沖縄タイムス中部支社編集部『基地で働く』(沖縄タイムス社、2013年)を読む。
本書は、「沖縄タイムス」地方版の連載を集めたものであり、米軍で働いた83人の証言に接することができる。
「本土復帰」から40年以上が経ち、「沖縄タイムス」の記者も、それなりに証言が集まるだろうと考えていたという。だが、ことはそう簡単ではなかった。米軍に文字通り抑圧されている沖縄にあって、その米軍で働いたということ。いま実態を口にすると、米軍や日本政府に報復されるのではないかという懸念。沖縄に対してだけでなく、ベトナムなど他国への攻撃に間接的に加担してしまったのではないかという負い目。差別されたことに対する傷のようなもの。
そのような中で、ここに集められた証言は本当に貴重で、驚いてしまうようなものも少なくない。
たとえば、知念村(現・南城市)には、CIAの設備があり、捕虜も収容されていた。しかし、それを含め、従業員には徹底的なかん口令が敷かれ、誰もその全貌を知らなかったばかりか、存在すらほとんど認識されていなかった。わたしが無知なだけかと思ったが、巻末の対談において、タイムス記者もそのような発言をしている。現在、ここはゴルフ場になっている。
あるいは、ベトナム戦争のとき、北ベトナムに撒くためのビラの印刷。指導者の偽の声明、スキャンダル、ベトナム人の切断された首といった戦意喪失を目的とした写真、偽札など。おそるべき謀略活動である。
近年、ベトナム戦争において使用された枯葉剤が、沖縄で保管され、不適切に使用・廃棄さえされたことが明らかになりつつある。証言からは、さらに、枯葉剤だけでなく、PCB、六価クロム、アスベスト、毒ガス、放射性物質などが同様に扱われていたことが浮かび上がってくる。もちろん、米軍は米国本土においてはそのようなことはしない。現在も続く、米国のダブル・スタンダードそのものだ。
同じ米軍の側面に対してであっても、ある人は人権回復や平和活動のために抵抗し、ある人は自身が置かれたスタンスのなかで奮闘し、またある人は米国文化への憧れを口にする。これこそが、オーラルヒストリーというものだろう。この厚みは、単純な物語への回収を許さないように感じられる。
●参照
○琉球新報『ひずみの構造―基地と沖縄経済』
○前泊博盛『沖縄と米軍基地』
○屋良朝博『砂上の同盟 米軍再編が明かすウソ』
○渡辺豪『「アメとムチ」の構図』
○渡辺豪『国策のまちおこし 嘉手納からの報告』
○エンリコ・パレンティ+トーマス・ファツィ『誰も知らない基地のこと』
○石川文洋講演会「私の見た、沖縄・米軍基地そしてベトナム」
○押しつけられた常識を覆す
○三上智恵『標的の村』映画版
○テレビ版『標的の村』
○アラン・ネルソン『元米海兵隊員の語る戦争と平和』
○『米軍は沖縄で枯れ葉剤を使用した!?』
○佐喜眞美術館の屋上からまた普天間基地を視る
○<フェンス>という風景
○基地景と「まーみなー」