今までほとんどずっと見てきたが、今回はずいぶん変わった気がします。何か吹っ切れた気もしますね。
まず公演名がすごく粋であります。ここも誰かの旅先なんて、まるで俳句の一語であるような洒脱な感じがします。
次に舞台美術。随分と格調があります。びんびん響いて来ます。いつものダンボール箱の群れは今回は全くない。場所も中央にででーんと部屋のたたずまい。いつもの物置だの一時部屋でなくきちんとした母屋だ。
話の展開はいつも通りの、勘違いからくる滑稽な人の行動と哀切なのだが、今回は実に深い。落ち着いている。その中でも4人の男が警察を呼ぶ・呼ばないでぐるぐる手をつなぎシーンは圧巻で、面白、おかしいのも、もうこの上ないほど秀逸でありました。
何といっても今回、はっと思ったのはそろそろ終わりだと思ったところから本当の主題が始まるラストであります。
河野洋一郎と上瀧昇一郎の父・息子をめぐる空気がピーンと張りつめる壮絶な演技対決である。今まであまり感じたことのない緊張感が劇場を支配する、、。
そして河野洋一郎が古机に向かって一人日本酒をすするシーン。あの写真の意味するところは、、。様々な解釈のできるところではあるが、僕は敢えて自分の息子に真実を言わなかった人間の、人生の悲哀を感じました。
俳優陣としては、上田が抜けて若い男優が二人増えただけだが、みんなビシビシ鍛えられていたなあ。小池裕之も他流舞台が増え、逞しくなっているし、常連の太田清伸の、もう天才的なうまさは役者の中心となって芯となり、凄かったです。
あれほど自虐的な岡部尚子の役柄も「面白うてやがて哀しき」をじっくりと感じさせる。先ほど述べた河野洋一郎と上瀧昇一郎の掛け合いはもう名人芸です。
岡部の演劇的深さがさらに高まり、ピシッと結実した見事な演劇でした。よくここまで持ってこられましたね。ファンとして、というより一人の人間として実に嬉しい。岡部さんも確かな達成感もあるのではないか、と思われるほどです。
いやあ、90分、ずっとその格調感の高まりを感じていました。今まで見守ってきてよかった! そして実に素晴らしい至福の時間でした。
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