何気なく見た作品だったが、この作品にかけるスタッフの思いが画面の端々にまで感じられ、その凝縮した映像は生の人間像を現代に甦らせる。
桜田門外の変で死ぬ時期を逸したがために、13年もその時をじっと待ち、探し続けた二人の男の話である。
冒頭の桜田門外のすこぶるリアルな描写といい、生きているのか死んでいるのか不明な生活に追い込まれる、二人の人間の陰影深い心情を濃密に捉えた奥行き感のある演出といい、本当にこの作品は見事の一言だ。
出来栄えは、今、日本映画ででき得る時代劇では最高レベルの緊密度を持った作品だと言える。中盤の、町中で元武士を蔑む新勢力者たちに立ち向かう、心ある人たちの気概が現代に生きる僕たちにさわやかに感動を呼ぶ。状況は、急に社会の底辺に落とされる危険性を伴う現代に似ていなくもない。
そう、時代は急に江戸から明治へと変貌し近代化されるが、身分も仕事も何もかもその日からなくしてしまった人たちもいる。それでも人は生き続けなければならないが、死ぬことさえ出来ぬ人たちもいたのである。
一人は明治を過ぎ、文明開化謳歌する時代に相変わらず武士の姿で町を彷徨う男。一人は武士を捨て車引きに身を落として隠遁者のごとく、その日をただつくねんと生きる男。時代は二人の男を犠牲にする。
この映画の華のシーン、とうとう巡り会ってしまった二人の男。雪の柘榴坂。人力車に乗る男と前で引く男。13年ぶりに邂逅した二人の会話は短いが重くそして悲しい。しかし二人は決して見ることのなかった一筋の光を見ることになる。
このラスト、少し甘い感もないではないが、13年間も死んでいた人間の心だ。氷が解け、やっと生きることを考え出す二人のこれからの半生。その心情を思うとき、静かな涙が僕のほほを伝い始める。
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