登場人物は4人。といっても一人はウェイターだから、重要な役柄は3人。ちょっとした心理劇であります。
舞台がスイスの高級ホテルに滞在する作家夫妻。そこに昔、恋を語った女が夫に会いたいと言って来る。目的は何なのか。
ホテルだろうから急遽部屋にテーブルが作られウェイターが食事、酒を運んでくる。そしてまさに数十年ぶりに合った男女が観客の目の前で豪華なディナーを食べる。その間にお互いの腹を探り合う展開が始まる。
村井邦夫。テレビでは分からないが、舞台では声量が豊かで美しく素晴らしい音声。さすが舞台に生きて来た人だ。何十年も隠してきた秘密を暴露され慌て苦悩する老作家を熱演する。これ以上ない素晴らしい演技。これぞ役者の鏡だ。
静とも動ともいえる演技を披露するのが大ベテラン三田和代。妻であり秘書でもある有能な女性を演じている。特に後半の山頂にかかる3人の格闘劇はもう言うことなしに見事の一言。出番は意外と少なかったけれど彼女がラストすべてを持って行ってしまった。もうそれはスゴイというしかない。
出番は多いものの意外と地味目な昔の恋人保坂知寿。ミスはないものの大ベテラン二人を相手にそれだけで圧倒されている感が見受けられる。でもよくやったと思う。好演だ。
この陰険でもあり、サスペンス的な心理劇にさわやかな空気を送り込んでくれるのが、見事なウェイター捌きの神農直隆。直接話の本題には入っては来ないが、彼がいないとこの演劇は薄っぺらいものになる危険性もある。なかなかうまい。
ストーリーは敢えて書かないけれど、夫のあんな性癖を知りながら寄り添っていく女性というのは現代では理解されないだろうが、なかなか鋭い人間群像を描写し、秀逸な演劇であった。充足感も高い。
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