この人もレジェンド、マリリン・クリスペル。
The Stoneでは、ルーカス・リゲティの5日間連続ライヴ中である。そのうち1ステージだけが、クリスペルとの共演に当てられた。なお、リゲティはあの現代音楽の作曲家リゲティの息子であるらしい。
Michelle Makarski (vl)
Marilyn Crispell (p)
Lukas Ligeti (ds)
クリスペルは、終始、穏やかな微笑みを保っている。キース・ジャレットとの共演歴もあるミシェル・マカースキーがヴァイオリンで擦音を発しはじめると、クリスペルも散発的な音を発する。リゲティのドラミングは、激情に走らず、音叉によるタイコの振動も使ったりして、多彩な効果を出すものだった。
ときに演奏は静かな局面を迎え、聴く者が殺されてしまうのではないかと妄想してしまうほどの緊張感と静寂が創出される。ドラムスの音、ヴァイオリンの音、そして自らの分散型のピアノの音が発せられた後に、それらの「過去の音」がすべて幻であったかのように、哀切極まりない旋律によって異空間に送り込むクリスペル。感情の発露などだけではなく、流し、取り込み、その挙句に綺麗なものも地獄も同時に眩出させるようなピアノだった。
恐ろしい、この人は魔女か。
アネット・ピーコック集『Nothing Ever Was, Anyway』にサインをいただいた
●参照
マリリン・クリスペル+バリー・ガイ+ジェリー・ヘミングウェイ『Cascades』
エバ・ヤーン『Rising Tones Cross』
ペーター・ブロッツマン