijima 関島岳郎 (tuba)
Kanji Nakao 中尾勘二 (as, ss, cl, ds, Grosse Caisse)
Yuriko Mukojima 向島ゆり子 (vln)
Hiroshi Funato 船戸博史 (b) (Track 3-10)
Gakuro Fukui 福井岳郎 (charango) (Track 9, 10)

コンポステラの「反射する道」や「月下の一群」や「最初の記憶」、ストラーダの「身それた花」といった曲がこのメンバーで演奏されているのを聴くだけで胸が熱くなる。なぜもっと早く入手しなかったのだろう。

関島岳郎のチューバが大きな雰囲気を絶えず生み出し、中尾勘二と向島ゆり子とが前に出てきては心の奥底に届く旋律を奏でる。ときに背後で船戸博史のベースが生命を付け加えるのも素晴らしくて、特に「身それた花」において途中で入ってくる瞬間なんてぞくりとする。また、北海道の福井岳郎という人を知ったことも嬉しい。

宣伝文句には「世界音楽」とある。個の音楽を深く掘り下げていったからこその普遍性であり、それはスウェーデンとルーマニアの民謡を聴いていると強く感じられる。コンポステラやストラーダとはもちろん異なるし、林栄一・中尾勘二・関島岳郎によるフォトンとも違うし、同じメンバーによる『星空音楽會』よりも旅の雰囲気を色濃く持っている。

●中尾勘二
グンジョーガクレヨン、INCAPACITANTS、.es@スーパーデラックス(2016年)
中尾勘二@裏窓(2015年)
向島ゆり子+関島岳郎+中尾勘二『星空音楽會 Musica En Compostela』(2010年)
ふいご(2008年)
川下直広『漂浪者の肖像』(2005年)
船戸博史『Low Fish』(2004年)
嘉手苅林次『My Sweet Home Koza』(1997年)
大島保克+オルケスタ・ボレ『今どぅ別り』 移民、棄民、基地(1997年)


The Necks『Hanging Gardens』

2018-03-27 08:05:37 | アヴァンギャルド・ジャズ

The Necks『Hanging Gardens』(Fish of Milk、1996、1999年)を聴く。

Chris Abrahams (p, Hammond, Rhodes, key)
Tony Buck (ds, perc, samples)
Lloyd Swanton (b)

1時間の音楽ドラマ(というと安っぽく聞こえるか)。

トニー・バックが一連の複雑なパルスを発してトリオを主導し、クリス・エイブラムズのピアノがステージの中央で舞う。ロイド・スワントンの推進力も華麗。

間に静寂の時間があって、エイブラムズが暗闇で息を殺してキーボードを鳴らす。そしてまたバックが戻ってきてサウンドが走り始める。

●The Necks
The Necks@渋谷WWW X(2016年)
The Necks『Chemist』、『The Townsville』(2006、2007年)


東京ザヴィヌルバッハ・スペシャル@渋谷The Room

2018-03-27 01:55:50 | アヴァンギャルド・ジャズ

渋谷のThe Roomにて、東京ザヴィヌルバッハ・スペシャル(2018/3/26)。

Masayasu Tsuboguchi 坪口昌恭 (key, vocorder)
Shinpei Ruike 類家心平 (tp)
David Negrete (as, fl)
Yosuke Miyajima 宮嶋洋輔 (g)
Ryoji Orihara 織原良次 (fretless b)
Masato Mori 守真人 (ds)
Yoco (dance)
Yu (dance)
OIBON (DJ)

最初からカッコいいのはわかっているし実際カッコいい。

守真人の強烈なビートがハコのなかの空気を刻み、ベースとギターと、そして坪口昌恭の艶やかでトリッキーなキーボードが、興奮するなと言われても無理なグルーヴを創り出している。

面白いことに、デイヴィッド・ネグレテのアルトはサウンドの中に「ジャズ」をごりっと力技で持ち込むように聴こえた。また類家心平のトランペットはここでも実にエモーショナルでナマ感覚があり、露が滴るようである。

それにしてもThe Roomにはじめて来てみたが、良いハコである。またいいプログラムを見つけて突入しよう。

●坪口昌恭
ホセ・ジェイムズ@新宿タワーレコード

●類家心平
TAMAXILLE『Live at Shinjuku Pit Inn』(2017年)
ナチュラル・ボーン・キラー・バンド『Catastrophe of Love Psychedelic』(2015-16年)
RS5pb@新宿ピットイン(2016年)
白石雪妃×類家心平DUO(JazzTokyo)(2016年)
白石雪妃+類家心平@KAKULULU(2016年)
齋藤徹+類家心平@sound cafe dzumi(2015年)
板橋文夫『みるくゆ』(2015年)
森山・板橋クインテット『STRAIGHTEDGE』(2014年)


西島芳 triogy@下北沢Apollo

2018-03-27 01:29:11 | アヴァンギャルド・ジャズ

下北沢のBar Apollo(2018/3/25)。前日が素晴らしかったものだから、西島芳2デイズの両日を観ることに。

triogy:
Kaori Nishijima 西島芳 (p, vo)
Hiroshi Yoshino 吉野弘志 (b)
Yoshinori Shiraishi 白石美徳 (ds)

この日はオーソドックスなピアノトリオ。しかし各人が個性的なので、実はぜんぜんオーソドックスではない。

西島さんのピアノはとても柔らかく鳴る。優しくもノスタルジックでもあり、また日常とつながっているような曲と演奏。吉野さんは低く響く美声を持っているが、コントラバスの音もまさにそのようだ。ずいぶん前に、松風鉱一さんのグループでのレコーディングライヴだったとき(studio weeが録音)、直前に弦を張り変えて、その結果、録音は日の目を見なかった。音が楽器や周囲の空気と馴染むまでには時間がかかるものであり、また逆に、吉野さんの音はそのようなものだということである。そして白石さんのプレイも独創的で、シンバルを横からスティックで鳴らしたりと繊細であり、ドラムの迫力に頼らない面白さがある。そんなわけで2セットをじっくりと堪能し大満足。

次の東京での演奏予定は、5/18と19だそうである(新宿ピットインとアポロ)。

●西島芳
西島芳 trio SONONI@下北沢Apollo(2018年)
西島芳アンサンブル・シッポリィ『Very Shippolly』(2017年)

●吉野弘志
吉野弘志+中牟礼貞則+廣木光一@本八幡Cooljojo(2016年)
松風鉱一トリオ@Lindenbaum(2008年)
向島ゆり子『Right Here!!』(1995-96年)
ジョセフ・ジャーマン

●白石美徳
かみむら泰一session@喫茶茶会記(2017年)
照内央晴「九月に~即興演奏とダンスの夜 茶会記篇」@喫茶茶会記(JazzTokyo)(2016年)


セシル・マクロリン・サルヴァント@ブルーノート東京

2018-03-27 00:28:51 | アヴァンギャルド・ジャズ

ブルーノート東京でセシル・マクロリン・サルヴァントを観る(2018/3/25、1st)。

Cécile McLorin Salvant (vo)
Aaron Diehl (p)
Paul Sikivie (b)
Kyle Poole (ds)

最初に「I Didn't Know What Time It Was」、次に「I've Got Just About Everything」。言葉の発音がとてもクリアなことにあらためて驚く。続く「What's The Matter Now」はベッシー・スミスも歌った曲だそうであり、セシルの歌声にも少なからずベッシーの透明で高い声が重なるように聴こえる。「All Or Nothing At All」では「at all」の歌唱に圧倒されてしまう。

「My Man's Gone Now」はアーロン・ディールの弾くイントロから可憐に歌い始め、彼女にスポットライトが当たる。もうやられっぱなし。「... together to the promised land」に至り大変な説得力をもって迫る。ちょっとアビー・リンカーンを思わせる瞬間もある。

「Lover, Come Back To Me」はポール・シキヴィーのウォーキングベースとのふくよかなデュオから入り、やがてピアノとドラムスとが介入する。最初からずっと、ディールのピアノがカラフルで工夫を凝らしていることが印象的だったのだが、ここで、セシルはピアニストに対し、あなたほど歌うようなピアニストは知らない、なんて呟きながら、「I Hate A Man Like You」でピアノとのデュオ、にくい。

客席に向かって、ビートルズは知ってる?と呼びかけ、「And I Love Her」。最後の曲だと言いながら、『West Side Story』から「Something's Coming」。ピアノトリオがリズムを頻繁に変え、セシルはロングトーンで執拗に歌う。裏声も使い、「Maybe tonight!」と言うありさまには狂気も漂っていた。アンコールは、ジュディ・ガーランドが歌った「The Trolley Song」で、アップテンポでがんがん攻め、最後は両手を開いて「... to the end of the line」と絶唱した。

わたしはエラもサラも観たことがないが、歌唱力も迫力も説得力もレジェンドに匹敵するものではないかと思えるほどだった。ときにこちらに視線が来ると、雷に打たれたように、蛇に丸呑みされたようになってしまった。もう完璧。新譜も聴こう。

そういえばカイル・プールって、NYのSmallsで深夜セッションをよくやっている人ではなかったか。


小熊秀雄『焼かれた魚』

2018-03-27 00:11:21 | 思想・文学

小熊秀雄『焼かれた魚』(パロル舎、原著1925年)を読む。

水揚げされた秋刀魚は海が恋しくてたまらない。猫に頼み、溝鼠(どぶねずみ)に頼み、野良犬に頼み、烏に頼み、蟻に頼み、だんだんと故郷の海に近づいてゆく。そのたびに対価として自分の肉を差し出し、海に入ったときには骨だけなものだから泳ぎもできず塩が沁みて痛い。そして生物の食物連鎖からさらに大きな地球上の循環へと入ってゆく。

1925年にしてこの広がりと想像力。またおかしな幻想を共有しない童話。素晴らしいな。

市川曜子の挿絵もいいし、アーサー・ビナードによる英訳もいい。ああこんなふうに訳すのか、と。

●小熊秀雄
東京⇄沖縄 池袋モンパルナスとニシムイ美術村@板橋区立美術館
植民地文化学会・フォーラム「内なる植民地(再び)」


PAK『NYJPN』

2018-03-25 11:39:16 | アヴァンギャルド・ジャズ

PAK『NYJPN』(Magaibutsu、-2014年)を聴く。

Ron Anderson (g)
Tatsuya Yoshida 吉田達也 (ds)
Nonoko Yoshida 吉田野乃子 (sax)

エネルギーを鬼爆的に一気に放出させるドラムスとともに、野乃子さんが衝撃波を作りながら激走する。こう聴くとやっぱりジョン・ゾーンのNYアンダーグラウンド直系なんだな。窓ガラスがぴきぴきと割れそう。

2014年のリリース作品だけどいつの録音だろう。

●吉田達也
クリス・ピッツィオコス+吉田達也+広瀬淳二+JOJO広重+スガダイロー@秋葉原GOODMAN(2017年)
RUINS、MELT-BANANA、MN @小岩bushbash(2017年)
デレク・ベイリー+ルインズ『Saisoro』(1994年)

●吉田野乃子
デイヴ・スキャンロン+吉田野乃子@なってるハウス(2018年)
トリオ深海ノ窓『目ヲ閉ジテ 見ル映画』(2017年)
『トリオ深海ノ窓 Demo CD-R』、『Iwamizawa Quartet』(2017、2007年)
乱気流女子@喫茶茶会記(2017年)
吉田野乃子『Demo CD-R』(2016年)
吉田野乃子『Lotus』(2015年)
ペットボトル人間の2枚(2010、2012年)


山本義隆『近代日本一五〇年 ― 科学技術総力戦体制の破綻』

2018-03-25 10:06:03 | 政治

山本義隆『近代日本一五〇年 ― 科学技術総力戦体制の破綻』(岩波新書、2018年)を読む。

本書では近代日本のはじまりを明治元年(1968年)に置き、そこから150年間の科学と技術のありようを追っている。実に多くの示唆に富む本である。読んでゆくうちに、2011年の原発事故を含む現在の原発を巡る状況も、軍需産業の推進も、トータルな知性や倫理の蓄積が十分に涵養も共有もされないままいびつに発展をしてしまったことの結果として視えてくる。

驚きも再発見も多い。たとえば。

●かつて科学と技術とは別物であった。18世紀後半からのイギリス産業革命において、エネルギー利用の形を創り上げたのは大学ではなく、高等教育には無縁の職人であった。
●それは明治日本でも同様であり、蓄積がない分、極端な科学技術幻想を生んだ。士族出身者が、それまでヒエラルキーの下にあり蔑んでいた工商の教育を受け、仕事を始めるようになった。
●こと科学技術に関しては、根拠なき精神論は早い段階で棄て去られ、国家予算を合理的に投入して、国力の強化(戦争という意味で)のために、合理的に推進された。理科系の研究者たちは、戦時中にも恵まれた環境にあった。つまり、「竹槍でB29を」といった言説は、政治の決定や社会の構造には当てはまったのかもしれないが、それを実現させようとした科学技術については異なったということである。(たとえば、保阪正康『日本原爆開発秘録』には、戦時中に原爆を開発させようとする政府と、それを利用して自己実現する科学者たちの姿が描かれている。)
●敗戦を機に、そのことを反省とともに直視する動きは少なかった。満州国における縦割りを抜きにした戦争経済の推進、戦時中の科学技術の推進、そして官僚組織がほぼ温存された戦後における経済発展(朝鮮戦争とベトナム戦争がエンジンとなった)、それらの構造は驚くほど似たものだった。
●ところが、敗戦の理由は誤れり精神論にあったとして、その対極には、科学技術が明るい将来のように置かれたのだった。「原子力の平和利用」もその文脈で喧伝され、言説が再生産され、共有されていった。欺瞞であった。
●科学技術の最先端が求められる軍事技術で海外の企業と競うためには、どうしても大学の協力が必要となる。研究者はふたたび「科学動員」に直面している。歴史の直視から反省へと結び付けられるのか。

近代型の経済成長の持続と国力の強化はこれからも必要なのか、それとも最近の流行りの言説のように別の形の社会を実現できるのか、それはノリと勢いだけで進めていく議論ではない。しかし、反省も倫理もなく無理矢理突き進む(そして、そのためにエリート独裁を強化する)ようでは、いずれろくなことにはならない。必読。

●参照
山本義隆『私の1960年代』
山本義隆『原子・原子核・原子力』
山本義隆『福島の原発事故をめぐって』
山本義隆『熱学思想の史的展開 1』
山本義隆『熱学思想の史的展開 2』
山本義隆『熱学思想の史的展開 3』
山本義隆『知性の叛乱』
石井寛治『日本の産業革命』
保阪正康『日本原爆開発秘録』


西島芳 trio SONONI@下北沢Apollo

2018-03-25 08:53:58 | アヴァンギャルド・ジャズ

下北沢のBar Apollo(2018/3/24)。

trio SONONI:
Kaori Nishijima 西島芳 (p, vo)
Motohiko Ichino 市野元彦 (g)
Akira Sotoyama 外山明 (ds)

気が付くと静かに侵入しているような西島さんのピアノとヴォイス。3人が独立し有機的につながりもしたタイム感で音楽を進めてゆくものだから、それによる共鳴とずれが夢と現とを往還させる。しかも、アポロの茶色く薄暗い地下空間において。

外山さんの独特極まりないパルスはこのメンバーでとても引き立っている。また、市野元彦のギターは、曲と即興との垣根を無化しているようなもので、音が抽出という過程そのもののように感じられた。(もっとも、「小さい'つ'のうた」ではギターインプロっぽくてそれもまた面白かった。)

●西島芳
西島芳アンサンブル・シッポリィ『Very Shippolly』(2017年)

●外山明
齋藤徹+喜多直毅+外山明@cooljojo(2018年)
Shield Reflection@Ftarri(2017年)
渋谷毅オーケストラ@新宿ピットイン(2017年)
渋谷毅オーケストラ@新宿ピットイン(2016年その3)
渋谷毅オーケストラ@新宿ピットイン(2016年その2)
渋谷毅オーケストラ@新宿ピットイン(2016年その1)
松風鉱一カルテット+石田幹雄@新宿ピットイン(2016年)
渋谷毅+市野元彦+外山明『Childhood』(2015年)
松風鉱一カルテット+石田幹雄@新宿ピットイン(2015年)
纐纈雅代『Band of Eden』(2015年)
渋谷毅エッセンシャル・エリントン@新宿ピットイン(2015年)
渋谷毅オーケストラ@新宿ピットイン(2014年)
纐纈雅代 Band of Eden @新宿ピットイン(2013年)
松風鉱一カルテット@新宿ピットイン(2012年)
渋谷毅オーケストラ@新宿ピットイン(2011年)
松風鉱一カルテット、ズミクロン50mm/f2(2007年)
原みどりとワンダー5『恋☆さざなみ慕情』(2006年)

●市野元彦
The Quiet Sound Graphy@KAKULULU(2017年)
rabbitoo@フクモリ(2016年)
rabbitoo『the torch』(2015年)
渋谷毅+市野元彦+外山明『Childhood』(2015年)
かみむら泰一『A Girl From Mexico』(2004年)


山内桂+ミシェル・ドネダ『白雨』

2018-03-24 10:38:52 | アヴァンギャルド・ジャズ

山内桂+ミシェル・ドネダ『白雨』(Improvised Music from Japan、2004年)。先日雑談をしていて思い出した。

Katsura Yamauchi 山内桂 (as)
Michel Doneda (ss, sopranino sax)

音のマージナルな領域に身体を置くふたり。必然的といえば必然的であるような気がするが、このとき以外に共演したことはあるのだろうか。

再聴してもやはり印象は同じだ。よりダイナミックに音領域を移動するミシェル・ドネダ。それに対して山内さんはまるで陶磁の表面を撫で続けてそのマチエールに気付かせてくれるようで、聴いているこちらの脳の表面もまた撫でられているような感覚。だが、どちらがどちらなのかわからない時間も多い。

あっジャケットの絵はすずえりさん。

●山内桂
千野秀一+山内桂@Ftarri(2018年)
山内桂+中村としまる『浴湯人』(2012年)
山内桂+マーティン・ヴォウンスン『Spanien』(2010年)

●ミシェル・ドネダ
2017年ベスト(JazzTokyo)(2017年)
ミシェル・ドネダ+レ・クアン・ニン@バーバー富士(2017年)
齋藤徹ワークショップ特別ゲスト編 vol.1 ミシェル・ドネダ+レ・クアン・ニン+佐草夏美@いずるば(2017年)
ミシェル・ドネダ+レ・クアン・ニン+今井和雄@東松戸・旧齋藤邸(2017年)
ミシェル・ドネダ『Everybody Digs Michel Doneda』(2013年)
ミシェル・ドネダ+レ・クアン・ニン+齋藤徹@ポレポレ坐(2011年)
ロル・コクスヒル+ミシェル・ドネダ『Sitting on Your Stairs』(2011年)
ドネダ+ラッセル+ターナー『The Cigar That Talks』(2009年)
ミシェル・ドネダと齋藤徹、ペンタックス43mm(2007年)
齋藤徹+今井和雄+ミシェル・ドネダ『Orbit 1』(2006年)
ミシェル・ドネダ+レ・クアン・ニン+齋藤徹+今井和雄+沢井一恵『Une Chance Pour L'Ombre』(2003年)
齋藤徹+ミシェル・ドネダ『交感』(1999年)
齋藤徹+ミシェル・ドネダ+チョン・チュルギ+坪井紀子+ザイ・クーニン『ペイガン・ヒム』(1999年)
ミシェル・ドネダ+アラン・ジュール+齋藤徹『M'UOAZ』(1995年)
ミシェル・ドネダ『OGOOUE-OGOWAY』(1994年)
バール・フィリップス(Barre's Trio)『no pieces』(1992年)
ミシェル・ドネダ+エルヴィン・ジョーンズ(1991-92年)


Ken G『Cry of the Wild』

2018-03-24 09:12:51 | アヴァンギャルド・ジャズ

Ken G『Cry of the Wild』(What's New Records、2008年)を聴く。

Ken G (ts)
Jake Langley (g)
Ron Oswanski (org)
Joe Strasser (ds)

清水ケンG→ケンG→清水賢二と名前を変えてきている清水さんのケンG時代の吹き込み。

以前は第1作と第2作しか聴いたことがなくて、ビリー・ハーパーを思わせる熱いテナーだなと思っていたのだが、なるほどここに来てジョー・ヘンダーソンの影響がかなり直接的に感じられる。2曲目の「One Swing Blue Moon」の最後ではジョーヘンの「Recorda Me」の引用もしているし。

それにしてもオルガントリオをバックにしたスモーキーなテナー、とても良い。ジョビンの名曲「Portrait in Black and White」も、リラックスして隙間が多く嬉しい演奏。

●参照
Ken G『Last Winter』(2005年)
清水ケンG『Bull's Eye』(1996年)


ドン・プーレン+ジョセフ・ジャーマン+ドン・モイエ『The Magic Triangle』

2018-03-23 08:21:30 | アヴァンギャルド・ジャズ

ドン・プーレン+ジョセフ・ジャーマン+ドン・モイエ『The Magic Triangle』(Black Saint、1979年)を聴く。

Joseph Jarman (fl, alto fl, piccolo, ts, ss, cl)
Don Pullen (p, vo)
Famoudou Don Moye (ds, congas)

改めて2016年に再来日したドン・モイエの印象をもって聴くと、かれの音がとても個性的なものとして伝わってくる。単に綺麗というのではないし、きりきりに研ぎ澄まされた富樫雅彦やクリス・コルサーノとも違う。一音一音が尖った先端を持っていて、そこからなだらかなグラデーションを描くプロファイルのようである。

ここでは3人ともリラックスしているようで、ドン・プーレンなどは2曲目でどブルースのピアノを弾きつつ渋く歌ったりもする。

もちろんジョセフ・ジャーマンも目立っていて、かれらしく多くの管楽器を吹く。以前はそんなに上手い人でもないのだなと思っていたのだが、いやいまも幾分かはそう思っているのだが、それは、音がさほど力強くなく、トーンが一定せず前後によれてしまうからでもあるような。しかしそれがジャーマンの音なのだ。

●ドン・プーレン
サム・リヴァースをしのんで ルーツ『Salute to the Saxophone』、『Portrait』(1992年、1995年)
ドン・プーレンのピアノトリオとシンディ・ブラックマン(1988-92年)
ジョージ・アダムスの甘甘作品(1979-84年、1988年)

●ジョセフ・ジャーマン
ESPの映像、『INSIDE OUT IN THE OPEN』(2001年)
ジョセフ・ジャーマン(2000年)
アート・アンサンブル・オブ・シカゴの映像『LUGANO 1993』(1993年)
ジョセフ・ジャーマン『Sunbound Volume One』(1976年)
アート・アンサンブル・オブ・シカゴ『苦悩の人々』(1969年)

●ドン・モイエ
生活向上委員会2016+ドン・モイエ@座・高円寺2(2016年)
ババ・シソコ『Jazz (R)Evolution』(2014年)
ワダダ・レオ・スミス『Spiritual Dimensions』(2009年)
ライトシー+モイエ+エレケス『Estate』(2000年)
アーサー・ブライス『Hipmotism』(1991年)
アート・アンサンブル・オブ・シカゴの映像『Null Sonne No Point』(1997年)
アート・アンサンブル・オブ・シカゴ『カミング・ホーム・ジャマイカ』(1995-96年)
アート・アンサンブル・オブ・シカゴの映像『LUGANO 1993』(1993年)
ドン・モイエ+アリ・ブラウン『live at the progressive arts center』、レスター・ボウイ・ブラス・ファンタジー『Serious Fan』(1981、89年)
チコ・フリーマン『Kings of Mali』(1977年)
アート・アンサンブル・オブ・シカゴ『苦悩の人々』(1969年)