この「審判」という作品は私が昔から本を読もうとして何度も頓挫した作品であります。最後まで読み切れなかった悲しい思い出があります。それほど暗いんです。眠くなります。映画でも一度しか見たことがないです。それも暗かったです。
人間、あまりに暗すぎると前に進まないですね。(まあ、それは僕だけのこらえ性のない性格が災いしているだけかもしれませんが)で、演劇でこれを見るのなら、いくらなんでも最後までしっかり見るだろうと、東京に来た時この作品に挑戦したのでした。
カフカの作品でもこの作品ほど理不尽で不条理で(同じ意味か?)暗い作品は他にないのではないかと思われるほどである。(だから気になっているのだけれど)
ところがこの演劇の舞台はまず、美しいのである。洗練されているのである。衣装といい、セリフといい、佇まいといい、大道具、小道具、すべて美しい。それがこの作品の不条理にぴったし合う。これがすごい。
作品の不条理の中身を残念ながら理解できたとは僕はとても言えないが、こんなエレガントで残酷なカフカはすこぶるいい。心地よい。特にラストの、主人公をキリストに見立て、処刑するシーンは斬新でよかったです。
考えたらカフカは演劇にこそ合うのかもしれない。そんなことを考えさせるに値する本年屈指の演劇であります。
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