flutter of birds:離加等メーシナリオ評価

2015-08-19 12:46:26 | ゲームレビュー

さーて朝比奈シナリオの評価も再掲したところで、隠しキャラのメーをいってみましょうか。まあ随分とまあ対照的なキャラを二番目に配置したもんだなと思われるかもしれないが、朝比奈がこの作品を語る上で避けては通れない人物であるのに対し、このメーは最もどうでもいいかつそれゆえに書きやすいキャラであるというのが早めにレビューの対象とした理由である(いずれわかることだが、最初にクリアした美浜つばさなどは相当まとめるのに時間がかかるだろうと初めから思っていたので、サッとまとめられる人物から取り上げた次第)。

とまあさっきから散々ディスってますが、なぜメーのシナリオが意味わからんかというと、そこには純粋性の称揚が強く見いだせるからだ。flutter of birdsの音楽紹介でも述べたが、この作品の一つの価値は、泣きゲーでありがちな「トラウマに苦しむ子とそれを助けてあげられる俺」という人助けを隠れ蓑にした都合のよい、そして弱者ゆえに拒絶される危険が極小という意味で卑怯な構図にある程度意識的であったところだと思う。でなければこれは、「お手当て」という美名の元に患者の心の隙間に入り込んでその人を支配する(いわゆる鬼畜ゲー的)行為を泣きゲー・感動モノだと強弁する病的で独善的な作品の仲間入りをしていたに違いない(そしてこのような受容環境に極めて意識的だった作品が「さよならを教えて」なのである)。また、繰り返しになるが、そのような頽落を免れえた様々な要因の一つが朝比奈めぐみの存在であり、ゆえに前回、前々回のレビューで本来脇キャラである彼女を大々的に取り上げたのであった。

以上のような説明を踏まえると、メーのシナリオは全く狙いが意味不明であるという私の評価も理解してもらえるのではないか。なぜならメーの物語は、純粋な少女が、その純粋さゆえにこの幻想郷のような世界(=flutter of birdsの作品舞台)でしか生きられないという内容で、それをまるで神秘的なお伽噺風に提示したものだからだ。

たとえばムーミンでさえ、その舞台が我々の知る社会から外れた世界だからこそ異形や不気味な兆候もまた同時に描かれていてこの世の未規定さがきちんと組み込まれている云々とかいうのはさすがにちと荷が重い比較だろうけども、せめてmyth(的なるもの)を描きたいなら「YU-NO」のような圧倒的世界観や「沙耶の唄」のごとく周到な表現方法・演出くらいしないと、せいぜいが手前勝手な幻想を女性に押し付けてそれを是とするのが関の山なのである。このような方向性はむしろ2で色濃く出ているので作者のやりたかった内容なのだろうが、だとするとブラッシュアップが甘すぎると言わざるをえない。

ま、そういう浮きまくった内容だからこそ本編の特徴がネガのように浮かび上がってくるって効果はあるかもねえ、と無理やりほめつつこの紹介文を長い前書きを終えることにしたい。

 

[原文]

続いては隠しキャラの「離加等メー」について書こう。まずは覚書から。


(覚書)
呼び方:「裕作」が基本だが、選択肢次第で三パターンある。
面白いキャラ設定だが、シナリオがちと飛びすぎな感じ。他のシナリオと違って主人公が医者の卵であること(すなわち主人公のパーソナリティ)が全く関係してないのもマイナス。エンディングは医者の道を捨ててまでメーのことを思って村へ戻ったというもので、まあ筋は通っていると思う。あと美雨や空のシナリオで終盤に雨が降るのはこれと関係しているのかも(このシナリオでは地球の力を使ったためにバランスが崩れて大雨になっている)。


(解説など)
すごい投げやりな覚書だwまあこの投げやりさがメーのシナリオ評価をそのまま表していると思う。メーは森野診療所と関係ない唯一の存在で、キャラクター的には人里離れて暮らしているためズレた感じがある。このように、隠しキャラということも含めて特殊なキャラなのだが、一番問題なのはゲーム全体の中での位置づけだ。はっきり言って、メーのシナリオは完全に浮いてしまっている。例えば、メーのシナリオで唐突にその地方の特殊な気候が説明され、それがイベントに絡んでくるのだが、それによって何をしたいのかが全く見えてこない。また「お手当て」についても、記憶の限りではメーの「孤独」が「お手当て」の対象とかいう構造だった気がするが(それゆえエンディングで主人公は医者の道を捨てることになる)、かなりこじ付けくさくて説得力が全くない。仮にその構図を受け入れたとしても、他のキャラたちが現実に難病と戦ったり死を見届けてきたような中で「お手当て」を必要としているのと比べれば、彼女の「孤独」はあまりにも軽い。またメーのシナリオは幻想的な「お話」という雰囲気を持っているが、それがまた朝日奈などによって見事に演出された森野診療所の雰囲気(=和気藹々とした患者のやり取りと厳しい医療の仕事)と全く合っていないのだ。メーが森野診療所と関係ないことを考えればこれは当然の結果だが、わざわざそんなキャラをゲームに登場させるだけの必然性が全く伝わってこない。


このように、彼女のシナリオは全体の雰囲気やテーマなどから浮いており、しかもそのような浮いたキャラを登場させる意味も効果も感じられないのであった。そのシナリオが特殊すぎるため幸い全体に影響を与えているという印象は受けないが、だとすれば無くてもいいもの、つまり無駄なのものであって、メーのシナリオは無かったほうがよかったと結論できる。あるいはもう少し細かく言うと、メーの設定自体は悪くなかった(※)。ただそれを全体の中に組み込むことができず、メーシナリオの意味も提示しなかった作者サイドの力量(あるいは時間?)不足によって、それは無駄なものになってしまったと評価することができるだろう。


(シナリオ評価)=40点
理由は本文にある通り。


※どうも作者はメーのイノセントさを強調したかったようなのだが、そこにどんな意味があるのか全くわからない。このシナリオはとことん作者の脳内で完結しているようで、人に見てもらう作品としては破綻していると言わざるをえない。


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