NHK BS1で、『自爆テロ・女性工作員の素顔』(My Daughter The Terrorist)が放送された。制作はノルウェーのSnitt Film。現在もスリランカ北部・東部で活動を続ける反政府組織「タミル・イーラム開放のトラ」(LTTE)。そのなかでも精鋭部隊とされる「ブラック・タイガー」に所属する2人の若い女性兵士をルポしたドキュメンタリーである。
ノルウェーには、スリランカから移住した多数のタミル人が住んでいる。そして、すでにスリランカや米国だけでなく、タミル人の多い英国や豪州もLTTEをテロ組織として指定している一方、ノルウェーはスリランカ内戦の和平役を買って出ている。ノルウェーの番組制作会社が、一見「テロ組織寄り」の番組を作った背景もそこにあるのかもしれない。
主役の女性たちを描く視線は、一貫して同情的である。勿論、テロによる無差別殺人は許されるものではない。しかし、誰にでもわかるであろう、その大前提のもと、このような番組を作るということは、あえて言えば称賛されても良いのではないか。この背景にあるタミル人抑圧の歴史には目をつぶるべきではない。逆に、シンハラ人兵士の家族の悲劇を描いた映画『満月の夜の死』(プラサンナ・ウィタナゲ)を観るときと同様の心のありようが問われているように思える。
私が以前にスリランカで居候を決め込んだラル君のもとにも、たまたま帰省していた政府軍兵士が遊びにきた。気さくな人だったが、あとでラル君にきかされたところでは、「前線から『怖い、帰りたい』と手紙が何度も来た」とのことだった。戦争を、組織の論理でなく個人の関わることとしてみれば、ことをばっさりと斬ることはできないだろう。
たとえば、あさま山荘事件やそれに先立つリンチ事件を起こした連合赤軍。当然ながら犯罪であり、罰せられるべきだったとしか言えない。しかし、連合赤軍を「理解できない狂人の集団」としか見ることのできなかった、「連合赤軍『あさま山荘』事件」(佐々淳行著、文芸春秋)を読んだとき、なんとも言えない「嫌な感じ」があった。これに対し、パトリシア・スタインホフが「死へのイデオロギー・日本赤軍派」(岩波現代文庫)で描いたような、「間違ってはいたが、真摯に社会にぶつかった人々」への視線のほうを、持つべきなのだと思う。当然、佐々氏原作の映画のメンタリティは、この番組の水準には及ばない。
「自爆テロ」は、言うまでもなく、異常な手段である。「9.11」で世界を震撼させた方法だが、じつは、この20年間をみれば過半数はスリランカで起きている。それほどに歪んだ背景が、スリランカという土地のなかにあったのだということが重要なのだろう。
1980~2000年2月の自爆攻撃件数 「自爆攻撃―私を襲った32発の榴弾」(広瀬公巳著、NHK出版)より作成
「自爆攻撃―私を襲った32発の榴弾」(広瀬公巳著、NHK出版)によると、LTTE顧問のバラシンハムは、「われわれは、どんな命も犠牲にしていません。(略)その過程で、不幸なことに多くの若者が命を落としました」と発言している。一方、この番組での女性兵士は、「自分たちの死に時はリーダーによって決められ、それは絶対だ」と言う。明らかにLTTEでも組織の論理と個人との関係が乖離しているように思える(そうでなければ、このような異常なテロ組織は存続しないのだろうか?)。
穏健派として知られたバラシンハムは、昨年亡くなり、和平に影をさしたとのことだ。また、この女性兵士2人は、2006年9月現在、所在も生存もわからないとのことだ(番組ウェブサイトによる)。
エディリヴィーラ・サラッチャンドラが、『明日はそんなに暗くない』(南雲堂)で1971年のシンハラ人民解放戦線による反乱を舞台に描いた「憎しみの連鎖」。これに対してジャヤワルダナ元大統領のことばを続けるのはたやすいことだが。
■ 『自爆テロ・女性工作員の素顔』(My Daughter The Terrorist)ウェブサイト(予告編やニュースを見ることができる): http://www.snitt.no/mdtt/index.htm