久々の【ヴェンダース】、ちょっと昔に戻った感がする。セレブの売れっ子写真家。撮った写真をデジタル処理して違う芸術空間を創造する。家庭的には妻と別居中。母親を亡くし死を身近に感じている。
【ヴェンダース】ファンには安心できる作品だ。一応死をテーマにしているがそこにあるのは概念的な死であり、切羽づまったものでない。端的な言い方をすればセレブがふと思い浮かべる死である。掘り下げた哲学的な死でもない。言い方が悪いが、贅沢な死生観である。
若い時にはそれでもヴェンダーズを愛好していた。久々の今回のヴェンダーズ節は決して悪くはない。いや、むしろその流れに身を任せ、ゆらりゆらりめくるめく映像に浸っているのはこの上ない贅沢である。そうしていればいいのである。
でも、世界は動いている。9・11以降否が応でも人は政治・社会と向き合わなくてはならなくなっている。テロが日常化されている現代、ちょっと昔のその贅沢な死生観は今や年代物化されてるのではなかろうか。
でも、現実からうんと遊離されてるとはいえ、この作品は良くも悪くもヴェンダーズの世界そのものである。作品的にはかなり凝縮力も高く、まとまっている。でも、ちょっと甘いんだ。僕だけかもしれないが気になるところだ。
もっと高踏的にヴェンダーズが高い位置から俯瞰しているような感覚があればまた違ってくるが、この作品では我ら庶民、すなわち観客に、高みからヴェンダーズが寄り添って降りて来たというような感覚がある。換言すれば、我らに迎合するような。
とはいえ、映画作家は作品を作り続けなければならない。ファンのためにも、自分のためにも。作風が変わるとファンからは異論が告げられ、かといって相変わらず同じことの繰り返しでもファンには飽きられる。映画作家は旅人である。ヴェンダーズよ、あなたはどこへ行くのか?
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